変われるとしたら。   作:ゴリラとの逢瀬

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四話 夜も耽る、目を開けた。

くだらない事を瑞希に吐露し暫く。その場は解散となってしまった。

 …日は完全に傾き、星も見えない夜。僕は家で曲のための絵を描いている。不安げな様子を隠しもせず、迷路に一人迷い込む影の絵だ…相変わらずまふゆが投げかける言葉(歌詞)にこたえる日々は続いている。変わったことと言えば、僕自身も歌詞を書く試みをしている事だろうか?変わらず、空っぽなんだろうが。

 

『迷路の絵かな?』

「…KAITOさん」

『やぁ、何だか久しぶりだね?』

 

そうやって筆を進めていると、傍に置いてあったスマホが微かに部屋を照らして、久しくあっていなかったKAITOさんがそこから顔を覗かせた。

 

「久しぶり。あまり見てても…面白くないでしょ」

『まさか、君の絵は君自身の迷いや想いをよく表せているよ。心を切り取ってあるがまま描く事は、僕には出来ない事だ、面白くないなんて、それこそあり得ない』

 

静かに、僕の絵を撫でるように手をかざし慈しむ様子のKAITOさんはそう言い、ゆったりとした笑顔をこちらに向けた。

 僕自身の、迷いと想い。きっと、これに限らず、これまでも描いていた全て…。

 ずっと迷って、苦しんで。同じだねって、まふゆに見せつけるようにしただろう、その絵。

 

『……ちょっと、おしゃべりは勝手にしたら良いけど、貴方が本題切り出したいっていったんでしょ』

「…ミク?」

 

そうやって話す内に、見慣れた黒いセーラー服を着込んだ彼女が、呆れた声色でKAITOさんの後ろから姿をのぞかせた。

 …本題?

 

『…珍しく、僕が聴いてきても良いかい?なんて、どうゆう風の吹き回しと思ったらただお喋りしたいだけじゃない』

『僕としては、少しでも歩くんと話す機会は増やしたいから、ね?』

『ただぬぼーっと見守ってるだけでしょ、貴方…』

「ねぇ、ミク。本題って?」

 

少し睨みを利かせてKAITOさんを責める様子のミクに僕は本題が何なのか問う。

 何だか、いつか写真を撮ったあの日から、ミクの表情がよりわかりやすくなった気がする…ほんの、少しだけ。

 

『はぁ…貴方どうするの。瑞希…だっけ?に改めて呼ばれたんでしょう、紹介したい子達が居るからって』

「そのこと?……断る、つもり」

 

ミクに言われた通り、別れる直前に奏とえななんさんが改めて自己紹介したいと言っていたから、また今度誘っても良いか?そういう旨の話を瑞希が聴いてきたのだ、この場では連絡先を交換してまた今度伝えると逃げてしまったが、やっぱり断ろうと、絵を描きながら考えていた。

 

『…だよね』

『へぇ、何でまた?』

「別に…あそこに僕が割って入る必要なんてないし」

 

君ならそうするだろうねと頷くKAITOさんと、だろうなと鼻を鳴らし敢えて何でと聴くミクに対して僕は、まふゆにとって必要のないことだからと簡潔に答えた。

 それに、僕の事を知るために割って入る事自体、烏滸がましいし。

 

『……私、言ったよね。自分の我儘くらい自分でどうにかしろって』

 

爪をいじる手に目を向けて、ミクは苛立ったように僕の怠惰と言える行為を責めた。

 

「だから、自分で」

『そんなの一人で抱え込んで答えを先送りにしてるだけ、貴方のそれは答えを出すための行動じゃないって言ってるの』

『ミク、少し落ち着いて…』

『この子を甘やかさないでKAITO。結局、本当の想いだか何だか知らないけれど、ずっと見つけれてないじゃない』

『それは……どうしようもないだろう?』

『煩い』

 

ミクが一方的に睨み合う言い争いを眺め、思考する。

 二人が言う、僕が本当の想いを見つけれてないと言う言葉は、おそらくセカイの名前だろう。

 まふゆの白くて冷たいあの場所は、名前が付いた。『悔やむと書いてミライ』……思うところはあるけど、でも…過去を悔やむより、ずっとマシだろう。

 

「…本当の想い」

 

僕のセカイは名前のないまま『untitled(無題)』の名前が刻まれている、何も無いことがいい事だなんて、到底思えない僕にとっては、変われなかったと言う事実を表す標識になっていた。

 

『…はぁ、ミク』

『黙って。イラついてるの』

『どうしようも無かったことだよ、今更悔やんでも』

『貴方もシツコイのよ、ことあるごとにぶり返して…今回にいたってはこの子の前で』

 

思考の中、未だ言い争っている二人の会話が耳に入る。

 …僕に聞かれたら、ダメなこと?絵を描く手が止まる。思考が、視界が、二人の振る舞いに注力する。

 

『あの子は知るべきだって、何度も言っているだろ』

『…今はダメ』

 

まだダメだと言う、ミクの顔は深く落ち込んでいた。或いは、悔やんでいるようにも。

 僕に関わることで、ミクが悔やむ?何を、悔やんだのだろう。

 

『……わかった、君を尊重するよ。』

『帰る』

「ぁ…ミク、その…ごめん」

『…うるさい。おバカ』

 

KAITOさん向かって吐き捨てるように帰ると言い、スマホの中へ引っ込んでいく疲れたように丸まった背に僕は謝罪の言葉を投げかけると、ミクは立ち止まって、肩を落としてため息を吐き、バツが悪そうな顔をしながらそう言って消えた。

 

