【完結】もしもし、アクアくん?〜女優探偵の事件簿〜   作:ねこのまんま

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名探偵や名刑事が出る作品と違って、『彼女たちが事件の謎を解いていく動機付け』も用意するのが難しいです……。
探偵でも刑事でもない以上、あかねは必要に迫られない限り警察に任せると思うので。


⑧ 第4話 追跡(前編)

 あかねちゃんとお兄ちゃんの通話が始まってから2、3分。

 基本的に何かを見つけたり、私やフリルちゃんから見つけたものを教えてもらったりした時には、それをじっくり観察したり頷きながら話を聞くばかりで、それに対してどう考えているかはあんまり話してこなかった。

 だから、ここまで見つけたものを全部繋げて、このコテージで何が起きていたのかを、例え推測でも話し始めてびっくりした。

 

 当然その内容にも。

 

 ここが、水浸しにされた?なんで?どうやって?マジで言ってる?突拍子が無さ過ぎない?魔法?

 転生してる人間がいるくらいだから、神様とか魔法があってもひょっとしておかしくない……? いやそんなわけない。ファンタジーやメルヘンじゃあないんだから。

 

『水圧?え? お前の頭の中にはどういうストーリーがあるんだ?』

「……えーっと……砂混じりの泥水が、寝ている人間が水没するほどの深さまで入れられて、亡くなったあとにドアの隙間から水を流し出していった。だから水に漂っていた砂は、水が無くなるにつれて満遍なく薄く積もって、でも水の流れに沿って筋状になって……水に浮くような、紙とか布とかはドアの方に集まった。

 医者も警察もいない島で、外傷もない、現場に凶器も無い遺体が出来上がった結果、みんなが自然死だと思ってる。そんな……感じ……?」

『自信ない感じじゃねぇか』

「自信あるわけないでしょ!こんな内容……他の可能性を教えてほしいよ。私たちはこの島にあと2日いないといけないんだから、とんでもないことをした人がいるって思いたくない」

『そうか。残念だけど、お前が言ってるなら俺は突拍子なくてもそれが一番ありうると思うよ』

「もー、ふざけないでよ。……出来れば君にこそ……違うって言ってほしいくらいなのに」

『そんなこと言われてもな、俺はそこの現場を自分の目で見ていないわけで。それと、溺死体の特徴なんて知ってどうするんだ……?』

「決まってるでしょ。傷つけない程度に確かめる……今、遺体の前にいる。服の端っこ触ってみたけど、やっぱりちょっと湿ってる」

『まて、それ以上はやめとけ』

 

 電話口のお兄ちゃんから、言い捨てるように厳しい口調の声が聞こえてくる。

 途中まで軽口混じりだった、二人の会話の独特な雰囲気が少し変わった。

 っていうかあかねちゃん、今、何て言った? 確かめる? 服触ったって……遺体の服だよね?

 

『ここで死後の硬直だの死斑だの……溺死なら皮膚がシワシワになる漂母皮形成だのと言うのは簡単だよ。それで、それぞれがどのくらいだったら溺死と判断するとか、今の気温がどのくらいだからどうとか、そんな知識お前にあるのか? 見て触れれば判断できるのか? 俺だって素人だ。法医学なんて聞きかじったことしか言えない。ビデオ通話で画面越しに見せてもらっても大して分からない』

「……」

『要するに、他殺だと思ってるんだろ。なら服にもこれ以上触れるな。捜査機関が見る前に触った人間がいる、というのがあとあとの捜査をかく乱するし、お前に疑いが向くことになりかねない。軽率に触るな。衛生的な観点からもだ』

「それは、そうだけど。まあ確かに。分かった、触ったりはしない」

『本来現場のものを触ることすら……ということにもなるけど、これから2日間人が出入りできない島で突然死した人間が他殺かもしれない、なんて考えたら調べないわけにはいかない気持ちもわかる。だから協力したし。でも、その場はそのくらいにしておいた方がいい』

「うん……そうする」

『けどゼロ回答ってのもな。ちなみに溺死判断は肺や腹の中の水、あとは……溺死の現場が風呂が多いんだけど、そういう浴槽水とかの浄水じゃないなら、肺にプランクトンがいないか検査するとかもある。つまり、確定するには体の中を見ることになるからお前には無理だ。もし死んですぐに水の中から出た場合、外面は自然死と大して変わらない綺麗な状態だと思う』

