地底スタートの幻想郷生活 修正版   作:四国の探索人

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第14話 後悔させてやる

灼熱地獄の縁――赤黒い岩肌が広がるその過酷な地に、ユウスケの姿をした瑞霊が立っていた。

周囲の熱気に目を細めつつも、彼女は涼しげな表情を浮かべていた。

 

「これくらいの環境なら、肉体は耐えられる。けど、内側の意識は……確実に削れるわね」

 

瑞霊は背負ったバッグを下ろし、岩場に腰を下ろす。

その表情は淡々としていたが、その瞳の奥には冷酷な計算が光っていた。

 

「これであなたの“残り”も静かになるわ。消えなさい、ユウスケ」

 

 

 

 

 

そのときだった。

遠くから、懐かしい声が聞こえた。

 

「……ユウスケ? こんなところに、何しに来たの?」

 

 

 

振り向くと、岩陰からパルスィが姿を現した。

息を切らし、顔には戸惑いと不安が入り混じっている。

 

瑞霊は驚くこともなく、にこりと笑った。

 

「パルスィ。君の方から来てくれるなんて、嬉しいよ」

 

 

 

その声音には、確かに“優しさ”があった。

だが、どこか――わずかに、温度が違っていた。

 

パルスィはその場で立ち止まり、怪訝そうに首をかしげる。

 

「……なんか、今日のユウスケは、少し変」

 

「変? そうかな? 君に会えたからかもしれない」

 

「いや、そうじゃなくて……言葉遣いとか、空気とか。いつもとちょっと違うのよ」

 

 

 

瑞霊は一拍、笑みを止めた。そしてすぐにまた、柔らかい笑みを作り直す。

 

「気のせいだよ。君に会えたから、緊張してるのかもしれないな」

 

 

 

パルスィはその笑みに対し、無表情で応える。

ただ、視線はわずかに逸らされた。疑念が、確かに彼女の中に芽生えていた。

 

 

 

「この人……本当にユウスケなの?」

 

 

 

 

 

瑞霊は気配の変化を察した。

 

(――面倒ね。もう少し泳がせるつもりだったけど)

 

 

 

それでも、声色は変えない。

 

「ねえ、パルスィ。せっかくだから、こっちに座って。久しぶりに、君と話したいんだ」

 

「……わかったわ」

 

パルスィは慎重に歩を進め、岩に腰を下ろす。その動作一つひとつが、観察の目になっていた。

 

 

 

だが、パルスィの背後から、じりじりと――瑞霊の殺気がにじみ始めていた。

 

(消してしまえば、静かになる。あの自我も、ついでに一緒に引きずれて落ちてくれる)

 

 

 

そして、その瞬間。

 

瑞霊の手が、無音で短剣を具現化する。

風もない熱地の中で、静かにそれを構え――

 

「やめろ……!」

 

 

 

脳内に、鋭く響く“拒絶”の声。

 

瑞霊の動きが止まる。

 

(……今のは……ユウスケ!?)

 

刹那、彼女の視界が揺れる。

身体の奥から、激しい拒絶反応が湧き起こった。頭痛、動悸、視界の乱れ。

 

 

 

パルスィは、それを見逃さなかった。

ユウスケが、自分に刃を向けようとするはずがない。

 

「やっぱり……あなた、ユウスケじゃない」

 

 

 

 

 

瑞霊は視線を戻し、再び笑顔を作ろうとしたが――その頬は引きつっていた。

 

「……何を言ってるんだい、パルスィ?」

 

 

 

 

 

だが、その“柔らかすぎる声”が――決定的だった。

 

パルスィの目が静かに細まる。

 

「あなた、誰?」

 

 

 

 

 

瑞霊の表情から、ついに笑みが消える。

 

風がないはずの地底で、まるで気温が一段階下がったような空気が漂い始めた。

 

 

 問いに、瑞霊はわずかに眉をひそめ――そして、舌打ちをした。

 

「……ちっ。バレたなら、仕方ねぇよな」

 

 

 

 

 

その声音は、今までの穏やかさとは打って変わって、男勝りなほどにドライだった。

瑞霊の瞳から優しさが失せ、鋭い輝きだけが残る。

 

パルスィは一歩、前に出た。

 

「やっぱり……ユウスケじゃなかったのね。最初から変だった……声も、態度も、眼も」

 

 

 

 

 

瑞霊は肩をすくめて、まるで面倒くさそうに答える。

 

「そうだよ、認めてやる。私は宮出口瑞霊――亡霊さ。こいつの身体を気に入って、ちょっと“借りてる”だけだ」

 

 

 

 

 

パルスィの顔に怒りが走る。

 

「“借りてる”? ふざけないで!」

 

 

 

 

 

だがその瞬間、瑞霊は一転して、静かに――だが、酷く冷えた口調で告げる。

 

「……だが、どうした?」

 

 

 

「私がユウスケじゃないと分かったところで、どうする気だ?」

 

 

 

瑞霊は、拳を軽く握り、地を蹴って一歩踏み出した。

殺気が熱気に溶けて、パルスィの喉元を刺すように迫る。

 

「忘れるな。私を殺せば、この身体の持ち主も、つまり――ユウスケも死ぬんだよ」

 

 

“ユウスケ”の姿をした瑞霊が、不敵に笑いながら言った。

 

 

それは、脅しであり、嘲りだった。

だが――

 

 

 

「よかった。」

 

 

 

 

 

それを聞いたパルスィは、ふわりと微笑んだ。

 

口元には柔らかな笑み。

けれど、その瞳の奥は――冷たい。

 

 

 

瑞霊の目が細くなる。

 

「……何が、“よかった”んだよ?」

 

 

 

 

 

パルスィは一歩前に出て、はっきりと言った。

 

「まだ、中に意識が残ってるのね。ユウスケは、完全には奪われてない」

 

 

 

 

 

瑞霊の口元に、不機嫌そうな歪みが走る。

 

 

 

「チッ……まあな。折角のこの人間、いい能力を持ってるんだ。**具現化能力に加えて、思考速度もなかなか優秀だ。**使えるものは使う主義でね。返さねぇよ、絶対に」

 

 

 

 

 

パルスィの目元から、ゆっくりと“怒り”が現れてくる。

 

笑顔はすでに消え、その表情には憤りと、狂おしいまでの感情が入り混じる。

 

 

 

「彼を奪ったこと――」

 

 

 

「絶対に、後悔させてやる」

 

 

 

 

 

その言葉が放たれた瞬間、空気が震えた。

 

 

 

パルスィの背後に、淡い緑色のオーラが立ち上がり、嫉妬の瘴気が地を這うように広がる。

 

瑞霊は、初めてわずかに身構えた。

 

 

 

「やれやれ。面倒な女に好かれちまったもんだ、ユウスケも……」

 

 

 

 

 

「面倒でも、狂っていても――私の感情は、全部ユウスケのためよ」

 

 

 

 

 

パルスィの瞳が鋭く光り、彼女の足元に嫉妬の杭が浮かび上がる。

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