地底スタートの幻想郷生活 修正版   作:四国の探索人

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第25話 停止した世界の中で

ユウスケはポツリと呟く。

 

「紫の能力……。確かに幻想郷の賢者と呼ばれるだけのことはある。あの“境界”を操る力、理不尽だ。」

 

その時、パチュリーが鋭く詠唱を始めた。

 

「日符《ロイヤルフレア》」

 

ユウスケもそれに応じる。

 

「同じ技を出しても変わりませんよ、日符《ロイヤルフレア》」

 

二人の魔法が空中で激突し、轟音と共に光が弾ける。互角の火力。しかし、その均衡を崩す者がいた。

 

咲夜が静かに時間を止める。

 

世界が静止した空間で、咲夜は一本のナイフを取り出すと、無音の空中に向けて投擲した。

 

そして、時間が動き出す。

 

ナイフはユウスケの死角から飛来し、寸前で彼は気づく。

 

「――っく、くそっ!」

 

ユウスケは咄嗟に手を伸ばし、軌道に触れるようにして身体を守った。致命傷は避けたが、手には鋭い痛みと共に血が滴る。

 

咲夜は冷ややかに笑う。

 

「なるほど、能力のコピーは一つずつしか使えないのかしら?器用なようで、不器用ね」

 

パチュリーも追い打ちをかけるように言葉を重ねる。

 

「いくら真似できたところで、同時に複数の術を操れないなら……こちらに軍配が上がるわ。人数差が物を言うのよ」

 

ユウスケは歯を食いしばりながら、血を拭う。

 

「――でも、“あの力”はまだ使っていない」

 

戦況は厳しい。だが、まだ打つ手はある。

 

 パチュリーと咲夜はユウスケを左右から挟み込み、詠唱と共に同時に魔法とナイフを放った。

 

「今度こそ――終わりよ」

 

魔力と殺意が交差するその刹那、ユウスケは不敵に笑みを浮かべた。

 

「――“時を操る程度の能力”」

 

世界が凍りつく。すべての動きが停止し、空間から音が消えた。

 

だが、その止まった世界の中で、ユウスケともう一人だけが動いていた。

 

咲夜が静かに言葉を落とす。

 

「私じゃない……あなたが時間を止めたのね」

 

ユウスケは淡々と返す。

 

「攻撃を避けるだけなら、元から出来ていました。でも……この状況なら、“あの魔法使い”に確実にダメージが入る。」

 

そう言って、ユウスケは一歩後ろへ下がる。

 

今やユウスケのいた場所には誰もいない。残されたのは、パチュリーの放った魔法と咲夜のナイフ――

 

咲夜が少しだけ顔をしかめる。

 

「……このままだと、パチュリー様が私のナイフを受けることになるわね」

 

ユウスケは笑みを深めた。

 

「どちらにせよ、これで――一対一だ」

 

咲夜は眉を寄せたまま、静かに近づく。

 

「ナイフを投げたいところだけど、止まった時間の中じゃ刃は進まない。どうやら……近接戦しかないみたいね」

 

ユウスケも一歩踏み出し、応じる。

 

「正直、貴方に“時間停止”を駆使される方が厄介でした。今のほうが、幾分やりやすい」

 

咲夜は腰のホルダーからナイフを抜き、構える。

 

「コピー能力を過信しないことね。私のような“プロのメイド”相手に、素人の真似が通用するとは思わないことよ」

 

空気が張りつめる。

 

止まった時の檻の中、2人の殺意と静寂が交差する――

 

 

 

 ユウスケ「生成――“ライフル”。」

 

時間が止まった世界の中で、黒いライフルが彼の手元に現れる。

 

咲夜は目を細めた。

 

「ふぅん……時間が止まっていても、生成能力は使えるのね?」

 

ユウスケは答える。

 

「コピーした能力を同時に使えないだけで、武器の生成くらいは可能です。」

 