「分かった。私は元々お腹を見ていたわけじゃないから前後の変化が分かんないけど、ルビーちゃんの言うとおりお腹が大きくなったりする?」

『有意な変化があるとは限らない。でもどうかな、仰向けで寝ていて直前まで生きていたなら、呼吸と共にそれなりに多くの水が体内に入っただろうな。すでに死んでいて呼吸が止まっていた後に入水したら、あんまり遺体から水が出てこない』

「そっか……」

『それと水圧だっけか。工学は専門外だけど、概算でよければ……えっと……水深60cm、ドア幅80cmなら……大体140kgfくらいか。ルビー三人が上に乗ったくらいだな』

「ちょっと! お兄ちゃん!?」

「うん、ありがとう。知りたいことは分かった。またかけるね」

『待って、あかねは……これからどうするつもりなんだ? お前の言ったとおりだと想定して話したけど、犯行の実現に向けて課題がありすぎる』

「それも含めてもうちょっと調べる。どうやってそんなことしたのか私も全くわからないけど。相談したいことができたら、頼りにさせてもらうから」

『ああ……』

「じゃあね」

 

 通話を終えたあかねちゃんが、スマホを持つ手を下ろしてポケットにしまった。

 ふう、とため息をついて、話しながら見下ろしていた遺体から目を逸らし、上を見上げている。

 

『他殺だと思ってるんだろ』

 

 私とフリルちゃんが薄々思っていたことを、電話口でお兄ちゃんがバッサリと言った。

 ずっと明言を避けて来ていたけど、亡くなった人がいる場所に不自然な箇所があるから確かめるなんて、確かめるものは一つしかない。

 

 でも、亡くなった場におかしなところがあったところで、それですぐに他殺だなんてことにはならない。フリルちゃんが言いかけて、結局は言わずに口を濁したけどそう言おうとしていたはず。

 私のお腹が膨らんで見えるっていうのも気のせいかもしれないし、フリルちゃんとあかねちゃんの言う砂だとかゴミだとかもそう。

 前にこのコテージに泊まった人が靴に砂を付けたままあがりこんだものが残って、時間をかけて均されただけとか、プロデューサーが紙とか服とかを部屋の隅に適当に投げて片付けた気になってただけかもしれない。

 

(こんな穴の歪みが……) 

 

 そんな中であかねちゃんが事件だって確信したらしいのが、ラ……なんだっけ、初めて名前聞いたけどもう忘れた……ドアノブ捻ればひっこむやつの穴が歪んでいたから、だった。

 水圧がどうとかよく分からない言葉が飛び交っていたけど、古いとはいえ木材のドアの穴が歪んでいるから、ものすごい力で中から外にドアが押されたのは分かる。

 これだけは、偶然じゃ説明できない、って言ってた。

 

「ねえ、フリルちゃん、この穴の歪みなんて、単にプロデューサーが中から強くドア押しただけなんじゃ?」

「なんで?」

「え?」

「なんでプロデューサーがそんなことする必要があるの? 普通に開ければ良くない?」

「なんでって、うーん、何だろ……ドアボロいからさ、ドアノブとかが壊れてて、危機が迫ってるのに脱出したくても出来なかった!とか」

「その危機ってのが何?って言うのはひとまず置いといて……何か危ない状況になってそうしたとしても、その後何事も無かったかのように寝袋で寝てるの変じゃない? 窓から脱出しようと試した痕跡くらいあると思うよ。ガラス窓の方は、中からなら届く高さだからそこから出れるでしょ。高くて降りる時足傷めるかもしれないけど」

「そっか……あ! もっとシンプルに、単に朝起きたらドア壊れて開かなくて体当たりしてさ! それでもダメだったから誰か開けに来てくれるまで二度寝してよ~☆ってなったとかは?」

「その場合でもさっきの場合でも、ドアが開かないっていうSOSの連絡が誰のスマホにも来てないのはおかしいって」

「……だよね~」

 

 小声でフリルちゃんとヒソヒソ話したけど、やっぱりあかねちゃんのトンデモイメージが正しい……のかなあ。ドラマじゃあるまいし、不自然さを調べていたら本当に事件の可能性が出てきたなんて。

 

 だけど、単に刃物で刺したとか、撃たれたとか、そういう死に方じゃなくて。言ってることがやっぱり突拍子も無いし。何が謎なのかも分かってないくらい状況がよく分からない。

 

 そんなことを冷静に考える前に、正直、怖い。あかねちゃんがお兄ちゃんに言ってたとおりだ。とんでもないことをした人間が、この島にいる。

 誰が?……私たちと一緒に来た、誰かが?

