総閲覧数千回突破、ありがとうございます。貴方が手に取り読んでいただけたことに深い感謝を。
「ありがとう。ごめんね?いきなり話しかけてこんな事言って」
「あはは…気にしないで?それじゃ!人待たせてるから!」
そう言って瑞希さんは手を振って別れ告げ、遠い場所で立っていた女子生徒二人に駆けて行った。
待たせてる……。
「あっ!?予備校…間に合うかな」
『……ホント、貴方って子は』
手に持ったスマホの中でミクが呆れたように呟く。
…これで普通に振る舞えてるのが自分でも疑問に思う。
急ぎ足で歩きながらふと思う。何で瑞希さんの笑った顔とまふゆの顔が少しだけ重なって見えたのだろうと。
ただ誰かの笑った顔だけでまふゆの顔が浮かぶならもはや末期だ、瑞希さんとまふゆに何の共通点があったんだろう?
信号に捕まってしまった。暇を持て余してふとスマホを見るとミクが変わらずの顔で呆れたように鼻を鳴らしていた。
『わからない?』
「うん、全然」
ミクの問いかけに素直に応える。信号は青になったようだ。また足を進める。
『そ…貴方はあの瑞希って子の表情をどこかで見たの、それだけよ』
「教えてくれるんだね?」
『貴方にとってその後に考えつく物事が重要なの、無駄な時間を使わせたくはないわ』
どこかで見た表情…まふゆの?考えつく物事…笑顔で、何?
「全く考えもつかないや」
『考えつくものじゃなくて思い出すものよ…本当に貴方のやりたい事、思い出せるのかしら』
そう言ってため息を吐き、彼女はスマホの画面から消えた。
…思い出すもの。小学生の頃の記憶なんてもう思い出せないし、中学生の頃?
そんなの、奏と出会った事や、音楽制作を始めた事と…後は。
「…予備校、間に合ったな」
いいや、どうせこのまま勉強したところで何も身に入らないし、考えを打ち切ろう。
何故まふゆを救いたいと願ったのか、そんなの…いや、打ち切るって決めたばかりだろう。
…
予備校の授業をこなした上で尚のこと思うが勉強は手間だと思う。投げ出す意味も無い上にこうやって通わせてもらっている以上は何も言わないが、全うする必要はあっても己の時間を削る事実に耐え切れず逃げ出す人間は少なくはないだろう。
そうやって逃げ出せた、もしくはガス抜きできたのなら彼女は健全に勝ち組とやらの人生を歩めたのだろうか?今更詮無き事だけど。僕がそうやって誘えれば良かったのだろうか?
「僕は、何をしたら良かったんだ。腕をただ引っ張る事?それとも…」
分からない、ただ何もかもが分からない。まふゆに何をしてやれば良かったのか、僕は何故まふゆを救いたいって願ったのか…考えても無駄で、思い出さなければならない事。
僕は思い詰めたまふゆの顔を見て、何を思ったんだろうか。
「嬉しい?」
違う、嬉しいなんてあり得ない、何であの子の顔を見て嬉しいと思える。
「それとも、羨ましい?」
尚の事違う、羨ましいならそれで終わりで話しかける事なんてしないし、何よりあの板挟みの状況を僕が羨むとするなら…。
「親がいる事?」
それだけ、妙に納得した気がした。
「……良いや、後は」
浮かべるのはまふゆの顔、この前見た氷のような冷たい表情。あの子の顔を見て何を思ったんだっけ。
[嘘なんて、吐かなくても良いよ?分かってるから。だからもう良いって言ったの]
そう冷たく笑いながら言われて、嫌だった?…違う。腹立たしかった?…違う。嬉しかった?…違う。
「悲し、かった?」
あの子にそんな顔をさせてしまったのが、悲しかった。
何で?それはその顔を見てしまったから、自然と…まふゆを助けたいって。
「…違う、気がする」
以前何は足りず、考えつく事も思い出す事もままならない、ただ僕は見つけたいだけなのに…。足音がコツコツと妙に耳に響く、アスファルトの道には似合わない音だな。だからと言って特に思考を打ち切る理由にはならないけど。
「何で、見つけたいって思うんだろう。」
思考が途切れて疑問が頭に降った時、見えた地面は灰色で、曇り空のように見えた。
「……え?」
進めていた足を止め思考で俯いていた目線をバッと上げると、そこには色の抜けた地平線が広がっていた。
「何…?ここ」
慌てて周りを見渡せば無数の鉄骨が地面に刺さり、倒れてたりしていて、他にも黒のオブジェクトが点在している。ふと、黒のオブジェクトに目を惹かれ、おもむろに近づいて触れてみれば、少し温もりを感じ、何よりも脈動を感じた。
「生きてるみたいだ、それに少し寒い…でも」
この場所は無機質に冷たいが、生きてる様に感じる程温かいと漠然と思った。
もう一度ゆっくり辺りを見渡せば誰かがいた。ツインテールの白髪の子だ。
