変われるとしたら。   作:ゴリラとの逢瀬

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手に取ってくださり、ありがとうございます。


三話 こんばんは

『言う事は全部言ったし言われたから、早く出ていってくれる?』

 

そう言われミクにセカイから強制的に出されて、目を開けるとさっきまでいた玄関の前に立っていた。まふゆは当然おらず後悔がまた募った、してやれた事なんてついぞなかったと。

 ふとスマホを見れば、いつか見た時と変わらない『untitled(無題)』の項目が一つあった。

 

「……」

 

無題を意味するその文字を、やる瀬のない自分はなんとなしにぼーっと眺めていた。

 我に返り時刻を見ればいつの間にか五時を回っている。もう今日は日課の消化はやめておこう、何だか疲れた。

 今日、母さんは仕事で帰ってこないし、予定だって無い。作業に戻ろう、また徹夜しても仕方ないし。それに…

 

[また徹夜したの?]

 

今朝にまふゆの言葉を未練がましく思い出す。いや…話しかけないでって言われた筈なのに、何で直ぐに忘れるんだ。それにまふゆに拒絶された今、曲を作る意味って……ううん、曲に作るくらいしかやれる事はないし。

 でも聴いているか分からないのに、何でこんな事……。自分の言葉を形にすることも儘ならないのに。何でそんな自分の曲を顔の知らない彼らは聴くのだろうか。

 悪い方向に物事を考えながら、自分の部屋の前まで移動して扉を開けた。

 

「……」

 

 いつもと変わらない自分の部屋。建て付けた戸の前にある足の短い机の上のそのままになった勉強道具を直し、勉強机の上にあるリュックに入れた。

 ふと後ろを振り返って本棚を見ると。ノートが詰まった段が目に入った。

 

「……そういえば、今日、描いてなかったな」

 

何となしにそう思い本棚の前に立ちその内の一冊を取り出してページをめくると、拙いが石や枝に木の実の絵が描かれていた。

 …今ではもう課題とする項目が不明瞭になり頻度を下げてしまったが、ノートはまだ読み返している。もう一度習慣付ければ、課題が見えてくるのだろうか?

 

「……そう言えば。曲を投稿し始めた時に、コメントをもらって描き始めたんだっけ」

 

曲の投稿を始めた動機なんて単純で、ただ趣味らしい趣味をやってみたかっただけだった。

 中学に音楽に精通した友人が居たのも幸いし、ある程度の実力が着いていくのは感覚として初めての物で、楽しかったと言っても良かった。

 …その唯一と言って良い楽しんでいた趣味も、音楽を通じてまふゆが何かを得たら良いという想い一つで終わらせたのだが…。大層な想いの割には、臆病風に吹かれ想いを伝えたい人に聴いて欲しいと言えていないのだから、滑稽だ。

 

「……懐かしい」

 

懐かしさと虚しさにただ挟まれた僕はその虚しさだけを消すようにノートを閉じて、本棚に戻した。

 

「…そんなの、もう良いや、作業しよ」

 

自分は今、音楽を通して笑えているのだろうか?音楽を教えてくれた銀髪の少女がまた頭に過ぎる。あの子は今でも音楽を続けているのだろうか?

 いいや関係ない事か、疎遠になったんだし…でも、でも奏なら、まふゆを救えただろうか。僕の様に失敗せずに。

 

「……たらればなんて考えても仕方ないや、作業しなきゃ」

 

そう呟いて勉強机にあるパソコンを起動して作業の準備を進める。

そうだ、まだ失敗していない。決定的にズレてる事はどうしようもない程に痛感してしまったが、それでもまだ。

 でも、音楽……伝えてもいないのに聴いている事を前提で考えてるのは、都合が良すぎるけど。いや、とうにタイミングなんて逃してしまったし今更か。

 

「…絵は、これで大丈夫な筈。」

 

描いたものは迷路の中でただひたすらに迷って傷つく女の子。不安と孤独の中で終わりを見つけて最後には必ず救われる筈の女の子。

 少しだけ色が明るい?ううん、平坦?影が足りないのかな、それとももっと奥に光を足してメリハリをつけた方が…こうなるのだから、奥行きのある絵は苦手だ。見れる絵になったとは言えずっとずっと言われてきた事だから、最初に投稿した時から。

 

「……コレで、良いのかな。」

 

出来上がった物を見て何となく不安に思い何度繰り返し全体を見る。……芸術は分からない、だけど特におかしな事はないと思いたい。

 ボヤけてる?…そう考えるとそう感じてくるような、見せたい物がハッキリとしていないのかな。

 

「………女の子の顔が、ハッキリと分からないから?」

 

 …じゃあ、光の方向を弄れば良いのかな。

 

「良く、なった?」

 

 改めて全体像を見た、なんとなく、ハッキリした気がする。

絵の方はこのくらいにしよう、前の曲を投稿してから既に一ヶ月以上は経過してるというのに…。妥協できる時には妥協しないと…仕上げの時に改めてみよう、時間はまだあるのだから。

 

「…次は、曲だよね…うん、大丈夫」

 

 曲だけはいつも概ね問題はないのだが…他で行き詰まることばかりで、いつもこうやって期間を空けてしまう。ああ、もう……。曲は良い筈だ、だけど前から練ってた演出が絵を描き直したせいで…コレ、また徹夜……?

