【完結】もしもし、アクアくん?〜女優探偵の事件簿〜   作:ねこのまんま

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⑥ 第3話 違和(前編)

 狼狽えるカントクの声、冷静の状況を整理する馬場さんの声、小さな悲鳴と震え声を出す高坂さんの声。

 状況が落ち着くまでコテージの入り口の外で動くことも出来ず、あかねちゃんの頭の後ろから辛うじてギリギリ覗き込む形で、大人三人の動きを見守るしかなかった。

 ……突然すぎることで、いつまで経っても現実感がわかない。

 こんな場所で、本当に人が亡くなったの?さっきまでいびきしてたよ?なんで?

 

(この先、どうなるんだろ……)

 

「お前ら、とりあえずコテージに戻って待っていてくれ。また連絡する」

 

 私たち以外の、あの場にいなかったスタッフにもメッセージを送ったらしい。カントクは関係各所に連絡するとのことで、それが終わるまで全員待機すること、と支給スマホに全員に指示があった。

 何がどうなっているのか分からないし、この先どうなるのか不安だし……一人で自分のコテージに戻る気にもならず、そのまま流されるように、これまでどおりあかねちゃんのコテージに居座った。

 

「ねえ……本当に死んじゃってたの?」

「まー正式には医者じゃないと判断できないことじゃない?ちょこっと見た感じ、馬場さんが手首触ってたけど脈とかもなかったらしいしねえ」

「病気で死んじゃった……ってこと? 心筋梗塞?だっけ?薬飲んでなかったのかなぁ……」

「心房細動ね。まあそうなんじゃない? 特に怪我とかしてなかったみたいだし。っていうか寝てるだけで怪我するわけないし」

 

 フリルちゃんもちゃっかりあかねちゃんのコテージに来ていた。私の隣でゴロンと横になり、頭の下に両手を枕のようにして話している。

 あかねちゃんは少しだけ離れたところで、何か難しいこと考えてそうな顔をしながら三角座りしていた。

 

 昨日初めて話した私ですら、あのいびきの段階でフリルちゃんを肩車して無理やり起こせばよかったかな、とか人としての後悔はある。

 カントクは……なおさら、そうだろうなあ……。

 

「やっぱ撮影中止かなー」

「人一人死んじゃってるもんねぇ」

「まあ、仕事の事悩んでいる場合じゃないよね……やっぱ、昨日まで話してた人がこうなると、ショックというか……ショック受けられるほどまだ現実味がないというか……」

「それは確かに」

「でも中止なら、一旦帰ることになるよね?」

「……帰れないよ」

「え?」

 

 ここまでずっと黙っていたあかねちゃんが、スマホを見ながら呟いた。少し深刻な表情をしているように見える。

 

「今やっと天気予報開けた。多分あと二日はどのみち帰れないし、だれもこの島に来れない。風強いとヘリコプターも離着陸できないんだって。この島に来れる規模の小さい船はなおさら。この強風は明後日の朝まで続くって」

「ええっ!? そうなの!?」

「もともと帰れない予報だったじゃん。でもあれ? 風強いのは台風の後一日だけって予報だった気がするけど……強風の期間延びた? じゃあ明日夕方帰る予定だったけど一日遅れか。ルビーも予備日あるから大丈夫でしょ?」

「うん、大丈夫だけど……」

 

 もともと、計三日間だけの行程だった。

 三日間のうち前後一日ずつ予備日を設けていて、何も予定を入れないようにしていたところ、台風に合わせるように一日早まった。

 夏の読めない天候を加味して、出航日を柔軟に出来るようにするための予備日なのに、夜にやり過ごせそうとはいえ、なんで台風に合わせるように……?

