期間が空いてしまい、申し訳ありません。
朝の教室で聞こえる誰かと誰かの話す声、あの人は魅力的だとか、この間嫌いな先生に捕まって最悪だっただとか…聴き慣れた名前の知らないクラスメイトのやり取り。
読書の邪魔にならない限りは気にする気もない、ないのだけど…その光景が表裏の存在しないやりとりに見えて、羨ましく感じる。
「おはよーさん!」
そう言って両肩にバンと乱暴に手を置く声の主に、呆れた風を装って振り返り、挨拶を返す。
何だよもうと悪態混じりに返せばいいのに、うまく口が回らず誤魔化すようにすり替える。
「おはよう、君がギリギリだなんて珍しいね?」
「いやー!今日はうっかり寝坊してどうしようかと思っちゃったんだけど…どうにか間に合ったわ、ハハハ!てか何読んでんだ?」
「あはは!良かったよ。見当たらないから何かあったのか心配だったしね…コレかい?変わったタイトルだから借りたんだ、『真摯な紳士になる方法』だね」
何かあったのか。本当はそう思っていない癖に心配だとか、良かっただとか、入れる必要の無い会話を無理に混ぜる。言い終わって直ぐなのに自分の本音が分からなくなる。
ページをまた捲る、『己の内面を晒すべからず』…それが真摯なの?
「何だそりゃ?後で見せてくれ…っとヤベ。もう予鈴かよ…席行くわ!じゃあまた休憩時間にな」
「じゃあね。休憩時間に渡すよ」
僕の内面を知ってか知らずか、彼はそう言い残して自身の席に戻って行った。
…ああやって誰かに分け隔てなく、裏表もないように接する姿はやっぱり羨ましいな、まふゆもそうだし彼もそう、本当に眩しいな。
本を閉じて仕舞えば、先生が入って来た。
…
「マジですまん!今日一日分のノート写させてくれ!」
「あのね、僕としては構わないんだよ?でも君ノートどころか鞄を忘れるって一学生として…」
「わかってるわかってるって!俺だって嘘だろと思ったよ!?なんか体が軽いって思ったけどさ」
言うなら言うで放課後にまとめて言うの、どうかと思うんだけどな…コレ、僕が小言言っても許されるよね?羨ましいとは言ったけど、そういうのは…ああいやどうだろう?
まぁ、どうでもいいか。
「後で画像送るからそれで良い?僕も復習したいし」
「助かるー!マジすまん!」
「いいよ別に、次から気をつければ…」
「おっ!居た居た。ヤッホー!」
聴き覚えのある声が誰かを呼んでいるその方角に視線を向けば、長髪を片側に結んだピンク髪の子がニコニコと手を振っていた。瑞希さん、ここに何の用があって来たんだろう。
「うお、なんだあの子?」
「顔見知りだけど…別に何かあった訳でも無いだろうし」
「えっあんな美人と知り合いなん、彼女?」
「僕にそうゆう人がいるとは思えないなー」
「お前モテるからな?自覚ないだけで」
誰でもわかる嘘をつくのはやめて欲しい、誰がこんな陰気な人間を好むのだろうか?母さん曰く仲が良いらしいまふゆだって別に、幼馴染故の腐れ縁に近いだろうし。
それに好きだとか恋だとか、いまいちピンとこない。
「アレ?おーい」
「なぁ、コレお前呼んでないか?」
仮に僕だとしてもわざわざ呼ばずに連絡を…連絡先、そういえば交換していないな。
「ねぇ、アレって…」
「うん、噂の子…誰か聴いて来なよ」
不意にヒソヒソと同級生の子達が瑞希の居る方角に視線をチラつかせて話し合っている…噂、噂。全く心当たりが無いや。
「噂?」
「さぁ?でも、そうだね…どうしたの?瑞希」
「……聴こえてるんだけどなぁ。や〜っと反応した!歩ってば無視は酷くなーい?」
囁き声で話し合う生徒に呆れたように呟く彼女は、切り替えるようにこちらを見て笑顔になり、拗ねてますと抗議の声を上げた。まさか僕を呼んでいるとは思わないじゃないか、瑞希さん、人との関わりは積極的に見えるし…。
「あはは、ごめんね?僕に用があるとは思わなくて…それに君学年別だし、余計僕に会う理由がわからなくってさ」
「理由なんて無くてもいいじゃーん。それよりぃ?ちょっと付き合ってよ!」
「やっぱデキてんじゃねーか」
「そう言うの、僕だけならともかく相手にも失礼だしやめたらどうかな?」
何で瑞希さんが藪から棒にこちらに詰め寄って来た理由を考える。本当に仲良くしたいから?このクラスにも噂になっている何かを持っている以上、わざわざ好き好んで活動範囲を広げる真似はしないだろうし、何か必要な事柄が出来たんだろう。
じゃあそれは何。僕が力になれる事?
