【完結】もしもし、アクアくん?〜女優探偵の事件簿〜   作:ねこのまんま

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⑭ 第7話 当たり前だって思わないから

 17:30

 

「え、あ、あの、え? あかねちゃん、どうし……!? フリルちゃんが……!」

 

 ぐったりとして動きが鈍い。

 目の前で倒れ込んだ友達の姿に気が動転してとっさに駆けつけようとしたけど、既にフリルちゃんを支えながら立ち上がっているあかねちゃんに「はやく!!」と促されて、その場所から飛び出さざるを得なかった。

 自分の後にすぐ、フリルちゃんの肩に手を回し、幾筋も顔に汗を流したあかねちゃんが出てきた。

 

 私のリュックを枕にゆっくりと地面に下ろされたフリルちゃんは……顔色に変わりはなさそう。

 でも、相変わらず目の焦点が定まっていない。

 声をかけても、掠れて消えてしまいそうな細い声が、一文字二文字返って来るだけ。

 

 膝と腕が震えて止まらない。お腹と胸の間の奥の方がきゅううっと痛くなる。

 どうしよう。フリルちゃん。

 どうしてこうなっちゃったの。やっぱあれはヤバいものだったってことだよね……!?

 私が『中身がある』って言っちゃったからこんなことに……!

 

「フリルちゃん! フリルちゃん、大丈夫なの!? なんで!? どうしよう!? どうしよ、どうしよ、あああ、どうして、ヤバいよね、どうすれば、ねえ! あかねちゃん!どうし……!」

「ルビーちゃん」

 

 狼狽えて、パニックになりかけた私の正面に、話すと少し息を感じられるくらいの至近距離であかねちゃんが立った。

 神社の境内の中で両肩に手が置かれる感覚が、どうしてか昨日の夜を思い出させた。

 叫ぶ感じでも、焦る感じでも、冷たい雰囲気でもないけど、意識して抑揚をなくしたような声で語りかけられる。

 

 フリルちゃんを連れだすときに流した汗と、乱れた呼吸だけがそのままで、いつもと変わらないあかねちゃんの声だった。

 

 

「よく、聞いて」

 

「ね、ねえ、でも、」

 

「こっち見て」

 

「あ……」

 

「深く息を……」

 

「すぅー……」

 

「ゆっくり吐いて」

 

「ふぅー……」

 

「大丈夫……大丈夫」

 

「でも」

 

「私の言うとおりに」

 

「う、うん」

 

「必ず助かる」

 

「……うん」

 

「みんなで帰ろう」

 

「うん」

 

 肩の上に置かれた手が肩の形に合わせて下がって、次第に肩を左右から挟むように少しだけ広がっていった。

 日が沈む直前でも暑いのに、温かくても肩に触れられてイヤじゃない両手は、まるで私の震えを抑えて、止めてくれているかのようだった。

 

 ううん、違う。

 私の震えが少しずつ収まってるのに、私の肩を掴む指から別の震えが伝わってくる。

 怖くて、不安で、どうしようって震えていたのは、私だけじゃないのに。それを言わずに伝わらないように隠して、私の震えすら吸い取って、冷静さを演じている人が目の前にいる。

 

「あかねちゃん」

「うん」

「私は大丈夫。大丈夫だよ。何があってもあかねちゃんを信じてるから。何すればいい?」

「……ありがとう。帰る準備するからルビーちゃんは不知火さんの側にいてあげて。でもまずは不知火さんを……」

 

 二人でフリルちゃんの隣にしゃがみこんだ。

 少しだけ、眉間にしわを寄せていた。

 

「不知火さん、聞こえる?」

「……ん……」

「大丈夫だからね、一緒に帰ろ」

「……あ……」

「話せる? アレ、目とか口に入った?」

「ううん……」

「触った?」

「ううん……」

「吸っただけ?」

「……うん……」

「分かった。まだマシなのかな……少し時間を置いて、自然に良くなるといいんだけど。……ルビーちゃん、お水」

「うん!」

「ありがとう、それじゃ、不知火さんをはんざいにして」

「え?犯罪?」

「半座位。上半身を起こして……一緒にやろ。起こしすぎかな。45度で。そう。そのまま後ろから支えて。これが嚥下と呼吸が一番しやすいの。ゆっくり……飲み込める?」

「……だい、じょぶ……」

「無理しなくていいからね。自分で飲み込めないのに水を口に含んだら最悪窒息する」

「……大丈夫……喉、変……水、欲しい」

「分かった、じゃあ、そっと……吸って肺に行っちゃったのはどうしようもないし、本当はうがいが良いんだけど」

「ありがと……ごめん……」

「ゆっくり……ゆっくりね」

 

 口元に水が運ばれて、ゆっくり少しずつフリルちゃんの口に入っていく。

 ちゃんと、白くて細い首の喉が小さく動いている。それだけで本当に安心する。

 ちょっとだけ、目とか口とかも動くようになっている気がする。

 

