変われるとしたら。   作:ゴリラとの逢瀬

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二話 こんにちは

「…」

 

ペンを進める音だけが響く部屋。チラとまふゆを見れば、鬱陶しいのか気怠げそうに髪を耳にかけていた。…何故だか、見てはいけないものを見た気分になった。

 …徹夜明けで集中出来ていないな、情けない。

 

「…」

 

まふゆの勉強に介入してから。かれこれ2時間が経っているが会話というものが殆ど存在しない。まふゆは知る限り勉強、運動共に不自由など無い故か質問なんて殆どないも同然なんだから、当然ではあるんだけど。

 しかし、やはりよく分からない。彼女がどう言った経緯でこんな時間に来たのか。だって、まふゆは自分を削ってまで他人に奉仕する子で、家族にすらそうして来ているのだし。友人、先生に加えてきっと僕にもそうしているに違いない、わざわざ習慣として我が家に来るのだから。それに彼女は間違いなく、己から助けを呼ばない、呼べない状態だし、赤の他人に独り言の如く呟く事もしないだろう、バレない限りは。

 

「なんで、歩は私を救おうとするの」

「…え?」

 

なぜまふゆを救おうとする?ペンを走らせる音を止めて、SOS信号とはまた別の突然の質問に思わず僕は戸惑いの声をあげてしまう。

なんで救おうとする?なんで、なんで………?

 

 

 

 

「なんでだっけ」

「……もう、良い。」

 

そう苛立った様に机を叩き立ち上がったまふゆが扉に向かって歩を進めていく。

 ……え。え?なんで、僕…。

 

「ちょ…ちょっと待って、僕、何かした?」

 

そう言って引き止めると、彼女はゆっくりと振り返ってこちらを失望の眼差しで射抜いた。

 

「……別に、何も。だから、もう良い」

「何も…って、それじゃあ、わからないよ…」

「…最初は戻って来たんだって思ったのに…。これだけ待ったのに。本当に、馬鹿みたい」

 

それだけ吐き捨てる様に言って、彼女は僕の部屋から出ていった。

 戻って来た?どう言う……そうじゃなくて。止めないと、まふゆが帰ってしまう。

 

「待ってよ。まふゆ、置いて、行かないで」

「…っ!」

 

浮き出た疑問を解消する為に彼女を追いかけ、玄関まで行き引き留めようと手を伸ばすと、彼女は伸ばした手を思い切り叩き落とした。

 

「しつこい。貴方はそうやって縋る事しか出来ないの?」

「……それは」

 

なんでまふゆがそうやって苦しんでいるのか、理解したいだけなのに。まふゆは僕を介して何かの言葉を期待している。何の、言葉を?

救い?

拒絶?

それとも呪い?

 

「理解してるよ。歩はね、昔のこと、少しも覚えていないもんね?」

 

喉元に刃物を突きつけられた様な気分だ。僕のことを見透かして笑っている。何でおかしいのかすら分かっていないのに。何で激情が彼女を覆っているのか、分からないのに。

 

「…覚えて、いるよ?」

 

嘘だ。昔の事なんて記憶も記録も無いのに、その場限りの見え透いた嘘で乗り切ろうとしている自分の浅はかさな考えすら透けて見えてしまう、見たくなんてないのに。それにまふゆは、きっとそれも分かっているのに。

 

「嘘なんて、吐かなくても良いよ?分かってるから、だから、もう良いって言ったの」

 

そう良い子みたいに笑いながら簡単に言ってのけたまふゆは次の瞬間には氷の様に冷たい表情になった。

 

「もう、歩の家にも来ないから。話しかけないで、邪魔もしないで、私は消えたいの」

 

そう言って会話を断って玄関の扉を閉めた。振り払われた手はそのまま落ち。なんでダメだったかを考える、何が嫌だったのか考える。僕が今まで、己の感情の理解すら薄いまふゆに自主的に『嫌なら逃げて良い』などと体のいい言葉と共に鍵を渡した事?それとも中学の頃、君が苦しそうな顔をしているところを見つけて、何故か無視できなくって、半端に助けるなんて言ってしまった事?

 

「…わから、ない」

 

 頭で考えても何も分からない。どんどん、どんどんと分からないが飽和していくだけで、あの子の欲しい言葉がずっと分からなかった。

 じゃあ僕は、ただイタズラにまふゆを傷つけてただけじゃないか、傷つけたくないって思ったのに、救いたいって言ったのに。

 

『…本当にバカね。貴方って子は』

 

 ふと、聞き知った呆れる様な声が聴こえた。

 

 …

 

 何をしてあげれば良かったんだろう。無理やり家に乗り込んでおばさんを説得…?失敗したらどうするんだ。少しは後先を考えなよ。

 

「……ねぇ」

 

 もしくは病院に無理にでも連れていって診断なり…ダメだ、おじさんおばさんがどんな行動起こすか分からないのにそれは同じくリスクが高すぎる…それに異常が無いなんて言われた日にはまふゆ自身、消えることに躊躇いがなくなる、そうなったら詰みじゃないか。

 

「……」

 

 ならどうしたら良いんだ?話しかけるなって言われた以上下手に触れたら…

 

「……良い加減になさい」

 

 ?!……いきなり強い力で前に押された?それに、なんで写真館……セカイに来たの?来た覚えなんて、無いんだけど。

 

「ミク?!何で…」

「ようこそ『灰規写真館』へ。ここは貴方の空っぽな思い出を灰色の記念写真で埋める場所、どう?その酷い顔を撮ってみる?」

 

