変われるとしたら。   作:ゴリラとの逢瀬

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手に取ってくださり、ありがとうございます。


十三話 貴方の為に

気持ち悪い、歩に言った言葉に嘘は無い。だけど…感じた別の気持ちに答えを見つけたい、そう感じたことも…嘘じゃない、筈。

 私は本当の私を見つけたかった、ただ漠然とそう思って一人で足掻き、最後は歩に八つ当たって…だけどそれを悪いと思っていなかった。原因の一つが歩だから、彼にとって最初にもらった絶望だから。

 今は……よく、わからない。

 

「ちょっとまふゆ、聴いてる?」

「…何」

 

ファミレス、HRの直ぐ後。『25時、ナイトコードで。』の初のオフ会に来ている。つまらないとは、思ってない筈。

 

「何?じゃなくて!夜毎さんのこと!知ってて黙ってたわけ!?」

「…多分、言いたくなかった」

「は?何よそれ」

 

言いたくなかった。そう思ったままに伝える私を、腕を組み半目で睨む絵名は疑問を口にする。

 なんで、言いたくなかった?

 

「知らない」

「知らないって…アンタねぇ…!」

「まーまー!絵名落ち着いて!…でも、夜毎とまふゆが幼馴染だなんて。意外と世界って狭いんだね〜」

 

私の言葉に納得せず、怒りに任せて詰め寄ってくる絵名を諌めて瑞希が代わりに問い詰めた。

 

「そうだね。狭いね…本当に」

「おっ、まふゆもやっぱりそう思うよね!気づいた時びっくりしたんじゃない?」

「…」

「あれ?オーイ」

 

 

びっくりしたか?瑞希の言葉を聴いて目線をテーブルに向けて考える。

 …分からない。夜毎の名前を聴いた時、時間が止まったような気がした。その後漠然としたものが、胸の中に拡がった。それは、驚くと言うより…

 

「ただ、苛立っただけ」

「わぁ〜…そ、そうなんだ」

「…何」

 

言葉を詰まらせぬがら相槌を打った事に疑問を覚え、瑞希に対して何がおかしいのか問い詰めた。

 わからない事ばかり、そんな中で隠し事をされたら、本当の私を見つけれない。

 

「はぁ?何ってアンタ、笑いながら言っても説得力ないんだけど?」

「…え?」

「絵名ってば直球だなぁ。だけど本当に苛立ってもいそうだったしなぁ…」

「なんでコイツに遠慮しないといけないワケ?自分見つけたいなんて言い出したのまふゆじゃない」

「そりゃーまぁ、そうだけど?」

 

笑ってた?苛立ちながら…少しもわからない、何に笑ってたの、何に苛立ったの?あの時、歩が曲を誰かに向けて作っていたのを知って、その曲は私によく似てて…あの曲が、私を苛立たして堪らなかった。

 

「私が夜毎の曲を聴いて苛立ったのは、合ってると思う。でも…」

「でも何?わかんない事ばっかじゃない」

「絵名ったら落ち着いて、やっとまふゆがやっとこうやって自分のことを考えるようになったんだしさ」

 

噛み付く絵名を無視して考え耽る。

 だけどいつまで経っても言葉に詰まる、なんで笑ったんだろう。なんであの子の曲を聴いて苛立ったんだろう。歩に対して当たったけど、それでも彼自身に明確に苛立ったのはあの時、歩の家で、彼自身になんで私を救うのかと聴いた時だけ。

 

「……」

「ちょっと…いつまでも黙ってると調子狂うんだけど…」

「……まふゆ」

「何」

 

絵名がバツが悪そうに話す傍ら、歩に対して何を感じたのかと頭を悩ましていると、今まで口を閉じていた奏が私の名前を呼んだ。なんだと思って奏を顔を見れば、少し迷った後意を決したように口を開いた。

 

「……わたしは、まふゆの考えてることが分からない」

「そう」

「…でも音楽なら、少しだけ分かっているつもり」

「…それで何」

 