「喉のほかに、辛い所は?」

「少し、頭、いたく……なった、かも」

「分かった、ルビーちゃん、揺らさないようにして。他には?」

「クラクラ、眩暈がして……なんだか、力が抜けて」

「うん、うん」

「それくらい……」

「少し話せるようになって来たね。ありがとう、もうゆっくりしてて。ルビーちゃん、この姿勢維持できる? あと……ここに来るまでに杖みたいなの持ってきてなかったっけ? あれ何処かに捨てた?」

「社の近くに置いてきたと思う。あ、あれ。見える? 帰りも使おうかと……」

「貰っていいかな。不知火さん、時間をおけば大丈夫そうだけど……このまま待ってたら夜になる。真っ暗じゃ帰れないから……私が不知火さんをおんぶする」

「!? 無茶だよ、こっからコテージ、結構急な下りだし、道狭いし……! おんぶじゃ両手使えないし、重くて腕も保たないし、そもそもそれじゃ杖使えないし! 私たち二人で両側から肩を支える方がまだ……!」

「それはそうなんだけど、3人並んで歩けるような道じゃないから。大丈夫だよ。絶対なんとかする」

 

 小走りで、私とフリルちゃんを置いてあかねちゃんが去って行った。何をするつもりなんだろ……?

 

 つま先を立てた形で膝枕をしているせいで、少し足に痺れと痛みが来ている。頭を膝に乗せる膝枕じゃなくて、腰を起こさせて頭を私の胸に乗せているから、フリルちゃんの息遣いの動きが私の胸にダイレクトに伝わる。

 でも、私がそうまでして上半身を支えている人の様子を見ていると、痛みもしびれも感じなくなった。

 支えてあげるしかできない自分が、何だか情けなくて、意味があるかもわからないままに、お腹の上に乗せられたフリルちゃんの右手の甲に私の手を重ねた。

 汗が風を浴びて冷えたのか、不安になるようなイヤな冷たさだった。

 

「フリルちゃん……」

「ん……?」

「その、気分、大丈夫?どう……?」

「気分、は……国民的アイドルに、胸枕されて、幸せ……」

「……ひょっとして、結構余裕だったりする?」

「そうだよ、余裕……だから、心配、しないで、ごめんね……」

 

 余裕じゃないのかもしれない。

 ゆっくりで深い息をしているから、何となく危険な呼吸じゃないとは思えるけど。

 

 ……嫌な記憶が蘇る。

 流されていきそうな命にギリギリしがみつくような呼吸は、もっと浅くて、少し速くて。

 大切な人に大切な言葉を紡ぐことすら億劫になるほど口が重くなって。

 大切な人に大切なアクリルキーホルダーを託すのも億劫になるほど腕も重くなって。

 身体全体が重いくせに、なぜだか浮いているような感覚で、そのまま病室のベットから浮き上がって、高く高く、空まで昇っていきそうな。

 

 蝉がうるさい。黙っていてほしい。

 

 せんせ。おにいちゃん。

 お医者さんなら、こんなときどうするの。

 フリルちゃんを助けて──

 

「ルビーちゃん、お待たせ」

 

 ハッと顔をあげると、私が杖代わりに持ってきた棒と……縄を持って、あかねちゃんが戻ってきた。

 え?縄?どっから……。

 

「あかねちゃん、それ、ひょっとして」

「おんぶの時身体固定するものが欲しくて。あの倉庫にあった注連縄使わせてもらう。緊急事態だし」

「え!?」

「本当は、神社のものだろうし。良くないことだけど。何とか使えそうなやつがあってよかった」

「いや、それどころじゃなくて! またあの倉庫入ったの!? 『ここから出て』って私に言ったのは危ないからじゃないの!?」

「うん……でも、この先悪路だし……揺られて不知火さんの身体が落ちないようにしたいから。社の中のものはもうほとんどボロボロだったし、これしか思いつかなかった。探している時は出来るだけ目と口抑えて息止めていたから」

 

 すごいとか、尊敬とかを通り越してちょっと腹が立った。

 たった今フリルちゃんをこんな状況にしたものが倉庫に充満しているかもしれないのに。

 あかねちゃんも倒れたら今度こそ本当に八方ふさがりなのに。私一人で何が出来るの?

 それが分からない人じゃない。あかねちゃん、焦ってちょっとバカになっちゃっている。

 

「……よし」

 

 リュックを背負って、私の杖をリュックのベルトの腰の位置に差し込んだ。

 あかねちゃんの腰の位置に水平に棒があてがわれて、前から見ると、あかねちゃんの腰の左右から、人の太ももの幅くらいの長さで棒が飛び出していた。

 

「山岳救命の搬送でよくやる方法なんだって。おんぶされる人が棒の所に太もも乗せてくれれば普通のおんぶと変わらない。読んだ本ではトレッキングポールを使うやり方で紹介されてたけど。これなら私も両手使えるし、安定してるからフリルちゃんも楽なはず。だから、大丈夫」

 

 そんな方法があるんだ、と相変わらず変なこと知ってるところにびっくりするけど……結局、人ひとりの重さを背負うことには変わらないんじゃ?

