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新曲を投稿し終えてから数日が経たった。
その期間の間、まふゆと話すらできずにいた。中学生の頃に何で自分はまふゆを救いたいと願ったのか、何をしてやればよかったのかが未だに不明瞭のままでいる。考えても仕方ない、さっさと諦めてただ繰り返すだけの人生を生きていこうと脳裏で囁く声が聞こえる程に。
「……本当に、どうしよう」
現在は放課後夕暮れ時。ベンチに座り茜色に染まった校舎を眺めながら、演じる事を忘れ呟く。
神山高校。最近新設された学校で通常の全日制に加えて夜間に通える定時制も存在し、自由度も高く通う生徒も多い。かく言う自分は2年のCクラスに籍を置いてはいるが、その高い自由度とやらにはあやからずにただ全日制を取り、活動も程々にただ通う毎日ではあるのだが。
「……そう言えば」
ふと持ってきたものを思い出してリュックを開く。やっぱりあった。
「どうせ学校が終わってすぐに予備校に向かっても時間を持て余すし、ここで改めてノート見て絵の改善点を…」
『あゆちゃん!』
「…リンちゃん?あんまり外では顔、出さないでって言ったでしょ?見つかったら騒がれるに決まってるんだから」
溜め息を吐いて、スマホの上に立っている小さなリンちゃんに目だけを合わして注意する。ミクと違って、この子はこうやってよく顔を出す、その度に気を付けてほしいと言っているのだが如何せん僕の行動に興味があるらしい。
いつかの授業中、クラスメイトが見ている映像越しから顔を合わせた日は心臓が止まるかと思ったな。その時はミクが彼女の頭を引っ叩いて画面外に引っ張って行っていたが…リンちゃんが抜けてるとは言え、少し可哀想だったな。
『もう、またフリしてる!ちょっとくらい良いじゃん!』
「僕はこれで良いの。別にそうしないと困るわけでも無いんだから」
『そうしても困らないー!』
ノートを捲りながら、再び本性がバレない様に猫を被った自分の声色にリンちゃんは随分とお冠な様だった。
ページを捲る音は良い、ペラペラと小気味良くて嫌な気を逸らせるから……逸らしてどうにかなるのなら、僕はちゃんと変われてるのに、恥ずかしい事だ。
…うん、この絵は見せたこと無いし彼女に見せてみよう。
「……リンちゃん。絵、見てみる?」
そう言ってそっぽを向いているリンちゃんに、絵を見るかどうかを聴く。これで少しは機嫌、直ると良いんだけれど。
『え?!見るー!』
それを聴くと彼女は元気よく振り向き、大きな声で僕の絵を見たいと言った。…もう、機嫌は直ったけどまた大きな声で。
少し呆れつつ、スマホを水平に持ち上げ、ノート前に差し出した。
『わぁっ…綺麗!カイトせんせが撮る写真みたい!』
「…あはは、そこまで良い物ではないよ」
良いものではない、そう否定しながら手に持ったスマホを膝の上に置いた。
KAITOさんは撮る人や物の魅力を最大限に引き出す写真を撮る努力を惜しまない、常に無表情で皮肉屋なミクでさえ綺麗で清楚に撮ってしまうのだから、その熱意は折り紙付きだろう。
『そんなこと無いもん!』
どうやら絵を否定されたのが気に食わなかったのか、せっかく直った機嫌がまた悪くなってしまったらしい。全く、僕の絵の何が良いんだろうか。
「…」
絵を見る、線は真っ直ぐで綺麗と言って良いだろうし遠近は…今後次第。影は上手くできておらずどこから光が差し込んでいるか分からない。さっと描いた絵にしても酷く、本当に何が良いのか分からない。
「……いいや。別のものを…」
「えっ!?アレってリン!?」
再びノートを捲り始めると、リンちゃんの名前を叫ぶ中性的な声が聞こえた。声のする方向に目線だけ合わせると、ピンク色の髪をした……女子?がこちらを指差し驚いた表情で見ていた。
「…?まぁ、良いか。ページ、ページ」
…リンちゃんをさりげなくノートで隠しつつ、大声の主を無視してページをまた捲る。
「…リンちゃん、戻ってて。」
『はぁーい、もっと見てみたかったなぁ。あ、女の子だ…キレイ』
リンちゃんは、僕が偶々手を止めたページに描かれたものを見た後、スマホの中に消えていった。
スマホから完全自立思考のAI?人?が飛び出して会話できます。なんて言っても『何言ってるの』で終わるしコレで良いよね。
それになんかピンク髪の子、足音するから多分こっちに来てるし。
「…えっと?見た感じ一年生の子かな?」
「あれ、いない……いや〜あはは。本当にごめんなさい。いきなり指差して大声出しちゃって…」
「良いよ気にしなくて…ちょっとだけ、驚いたけどね?頭をあげてよ、せっかくだし自己紹介しよう。僕の名前は雨暮 歩だよ、趣味は…こんな感じで絵を描く事で良いかな?よろしくね」
