変われるとしたら。   作:ゴリラとの逢瀬

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八話 嘘じゃない

勝手に、嫉妬しないで。えななんの苦悩なんて知らない、どうでもいい貴女のどうでもいい八つ当たりなんか、羨望なんか聴きたくない。

 貴女は私が持っていない物を持っている、才能が無いと足掻く貴女を。

 

「はぁっ…はぁ…」

 

勝手に、共感しないで。Amiaができなかった事なんて興味ない、受け入れようとしたの、抵抗なんて…したく、なかったの。いい子であろうとしたから、いい子じゃないといけないから。

 好きにしたらいいって言うのなら、もう放っておいて。

 

「……はぁっ…」

 

勝手に、救おうとなんてしないで。それなら縋らないでよ、消せない呪いだから何?分からないから何?増えたところで変わらない?なら放っておいてよ。呪いだとしても?空っぽのくせに、私のことなにもしらないのに。何で貴方達は…

 

「…はぁ…っ…」

 

私って、結局何なんだったの。教えてよ、お母さん、お父さん……歩。

 こんな、がらんどうの場所で、逃げるように走り、何時間そうしたんだろう。そうやって、さいごはしゃがみ込んで、わからないまま考える。

 

味なんてしなかった、なりたいものは否定されたから。

 

救うだなんて言ってほしくなかった、自分が、水の中に沈むゴミみたいな気分になるから。

 

消えたかった。ぬるま湯に沈められて、吹雪の中に放り出されたような想いを何度も繰り返して…そうやって生きるくらいなら何も感じずにきえたかった。

 そうしたかったのに、貴方が邪魔だったから、邪魔だったのに…。

 

『その時は雪が、『まだ見つかっていない』って言ってくれればいい』

 

邪魔だから、伸ばされた手を振り払ったはずなのに。

 

『自分でも訳が分からないんだよ!』

 

振り払った手を見た時、刃に裂かれたように胸が痛んだのは、なんで?

 

「わから、ない」

 

消えたいのに、何回もそう思ったのに。呪いみたいに、足枷みたいに、押し付けられた言葉が、そうする事を許してくれない。

 この場に縫い付けられたように、足が動かない。もう、動きたくない。

 

貴方が、逃げて良いっていったから逃げたのに。消えたいから、辛いから、貴方の手を振り払ってまで、逃げたのに。

 

「なにも、分からない…。分かりたくないよ…」

 

悪い夢ならなにもかも、忘れれたはずなのに、目を閉じても、開けても、変わらない灰色がそこに在る。

 うんざりだ、こんな空っぽな場所なんて。

 

「消えたい」

 

零れた言葉も、何もかも消えてしまえばいいのに。

 

「消えてほしくないよ」

 

ふと、視界の先に、制服に身を包んだ、白と黒の誰かが見えた。

 

「……何度何度も、歩は本当にしつこいね。」

 

今の私はわらっているのだろうか、うらんでいるのだろうか。貴方をうらめば、貴方は受け止めてくれるのかな。

 

 

「なんで?いつもいつも、貴方はそうやって付きまとう。いい加減にしてよ」

 

灰、黒、白、そうやって彩られたセカイの隅っこでしゃがみ込んだまふゆは、コチラを睨みつけたまま、僕を疎んだ。

 今更どの面下げてと、自分でも正直、思う、思うけれど…

 

「そうやって、接する事しか、できないから。……ごめんね、まふゆ」

「……は?」

 

唐突に謝った僕を、まふゆは困惑した顔で見ていた。

 今までの彼女にとって、僕の行動というのは酷くチグハグで、不気味に映るのだろうか。助けると言っておきながら何もせず鍵を渡してそれっきり、話もしなければ触れ合いもしない。……触れ合うのは、ダメか。

 

「今まで、僕は救うと言っておいて、何もせずにまふゆにあずけて、それで…結局君をまた、傷つけた」

「……」

「……でも、消えることは嫌だ。消えてほしくないよ」

 

出来る事なんてない。それでも、沈黙を重ねてるまふゆに対して伝える。いつかそうした様に、それしか自分は、できない。

 

「それで?」

「……終わり」

「くだらない、消えてよ」

「僕が今消えて、まふゆが消えない保証なんてないから」

「そんなの関係……っ来ないでよ」

 

膝を抱え、拒絶の言葉を零すまふゆを無視し、隣に同じように座る。

 やり方がずっとわからないまま。きっと、寄り添うだけではダメだ。じゃあ、他は?