 この場であかねちゃんが「大丈夫」という時は、自分自身に言い聞かせているように感じた。

 

「ねえ、リュックの中身、水以外ちょうだい」

「え? それじゃルビーちゃんが……」

「いいの! 私が3人分荷物持つから!」

「でも……」

「あかねちゃんが転んだら、フリルちゃんもけがしちゃうんだよ? 私だってここにいるんだから!」

 

 うなされているフリルちゃんが目の前にいるのに、大きな声を出しちゃうのは良くないと思ったけど、あかねちゃんに、ちゃんと伝えたかった。

 

 待っていても、あかねちゃんは一人で背負おうとしているものを、周りに預けようとしてくれない。

 これによく似た大切な人を、今度は兄に持って、本音を隠して悩んで苦しんでたその人とずっと一緒に生きてきたから。

 もう病室の子どもじゃないから。

 

 こういう人には、私は自分から寄り添っていかないと。

 

 私の大きな声を聞いたあかねちゃんが、少し目を見開いて、一瞬その目を伏せるように下を向いた。

 この探索の始まりで、一人で行こうとしていたところでフリルちゃんに追いつかれた時みたいに。

 また顔を上げた時には、ちょっと困ったように眉を下げながら、控えめに笑っていた。

 

「じゃあ……お願いね」

 

 あかねちゃんがもう一度リュックを下ろして中身を移して、二人がかりでフリルちゃんをあかねちゃんの背中にセットし、胴体同士を結び付けた。

 

 付き合いはそこそこ長いあかねちゃんだけど、初めて『お願い』された気がする。

 立ち上がろうとしたあかねちゃんはやっぱり足をプルプル震わせていたので、隣に立ってあかねちゃんの手を引っ張り立ち上がらせながら、そんなことを思っていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 3人とも黙って、神社から坂道を降りていった。

 井戸に至るまではそこそこ急な道のりで、だけど少し掘り下げたように道が作られていたから、時々道を見失いかけたけど迷いはしない。

 来るまでの登りはただただ傾斜が辛かった記憶がある。

 ただし、長い間誰も通ってなかったからか、草生した地面はふかふかしているし、風も日差しも少ない森の中だからかまだジメジメしている感じがある。

 皆ここまでで水を飲んだからその分軽くなったけど、三人分の荷物が入った二人分のリュックを背中とお腹にかけていたので、ベルトが肩に食い込んで、足が地面にめり込んだ。

 

 上ってるときは気にならなかったけど、下りだとズルっと滑りそうで怖い。転んでしまういやなイメージが頭から離れない。

 だから、昨夜のようにあかねちゃんのすぐ前を歩いた。

 どこに足を置けば滑りにくいのか、逆にどこに足を置けば滑ってカッコ悪くバランスを崩しちゃうのか。

 全部、フリルちゃんを背負うあかねちゃんがついてこれるように、時には意図せず本当に足を滑らせる実演付きで、ゆっくり進みながら目の前で見せた。

 

 追い立てるような蝉の声と、日が隠れて容赦なく暗くなっていく森の中で焦りそうになるたびに振り返って、あかねちゃんの背中で目を閉じているフリルちゃんを見て気持ちを落ち着かせた。

 

「ん?」

「どうしたの?」

「ここ気を付けて!……こんな川みたいなのあったかな?」

 

 地面を注意深く見ながら歩いていた私の声を聞いて、あかねちゃんが後ろから呼びかけてくる。

 登っている時には気づかなかったけど、水の流れが下りる方向から見て左側の山の斜面から道を横切っていた。

 でも川なんていうほど大規模なものじゃなくて、本当にチョロチョロとした小さな水の流れ。

 当然そこの周りは地面がビチャビチャで、気付かず踏んだらズルっと転ぶのは避けられない。

 

 でも、こんなの登ってきた時にあったかな? 今ほど足元に気を付けていなかったけど、流石にこれは気づくと思うのに、記憶にない。

 あかねちゃんも少し顎に手を当てて首をかしげてる。

 

「いや……こんなの無かった。……はず……」

「だよね? なんだろうねこれ。まあいっか、転ばないように気を付けてね」

「……」

「あかねちゃん?」

「あ、うん。ありがと、ルビーちゃんも焦る必要ないからね」

「私は大丈夫だよ。あかねちゃんこそ自分のペースでね。あかねちゃんのペースで私は前を行くから」

 

 ますます暗くなった山の雰囲気はゾクッとして、長居していい場所じゃないのは何となく肌でわかる。

 相変わらず私を気遣ってくるあかねちゃんこそ、体重が倍になってしんどいはず。

 焦らせないように、ゆっくり、確実にペース配分をしないと。

 

「はぁー、やっとここまで……あとは、あの暑くて虫がいっぱいの藪の道かあ……」

「え? ルビーちゃん、さっき見つけた崖を降りる裏道で帰らないの?」

「ううん……危ないから。あかねちゃんはフリルちゃんおんぶしてるもん」

 