次の言葉を考えながら言葉を発する奏に、本題を早く言わない理由はなんだと思いながら話を聴く。

 苛立つ感覚とは、また違う気がする。

 

「まふゆが、夜毎の音楽を聴いて……何かを感じたのなら。もう一度聴いてみたらいいと思う」

「…もう一度、聴く?それで何を感じたか、わかるの?」

「それは……分からないけど。ただ頭で考えるより、何か見えてくると思う」

 

もう一度歩の曲を聴く。奏が提案したそれは、私には考え付かなかったことだ、やる価値はあると思う。

 

「…うん、やってみる」

 

ひとまずは、ニーゴ初のオフ会はこれで終わりになった。

 

 …

 

玄関にできるゴミの山をただ見つめる。止められないくせに、止まって欲しいと願っている。

 

「……」

 

時間は等しく過ぎる。変わりたいと願っても変わらずを願っても、生き死にのどちらを想っても。

 今だけは、止まって欲しいと願ってる。私のシンセサイザーを捨てようとするお母さんに見えないよう背で手を組む私は、きっと酷くちっぽけなんだろう。

 

「では、玄関の前にまとめて置いてあるので。よろしくお願いしますね」

 

業者の人にそう説明をした後、お母さんは私に話しかけた、だけど何を言っているのか全然分からない。

 そのまま回覧板と手提げを手に出ていく様子を見るに、回覧板を歩に渡した後、買い物に行くのだろうか?…いずれにせよ、これから塾なのだから、気にする必要はない。

 

「よし、このシンセサイザーで最後だな」

 

業者の人がシンセサイザー(私のモノ)を持っていく、止まって欲しいのに止めてと言えない。だってそれは、お母さんが望むいい子じゃ、無いから。

 

「ぁ…」

 

なのになんで、口から声にすらならない何かが漏れ出すんだろう。

 あれから歩の曲聴いたって、何も分からなかった自分が、今更何を惜しむんだろう。待つだけならば、アレはなくても支障はないのに分からない、分からない分からない。

 ガチャと玄関の扉の開く音が聞こえる、遂に言ってしまうのに、口から漏れるものはアにもエにもならない声だけ。

 

「…?すいません、作業をしているので、退いてもらえると助かるんですが…」

 

立ち止まった業者の人が、困惑しながら立ち止まる、手にはかわらずシンセサイザーがある。

 

「ごめんなさい、すぐ退きますから…えっと、朝比奈さんの家であってますよ、ね?」

 

立ち止まったその背の影から顔を覗かせたのは、いい子のふりをした歩だった。…今更他人のふり?何故かまた苛立つ。あの時、貴方が曲を出していると知った日みたいに。

 

「…はい、合ってますが。どうかしましたか?」

 

他人のふりをするなら勝手にしたらいい、何をするのか知らないし、知ったところで苛立ちが鳴り止むとは思えないから。

 

「よかった!えっと…それで業者さん。その手に持っているシンセサイザーなんですけど、間違えて出してしまったらしいので回収しなくても大丈夫。らしいです…娘さんには、伝わっていませんか?」

「いえ、聴いていませんが…本当ですか?」

「…ぇ」

 

そうやって何か聞いていないかと業者の人がこちらを見る。…そんなのお母さんから聴いていない、そう思って歩の顔を見れば、いつも歩の家で見る、自信の無い疲れた様な顔をこちらに向けていた。

 …

 

「…はい。母からそう言われていたんですが、タイミングを逃してしまって…ごめんなさい」

「そうだったんですか…了解しました。ではコレは分けて置いておきますね」

 

そう言ってゴミ山の一つだったシンセサイザーは、そっと離れる様に傍らに置かれた。

 

「……はい、母には私から言っておきます。ありがとうございました…歩くんも、ありがとう」

「うん?どういたしまして…あっすいません。すぐ退きます」

 

そう言って玄関から退いた歩を見た業者の人は、そのまま帽子を取って頭を下げ、回収車に乗り引き上げて行った。

 