申し訳なさそうに手を合わせて頭を下げた子に気にしなくていい旨と、これも縁だからとこちらから自己紹介しつつ、手に取ったノートを見せて絵を描く事が趣味だと彼女に伝えた。本当は趣味ではないけど態々別のことを言っても手間だし。
「ありがとうござい……え?」
「ん、どうしたの?」
彼女は見せたノートを見て素っ頓狂な声で疑問の音をあげて固まった。
これまふゆの似顔絵なんだけど。何でうちの生徒が知り合いなんだろ、校外の友達かな?……おばさんのあの振る舞いでそんな友達許さないか。
じゃあ、おばさんに隠してる交友関係?……それは、もしかしたら。
「えーっと…雨暮センパイで良いですかね?」
「うん、慣れないならタメ口でも良いし呼び方も好きに呼んで良いよ」
「ホント?…改めてごめん!いきなり大声出しちゃって!ところでその絵って…?」
「…これ?ただの似顔絵だよ…えっと」
「あっそうだった、まだ名前言ってなかったねー。
自分の名前を名乗った猫のようなその子は、人懐こそうに笑った。
この子がまふゆがおばさんに隠している交友関係の子であるなら少しは打ち明けても良いのだろう、僕だけじゃ埒が開かないから。
「うん!よろしくね。暁山さん」
「僕も名前呼びで良いよー、それでえーと…その絵の事、良ければ教えて貰ってもいい?」
どうやら瑞希さんはこの絵の人物のことを知りたがっているらしい。……好都合と言っても、良いのだろうか?他人の空似である可能性もあるのに?こっち側からどうにか聞き出せたらな。
「この絵の事かい?えっと、それは」
「あっ…まぁそりゃそうだよねー。ごめんね、変なこと聞いて」
「…ううん、大丈夫。そんなに気になるのかい?良ければ理由を聴いても良い?」
そう言って瑞希さんに何を知っているから問い詰める、見た感じの口は固そうだから期待はできない。
「いやーその、ね?知り合いとよく似てるなぁって。その人のこと、あんまり詳しくは知らないけど。なんて言うんだろ……うーん、とにかくこの通り!」
そう言ってまた手を合わせて頭を下げる瑞希さんを見て少し考える。こんなに濁すのって当然だけど身の上話になる筈だよね、それで詳しく知らない?見た目はわかっててそこそこの仲なら……?
「ね。この子の名前何かわかる?」
……それなりの仲で名前を知らない、なんてことあるの?
「え?えーと、うん、知らないんだ…。ネッ友でさ、リアルの名前知らないんだよね。ユーザーネームは…雪だったかな?」
雪、雪だって?まふゆのユーザーネームじゃないか。じゃあ、間違いない。あの子のスケジュールで会える時間があったか知らないが、まふゆであってる筈だ。
「そう、雪。ありがとう、言い難いことを聴き出してごめんね瑞希さん。うん、僕の話で良ければ少しだけ」
そう言ってノートをしまい瑞希さんに向き直る、目に映る夕暮れ時の日差しが眩しく映る。
まふゆに関係あるのは確認した。それにこの子が行動を起こすにしろ起こさないにしろ、やれる事はやっておかないとダメだから。
「ありがとう、こっちもごめんね?こんな事おいそれと言える訳ないのに無理矢理聴いて…」
「お互い様だし気にしないで?実名は当然伏せるけどね。…あの子ね、ずっと板挟みになってたんだ。親の期待やクラスメイトの視線。……それに」
隣人の根拠のない励ましとか。
「え?」
「何でもないよ、とにかく雪はそうやって期待に応え続けて無理が祟ってね、ほんの少しだけ、疲れちゃったみたいなんだ」
「……そっか、やっぱり雪は」
まふゆの話を伝えると瑞希さんは少し顔を俯かせて、少しだけ笑ったように見えた。……よくよく振り返れば、僕自身もまふゆの事を少しも知ろうとはしなかった。現状に甘えて何れどうにかなると勝手に期待して、まふゆの強さに甘えた。まふゆはそれを不愉快に思ったのかな。
「瑞希さん」
「え…うん、何?」
「僕が言っている雪と君の言っている雪は、別人かもしれない。僕が言った事全てが君にとって価値の無いものかもしれない。」
「…うん」
瑞希さんはこちらに目線を合わせ、真摯に聴きに徹してくれている。ああ、この子ならきっとまふゆの事を真剣に考えてくれるだろう。
「…でももしも僕の言う雪と、君の言う雪が一緒ならどうか彼女のことを引き留めて欲しいんだ、大事な、親友なんだ」
そう瑞希さんへ目線を合わせてそう言うと、どこか羨ましさと寂しさを感じさせる笑みで静かに頷いた。
それがどこか、いつか何処かで見たまふゆの表情と重なって見えた。
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