 井戸まで下りてきて、少し森の外に近づいてきたから沈みかけの日の光が届き、少しだけ一息つく。

 コテージの崖を降りられる裏道を使って帰ろうってもともと思ってたけど、あの道も完全に安全じゃない。木の枝をつたったりして急な道を行くから、何か重くて幅をとるものを背負ったりしてたら絶対に危ない。

 フリルちゃんを背負ってるあかねちゃんがいる以上、絶対に使っちゃダメ。

 正直気が進まないけど、あの藪の道を進むしかない。

 

「ルビーちゃん虫が嫌いなんだよね? ここまで前を行ってくれてありがとう。私が前を行くから」

「それじゃ私が崖から帰らない意味ないじゃん! あかねちゃんは少しでも楽をして。フリルちゃんのために」

「でも……」

「大丈夫。私が前を行く。……私も臆病だけどね。あかねちゃんと同じで」

 

 あかねちゃんが不安そうな声を出したけど、真っ暗になる前に帰らないといけないから話している時間はあんまりない。

 私のやる気が変わらないうちに、両手で草をかき分けて進んでいった。

 行きであかねちゃんが、後ろをついてくる私とフリルちゃんのために大きく藪を開いてくれていた分、帰りの方が楽に感じた。

 

 あかねちゃんももう何も言わず、後ろをついてきてくれた。

 フリルちゃんも少し回復したのか、おんぶされたままあかねちゃんと2人で何かおしゃべりしているのが聞こえる。

 息を切らした自分の呼吸と、おんぶしてるから横幅も高さも増えたあかねちゃんが通れるように私が多めに草を薙ぎ倒す音で、何を話しているかまでは聞こえなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「黒川さん……」

「うん。大丈夫なの?」

「だいぶ……頭痛はひいた。喉も。びっくりしただけで、意外と大したことなかったのかも」

「ほんとに? でも良かった。ごめんね」

「なんで私が謝る前に……黒川さんが謝るの?」

「だって、私が」

「蓋を開けたのは私。でしょ?」

「そうだけど」

「少し、責任とか感じ過ぎじゃないかな」

「いや、でも……」

「今だって疲れてるのは黒川さんも同じなのに。……あのさ、これまでも時々一緒に仕事してても感じたけど、黒川さんは本当に周りのために動こうとするよね。打算がないことも分かる。なんで?」

「なんで、っていわれても。どうしたの? 急に難しい話し始めて」

「こんなときじゃないと私はふざけた話ばっかりしちゃうから」

「あはは……うーん、周りのために……私はそんなつもりはないんだけどなぁ。いろんな人に助けられて今の私があるって、思える出来事が私は多すぎるから」

「……今ガチのこと?」

「それは特に大きいけど、それ以外にもいっぱいあるよ。事務所の人、スタッフの人、共演する人、友達、家族。普段の些細なことも、いっぱい」

「そう……」

「ありがたいことにお仕事で期待されることも多いし」

「ふうん……大変だね。期待されるのは売れてるタレントのさだめだけど。黒川さんは更に、優しい、真面目、何でも分かってそう、何でも出来そう、面倒見よさそうっていろんな人から思われて。出来て当たり前って、大してお礼とかも言われずに、ずっと頑張ってそうな感じがする」

「……」

「別にやりたくてやってるからお礼なんていらないけど。誰かのために自分の才能を発揮してもさ、当たり前だって思われて。あまつさえ、その才能を嫉妬されたら、もうどうすればいいのって聞き返したくなるよね」

「不知火さんが言うと言葉に重みがあるね……そういうのも無くはないけど、私だって一応、一部の声は無視することを覚えたから」

「普通の女の子じゃないのは楽じゃないよね。でも……私は黒川さんほど賢くも真面目でもないからマシだよ」

「大したことじゃないよ。私は、受け取ったものを返そうと頑張れる自分が好きなだけ」

「そうなんだ。真面目な人だと思ってたけど、ちょっと違う。優しいんだね」

「あはは、そうかなぁ」

「人の優しさに気付けるのは自分が優しいからだし。相手のことを考えることができるから、優しさは当たり前じゃないから返そうって思えるんでしょ?」

「……そう、かな」

「普通の人なら人付き合いは自分で選べるけど、私たちはいろんな人が寄ってきて選べないし。……自分の立ち位置に疑問を持ったり、この人はどういう事情で私に寄ってきてるんだろうとか、そんなこと思ってばっかり。知りたくもない情報も勝手に入ってくるし、私が一つ発言を間違えるととんでもないことになっちゃうから、本音なんて全然話せないし。

 好きでやってることだけど、疲れる。黒川さんみたいな人って、私の周りではどちらかというと珍しいって思ってて。でも、周りのために動いてる時、無理しているようにも見えて。それで、この島に来てからも、今も、こうして……だから、聞いちゃった」

「なんだか恥ずかしいな。でも……ありがと。そんな風に言われたの、初めて。不知火さん、そんなこと思って、考えてくれるんだって、ちょっとびっくりしてる。……嫌な気持になったらごめんね。私さ」