 

 …

 

歩はずっと私に付き纏っていた、幼かった頃からずっとそう。ヘラヘラと何も知らない様に笑顔を振りまいて私の名前を呼び、手を引っ張って遊びに誘っていた。

 私はそれを嫌がる訳でもなく手を引かれるまま、彼のやりたい事を自分の事の様に楽しんでいた。その時から私は歩に対して何かの感情を持っていたんだと思う。

 でもあの時、中学に上がる少し前の日。

 

[おはよう!まふゆちゃん!そんな顔してどうしたの?]

 

その言葉一つでただただ傷の付けられた小さい頃の私は、裏切られたと確信したんだ。

 

【ふぁあ〜】

 

Amiaの眠たげな声を合図にえななんが『OWN』の事や自分の絵の事を言っていた気がするがどうでも良い。耳障りのいい言葉を言っておけばいいのだから。

 『OWN』あんな曲に何の意味が有るんだろう、これっぽっちも、少しの引っかかりすら見つけられていないのに。

 

【流石に眠くなってきちゃったなー、ボクそろそろ落ちるねー】

 

会話が終わる合図も同じく、今にも眠りに落ちそうなAmiaの声だった。

…自分を見つけられるかも知れないと入ったこの場所も、ずっとこのまま。私は何のためにここに居るんだっけ、何のためにあの子の手を振り払ったんだっけ?

 私は、どこに居れば良いんだっけ?

 

 【あっ私もそろそろ寝ないと…って】

 

思考の海に沈んだ自分の自己は驚いた様な声をあげるえななんに引き上げられた。

 

 【……夜毎(よまい)さん、一ヶ月曲を出さなかったけど、休止とかじゃなかったんだ。良かった…】

 

ピタ、と自分の頭の中の時間が止まった。

 夜毎って、歩のユーザーネームだけど……何で、知ってるの?

 

 何で、えななんが知っているの。まさか内気になった歩が投稿なんて…ましてや自作の曲なんて出せる訳が……何の、ために?出したとして、何で今のあの子が出す理由があるの。

 

「……えななん、夜毎さんって?」

【えっ…な、なに?雪ってばいきなり】

【なになにぃ〜?えななんったら隅におけないってやつー?】

【全然違うけど!?ただの推しのクリエイターよ!推・し!】

 

私が夜毎のことを問い詰めようと発言すると、被せる様に眠気半分のAmiaがえななんに対して茶化しをながら聴いた。

 

【へー、夜毎さんかぁ、どんな曲か教えてよー】

【……歌詞とか無いから、人好き結構分かれるけど良いの?】

【全然!むしろどんな曲かもっと気になっちゃったぁ〜】

 

 …。

 

「私も、気になるかな?教えて貰っても良いかな?えななん」

 

気付けば、えななんに夜毎と言う人物がどんな曲を出しているのかを、なぜか聴いている私自身が居た…ただ名前が同じの別人かも知れないのに。今更聴いて何になるかもわからないのに。何で私は聴いたんだろう…。どうでも、いいか。

 

【雪まで…もう、分かったわよ。夜毎さんのURLも貼っておくから。それじゃ、また明日ね!】

【おつ〜、ボクも一曲だけ聴いて寝ちゃお…ふぁあわ】

 

仕方無しといった風にえななんが夜毎の曲をURLを貼るとまた明日と言い、続けてあくび混じりでAmiaも聴いてから寝ると言って、二人ともそのままログアウトした。

 OWNと夜毎。私自身と、よまい…。

 

【夜毎に、OWN……雪、取り敢えず、聴いてみる?】

「あ……うん、じゃあ、夜毎さんの曲から聴くね?」

 

『〜♪』

 

大きく曲の構成が絵と演出に引っ張られた舞台の様な曲。

 孤独を誤魔化す様に、伝えれない事を迷う様に動いて行く話は、何となく、私によく似てる気がした。違う、似せているのだろう。これは歩の曲だ、間違いなく。

 

【…こんな人が、埋もれてたなんて】

 

…よく、分からない。Kが言うならそうなんだろう、私はただ歌詞を書いてるだけだから。

 その後、OWNの曲を聴いたKにこの曲は私が書いたのかと問い詰められたが話題を逸らし、一旦この場は解散になった。

 

「…夜毎。歩は隠して、活動してたんだ」

 

理由が分からない、あの子は何をしたがっていたんだろう。私を救うと言っておいて、自己満足の行動ばかりが目立った歩が、私に寄せたと思われる曲を作っていた?

 ……馬鹿にしているの?これで同じとでも言うつもりだったの?

 

[…僕に、まふゆを救わせて欲しい]

 

あの時に私に言った言葉は、嘘だったの?

 ……もう、どうでも良いか、あの時に歩を拒絶するために言った言葉を不意に思い出し、胸にストンと、落ちた気がした。




お読みくださり、ありがとうございます。

コメント、高評価を頂けるなら幸いです。

並びに、アンケートのご協力ありがとうございます。ユニットストーリーを消化した後、書いてみます。ただ、初めての試みですので、雑多感は薄れるかも知れません。
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