 

「……ずっと、分からないままだったんだ」

「……」

「君との二年間、ずっと分からなかった。側にいたはずなのに、壁越しで話をしてた気分だった」

 

君を救うといって始まったこの二年間、始めたつもりだったのに、二年間ずっと…ううん、五年前から止まったままだった、君に言ったこと、致命的に間違えて、傷口を抉って…それで、のこのこと救うって……遅かったのに。

 

「嘘、付かないで……貴方は話してすら、いなかった」

 

まふゆはずっと、分からなくても感じていた。自分がとまったままだったこと。

 …でも、それなら。なんであの時の君は、救われた様に笑ったの?

 

「…」

「ずっと貴方は、隣に居ただけ。そんなの、意味なんてある訳ない」

「そう、だね。自分のことに必死だったから。気づいてなかったフリして…ごめん」

 

そうやって恨みをぶつける様に言葉を吐くまふゆに、また謝る。その裏で考える、なんで、彼女は…僕は、探そうとしてるんだろう。

 

『もう、良い』

 

何が?何が、もう良いんだろう。あの時笑った事と……

 

「……もう良い。前もそう言ったのに、本当にしつこいね?」

「……そうだね。自分でも分からないくらい、君に執着してばかり。そんな理由、ないのに」

 

笑った時、僕はなんて思ったんだろう。手を取ろうとした時のことは覚えている、ただ…

 

「ただ、まふゆが項垂れて、苦しんでいたから。手を伸ばしただけなのに……」

「余計なこと、しないで欲しかった」

 

そうやって嗤って見せたまふゆの顔を見つめ、思ったことが一つ。

 

「まふゆに拒絶されて、咄嗟についた嘘みたいに。その場きりで流せばよかったのに、しなかった理由」

 

ずっと、君の笑顔が離れない。手を差し伸べたあの時に笑った顔が、家から出ていく時に笑いながら拒絶した顔が、今も無理に嘲る様に笑う顔が、離れない。

 

「なんで、貴方が……縛られて、いないの」

 

笑うことをやめて、僕を手に入らないものの様に見つめるまふゆを見て

 

「君に、笑って欲しいから?」

 

腑に落ちた言葉を溢した。

 

「……ふざけてるの?」

「ふざけてない」

「自分のためって言ってよ」

「自分のために生きれるなら、僕は君の手を取ったりしない」

 

だって僕は、奏に手を伸ばさなかったもの。母さんに自分のこと、晒そうとしなかったもの、ミクや他のみんなに、隠し通そうとしたもの。きっと、信頼なんて出来なかったから、怖かったから。

 だけどまふゆにだけは、手を伸ばして、こうやってここまで来れた、音楽を捧げてしまおうと思えた。

 

「……嘘。全部、全部自分の空っぽの想いを、綺麗事で満たしたいだけだよね?」

「……それは」

 

空っぽの想いを満たしたいだけ、最初はきっとそうだった。

 

「なら、もう良いでしょう?話は……」

「待ってよ」

 

 立ち上がり早足で去ろうとするまふゆの手をつかむ。まだ終わらせないでよ。終わらせないから。

 

「はなして」

「最初は、どうせくだらない人生に、花を添えたいってどこかで思ってたんだ」

 

鏡みたいに他人を写して、なりたい自分を考えてつくって、音楽を作って……それで。

 

「なら…なら貴方のエゴに私を巻き込まないで、人生に花を添えたいなら、私じゃなくても良いでしょ!?」

 

立ち上がり、振り払おうとする手を強く握る。

 まふゆの言ってることは当たっている、エゴだろう、満たしたいと願う自分のエゴ、だから趣味だった音楽なんて投げ捨てて…また、鏡合わせにして……。

 

「君の救われた様な、光を見た様な笑顔を見た時!そうやっていつか…君にもう一度!同じ顔をさせてあげたいなって本気で思ったんだ!嘘じゃない!」

「そんな顔してない!嘘つかないで!」

 

手は離さないまま、まふゆにがむしゃらに思い至った事を垂れ流し続ける。このまま離したら、僕は絶対、自分を殺したくなる程後悔する。そんな未来は嫌だ。

 

「してた!絶対に…覚えてる!」

 

 変わるなら変えたい、僕がそうしたって、何も変わらなくても、この子が報われない未来なんて要らないから。変えるために、変わりたい。

 




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