「うん」

「正直、公民館で会った時の不知火さんの印象、良くなかったから。結構無神経な人なんだなって」

「直球だね。あの時の私、ルビーにあの役をやってほしくて。確かにちょっと強引だった」

「そういえば、どうしてあそこまでして」

「一年生の冬の頃からかな。ルビーがどんどん売れていって。嬉しかったけど、なんだかあの頃、教室で見てても無理してるような気がしてさ。それからしばらくして、あの報道だったから」

「そうだね。あの頃は……色々、動いたよね」

「だからさ、アクアが描いたあの役を、私がやるべきじゃないような気がして。もっとあの役だから演じることが出来て、演じるべき人がいる気がして」

「うん」

「……黒川さん、ルビーはね」

「うん」

「時々変なこと言うし、姫ちゃんとは別次元でアホで。おバカかと思いきや、割と強かでちゃっかりしてるところもあるし、危なっかしいけど、まっすぐで」

「うん」

「知り合った直後はちょっと挙動不審だったけど、でも夏休みが終わったあたりからは……学校では皆、神様でも見るような目で私を見てくる中で、私と、ただ普通に……普通、に……友達で、いてくれて」

「うん」

「いい女の子でさ」

「うん」

「いいヤツで」

「うん」

「いい人、で」

「うん……」

「上手く言えないけど、好きとか、誰かが大事とか、言えば言うほど薄っぺらくなりそうな言葉をね、いっぱい言っても嘘っぽくならない。黒川さんとは違う形で、私の周りでは珍しい不思議な子で」

「知ってるよ」

「知ってるんだね」

「アクアくんたち程じゃないけど、一緒にいたからね。私、かなちゃんとか姫川さんとか。これまで目指すことばっかりだった。かわいいんだ。ルビーちゃんみたいにキラキラした目で慕ってくれる人、初めてだから。

 お母さんのこともあって、辛かったはずだし。きっと無理したり、演じてることもいっぱいあっただろうけど。でも……ああいう人でいられるルビーちゃんには、昔良い出会いがあったんだと思う」

「……」

「ルビーちゃんを甘やかしてるって船で言ってたよね。逆だよ。私がルビーちゃんから受け取ってるものが多いの」

「……嫌な気持になったらごめん。私さ」

「うん」

「ずっと、黒川さんとルビーって、アクアが間にいるから関わってると思ってた」

「きっかけはそうだよ。大切な人の大切な人を、私も大切にしたい。でももう、きっかけでしかないよ」

「うん。私も黒川さんとルビーを見て、そうじゃないんだなぁって思った」

「どうして?」

「今言ってたこともそうだし。あの映画の試写会で、泣いてたから」

「不知火さんも、皆も泣いてたじゃん」

「ううん。皆物語(フィクション)に泣いただけ。あの日本当に泣いていたのはさ」

「うん」

「私と」

「うん」

「あかねだけだよ」

「……うん」

「公民館で、こんな子じゃないと思ったけど、これもルビーかもしれないって。でも私は、どんなルビーでも、ルビーがやりたいことをやっていてほしいって。前向きに生きてほしいって……思ってたから」

「うん。うん……そっか。私ね。このロケに来た時、ルビーちゃんの友達としての不知火さんを見てみたいなって思ってた」

「……」

「それで、なんだか、上手く言えないんだけど。フリルちゃんがルビーちゃんと同じクラスで、友達で。良かったなぁって」

 

「……。ふぅ……」

「疲れてるでしょ。いいよ、寝ても」

「動けそうなら降りて自分で歩けって言われるかと思った」

「もー、そんなこと言わないよ、当たり前じゃん、私が連れ回したんだから。頭、私の肩に乗せて。

 目を閉じて、ゆっくり深呼吸して。また目を開けたら、コテージについてるからね」

「……ねえ」

「うん?」

「私はあかねのそういうの、当たり前だって思わないから」

「……」

「だからあかねも、あかね自身がやってきたこと、当たり前だって思わないでくれる?」

「……うん」

「大切なことだから。私たちの……。……ウチらの約束、だよ?」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 20:30

 

 私たちが集まっているあかねちゃんのコテージの目の前に置かれた、プレハブの公衆電話のような箱の中にシャワールームがあった。

 中から鍵をかけられて、脱衣スペースと狭いシャワー室があるだけ。よく分からなかったけど、そのシャワーも水に圧力?をかけられない?らしくて、チョロチョロとしか出てこない。

 さらに、水のタンクの水位より低い位置じゃないと水が出ないらしくて、しゃがまないと浴びられないくらい低い所にシャワーヘッドがあったりと散々だった。

 

(仕方ない、か。水は低い所から高い所へは流れないもんね……)

 

 それでも、午後頑張ったから身体の火照りが収まらないのと、汗まみれ泥まみれ草まみれで汚れを落としたい気持ちが強くて、シャワーが本当に気持ちよかった。

 二日目になって水のタンクの温度が気温のせいで上がっちゃって、温くなったのもあるかもしれない。

 使った水を貯めておく装置までは無く、シャワーの水は使ったらそのまま床の排水孔から外へ流しっぱなし。

 だから、来るときに没収されたように、シャンプーの類は環境への配慮とかを理由に使えなかったけど、湯シャン(お湯じゃないけど)で十分さっぱりできた。

 