 行きの船の上でのフリルちゃんのボヤキはもっともだと思う。

 

 つまり後ろ二日間予備日がある形になったから、風が止むのを待って一泊増えても何も問題は無いけど……。

 

「仕事としてやることあるなら良かったけど、撮影中止しちゃったら暇だね。黒川さんとルビーが行った神社にでも行こうかな。パワースポット巡り興味あるわけじゃないけど、暇すぎて本当にそれしかやることなさそう」

「そう……なんだ……そんなに風強いんだ。台風の後は天気が安定するものじゃないのかな」

「ルビーのテンションの下がり方エグイんだけど。風は海辺だしこんなもんじゃない? そんなに2日この島に閉じ込められるのがイヤだった? 2日なんてあっという間だよ、暇つぶしに自分の右手と左手でじゃんけんでもしてたら?」

「……ヘリコプター、乗ってみたかった!! なんか垂れ下がった紐掴まりながら、特殊部隊っぽい人に支えられながら救助されてみたかった!」

「そっち? あれ調布から乗ったことあるけど、音と振動ヤバくて耳守るためにずっとヘッドホンしてるし。素人が乗ってもあんまりいいもんじゃないよ」

「ま、まあ……ルビーちゃん、今回はバラシでもどこかしらで今後撮影するだろうから。演技の練習する?」

 

 フリルちゃんは完全脱力フリーダムモードで、横になりながら足を組んで、何かを考えるように天井を見つめていた。

 あかねちゃんは台本をこちらに向けながら、宥めるような笑顔をこちらに向けてくる。

 ……私と違って水に濡れていないのに、台本の冊子の端っこの方のヨレヨレ度合いが私と比べ物にならないんだけど。

 でもやることが無いのは事実だし。

 

 貴重なあかねちゃんとフリルちゃんとの共演。3姉妹での共演だったけど、主にあかねちゃんとやり取りがあるのは私。

 正確には……私が一方的にあかねちゃんに語りかけるシーン。

 

 あかねちゃんの台詞は、この島で撮影する場面では一度も無い。

 

 お互いに、オフはそうそうない。そして、お互いの友達はお互いだけじゃない。

 まるっと二日間も一緒にいられるこの時間を充実させようという言葉はそのとおりだと思った。

 

「そうだね。じゃあ……カット107から行く? あかねちゃんも入ってくるところ。フリルちゃん見てくれる?」

「ん、いいよ」

「台本は? フリルちゃんのシーンじゃ無いけど……私の見る? ヨレヨレだけど」

「私のは自分のコテージにあるけどいらない。ルビーの台詞も全部覚えてる。黒川さんの動きも」

「……そっか。じゃあ──」

 

 立ち上がって始まろうとした演技の練習を止めるかのように、着信音が響いた。カントクから業務連絡かと思いきや、私のプライベートスマホだった。

 

 ……お兄ちゃん?

 

 昨日の早朝、このロケに行く私の事がやっぱり心配でたまらないと言う顔を玄関口でしていたお兄ちゃんを思い出す。

 ミヤコさんが私の無人島行きを認めた後も、お兄ちゃんは最後まで『ミヤコさん、カントクだから大丈夫って。逆じゃね?心配だから……いっそこっそり同行するか……』と色々言ってたけど、ミヤコさんから説得されて。

 最後には、「そういえばあかねも行くんだったな。……気を付けて行って来いよ」と言ってようやく私を送り出していた。

 

 もうさっきの出来事を聞いたんだろうか。

 

「お兄ちゃん?」

『大丈夫か』

「え? 私は何ともないよ?」

『そうか。聞いたよ。ミヤコさんが連絡受けてるのを横で聞いてた。お前がショック受けてないかと思って』

「ああ、うん……私も正直、急なことで実感ないし。初回の顔合わせで遠目に一度見ただけで、昨日初めてまともに会話した人だし。その、お兄ちゃんだから言っちゃうけど……驚いてるけど、まだ実感が伴わなくて、困惑の方が強いかな……」

「仕方ないよ、ちょっとだけ仕事で知り合いとして関係あった私も泣くほどショックかと言われると別にそこまででもないし。もちろん不幸なニュースだけど、もともと病気がちだったらしいしね」

 