 ……悪い人だと思っていないあの4人の誰かがやったかも、って思いたくない。疑心暗鬼が一番心を蝕む。

 

 もう一度、一瞬ちらっとフリルちゃんの方を見たら目が合った。『どうする?』という顔をしていた。

 多分私も似たような表情だったはずで、すぐにフリルちゃんは目をそらしてあかねちゃんの方を見ていた。

 

「黒川さん、もうちょっと調べるってどういう意味? 犯人はお前だっ!までやるの?」

「ねぇ……お兄ちゃんと話してたのを聞いても、まだ実感わかないし、本当に?って気持ちが強くて。でも言われてみれば変だとも思うし、だとしたらどうやって?って思うし。やっぱり本当にそうだとしたら、怖くないかって言ったら嘘になるけど……ごめん、頭がこんがらがって」

「大丈夫だよルビーちゃん。言ってる私だって同じ気持ちだから。だけど……不知火さんも。二人とも、ちょっといいかな。

 私は別に……これに関して怒るほどプロデューサーと特別仲がいい訳でもない。誰彼の犯罪に対して毎回義憤に駆られるような正義感もあるわけでもないし、自分がそんなに立派な人間だとも思ってない。

 そもそもアクアくんの言うとおり、こんなのは警察の仕事。素人がやっていい事じゃない。だけど……」

 

 つらつらとしゃべり続けて、少しだけ一呼吸おく。あかねちゃんの話し方は、言いたいことを考えながら、言葉を選びながら話している感じがする。

 

 こういう非常時に野次馬のような行動をする人じゃないのは知ってる。お兄ちゃんに警察がどうのこうのと言われてたけど、宮崎での夜を思い出す限り、警察沙汰になった時の対応もよく分かってる人のはず。

 何か考えながらあかねちゃんがここにいるのは分かってた。

 

「警察を呼んでも……この風の中すぐ来れないだろうし……だけど人を殺そうとして本当にやり遂げた人がいる。動機もよく分からないから……プロデューサーを殺して終わりにするのか、更に私たちに害意を向けるのか、何にも分からない。だから、何とかしなきゃって、思ってる。大丈夫、遠い所にいるけどアクアくんの協力もあるし。何とかしてみるから」 

 

 少しずつ、太陽は一番高い所に行こうとして、ドアの隣にある曇りガラスの小窓から強い日ざしが差し込んでいる。

 あかねちゃんの推理どおりなら、一度水浸しになってるせいで、まだ少し湿っている屋内が、さしこんだ日の光であったかくなってムワっとした空気になった。

 ……あんまり、長くここの空気を吸いたくない。

 とんでもないことになった。当たり前だけど、家を出る時には全く想像してなかった。

 

「すごいなあ黒川さんは。私だったら『私はコテージに引きこもらせてもらうから!誰も近寄らないでよ!』って言いながらルビーのコテージに引きこもるのに」

「何で私のコテージ!? 私にもフラグ立っちゃうじゃん!」

「けど、うん。いーんじゃないかな。2日間退屈なくらいならこういうことしても。珍しい体験が出来そうだと思うから黒川さんに乗る」

「乗るって……あのね。危険なことかもしれないんだよ。犯罪を暴かれようとしたらきっと犯人も阻止しようとする。何されるか分からないんだよ」

「それはまあ、調べるのはこっそりやって、犯行に気付いてない演技すればいいんじゃない? 私たちの本業じゃん」

「いや、そんな簡単に……」

「というか、危ないと自覚してるのに黒川さんが一人でやろうとしてる雰囲気出してるのがよく分からない。何か黒川さんがパンドラの箱開けようとしてるのかなと思って、黒川さんの安全のためにもここについてきたんだよ私は」