「ふぅ……」

 

 持ち歌を鼻歌で歌いながら蛇口を捻ってシャワーを止めると、前髪と指先から垂れる雫が床に落ちる。

 湯冷め(お湯じゃないけど)をしないように体を拭いて、急いでパジャマを着た。

 

 結局私たちは、日が沈むギリギリでコテージに戻れた。あかねちゃんの肩によだれを垂らしているフリルちゃんを起こして、急いで余計な服を脱いで、あかねちゃんが持ってきていた『サラスペクタルシート』で最低限汗を拭い、食欲があるか聞いて連れ出した。

 

 夕飯の時も、さっきまで遠出していた感じを極力出さないようにした。

 当然昨日の夜言っていた、あかねちゃんの料理をする時間は無かった。

 『プロデューサーのことがまだショックで、お仕事は出来ても、ご飯作る気力はまだ……』としおらしくスタッフに謝るあかねちゃんの悲しそうな演技が面白い。スタッフも「もともと作ってくれるだけでありがたい。無理しないで、ありがとう」と言って、特に詮索されずに済んだ。

 カントクの言うことを聞かずにどこに行ってたのか、なんて聞かれるのも億劫だし、そもそも今朝の出来事を事件だと考えて調査していることは、犯人に気付かれてはいけないから。

 

 だけど、食後にカントクにだけはあかねちゃんからフリルちゃんの事情を伝えていた。平謝りするあかねちゃんに対して、『GPS見てたけど、だいぶ無茶したな……無事ならそれでいい。体調がもし悪化したら真夜中でも起こして報告してくれ』とカントクも話をそれで終えていた。

 その後順番にシャワーを浴びていく際、フリルちゃんの体調がまだ心配な私たちは、まだ汗でベタベタな身体の気持ち悪さはあったけど、フリルちゃんのそばにいてあげたくて他のスタッフに先にシャワーを譲ることにした。

 

(本土で見れる星座と、ちょっと違う気がする)

 

 シャワー室を出て見上げると、星がすごく綺麗。シャワー上がりの濡れた髪を一瞬で乾かしてくれそうな、天然ドライヤーのような強風の中、知っている星座を探した。

 雲は全部、ルンバが埃を吸い集めるように台風が全部取り払ってくれて。満天の空の下で一番星がギリギリ見えなくなりそうな時間。

 月は中途半端に出ていて、月の光が強いと星なんて東京じゃ見えないのに、ここで見ると月の中でも星が見える。

 ただ光るだけじゃなくて、空気の揺らぎに合わせてなのかちらちらと瞬いているようにも見えた。

 

 地面にゴロ寝して見続けたいと思うくらい綺麗だったけど、次はあかねちゃんがシャワーを待ってる。それにこんな状況だから、帰りが遅いと心配もさせちゃうし……実際、『今夜も私のコテージで3人で寝ようね』とあかねちゃんから言われてる。

 強い風も、潮風である以上多少ベタつきがあるような気がするから、早くコテージに戻ることにした。

 

「ただいまー、浴びたよ」

「おかえり」

「ちゃお」

「……何してるの?」

「見てのとおり、マッサージ。あかねの秘孔を突いてる」

「いたたたた……フリルちゃん、ちょっと強い……」

「ルビーもやってあげよっか? 荷物持って一番前歩いてくれたよね」

「いや、やめとく。何か痛そう」

 

 うつ伏せで横になってるあかねちゃんに馬乗りになって、背中と腰に指を沈ませているフリルちゃんは、心なしかあかねちゃんが苦悶の声を上げるたびに口角が上がってニマニマしていた。

 

「何回もしつこく聞いて悪いんだけど、もう大丈夫なんだよね?」

「うん、完全復活。今なら『サインはB ~MEMちょソロver~』だったら完コピして踊れるよ」

「誰のソロverでも振付同じなんだけど」

 

 食事をみんなと摂る頃にはフリルちゃんはほとんど体調が良くなってて、食後に経過観察しても大丈夫そうだったから、早くさっぱりさせるために3人の中では最初にシャワーを浴びせた。

 明日の撮影に体調を引きずってしまうわずかな可能性を取り除くべく、少しでもゆっくりしてもらうために。

 だけど、この中で一番明日まで引きずってしまいそうなのは……。

 

「んぐぐぐ……んん~」

「そのマッサージ大丈夫? あかねちゃんダメージ受けてない?」

「私のせいで無理させちゃったからね、少しでも足腰解さないと」

「い、痛い~」

 

 人ひとり背負って下山したあかねちゃんは、流石に限界を迎えてしまったみたいで。

 痛がってはいるものの、抵抗する力が残ってないのか、フリルちゃんにされるがままに呻いている。

 

 そういえば、結局フリルちゃんが吸ったものは何だったんだろう?