そう言って黒髪、黒セーラー服を靡かせ、表情の読めない青緑の目をこちらに向け、彼女、初音(はつね)ミクは嘲る様に言った。

 

「二度目だね。その紹介を聴いたの、いきなり此処に連れ出してどういうつもり?…っ」

 

いきなりの光に目が眩む。

 

「うん?貴方がひどい顔をしてたからかな。撮って思い出をって…私が撮ると貴方の顔無くなるの何なの?本当嫌になる」

 

僕がミクに対して聞き出そうとした時。彼女は肩に下げたカメラを構えてシャッターを切り、理由をつらつらと述べた。

 

「…相変わらず、趣味悪いよ?」

「私ね、未だに此処ですら本当の自分とやらを出せない貴方に言われたくは無いのよ、私スマホ越しで素を見てるのによ?それにまふゆって子以外に素を出せないのどうかと思うし。」

 

思わず悪態をついた事を後悔する前に、変わらずミクは表情を変えずに憎まれ口を返してくる。

 素が既にバレてる子に、こうやって普通の喋り方をする事に意味はないのも事実だけど…

 

「慣れないんだ。ああやって素を出すことや本音を包み隠さず言うの。…あはは」

「バレてる奴に取ってつけたような演技するなって言ってるの…ん?リンが来たわね」

 

リンちゃんが来ると言われ耳を澄ませると。確かに騒がしく此処の部屋に向かう足音が聞こえた。

 

「リンちゃんが?じゃあ…」

 

 唐突に、視界の横から革靴の足音共に青髪青目の白いシャツの男が見えた。

 

「や、歩くん。やっぱり君らしさは出してくれないね?そうじゃ無いと、良い写真は撮れないよ?」

KAITO(かいと)さん…あはは、ごめんなさい」

 

しゃがみ込んだ僕の肩に手を置き、KAITOさんなりに心配していると声をかけられた。

 …そうやって写真と交えられると、よく分からないんだけどな。心配かけたことに関しては、申し訳ないけど。

 

「もう、仕方ないな。せっかく来たんだし写真でも取っていくかい?ミクと」

「コレとなんて嫌よ、リンなら喜ぶだろうけど」

 

 タイミングを見計らった様に、ミクの会話が終わった瞬間大きく廊下に出る扉が開いた。

 

「カイトせんせ!ミク姉ちゃん!貸出の衣装が…ってあゆちゃん!?」

「静かにしてリン、季節のアレでしょう?処分よ」

「えぇ!?お気に入りだったのにぃ…」

「ごめんねリンちゃん。まぁでも新しい衣装は既に注文してあるから。その衣装を楽しみにしてて欲しいな」

「やった!」

 

 ガンとショックを受けたりぴかっと笑ったりと忙しい金髪の黒セーラーの彼女は鏡音(かがみね)リン。ミクとKAITOさん同様このセカイにいる住民だ。

 …何故かミクや僕を見つけると一緒に写真を撮りたがる子だ。距離詰められると、困るわけじゃ無いけど、恥ずかしい。

 

「よかったね?リンちゃん…それにしても、改めてセカイって不思議だね。」

「そうね、貴方が本当の想いさえ見つければ不思議だとか考える暇はなくなるわよ?」

「あはは、見つけれたら僕はきっと…」

「歩くん」

 

ミクの手厳しい言葉に何も言い返せないでいると、KAITOさんがこちらを呼びかけてきた。

 

「はい?えっと、何ですか?KAITOさん」

「写真はね、ただその場の光景を撮るだけじゃ無いんだよ?」

「…え?」

 

いきなり何を言っているんだろうこの人は?前も写真に交えて今一つ見えてこない話ばかりされたが、今回はそれ以上にわからない気がする。

 

「ごめんなさい…あの、どうゆう意味ですか?」

「…君が苦しんでいるのは分かってる、力になれないのも歯痒いけど、本当の想いはそうやって気づくものだよ?僕に言えるのは此処まで、頑張ってね?」

 

本当の、想い。……まふゆを救いたいって想いは、嘘なのかな。

 

「あゆちゃん、あゆちゃん」

 

後ろくらい考えが頭を支配する前に、リンちゃんに呼ばれた。…何だろう。

 

「…どうしたの?リンちゃん」

「えっと、そのね?」

 

指を弄びながら、彼女はしゃがみ込んで目線を合わせた。

 …言い難いことなのかな、それじゃあ。

 

「ちゃんと聴くから、ゆっくりで大丈夫だよ」

 

そう言って耳を少し傾けて、リンちゃんに対して聴く姿勢を作った。

 …コレで少しは、言いやすくなったのかな。

 

「うん、ありがとう…。あのね、あゆちゃんが思ってることは絶対に、嘘なんかじゃないよ?」

「…」

「あゆちゃんがなんて思っても、誰かがなんと思っても、あゆちゃんは真っ直ぐで優しくて、誰かを想える人だって知ってるもん。大事なら大事ってしっかり思えてるの、だから自分をちゃんと、信じてあげて?」

 

 傾けた耳を外し、リンちゃんの青色の目を見た。どこまでも澄んでいて、嘘なんて知らない海みたいなそんな目。

 

「………そう。ありがとね?今度になっちゃうけど、一緒に写真撮ろっか?」

 

 眩しくて、羨ましいその目の持ち主にお礼と約束を告げる。

 

「いいの!?素の顔でとってね!?絶対だから!」

 

 聴いた聴いた?とKAITOさんの側に行くリンにまた限りない感謝を内心で送り。また考える、僕がまふゆを救う理由って、何なんだろう、と。




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