「……何のつもり」

「?君の母さんから粗大ゴミの回収の話を聞いたから」

 

私が責める様に問い詰めても、歩はあっけらかんと首を傾げてそう返す、まるでそうすることが当然みたいに。苛立ちが鳴りを潜めて困惑が湧き上がる、何で?あんなに拒絶して、都合のいいように引っ張ったのに。

 

「違う。そっちじゃない」

「……まふゆの大事なものだから?」

「っ…なんで?」

「???……僕にとって、君を救うことの方が今は重要だから」

 

不思議そうに持った回覧板を胸に抱え、しばらく考えるように少し目をそらした歩は、変わらず私を救うことを重要視していると主張した。今度は間違わないと語るようにこちらに目を向けて。

 

「…貴方は自分も分からないのに、私を救いたいって思ってるの?」

 

いつかやったように、歩に馬鹿を見るような言葉を向ける。禊になりたいと言い切った歩に向けて、その思いを踏み躙るように。

 踏み躙って、確かめるように。

 

「うん、分からない。分からないけど」

「分からないなら、私を救う理由って何なの?」

「僕の事を知っているのは、多分まふゆだけだよ?」

 

ただ、その言葉で鼓動が速くなるのを感じた。

 

「…それが?貴方の母親に聞けば良い」

「未だに普通の子のまま接してるあの人に?無理だよ。いつか、そうしたいとは思ってるけど」

 

小学生以来、顔すら見ていないおばさんの顔を思い浮かべてそう言うと、無理だと歩が即座に切り捨てた。この子の想いと自由を尊重していたあの人に?…私も、歩のことを言えないか。

 

「なんで、私なの」

「君しかいないから…でも!渋々って、訳じゃない」

「そんなの言わなくて良い」

 

既に苛立ちなんて消失していた、代わりに困惑と速くなった心臓だけが残されて、訳が分からない。

 

「…訳が、分からない」

「?」

「貴方の言葉で、心臓が痛い」

 

胸を掴むように抑えて、この感情の理由を探ろうと歩に言葉を伝える。貴方の曲でも、こんな気持ちにはならなかったのに、訳が分からない。

 

「…ごめん」

「そんなの要らない、こうなった理由を知りたいの」

「…よく、わからないけど。僕が原因でそうなったんなら、それでも言葉にしずらい言葉だったら…歌詞にしたら、見えてくるんじゃないかな」

「…歌詞を?」

「僕は歌詞と言葉を同義に考えているから、違いは分からないけど、まふゆは違うんでしょ?」

 

言葉に出来ないなら、歌詞にする…今感じた何かを?

 

「……」

「あ。時間、かなり経っちゃった…回覧板も回さないとだし、戻るね…ごめん、あまり力になれなくて」

 

申し訳なさそうに謝った後、玄関の扉を閉める歩を見送って、ただ立ったまま考える。

 歌詞に、する。感じた物をそのまま、奏にも考え付かなかった事。

 

「…」

 

わかった事は、私にとって歩は必要だと言う事。

 

 …

 

深夜、自分の部屋。

 絵を中心に広げる僕の曲は、音の構成が変わるごとに、絵全体も変化していく、絵を引き立てる音楽の為に、積み上げたものを蹴り落とす。

 慣れてると言えば聞こえは良いけど、ただそれは優柔不断なだけ。絵を中心に据えているのに、音を変える度に絵が変わる。何のために音を変えているのかわからない。

 

「行き詰まり……まふゆからだ」

 

メッセージを送るなんて珍しい、一体どんな……歌詞のテキスト?それに…

 

【貴方が、曲を作って。】

 

……全部消そう。

 

【わかった】




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

評価をしてくださった一名。
桶の桃ジュースさん
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加えて、お気に入り登録70人突破ありがとうございます。
手探りではありますが、作品に興味を持っていただきありがとうございます。
この作品を通し、プロジェクトセカイに興味を持っていただけるならば幸いです。
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