「なるほど……」

咲夜はゆっくりと歩き出す。円を描くようにユウスケの周囲を旋回しながら、視線はライフルの銃口にまっすぐ向けたまま。

 

ユウスケ(……焦るな。動いた瞬間を撃つ……)

 

だが、次の瞬間、咲夜は無言で上着に手をかけ、脱ぎ始めた。

 

本来なら視線を逸らしたくなるが――戦闘中のユウスケにその選択肢はない。狙いを外さず、スコープを覗き続ける。

 

「女性の着替えを見続けるなんて、紳士じゃないのね。」

 

「この状況で目を逸らすわけにもいきませんよ。」

 

その返事に咲夜は微笑を浮かべ、脱いだ上着を投げた。

ヒラリと舞う布がスコープを塞ぎ、視界が完全に閉ざされる。

 

「――っ!」

 

ライフルを撃つ。だが弾は布越しに狙いを外れ、咲夜の横を掠めて消えた。

 

その直後、ユウスケに影が覆いかぶさる。

 

咲夜が接近していた。

 

「甘いわよ」

 

喉元にナイフが迫る。

ユウスケは咲夜の腕を掴み、全力でそれを押しとどめた。

 

「女性の気持ちも受け入れるのが、大人の男じゃないかしら?」

 

「これは気持ちじゃなくて……物理です!!」

 

咲夜は徐々に体重をかけてナイフを押し込もうとする。

 

ユウスケ(くっ、力では分が悪い……!)

 

彼は上を見上げると、叫んだ。

 

「生成――“レンガ”!」

 

空中に出現したレンガが、咲夜の頭上に落ちる。

 

咲夜は反射的に身を引いた――その一瞬の隙を突いて、ユウスケは力を込めてナイフの軌道を逸らす。

ナイフは彼の肩を裂いたが、致命傷には至らなかった。

 

「今だ……!」

 

ユウスケは片手で小さな針を生成し、そのまま咲夜の首筋に突き刺す。

 

咲夜「――麻酔……っ」

 

麻酔針を引き抜こうとするが、その前に身体が崩れ落ちた。

 

「申し訳……ありません……お嬢様……でも……彼ももう、動けないはず……」

 

その言葉と共に、咲夜は眠りに落ちる。

 

……が。

 

「生成――“怪我のない体”。」

 

立ち上がるユウスケの身体には、傷ひとつ残っていなかった。

 

咲夜の瞳が最後に見たのは、完全に回復したその姿だった。

 

「回復……まで……できるの……?」

 

そして、意識を手放す。

 

 

 

ユウスケは深く息を吐くと、止まっていた時間を再び動かした。

 

 

 

パチュリー「えっ――」

 

再開された時間の中で、彼女の腹部に突き刺さったナイフから、じわりと血が滲む。

 

咲夜が時間停止前に放った一撃――それが、今になってパチュリーを穿っていた。

 

「……そう、よね。考慮すべきだった……彼は、咲夜の能力までコピーしてたのね。」

 

ユウスケはそっとナイフを抜き取る。

 

パチュリー「……殺しなさい」

 

その瞳に諦めが浮かぶ。

 

だが――

 

「誤解です。僕は誰も殺したくてここに来たわけじゃない。」

 

ユウスケはパチュリーの傷に手をかざす。

 

「生成――“回復の手”。」

 

光が差し込むように、パチュリーの傷がみるみるうちに閉じていく。

 

驚きの表情で自らの腹を押さえるパチュリー。

 

「傷跡が……ない……」

 

 パチュリーは立ち上がることはせず、その場に腰を下ろしながら、穏やかな声で言った。

 

「……感謝、するわよ。私がこのまま戦っても、あなたには勝てなさそうね。」

 

彼女の瞳からは敵意が消えていた。

 

「行きなさい。フランと……レミリアのところへ。」

 

ユウスケは無言で頷くと、振り返らずに紅魔館の奥へと足を進める。

 

――戦闘の余韻に満ちた図書館を後にして、彼はさらに深く幻想郷の核心へと歩を進めていく。

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