 鍋に油と詰め替え用の洗剤を入れ間違えた時のような、人工的な甘い臭いがした。

 ああいうのによく書いてある『混ぜるな危険』的なヤツ?でも何も混ぜてないし。

 お兄ちゃんなら分かるかな? 聞いてみる価値はある気がする。

 

「ねえ、お兄ちゃんにあのよく分からない薬品の事聞いてみるのはどうかな。何か分かるかも。だってお兄ちゃん理系じゃん? よく知らないけどさ、理系って皆頭良くて理科っぽいこと何でも知ってるから何でも聞いて良いんだよね?」

「そうだね。何でも知ってるかはともかくアクアくんに聞いてみようか」

「そういえばあかねにお願いしたかったんだけど、昼にアクアから来たこの島について調べたメッセージ、ウチらにも転送してよ。読みたい」

「分かった。今やるね」

 

 時折フリルちゃんが指に体重をかけてマッサージをするたびに「うぅっふぐぅうう」とかあかねちゃんの口から漏れるのをBGMに、3人で今日の事を思い出しながら話し合った。

 不可解なこと、気になったこと。あんまり現地で感じたこと以上の事は出なかったけど、現地で言葉にし損ねた疑問を色々話した。

 色々頭が回って、この3人の中じゃ一番何かに気付いてそうなあかねちゃんは、あまり話す感じではなく、私とフリルちゃんの言うことにうんうんと頷いてばっかりだった。

 

「見つかったものも結構あったし、何となく見えてきたものもあるけど……今朝の限られた短時間で、どうやってこの犯行を……だよね。さらに一つ一つ探っていくんだよね? 正直さ、明日中に解決できるのかちょっと自信が無くって。細かい所の証拠も、今日全部見つけられたのかな?」

「そうだね……どうだろうね」

「あ、あのね?あかねちゃんなら出来ると思ってる! だけど……いつか『犯人はお前だっ!これこれこうやってプロデューサーを……!』ってやるために今頑張ってるんでしょ? そこで間違ったこと言ったらまずいし……」

 

 

「別に良いんじゃないかな、多少犯行のやり方くらい間違ってても」

 

 

 セクハラ気味にあかねちゃんの太ももをマッサージしているフリルちゃんが横から口を挟んできた。

 間違っててもいい?どういうこと?

 言ってる意図が分からなくて、ちょっとポカンとしながらフリルちゃんを見つめ返す。

 あかねちゃんも少し怪訝な顔をして……すぐに納得したような顔をした。

 

「えー!? 間違ってちゃまずくない? 刑事ドラマでもクライマックスでドヤ顔で言った推理が間違ってたらヤバいじゃん! 恥ずかしいし!」

「うん、だから犯行の細かい方法とかに限った話。ルビーが今言った場面でさ、『その犯行のやり方の推理は一部事実と違う』って指摘するのは具体的に誰なの?」

「え? んん……?」

「正解を知っている人しか指摘できないよね? 犯行を詳しく知っている人って誰?」

「……あ!犯人? あれ? でも犯人がそれ言ったら自白しているようなもん?」

「じゃあ間違ってて良くない? 私たちに必要なのは『これは他殺である』『あなたが犯人である』『その犯行は不可能じゃない』それだけの理屈があればいい。動機もそうだけど、細かい過程とかも知りたきゃ犯人に直接聞けばいーよ。

 細かい所は『こうすれば犯行は実現できる』って一例をあげればもうそれで充分。現場の状況に即して大筋の犯行内容が合ってて、そこに証拠が一つだけでもぶら下がればOK」

 

 何だか、フリルちゃんの言ってることが、分かるような……分からないような。

 探偵漫画や刑事ドラマでカッコいい主人公がキメ顔とキメ台詞でビシバシ推理して完璧に当てているシーンしか見たことないから、新鮮過ぎて頭が追い付かない。

 でも、なんとなく大事なことを言っている気がする。

 

「でもニュースとかでさ、犯人の動機とかも言ってるじゃん……『痴情のもつれでドロドロで……!』とかさ。事件のやり方も。良いのかな、間違ってて……」

「ドロドロって。アナウンサーの主観丸出しすぎない?

 そういうの正確に調べるのは……計画性とか情状とかが裁判に関わっちゃうお巡りさんの仕事だから。ウチらは違うし。……なんていうか、要するに。考える事減らそ?」

「う~ん……本当に良いのかな~」

「指紋ついてるところに耳かきの反対側みたいなやつでポンポンして粉振りかけるわけじゃないんだし。ウチらは素人なんだから」

 

 うーんと考え込む私の隣で、うつぶせで呻いてたあかねちゃんがフリルちゃんの言ったことに頷いていた。

 

「……そうだね、分かった。ちょっとズルしちゃおうか。調べたり考えたりする事、絞ってくね」

「そうだね。細かい所は困ったら、『そんなの、どうとでもなる。例えば〇〇すればいい』って感じでテキトーに言えばいいよ」

「ありがと。私だけじゃ考え過ぎて、フリルちゃんのような発想にならなかったかも」

 

