地底スタートの幻想郷生活 修正版   作:四国の探索人

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第16話 目覚めと独占欲

ユウスケの瞼がゆっくりと開く。

ぼんやりとした視界に、天井の木目が揺れて見えた。

 

そばには、パルスィが、泣きそうな顔で座っていた。

 

「……パルスィ……?」

 

彼のかすれた声に、パルスィはぴくりと反応し、顔を上げた。

 

「ユウスケ……! よかった……っ、意識が戻って……!」

 

パルスィは躊躇なく彼に抱きついた。細い身体が震えていた。

 

「……全部、覚えてる。操られてた間のことも……」

 

「パルスィに銃を向けた。引き金を引こうとしてた……でも――」

 

ユウスケは目を伏せ、右肩へ視線を落とす。 包帯で巻かれたその先には、もう右腕がない。

 

「あのとき……俺、自分に向けて撃とうとしてた」

 

「俺の体が……瑞霊に操られて……。あれが、パルスィの弾幕じゃなかったら……多分、俺は……」

 

その言葉に、パルスィの目に涙が浮かぶ。

 

「……ごめんなさい……!」

 

パルスィはユウスケの左手を掴み、必死に言葉を続ける。

 

「他に手段がなかったの。だけど……私が撃ったあの一発で、ユウスケの腕を……」

 

「私のせいで、ユウスケの身体が……!」

 

彼女の声は震えていた。責める言葉を待つように、目を逸らしながらも手を離そうとしない。

 

ユウスケは、そっとその手を包み込んだ。

 

「……ありがとう、パルスィ」

 

「俺を助けてくれて。本当に……助かったんだ」

 

「俺が……俺自身を殺そうとしてたこと、あのときはどうすることもできなかった」

 

「でもパルスィが……俺を止めてくれた。だから、今こうして目を覚ましてるんだ」

 

パルスィの目に、再び涙が溢れる。

 

「……そんな風に言われたら、私はもう……」

 

「何もできなかった……怖かったの……! ユウスケがいなくなるのが、怖かったの……!」

 

「いなくなんてならないよ。パルスィが止めてくれたから、生きてる」

 

彼の言葉に、パルスィは顔を伏せて嗚咽を漏らす。 その涙は、恐怖からの解放と、彼が生きて戻ったことへの深い安堵だった。

 

「右腕は失ったけど……パルスィが守ってくれたこと、俺は一生忘れない」

 

そう告げるユウスケの左手には、強い温もりが宿っていた。

 

パルスィは、その手をぎゅっと握り返しながら、小さく呟いた。

 

「ユウスケが戻ってきてくれたこと……それが、私にとっての救いなの……」

 

少しの沈黙の後、彼女はそっと囁いた。

 

「……でも、もうこんな危険な目に遭うのは、二度と嫌。次に失いそうになったら、私……きっと耐えられない」

 

ユウスケは黙って彼女を見つめる。その目には、まだ気づかない不安が滲んでいた。

 

「だから、ね。ユウスケ。しばらくの間……私のそばから、絶対に離れないで」

 

その言葉には、哀願とも命令とも取れる熱が宿っていた。

 

「私が、ちゃんと守ってあげる。私だけが……あなたを守れるんだから」

 

それはどこか狂気を帯びた愛情の告白。 パルスィの心には、芽生えてしまった――独占欲という名の影が、静かに根を張り始めていた。

 

 「何か、お茶でも用意してくるね」

 

そう言って、パルスィは顔を手で覆いながら部屋を出ていく。 ユウスケは一瞬、不思議そうにその背中を見送ったが――単に涙を隠しているのだと思い、特に声をかけることはなかった。

 

だが、廊下に出たパルスィの表情は、まるで別人のように笑みに変わっていた。

 

(……あの傷。もう二度と癒えることのない傷。 これで、彼が私を忘れることはない)

 

(あの傷を見るたびに、私のことを思い出してくれる)

 

嬉しそうに、ほくそ笑むパルスィの目には、ほの暗い喜びと執着が宿っていた。

 

 

 

 彼女は台所に向かい、急須を手に取る。その手の動きは穏やかで、丁寧で、だがその目だけは、どこか遠くを見ていた。

 

お湯を沸かす間、ふと彼女は壁にかけられた棚を見上げる。そこには、古びた鍵束がかかっていた。地底にあるこの家の、使われていない部屋――そして、閉じた扉。

 

パルスィは棚から鍵を取り、ゆっくりとそれを自分の服の内側にしまい込む。

 

(ユウスケを守るには……それしかない。あの子は優しすぎて、自分からまた危険な場所へ行こうとする。瑞霊のような奴がまた現れたら……)

 

彼女の手が、ふと震える。

 

(もう、そんなのは嫌。絶対に……失いたくない)

 

沸騰する音が響き、急須にお湯を注ぎながら、パルスィは静かに呟いた。

 

「……ごめんね、ユウスケ。あなたが悪いんじゃない。でも……」

 

湯気の立ち上る中、彼女の表情はどこか満たされたものに変わっていた。

 

「あなたを守るために、私が決めたの。あなたを、この手で閉じ込めるって」

 

再び湯呑みを盆にのせ、微笑んだまま、パルスィはゆっくりと部屋へ戻っていった。

 

その手に、鍵があることを、ユウスケはまだ知らない。

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