「でも……」

「3人で行動した方がいいのは間違いなくない? ほら、ルビーだって乗り気だよ」

「え!? 私!?」

「……不知火さん。ルビーちゃんまで巻き込まないで」

「ルビーはどうしたい?」

 

 どうしよう。私はどうしたいんだろう。

 あかねちゃんの言う、私たちの安全も保障されてない、というのはそうかもしれない。でも、事件だと気付いて調べるそぶりを見せるのは、藪蛇かもしれないっていうのもそう。

 そして、あかねちゃんはその気になったら、必ずやる。実際プロデューサーの服を触っていたし、この人はたぶん、お兄ちゃんが止めないと本当に服だけじゃなくて遺体も触ってたかも。

 

 ママと一緒にアイドルをしていて、先輩が演じたニノは、先輩が卒業したあの日……私を標的にした、らしい。逮捕された彼女の証言を聞いて、明るみになった。事務所内限りの情報だけど、その逮捕劇の過程も知った。

 

 感謝よりも困惑や憤りを感じた、あかねちゃんの行動も。

 あの時以来、私のあかねちゃんを見る目は良くも悪くも変わった。

 

 普段はどちらかというと危うきに近寄らないし、昨日の夜私に言ったことが言える人のはずなのに。何かの拍子でタガが外れる。

 あかねちゃん本人と話したり、お兄ちゃんの話を聞く限り。その『拍子』が、「自分が何とかしなきゃ」と思う時だったり……あとは、私たち兄妹がらみの時でもあったことも、薄々感じてる。

 人柄の全てが世間の評判どおりの人じゃない、ちょっと危うい人だって。

 

 どのみちあかねちゃんはやる人で、3人で行動した方がいい理由もあって、私個人もあかねちゃんを一人にしたくない。

 だから、返事は一つしかない。

 

「そうだね。私もあかねちゃんと一緒に取り組むから。役に立てるか分からないけど」

「えぇー!? ダメだってば! アクアくんだってダメって言うよ!」

「今お兄ちゃんは関係ないでしょ! フリルちゃんの言うとおりだと思っただけ。3人一緒の方が安全だもん」

 

 あかねちゃんが一人で危ないことをしているのを看過したくない、と言ったら拒絶するだろうから。

 言い方を変えて、私にとってもその方がいいって表現にすれば、きっと。

 

「うーん……」

 

 あかねちゃんはこんなふうに、ちょっと揺れ動く人のはず。

 

「さぁ、やろう! あかねちゃん! 皆でこの島の平和を取り戻そう! おー!」

「おー、じゃなくて……」

「えいえいおー」

「ちょっと、不知火さんまで」

「まあまあ。じゃーさ、早速考えていきたいんだけど……水って、どっから? どうやって? なんでそんなめんどくさい手段を?」

「それは、私にもわからないけど……」

 

 3人で一緒に、というのを既成事実にしてしまおうとするかのように、有無を言わさずフリルちゃんがあかねちゃんに疑問を投げかけた。

 でもそっちの方がいい。一緒にやりたい、危ないからダメ、の押し問答を繰り返すより、早く具体的にこの話に切り込んだ方がいい。あかねちゃんの頭もそっちにいくし。

 

「気を悪くしないで、刑事ドラマの見過ぎだとかバカにしてるんじゃなくて。私は黒川さんの言うとおりだと思ってる。だからこれから見極めなきゃいけない事を具体的に挙げていきたいだけ」

「ちょ、ちょっと。不知火さん、自分で言ったのにこんなこと言うのも変だけど。状況に一番合致しているからそう推測しただけで、本当に死因がおぼれたからなのか確定、じゃないし……」

「アクアも言ってたけど、警察は遺体の状態を調べられるけど私たちは出来ないんだから。調べきれないところは仮定のまま進んだっていいと思うよ? それに」

 

 フリルちゃんがコテージの入り口まで歩いて行って、外されたドアの脇に置かれた補修用の粘着テープを手に取って、ピラピラ肩の高さで揺らしてきた。

 さっき3人で剥がしたやつだ。

 

「これの辻褄が合う気がして。ルビーと私がはがしたドアの下側のテープ、黒川さんがはがした上側に比べて汚れとかドアのささくれとかついてなかったでしょ。あれは……直近で下側だけ既に、テープを貼って剥がす、をやっていたからじゃないの?」