 私は理解半分だったけど、あかねちゃんがフリルちゃんの話に納得したところでその話は終わった。……なんだか置いてきぼりくらった気分。

 でも、考え方をシンプルにしていいならそれは良いことなんだろうし、私以外の二人がそれで納得しているならもうそれでいっか。

 

「ヤマ○ルいなくてよかったね」

「結局○マビルがなんなのかよく分かんないけど」

「吸血するんだよね。毒性は大してないけど生理的にきつすぎる、見た目も『殺意高めなナメクジ』って感じで」

「あー、そういう感じなんだ……確かにイヤだね……あれ? 血を吸うといえば……あかねちゃんもフリルちゃんもさ、蚊に刺された? いなかった気がしない?」

「蚊? ん、言われてみれば……虫よけはしたけど、確かにいなかったかもね?」

 

 帰ってきてからふと思い出すように浮かんだ疑問を二人に投げかけた。

 夏にあんなに自然豊かなところに飛び込んだのに、一番いそうで一番イヤな虫、蚊に刺されていない。虫よけはしたけど、寄ってこられてあのイヤーな羽音を聞くこともなかった気がする。

 二人とも『そういえば……』という感じで思い出す限り、いなかったみたい。

 

「この島、切り離された環境だから変わった生態系だって言ってたし。環境保護?とかしてるんでしょ? 実際虫大きくてキモかったし。もともと島に蚊がいないなんてこと、あるのかな?」

「どーかな。蚊なんて船に付いたり荷物に入ってたら簡単に上陸しちゃいそうだけど。血を吸ってお腹いっぱいの蚊は飲まず食わずで何日かは生きるらしいよ?」

「ふうん……? まあ、いいか。いないに越したことないし。はぁ、流石に今日は疲れたね……明日もこんなことしてたら身体保たないかも……」

「明日だけどさ、昨日の夜ルビーとあかねが行った海の神社、私も行ってみたい」

「……あそこかぁ。何か雰囲気怖かったんだよね」

「夜行って何も見えなかったし、すぐ帰ってきたんじゃなかった? 明日の撮影もルビーがNG連発しなければ夕方に終わるだろうし、また午後に行こうよ」

「NG連発なんてしないよ!?……たぶん。でもさ、今日はコテージの周り中心に事件の痕跡を調べるために探索したけど、海の神社って反対側じゃん。何か事件と関係あるかな?」

「ルビーちゃんの言うとおりだけど、後何か調べられるとしたら、あそこくらいかな……。あんまり今日みたいに帰りが遅くなるの嫌だから、開始を早めてもらうよう五反田監督に頼んでみようか。まだ明日の集合時間連絡来てないし」

「そうだね」

 

 今日行った神社と同じように、倉庫があった神社。狭いし、社の崩れ方からして山の神社よりも古いのかもしれない。

 でも、倉庫が石造りだったし、どうしても今日行った神社のような危険があるんじゃないかって想像しちゃう。

 また何かあったらどうしよう。

 当事者のフリルちゃんはもちろん、私やあかねちゃんも反省したし、行くなら警戒MAXで行くつもりだけど。

 境内の敷地自体がそんなに広くなかったし、調べるのはすぐに終わりそうな気もする。さすがに今日ほど危ないところじゃないよね?

 

「フリルちゃん、ありがとう。身体が軽くなった気がする。私もシャワー浴びようかな」

「行ってらっしゃーい」

「行ってら。シャワー室目の前だけど気を付けてね」

「二人とも、私を待たずに寝てていいからね?」

「えー!せっかくのロケ先の夜なのに!もっと寝袋おしゃべりしよーよ!」

「ルビー。あかねは誰かさんのせいでクタクタだから。戻ってきたら寝かせてあげよ?」

 

 クタクタ、か。そうだよね。

 確かに今日は早く寝た方が良いのかな。

 さっきあかねちゃんがカントクに、集合時間を早くしてほしいって早速メッセージを送ってたし。

 

 本当はもうちょっと三人でおしゃべりしたい気持ちが強いけど、さっぱりした後に寝袋の上でうつ伏せに横になった途端、一瞬でも油断したらすぐ意識を失いそうなほどの強烈な疲労感と眠気が襲ってきた。

 

 明日は……撮影を、無事に終えて……事件も解決、出来るのかな……?

 それとも……もう、無事に帰れたら、それで良い、のかな……?警察、来るらしいけど……あかねちゃん、どこまで分かってて、どうするつもり、なんだろ……。

 聞きたいけど……あかねちゃんが、帰ってくるまで……起きて、られなそう……。

 

「お、自らその体勢になるなんて。ルビーも本当はマッサージ受けたいんじゃん」

「え!?ちがっ、痛そうだからいいって!」

「遠慮しないで、ほらほら」

「ちょっ!いだだだ!」

「さすが……体引き締まってるなあ」

「あ、でも……!なんか気持ちいい、かも……!?」

「なんて(しつけ)いいケツしてんな(回文)」

「ちょっと!そこは大丈夫だから!なんか手つきやらしいし!」

 

 

~ To be continued ~

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