瑞霊の指先に、ユウスケの能力によって生成された拳銃が現れる。
冷たい金属の銃口が、真っすぐパルスィへと向けられた。
「ただの妖怪が……どれだけ耐えられるかな!」
その声音には怒りと焦りがにじんでいた。
だが――次の瞬間。
引き金にかけた指が動くより先に、瑞霊の手が勝手に動いた。
グラリと銃口が逸れ、弾丸は空しく別の方向へ発射される。
パァンッ!!
石壁に弾が弾け、粉塵が舞う。
「……ちっ……!」
瑞霊は苦々しく舌打ちし、拳銃を握る手を睨みつける。
「こいつの体が……明確に拒否反応を示しやがる……!」
その隙を、パルスィは逃さなかった。
足音ひとつ立てず、嫉妬の瘴気をまといながら、するすると距離を詰めていく。
「借り物の体で、勝てると思ってるの?……この詐欺師」
パルスィの言葉は静かだが、鋭い刃のように瑞霊の神経を切り裂いた。
「畜生……来るな!来るんじゃねぇ……!」
瑞霊は後ずさりながら、銃をもう一度構えようとする。だが手は震え、狙いは定まらない。
「それ以上近づいたら――自殺する。こいつごと、吹っ飛ばしてやるからな……!」
銃口は自らのこめかみへと向き直されている。
その指には確かに、引き金を絞る力が込められていた。
パルスィは、迫る足を一瞬だけ止めた。
彼女の顔が微かに歪む。
“怒り”と“嫉妬”、そして――恐れ。
「……ふざけないで」
そう口にしても、足が止まった事実は否定できない。
彼女の脳裏を、“もし撃たれてしまったら”という最悪の未来がよぎる。
「ユウスケは……死なない……」
自分に言い聞かせるように呟いたが、手は握りしめられたままだ。
瑞霊はその反応を見て、ふっと薄ら笑う。
「あぁ?怖いか?なあ、お前も分かってんだろ。こいつが中にいるってことは、私が引き金を引けば、こいつも一緒に道連れってことだ。最も私は亡霊だから逃げおおせるがな」
パルスィは瑞霊の前に立ち、目を伏せながら呟いた。
「ごめんね、ユウスケ。こうするしかないの……」
彼女が翡翠色の手を掲げると、その周囲に無数の緑色の光が揺らめき始める。
それは、彼女の感情を具現化した“嫉妬の弾幕”――
瑞霊が構えた拳銃の銃口に狙いを定め、容赦なく放たれた。
「――ッ!」
瑞霊は目を見開き、とっさに引き金を引くが、その手には明らかな焦りがあった。
パンッ!
弾は弾幕の中心からわずかに逸れ、光の波を切るだけに終わる。
次の瞬間、パルスィの弾幕がユウスケの右腕を直撃した。
「あッ――!」
激しい閃光とともに、右腕が根元から吹き飛ぶ。
ユウスケの身体が膝をつき、痛みによる本能的な絶叫が響いた。
「クソが!……あ゛あ゛!? お前、頭おかしいんじゃねえのか!」
瑞霊は怒りに満ちた表情で、地面に拳を打ちつける。
「あーもういいよ!この体もクソも、どうでもいい!」
「ただし――こいつには死んでもらうぜ!」
歯を食いしばりながら、彼女は左手に拳銃を再生成しようとする。
だが、その瞬間。
パルスィの姿が一瞬で間合いを詰めた。
瑞霊が銃を構える暇もなく、パルスィの手が彼女――ユウスケの首をがっしりと掴む。
「妬ましい……妬ましい……! 私の大切な人を、汚したあなたが――」
その手から放たれるのは、ねっとりと絡みつく嫉妬の感情。
視界がねじれ、意識の奥に黒い靄が広がる。
瑞霊の表情が歪む。
「っ……うぅ……っ、な、何だ……この感情は……!」
怒り、孤独、承認欲求、愛されなかった記憶、他人の幸せを恨む心――
パルスィの心に巣食う“嫉妬”が、容赦なく流れ込んでくる。
「こんな……クソみたいなもん、見てられるかよッ!!」
悲鳴とともに、瑞霊の霊体がユウスケの肉体から弾かれるようにして飛び出した。
淡く揺れる紫の霊体――宮出口瑞霊は、忌々しげにパルスィを睨みつけながら、地の底へと逃げるように飛び去った。
「覚えてろよ!クソ女がッ!」
その声は、次第に遠く、霞んでいった――
パルスィは掴んだままのユウスケの身体をそっと支え、ひざまずく。
傷だらけの身体はまだ呼吸をしていた。
「……ユウスケ……」
「もう、絶対……離さないから」