「え? なんで?」

「さっき黒川さんが言ってたじゃん」

 

 地面から一段高い所にある床。ストン、とそこから降りて、フリルちゃんが玄関から外に出た。

 

「犯行後、ドアの隙間から水を出していたなら……逆に言うと、犯行が終わるまでは水がジャバジャバ出ちゃ困るわけで。このテープで塞いでたってことじゃない? やることやるまで」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ドアの隙間から水を出していったのなら、なにかコテージの玄関の前にそんな痕跡が残っていないか。

 3人一緒にコテージを出て、玄関から少し離れたあたりまで地面を探してみたけど、特にそれっぽいものは見つからない。

 そもそも、ただ水がドアの隙間からビチャビチャと流れていっただけなら、すぐに乾いて何も残らない気がする。

 

 でもそれにしたって……朝起こすときにいびきが聞こえてきたから、朝の8:00にはまだ生きていて……10:00に遺体で発見される二時間の間にこんな犯行が行われていたのだとしたら。

 

「何にもないね……あかねちゃんは?」

「うーん……特に」

「私も。草がボーボーだしねぇ」

「……カントクが無理やり入った一時間前くらいも、そんなに地面は濡れていなかったよね? そんなにすぐ乾くかなあ」

 

 乾きすぎている気がする。

 コテージの中は分かる。いくら窓が開いているとはいえ、ほぼ密室だったのだから。こもった湿気の出口が限られていて、あのムワッとした空気になるのも分かるし、壁や布も湿っていた。私のコテージと同じだ。それにしても室内も乾きが進み過ぎている気もしたけど……。

 そして外も、朝起きた直後は、このコテージ周りに限らずどこかしこも台風の後でビチャビチャだった。その後日が高くなるにつれてどんどん乾いていったけど、ここも周りと同じくらい乾いている。

 もしも大掛かりな犯行が午前中にあったなら、台風が過ぎ去った後にもう一度ここは濡れているはずなんだけど。

 乾き方が同じなんて、あるのかな……?

 そもそも、もしプロデューサーが薬を飲まなきゃいけない体じゃなかったら、カントクの心配度合いが少なくて、もっと発見が遅かったりしたのかな……? その場合、もっと完璧に乾いていた……?

 

「んー……」

 

 あかねちゃんが両膝を地面について草をかき分けていた。

 コテージ周りは脛の高さくらいの夏草が生えていて、フリルちゃんが言っていたとおり地面の様子が中々見れない。

 

 痕跡がないなら、水を使った犯行は行われていなかったということ? プロデューサータックル二度寝説が正解?

 でもそれはフリルちゃんに違うって言われたしなあ。

 

 さっきも思ったとおり、例えあかねちゃんの言うとおりの犯行があったとしても、ただ水が流れ出ただけだから何も残ってなくてもおかしくない。

 だから、ここで何も見つからなくても、あかねちゃんとフリルちゃんの推理を否定するものにはならないはず……?

 

「ねえ、ここは探しても何も見つからないんじゃないかな? 水が流れた痕跡があればよかったんだけど……」

「そうだね……そうしよっか。私たち3人がここの周りにいる姿、見られない方がいいし、あんまりここをうろつかない方がいい」

「うーん、ルビーの言うとおり乾きすぎ、なのかなあ。でも直接日が当たる場所だし実際暑いし、そんなにおかしくない気もする」

「まあ、必ず分かりやすい形で証拠が残るとは限らないからね……」

 

 どうしても雑草が邪魔で、地面の様子を覆うように隠すから、その様子も見れない。

 せめて草が無ければ見れるんだけど──

 

「あ、ねえ、ここ何かないかな。コテージの床下」

「床下?」

「そ! 草生えてないから。玄関から水が出ていったとして、そういえば真下あたりまだ探してないじゃない? 灯台下暗しってやつ?」

「ルビーちゃん、そんなところに頭入れたら髪に泥が……汚れちゃうよ?」

「だいじょーぶだいじょーぶ! ……あー、意外とこの姿勢、つら……」

 

 中腰で入るのは厳しいけれど、四つん這いになれば余裕で入れる。膝に泥ついちゃうけど、後で洗うしかない。軍手をはめて床下に入ると、日が当たらずジメジメしているけれど、昼間だと十分明るい床下の様子が見れた。

 足の多い虫がうごめき、よれよれの蜘蛛の巣がぶら下がるように張られてる。元々だれも住んでいなくて、ゴミとかはないから臭くは無いけど……

 特に何もなかったし、草が生えてない地面の土の様子も、特にデコボコしたりとか、都合のいい物は見つからなかった。というより、コテで均したように平ら。台風の大雨の水が、当然この床下も勢いよく流れていったから?