「…怒ってる、のかな」

『まさか。ミクは誰よりも君のことが大切だと思っているよ…あ、これは本人には言わないでね。またどやされるから』

 

嘘だ、大切だったら、邪険になんてしないはず。母さんだって僕が大切だから、そうしているんだろう。

 きっとミクも、大切な人に対して…だけどそもそも、あの子に大事な人っているのかな。

 

『どうしたんだい?』

「…ミクに大切な人は、いないだろうって、考えてた」

 

心配そうに顔を覗き込むKAITOさんを見て少し考え、僕は自分の考えていたことを言うことにした。

 分からない、邪険にしていても大切に思っていると言う想い(それ)が。まふゆがあの振る舞いの中にそんな感情を隠しているなんて…いや、関係の無いことを関連付ける意味なんて、ないよね。

 

『あのね、ミクは歩くんのことを邪険に扱っているように見えても、君は彼女にとって大事な人だよ。自信を…と言うよりは、そうだね…あの子を信じてあげて欲しい』

 

ただ今は、ミクを信じて欲しいと願うKAITOさんの真摯であろう目線に、応えないと。

 

「…考えとく」

『そうしてくれると、有り難いよ。あと…瑞希ちゃんだっけ?その子への返答もおいおいね?』

「だからそれは、断るって」

『誠実に。そうありたいって望んだのは紛れもない君じゃないのかい?』

「……瑞希にそうあれたとしても、あの二人…特に奏に誠実にだなんて」

 

きっともう遅いだろう…奏と、その父親を思い出す。あれは多分、愛情(娘に向ける視線)ではなかった。それを知っていながら、気づかないふりをしたんだから。

 

『やり直しに、遅いも早いも無いんだよ?』

「…だとしても、今更どんな顔をして」

『今更も何も、初めから。でしょ?やり直しなんだから』

 

…初め、から。やり直しでなく、初めから。

 

『結局は、君次第だ。それじゃあね……絵、頑張って』

「…K()A()I()T()O()

 

ミクと同じように消えようとするKAITOを呼び止める。

 

『何?』

「…考えて、見るよ。ありがとう」

『…そっか、こちらこそありがとう』

 

…一から描き直そう。今度は上手く描けるかな?描かないと。

 

 

【じゃあ何?Amiaアナタ、なにも決まってもない事、夜毎さんに話して嫌がられたの?】

【そ、そうゆうことになるかな〜…なんて】

 

作業も終え、雑談に入った深夜の時刻。瑞希を責める絵名の声が響く、煩いからやめて欲しい。

 

【……えななん、確かに集まる日付も決まってなかったけど、それでもあ…夜毎…さんを勧誘して、予定を聴かないと、決めても無駄だと思う】

【それはそうだけど……】

 

 

奏に諫められて絵名が押し黙る。

 歩と会うことに絵名がこんなに渋るのは、自分の立場が脅かされると踏んでいるから。歩にそんな事ができるなら、今頃もっと夜毎の名前を拡散できるのに。引っ込み思案で一人で解決したがる。それが今の歩、昔とは真逆。

 奏も、少し前に交友があったことなんて、あの時のセカイで歩が漏らした言葉がなくてもわかる。多分瑞希も、それを見越して独断で動いて誘ったんだろう。

 私は会うこと自体、どちらでも構わないと言った。だけどそれは、否が応でもあの子と顔を合わせる関係だから、たまたま家が近くで…。それで、

 

[何が、好き。何も……あゆむ?]

 

帰りもしないで、いい子にすることも忘れて、遊具に揺られていたその日の夜に。

 

[…まふゆ?!こんな時間にどうしたの?!]

 

そんな中学生のあの時、どうしたら良いの分からなくて顔を俯かせた時、顔を合わせてしまったから。

 傷つけられた私は、性懲りも無く傷つく羽目になったのに、そんなくだらない関係に戻ったのに。

 

「…分からない」

 

分からない。分かったことは…感じたままを歌詞にって、そう言って示した歩が必要になった。

 だけど、それだけなら私は…

 

【どうしたの?雪】

「……」

【ちょっと雪?いきなり喋って直ぐ黙り込むのいい加減に辞めて。この前の夜毎さんの事だってどっちでもいいって言ったきりだったじゃない】

【雪が積極的に話すのも違和感凄いし、雪のペースに任せたらー?】

 

…きっと歩の事を切り捨てていたと思う。こんなやり取り(ニーゴに留まる選択)を続け、なんとなく感じたこと。

 

【Amiaウルサイ。…それと雪、アンタさっき私の絵の事、色が汚いとかぼやけてハッキリしないだとか言ったの忘れてないから!】

 

瑞希をあしらい、再び絵名は言葉をこちらに向けた。

 隠さずに思ったことを言えって言ったのは彼女で、私はそれを実行しただけ。歩には、何故か上手くできないけど。

 

「……隠さずに言えって言ったのは、貴方達でしょ」

【あーもう!…ほんっとアンタって生意気!描けば良いんでしょ描けば!】

【まーまーえななん落ち着いて…って、マイク切っちゃった…あっそうだ。雪!】

「……何?」

 

瑞希は絵名を諫めに入るが、絵名は耳を貸さずにそのまま絵を描きに戻った。描くって今更何を描くんだろう、作業も終わったのに。

 それに瑞希も、今度は何なんだろう…同じ事を聞かれたら、無視してしまえばいいか。

 

【んーと、さ。雪って夜毎の事嫌いだったりする?】

 

その言葉は、随分と夜に耽った部屋に反響した気がした。




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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目標にしていた総閲覧数10000の突破。それも目前にまで迫って来ました、それもこれも見て頂いた皆さんのおかげです。重ねて感謝を。

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まるこな3324さん
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