紅魔館に到着した魔理沙とユウスケは箒から降り、門へと歩みを進めた。
「……誰かいるな。門番のようだが」
魔理沙が目を細めて言う。ユウスケは倒れた人物に目を向けた。
「……倒れてますね。誰かにやられた跡のような」
「くっそ、霊夢の奴……また先を越しやがった!」
悔しげに舌打ちをしながら、魔理沙は門番・紅美鈴を横目に館の中へと急ぐ。ユウスケもそれに続いた。
館内に入ると、奥から戦闘の音が聞こえてきた。
「……おっ、追いついたみたいだな。あれだあれ」
魔理沙が指さす先には、博麗霊夢、十六夜咲夜、パチュリー・ノーレッジの三人が、激しい戦闘を繰り広げていた――かと思いきや、実際には咲夜とパチュリーが二人がかりで霊夢を相手にしている状況だった。
「博麗の巫女を相手に全力で止めろと、お嬢様から命じられましたが……これではまるでいじめですね。私は退いてもよろしいかしら」
咲夜がナイフをひらひらとさせながら言う。霊夢はその挑発に苛立った様子で返した。
「なに調子に乗ってんのよ……私はまだ本気を出してないだけよ!」
「その“本気”とやら、いつになったら見せてくれるのかしらね」
パチュリーが冷静に応じたそのとき、霊夢の背後からユウスケが姿を現す。
「……ん?ユウスケ? あんた、なんでここに……てっきり魔理沙かと思ってたわ」
「紫に言われまして。魔理沙は“地下にお宝の気配がする”って言って、どっかに行きましたけど」
「ふーん。紫の差し金ね。……言っとくけど、私一人でも勝てたんだから!」
霊夢は悔しそうに言い放つが、その口調には少しだけ余裕が戻っていた。
パチュリーが冷ややかな目を向けて言葉を放つ。
「人間が一人増えたところで、巫女の足手まといになるだけじゃないかしら?」
そう言い放つと、手のひらに魔力を集中させ、呪文を詠唱する。
「日符『ロイヤルフレア』」
ユウスケもまたそれに応じるように呟く。
「日符『ロイヤルフレア』」
二人の放った技が空中で激しくぶつかり合い、爆ぜるような音を響かせた。煙の中からパチュリーが一歩後退しつつ驚きを滲ませる。
「……私の魔法を?」
もう一度、今度は別の魔法を試すように構える。
「金符『シルバードラゴン』」
ユウスケもまた、まるで鏡写しのように同じ技を繰り出す。
「金符『シルバードラゴン』」
再び魔法が激突し、館の内部に強い魔力の風が巻き起こる。パチュリーは目を細めてつぶやいた。
「なるほど……同じ魔法を習得していたわけじゃない。これは模倣。分野の異なる魔法をここまで正確にコピーできるなんて、普通の人間には不可能よ」
咲夜が目を見開く。
「人間が、パチュリー様の魔法を真似たですって……?」
霊夢が冷やかすように笑みを浮かべる。
「得意の魔法を真似されて、ちょっと怖気づいたんじゃない?」
パチュリーは鼻で笑い、魔力をさらに高めながら言い返す。
「笑わせないで。本物とコピーの差がどれほどあるか、思い知らせてあげるわ」
パチュリーは冷ややかな眼差しをユウスケに向けながら、つぶやく。
「コピーされるなら、他の手を取るまでよ」
彼女が詠唱を始めるのと同時に、ユウスケも同じように呪文を唱え始めた。だが、数節進んだところでユウスケは急に言葉を止め、代わりに低く声を発する。
「生成『MP5』」
詠唱中の隙を突くようにユウスケは銃を生成し、瞬時にパチュリーへと銃口を向けて引き金を引く。しかし次の瞬間、パチュリーの姿はかき消え、銃弾は背後の壁を抉るだけだった。
「狙ったはずなのに……」
そう呟いたユウスケに、どこからかパチュリーの声が響く。
「詠唱の途中なら隙があると思った? 甘いわね。……転送魔法」
その言葉と同時にユウスケの足元に魔法陣が浮かび上がり、彼の姿が瞬時に消える。
そして、次にユウスケが現れたのは――咲夜の正面だった。
彼女はすでに戦闘態勢に入り、刃の煌めきを放っていた。
「死になさい」
咲夜が手を振ると、無数のナイフが雨のようにユウスケへと降り注ぐ。
(ダメだ……避けられない。ガードも間に合わない)
心の中でそう思った瞬間、ユウスケは願うように声を発した。
「発動してくれ……“境界を操る程度の能力”」
すると彼の目の前に大きくスキマが開き、ナイフの雨はその中へと吸い込まれていく。
咲夜は驚きの表情を浮かべる。
「……別空間に移動させたの?」
ユウスケは冷静にその言葉に応じ、即座に行動に移った。
「それだけじゃない」
彼は再びスキマを展開し、今度はその出口をパチュリーのすぐ横に出現させる。そこから、先ほどのナイフの雨が逆流するように飛び出し、パチュリーへと襲いかかる。
「……防御魔法」
パチュリーは咄嗟に魔力の障壁を展開し、ナイフの一撃一撃を弾く。しかしその表情には、わずかな驚きと緊張が浮かんでいた。
「パチュリー様、申し訳ありません!」と咲夜が詫びる。
「いいのよ、咲夜」とパチュリーは静かに答えながらも、視線は鋭くユウスケを見据えていた。
ユウスケは、霊夢の背中に向かって静かに声をかけた。
「霊夢、ここは自分一人で大丈夫です。紫から“できるだけ早く異変を解決しろ”と指示されているので、先に進んでください」
霊夢は少し驚いたように振り返るが、すぐに薄く笑って頷いた。
「ふーん。分かったわ。……でも、あとで泣きつかないようにね」
そう言い残して、霊夢は軽やかな足取りで奥の廊下へと消えていった。
それを見送った咲夜の表情が険しくなる。
「……私とパチュリー様を相手に、一人でやるつもり? いい度胸ね。どこまで舐めてるのやら」
彼女の声音には、明らかな怒気がこもっていた。
それを受けて、パチュリーも魔導書で口元を隠しながら静かに言葉を重ねる。
「本来なら、あの巫女もここで止めるべきだったけど……フランとレミリアの能力を彼に見られるのはまずいわ。ここは二人がかりで確実に片づけましょう」
ユウスケは咲夜とパチュリー、二人の殺気を真正面から受け止めながらも、冷静に構え直した。