「…ああ成程!良いよ?…それじゃあ、ごめんね?後でノートの内容送るよ。じゃあ」
「え?」
「話早くって助かるー!それじゃあ行こ行こ!」
さっきより僅かにざわついた教室を瑞希さんの後を追う形で出て行く、彼女が必要としてるのは多分まふゆの事。それなら手を貸したい、貸した方がいいだろう。
「ちょ…何だお前ら!?」
後ろが何故やら騒がしい、ちょうど先程出て行った教室だ。
「うわ〜、アレいいの?」
「うーん、僕にはあまり関係無いから?」
「ヒドー友達置いてけぼりじゃん」
「あの子は話すの好きだし大丈夫だよ」
並んで歩きながら瑞希さんと会話を交わすその最中疑問がよぎる、付き合うと言っても教室を出てどこに付き合うと言うんだろう。
「瑞希、付き合えと言っても、どこに向うの?」
「最近ね、ちょっと気になるパフェ見つけてさー、行きたい!ってなったんだけど…そこのカフェ、カップル限定だったんだ〜」
「それが、どうかしたの?」
上履きを履き替えながら勿体ぶるように話す瑞希さんに何なんだと言えば、にやりとこちらを見た。
「そこのお店でさ、少し話そ!」
「……は?」
被った仮面が剥がれてしまうほど突拍子ないそれに、素っ頓狂な声が漏れる。
ミクにも言われたけど、何で既にバレているであろう人物にこうやって隠すのだろうか、自分自身が恥ずかしいからと言っても…ううん、いいや。
「ええっと…僕ら、別にカップルじゃないよね?」
「当たり前でしょー?ぼくがして欲しいのはフリだよフ!リ!」
ふり、振りね。誤魔化す様に道に並ぶ看板を見上げ思わずため息を吐く、確かに話すには悪くない場所だろう。恋人と言うものは自分達の時間にしか興味が無いだろうし、込み入った事情であれ盗み聞かれる心配なんて、なん…て…。
「そんなところで話して、本当に大丈夫かい?」
「ダイジョーブダイジョーブ!ついででぼくの行きたいところも行けて一石二鳥じゃん?」
隣でツカツカと歩みを進めながら、あったまイイーでしょー?と根拠の無い自信に満ちた顔の瑞希さんはそう宣う。
もしかしてこの子はワザと間の抜けたことを言っているんだろうか、なら何の為に?
「…おっ!着いた着いた!ほらほらー早く入って!」
「わかったから余り押さないで?危ないよ」
「リョーカイ!ほらほらゴーゴー!」
何も了解していないと背を押す手は語っている。後ろに目を向けば変わらずニコニコと何かを隠し、僕に先を促す瑞希さんの姿がある。
視線を前に戻すと、先に聴いたカップル限定の商品のあるカフェのイメージとは裏腹に、落ち着いた雰囲気を纏う店内の様相が窺える。
「なんだか意外だね?」
「でしょー?だから気になったんだ〜」
ほらほら行くよと瑞希さんに手を取られるままに窓際の席に座り、何となく窓から見える景色を見る。雲に覆われた空、人の往来、他愛の無い会話、遠目には影に覆われたビルがある。
きっと、変わらない街並みなんだろう。
「…改めて眺めるの。初めてかも」
「どうしたの?」
向かいの席から自分を詮索する声が聴こえる。
「なんでもないよ。それより限定品だっけ?頼まないの?」
「あっそうだそうだ。スミマセーン」
窓越しに眺める風景は僕が羨んでた景色がある、その中で思う。普通であることって何?クラスの皆みたいに表裏のないやりとりを繰り返すこと?まふゆみたいに、自分を見つけたいと足掻くこと?
ただ羨んで、何もしないことは普通じゃ無いのだろうか?
「ちょっと〜?ハニー聴いてますぅ〜?」
「は?」
ふざけた文言がこちらに飛び込み、思わず低い声が出てしまう。今日はなんだか普通の自分がうまく保てないな、この子がわざと引き出そうとしているのか、よくわからないけど。
「ちょ…ごめんって、注文、どうするの?」
しまった。そういった確認とか、あるのだろうか?あるとするなら、少し面倒だな…どうやれば良いんだろう。
「ああ、ごめんね?瑞希。少し考え事してたんだ…温かい紅茶をもらえる?」
「ひっどーい。ほっとくなんてー…うん、紅茶ね?」
…それにしたって棒読みが過ぎると思うんだけど。こうゆうので良いんだろうか?店員さんの顔をバレない様に見る……まぁ、様子を見るにそれで良いんだろう。
「ごめんね?後で埋め合わせるから」
「へー?…うん!それならよーし。えへへ」
わざとらしく笑顔を作って、瑞希さんは話を切り上げて店員さんの方を向いた。
証明とやらはそれで終わりだろ…っ
「………どうしたの?」
いつの間にか隣に座り直した瑞希さんから、理由も無く抱擁を受けた、いきなりなんなんだろう?
軽く締め付けられる感覚に疑問受けて、彼女の方を思わず見つめる。
「証明だってさー。コレで大丈夫ですか?」
「はい。お手数おかけします」
返答をもらった後、流されるまま彼女と店員さんのやりとりを聞き流し、窓に向き直って外を眺める。
いつもと変わらない街並み、僕が目に止めようとしてなかった普通の景色とやらが、羨ましいと思って、まぁいいかと思い直して視線を店内に戻せば、向かいの席にいる瑞希さんと目が合う、それを彼女はおかしそうにクスクスと笑って机の上で手を組んで、活発に話し始めた
「ね、こんな場所に来たんだし、世間話とか〜、最近あった事とか!色々話そ」
僕のことを知りたい、わかり合いたいという好意の視線。瑞希さん本来の目的である筈の、まふゆに関して僕が知っている事を聴き出す事を後回しにするほどの価値が、自分にはあるのだろうか?それとも、目的はまふゆの事では無いのだろうか?
いずれにしても、目的を達成しないまま終わらせて、このやりとりを目的に別れたクラスメイトの子に悪いし、それなりに話に違和感の無いものを用意しなくてはならない。
どうせ、彼は内容を聞き出してくるのだろうし、煙に撒くための話題は欲しい。
「うん、良いよ?少しだけ雑談しようか」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
総閲覧数7000突破、ありがとうございます。
今回、期間は空いてしまいましたが、それでもこの作品は走り切りたいと思っています。
前の作品は未完にしてしまったので、尚更そう考えております。