 後ろからフリルちゃんが話しかけてくる。フリルちゃんはもともとさっぱりしている人だとは思ってたけど、私と同じ気持ちみたいだった。

 正直、『自分が関わった仕事の関係者』という枠で見るともう数えきれないほど知り合いが多いことになっちゃうし。

 それに、芸能人としてテレビ、ネットコンテンツでの関係者ともなると年齢が高い人もいて、持病も無いのに訃報が突然来るなんて年に数回はある。

 還暦前に亡くなった人にはたくさんの人が『まだまだお若いのに……』『これからですのに……』と遺族に声をかけているのを見て、若く死んだだけでこんなに世間から同情されるのかと不思議な気持ちになったものだ。

 

 惜しまれたなら立派だよ。

 惜しまれるほどの縁がいろんな人と出来る前に死んだ人間は、惜しまれることも無いということだから。

 

 私のお母さんは、なんて声をかけられたのかな。今となっては、どうでもいいような気もする。

 

 いや……どうでも良くないのかな。

 これだけ時間が経ってもこんなこと考えている辺り、私にとっては未だにどうでも良くなれていないのかな。

 

『不知火の声か? 近くにいるのか?』

「いるよ! あかねちゃんもね」

「アクアくん」

『ああ、あかね。ルビーが世話になる』

「こちらこそだよ」

 

 ビデオ通話に切り替えて、3人が映るようにした。相変わらずガビガビ画質で紙芝居のような通話画面だ。

 片膝を立てて浅く壁にもたれていたあかねちゃんと、ぐで~っと横になっていたフリルちゃんが居住まいを少し正して、画面の向こうのお兄ちゃんに手を振る。

 

『あかねは大丈夫か? ……まあ大丈夫だろうな』

「もー、心配してくれたっていいじゃん」

『してるよ。色々と信頼もしているだけで』

「なにそれ」

 

 ムスっとした顔をしたあかねちゃんと画面の間にフリルちゃんが割り込んだ。

 

「はろ~、ダーリン」

『誰がダーリンだ』

「ひどいっあの映画で私を抱いてくれたのに……! あの時のあなたは、演技だったって言うの!?」

『演技だが』

「うん、良い演技だった。役者のアクア、もっと見たかったんだけどね」

『別に今もやってるだろ? 数は減らしているが』

 

 医学部に通っているお兄ちゃんは、勉強が忙しくなるにつれて、もともとセーブしていた演技の仕事をもっと減らしつつあった。

 それでも完全に役者業を辞めないのは、露出し続けてタレントとしての人気を維持しようというよりは、タレントとして知り合えた人との縁を大切にするためのように見える。

 

 私が。あかねちゃんが。先輩が、MEMちょが、ミヤコさんが。もっともっと多くの人が。

 カミキヒカルへの対処が終わった後、やりたいことがありそうなのに無気力で、笑顔を取り戻せず……なんだか消えてしまいそうな雰囲気のお兄ちゃんを囲み、少しずつメンタルを戻していった頃があった。

 

 一部の人は、『ずっと計画していた映画の脚本、撮影、編集をやり遂げた無気力症候群』だと考えてた。

 フリルちゃんや壱護さんのようにもっとお兄ちゃんを知る人は、『父親への復讐を成し遂げた無気力症候群』だと。

 私とあかねちゃんは……じっくりと、じっくりと……僅かな余暇の時間のほとんどを費やして、お兄ちゃんの心に向き合い続けた。

 

 難しいことはしていない。私はあかねちゃんのように、心理学とかそういうのもわからない。

 

 ただずっと、『大好き』『ありがとう』『一緒にいたい』って、お兄ちゃんに届け続けただけ。

 それだけでいいのかって不安だったけど、あかねちゃんは『大丈夫だよ。それだけだから良いの』って、少し思いつめた表情をしながら言ってた。

 

 それが正解だったのかわからないけど……今、大学に行ったり、呼ばれたらモデルとか演技とかしたり、元気にやれているように見える。

 

 ララライの代表?の人や姫川さんに気に入られているのか、そちらにも呼ばれたら行っているらしい。

 生意気にも最近脚光を浴びているししょーも呼ばれたら必ず来てるみたい。『俺が自分で自分を褒められた初めての仕事が出来た場所だから、初心に帰るために』って言ってた。

 恐れ多いけどコネみたいな感じで私もお兄ちゃんについていかせてもらう時があって、僅かなオフの時に稽古を見学したり、公演が無い時期は少し演技の練習に参加したりする時がある。