 

「どう? 何かあった?」

「んー……なんもなさそうだし、虫キモイからもう早く出たい」

「そうだよね、ありがとう。もう戻ってきて? 頭ぶつけないでね」

「絵面的にルビーのお尻がしゃべってるみたいでおもろい」

「どっこいしょ……あれ?」

 

 頭を引き抜こうとして体全体を後ろに少し下げたその時。ちょうど建物の支柱のすぐ脇に、四角いへこみがあった。

 本当に支柱のすぐ近くで、それもコテージ内側方向にあって見つけにくい場所だった。

 四角くて、指を除いた掌よりも少し大きいくらいの大きさ? で、へこみと言っても、ほとんど深さはない。本当に1mmもあるかどうか。それより薄い。

 何かすごく軽いものが置かれていて、少しだけへこんだ……というより、跡が残っただけような。

 でも、綺麗な直線の四角形で、間違いなく人工のものが置かれていたように見える。何か、ここにあった?

 

「ルビーどしたん?」

「なんか、ここに何かあったけど無くなってるような跡が……」

「……ルビーちゃん、私も見る」

 

 言った直後にガサガサと音がした後、暗がりの中あかねちゃんの顔が私のすぐ真横までやってきた。

 私のようにまとめて束ねて流すわけでもなく、髪の毛先が泥に触れていた。

 

「どれ? これか……なんだろうね、コレ」

「何か上に置かれてたと思うんだけど、自然の石とかじゃないよね? 綺麗な長方形だから」

「うん……」

「あ、でもさ……考えてみれば、随分前からここにあったものだったりしない? 床下だから踏まれたりしないで、このへこみもずっとこのままだったとか! だからあんまり関係ないんじゃ」

「……台風の最中は、あの凄い豪雨が床下にも流れただろうし、実際周りの地面は石があるところ以外は綺麗に平らになってる。このくらいのへこみ、前からあったなら……台風の雨水で均されて無くなってるはず。これは昨晩の台風の後に出来たものだと思う」

「えっじゃあ……事件に関係ある!?」

「私はたぶんそうだと思うけど」

「やったー! 私役に立てた!?」

「あ、あはは、そうだね……」

 

 ここにあったものが何だったのか。あかねちゃんの言うとおり事件に関係があるとすれば……例えば、プロデューサーのコテージから流れ出たものだったりしないかな?

 そうである証拠があれば、いよいよこれが本当に水を使った事件の可能性が高まっていくんだけど、肝心のこれが何なのか分からない。

 何があったんだろう……?

 

「二人ともなんか分かりそう? 見られちゃまずいんでしょ? 早めに出た方が良くない? 大丈夫そ?」

「あ、フリルちゃんもう出るから!」

「うん、写真撮っておしまいにする。ちょっと待って。ルビーちゃん、このへこみの横に手を添えてくれる?」

「え? なんで?」

「おおよその大きさも記録するため……後で写真見た時に比べるものが無いと大きさが分からなくなっちゃうから。ルビーちゃんの指が定規代わり」

「へー! なるほど! 大きさねー。うーん」

「どうしたの?」

「そういえば、このへこみの大きさ、なんだかすごく既視感があると言うか……何かを思い出す大きさなんだよね……」

「え!? ルビーちゃん頑張って思い出して!」

「うーん、もうすぐそこまで出かかってるんだけど……なんだっけこれ……」

「頑張って……ルビーちゃん、お願い……!」

「うう、ごめんあかねちゃん……こういうのって、思い出そうと気合い入れるほど思い出せないんだよね……」

「お二人さん、その話し合い床下出てからやらない? こっちから見てるとお尻同士が会話してるみたいなんだけど」

 

 

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