「…すいません!ここってどこだか分かりま…え?」
再びいい顔をしてその人物に話しかけると、それはゆっくりと人形の首が回る様に振り向き、無機質な赤青の目をこちらに向けた。
『……貴方は』
「ミク…違うか。ごめんね?知り合いに、似てたから…」
黒髪のミクとこの子は似ても似つかないのに、何故だか容姿が被って見えてしまう。彼女に人違いである事を謝罪すると、彼女は首を傾げ不思議そうにこちらを見ていた。
『……?』
「えと……その、ここってどんな場所か分かる?」
『ここは、セカイ。あの子の本当の想いで出来た場所』
「あの子?」
セカイ?セカイって、あの写真館と同じ?それにあの子って…それに、複数あったんだ……いや、想いから出来るらしいし当然か。
だとするなら、どんな想いで出来ているんだろう。それにどうやって出るんだ?いつもミクがセカイの外に追い出してたから、分からないや。
「……うん、セカイって場所なのはわかったんだけど、その。どうやって出れるか、分かるかな?家に帰らないと…」
「…あなたは」
「もしかして知り合いだった…?ごめん!君のこと覚えていないんだ…出来れば、お名前を教えて欲しいな?」
目線を座っている白髪の少女に合わせ名前を教えて貰えるように頼む。彼女の名前は察しがついているが、通例としては必要だから。
『わたしは、ミク』
「そう、ミクって言うんだ。よろしくね?一応こっちも自己紹介するよ、雨暮 歩だよ。」
『……あなたはあの子にとっての、鏡であろうとしたの?』
「か、鏡?それにあの子って誰…?」
鏡?あの子?訳がわからない。僕の事を知ってて言っているなら、あの子ってまふゆの事?じゃあここってまふゆの…。
『あの子が、そう言ってたから。……時間。』
ミクがそう言うと視界の端から仄かに光に包まれていくのを感じた。
「待ってよ、まだ話は…」
終わっていない。そう言う前に白のセカイは遠ざかって、僕は光に覆われた。
…
気づけば家の前にいた、どうなってるの?スマホの画面を見ると、『
…いいや、取り敢えず家の中に入ろう。
「…ただいま!」
挨拶も返らないのに帰りを伝える言葉を吐く。母さんは仕事で忙しいから、仕方ない。
それにしたって、バーチャルシンガーと言うのは不思議だ。
「…写真、鏡。彼らって、歌詞の様に物事を伝えないとダメな理由でもあるのかな」
自室の机に荷物を置き、KAITOさんとあの白いミクの言葉を思い出す。写真…そんなの昔に捨てたし、何より母さんと写真を撮る機会なんて今まで無かったのに写真なんて言われても分からない。鏡…鏡なら、洗面所にあるし、見たら良いのかな、あの子…まふゆが言ってたらしい僕が鏡であろうとした事、少しは分かると良いな。
「鏡…自分の顔」
ただ立って鏡に映る自分を見る。
黒い目、黒い髪は毛先だけ白く染まっている自分の容姿。無表情の自分の姿が何故かまたあの黒いミクと重なる。
「…なんで、他人ばかり浮かぶんだ」
笑う、奏の顔と被る。
怒る、母さんの顔と重複する。
泣く、まふゆの顔が写る。
怖がる、また、幼いまふゆの顔が浮かんだ。その中で、ふと考えついたことが一つ。
「ずっと僕は、顔色しか伺ってないの?」
顔なんてきちんと見ていない、初めて見たその人の表情を覚えて、嬉しそうなら話を合わせようって、怒るなら言う事を聴かないとって、泣けば慰めてあげなきゃって、怖がれば逃げてしまえば良いって考えてた?
「じゃあ何?」
まふゆが怖がっていたからあの子を避けた、日が経って、大丈夫だろうと話す機会を伺って、偶々泣いていたから慰めて、あの子を救うって言って、それで…あの子の笑顔を見て、そのまま辛ければ逃げれば良いなんて、都合の良い事を言ったの?…自分が嫌になる。
「……でもなんで?まふゆが怒った時だけ僕は食い下がったんだろう」
分からない。いつも通り対応したのなら僕はあの子に食い下がらなかった、立ち戻り話す機会を伺うのも分からない、彼女が怖がっていたのなら、そのまま関係を解消すべきなんだから。
「……でも」
[大事な親友なんだ]
自分の言葉が頭の中で響く、大事な親友だから何?その大事な親友に奏が入ってなかったの?入ってなかったからあの子が登校しなくなってから、知らぬ存ぜぬで彼女に家に赴かなかったの?
……嫌な自分を多分、初めて直視する。
「ずっと、分からない」
鏡の中の自分の顔は随分と憔悴している。こんな顔、出来たんだ、他人に興味なんて無い癖に。
「…知らないと」
まふゆと奏の違いって何?まふゆに執着する理由って何?……彼女を救わないと。この想いはどこから来るの?
読んでくださり、ありがとうございます。