 あかねちゃんやお兄ちゃんは分かるけど、姫川さんも何かと私に絡んでくる。

 

 この前は、あかねちゃんが『ルビーちゃんの時代考証や演技の幅を広げるために、今日は時代の違う作品で練習してみよう』って提案してくれた時があった。

 姫川さんが『ベタだけど勧進帳なんてどうだ?俺が弁慶でイケメンのアクアが義経だ』って言ったら、『ルビーの練習なんだからルビーを主人公格にしろ。っていうかそれ、アンタが俺を合法的に殴りたいだけだろ』とお兄ちゃんにすげなく却下されていた。

 私よりもずっと前から、姫川さんとの距離感が短くなっていたのは知ってた。でもどちらかというと女にだらしない感じのせんせだったのに、同性とこういう会話するんだ……? よほど東ブレの後に男同士の友情?を育んでたんだろうか。

 

 『俺はもう、雨宮吾郎の記憶を持つアクアだから。ルビーは?』

 何となく、今朝見た夢の言葉を思い出した。

 お兄ちゃんは、せんせは……アクアは。アクアとして、今の命で得られた縁を大切にしていくことを決めたみたいだから。

 これで、良かったんだと思う。

 

『まあ、困ったことがあったら言ってくれ。といってもここからじゃ出来ることは限られてるけど』

「お兄ちゃんの所に帰りたーい……」

『出来る範囲でって言ったばっかりだろ』

「ご飯美味しくないしあったかいシャワー浴びたーい」

『ったく……』

「へへ、なんてね。大丈夫。あかねちゃんとフリルちゃんもいるからね」

『カントクのことも頼っていいぞ、多少は』

 

 忙しい医学部生でも、今は夏休みで少し暇してる。

 マイペースに挨拶するフリルちゃんをさらっと流すお兄ちゃんは、このロケにこっそりついていくことを結構マジで画策してたくらいには、ここ数日は何の予定もない。

 

 お兄ちゃんへ挨拶(?)を終えたフリルちゃんが、髪を脇に流しながら起こしていた身体をまた横にして寝そべった。

 ……すごい、本当にお腹がぺったんこだ。

 ラフな綿Tシャツを着ているから、横になったフリルちゃんの真横から見たシルエットがくっきりと出てる。

 腰の骨よりも低くなっているウエストがすごい。

 私だってちょっとだらしなくしたら容赦なく出てくるのに。

 

 そんなフリルちゃんを見ているうちに思い出す、亡くなっていたプロデューサーの身体の違和感。そして、その違和感の正体も分かってきた。

 

「……うーん」

『どうした?』

「いや、ちょっと……プロデューサー、お酒ばっか飲んで食は細いのに、亡くなってた時はお腹が出ていたなあって……」

「ルビーちゃん、どういうこと?」

 

 まだ話途中の私を遮って、あかねちゃんから底冷えするような、いつもと違う声で話しかけてきた。

 問い詰めるようなきつい感じじゃないけど……。

 だけど、私が知ってること、考えていることを全て引き出そうとしているような、じっと目を合わせていると息が詰まりそうな視線を向けてくる。

 私もうろ覚えだし、何となく思い出して零しただけの言葉なのに、いい加減に話しちゃっていいのか怖くなってきた……。

 

「えっと、あのさ……仰向けになったらお腹へこんで痩せたようにならない? 食べ過ぎちゃって好きなボトムス穿けなくなった時とか、寝っ転がってなら余裕で穿けるんだよね!」

「ルビーの語るライフハックはコメントしづらいなあ」

「でさ、プロデューサー、寝袋敷いたままで中には入ってなかったじゃん。暑かったし私もそうしたからそれは分かるんだけど……お腹、ちょっとポコッと膨らんでなかった? 寝っ転がれば見た目だけ痩せるはずなのに。いや、膨らんでた、は言いすぎかな……お腹がへこまず平らだったくらいかな……ごめん、自信なくなってきた。気にしないで」

「どーかなあ、そんなとこ見てなかった。ってか私からはあんまり見えなかった。私は床が気になってたけど」

「床?」

「ん。砂でざらざらしてたから。床が」

 

 床……砂? そうだったかな。それこそ、私は良く覚えていないんだけど。それに別に砂くらいどこにでもありそうな気がする。

 

「外で草生えてなくて泥っぽい所あったじゃん、校庭とか。靴の裏について汚れただけじゃ」

「そーじゃなくてさ、床全体に薄く均等に……塗ると言うか、まぶすように砂があったから。靴に付いた砂だったら、靴であがりこんで歩いたところにだけに砂が固まって落ちてるはずでしょ」

「え? どういうこと?」

「さあ? なんとなく変だなって思っただけ。私たちが来る前からもともとあった埃なのかもしれないし」

 

 最初はカントクたちがドアを蹴破って……私たち三人はコテージに入らず入口にいて、確かフリルちゃんは私とあかねちゃんの身体が邪魔だったから、変な姿勢で中を覗き込んでた。だから違うところが目に止まったのかなあ。

 どちらにしても、違和感?を口にしてる。

 

 でも確かに、ただの埃、前来た人が残した汚れが風化したものかも。

 プロデューサーは確か、島に上陸した時も自分のコテージに行ってないし、学校を下見した後も推島に学校使用の許可をもらうために共用コテージにいて電話をしてたから、自分のコテージに行ってない。

 寝る時に酔ってたタイミングでしか自分のコテージに入ってないから、最初から汚れてたとしても掃除する時間なんてなかったはず。

 

 気にしすぎなような……?

 

「ルビーちゃん、不知火さんも」

「ん?」

「五反田監督が蹴破ったドアの裏側……見た?」

「裏側……?」

「そう、ドアの蝶番とドア枠壊れちゃったけど、監督がドアを中に押しのける時ガサガサ音がしてた。何の音かなって思って、コテージの中のドアの真下あたりを見たんだけど……ちょっとごみみたいなのが溜まってた。そのごみを押しのけるように五反田監督たちがドアを蹴破ってた」

 

 なんかあかねちゃんまで変なことを口にし始めた。それも、私もフリルちゃんも見ていないところ。

 確かに少し散らかってるし、ちょっとむわっとして泥っぽい嫌な湿気のような臭さがあったような気がするけど、散らかりっぷりは……船でスイートルームに集まった時に、ちらっと一部だけ見えた奥の部屋はだらしない感じだった。だからそんなに違和感とかなかったけど。

 

「そう言えばカントクも、昨日夜に送った時『今にも寝そうだった』って言ってたよね。逆に言えばまだ寝てなかったわけでしょ? その時リュックからなんか取り出そうとして散らかしたんじゃない? 船の寝室もなんかとっ散らかってた気がするし」

「いくら片付けが出来ない人でも、靴を脱ぐことになるドアのすぐそばに書類とか乱雑に置くかな……」

「んん?あかねちゃんまでどうしちゃったの? 私が変なこと言ったから……?」

「ううん。むしろルビーちゃんにお礼を言いたい。あの場所、何だか変だなって。私一人なら気のせいかと思ってたけど、三人変だと思ったら絶対何かが変だよ」

 

 何もない床を見つめながら右手で顎を軽く摘まむあかねちゃんは、何かを考えているときのポーズだ。

 私が『プロデューサー、なんか急にデブってない?』と適当なことを言ったせいで、何だか変な空気になっていった。

 違和感が集まって、意味が分からないような。でも少し、背筋に寒気を残したような。

 余計なことを……言っちゃったのかな。

 

 電話口のお兄ちゃんはほったらかしにされた形だけど、黙って私たち三人のやり取りを聞いている。

 

「もしもし、アクアくん?」

『ああ、聞いてる』

「お願いがあるんだけど」

『なに?』

「あのね……」

 

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