紅魔館の廊下を、ユウスケは静かに、だが確かな足取りで進んでいた。廊下の壁には弾痕が残り、時折天井から崩れた瓦礫が散らばっている。重い空気の中、先ほどまでの戦いの名残が漂っていた。
その時――
ドゴォォォォォンッ!!
凄まじい爆発音が館を震わせた。壁の向こうで吹き飛ぶ瓦礫、天井から舞い落ちる埃。振動が足元を揺らす。
ユウスケ(今のは、すぐ上か……!)
即座に階段を駆け上がる。手すりを蹴って飛び上がると同時に、屋上の扉を開け放った。
まばゆい光と轟音。そこは、まさに戦場だった。
空には無数の光弾が交錯し、紅魔館の屋上は弾幕と閃光の嵐で埋め尽くされていた。
霊夢は華麗に宙を舞いながら、数十枚の御札を展開。「夢想封印」が四方からフランドールに向かって撃ち出される。
だが、フランドールは笑いながらそれらを指先で弾き
フラン「壊れろっ!」
その言葉と共に、霊夢の放った御札の一部が空中で爆ぜた。
魔理沙「またかよっ、こっちの弾幕まで壊してくるとか反則だろ!」
魔理沙の背後では、光の奔流――マスタースパークの余波が地面を焼き尽くしていたが、それでもフランは飛び回りながら、それを次々と「破壊」していく。
レミリアはその後方、高みから戦場を見下ろしている。
レミリア「フラン、やりすぎて壊しすぎないようにね?屋根は直すのが大変なのよ」
霊夢「なによ、それじゃああんたらはまだ全力を出してないってわけ?」
レミリア「ええ。お姉様ってのは見守るものなのよ、妹の成長を」
魔理沙「霊夢、あれが本気じゃないってマジかよ……!」
屋上の隅に足を踏み入れたユウスケは、その場に漂う魔力の濃密さと戦場の熱に目を細める。
ユウスケ(まるで災害……。人間の範疇を超えた力の応酬だ)
一歩踏み出そうとしたその時、空から落ちてきた一枚の瓦礫が、足元に砕け散る。反射的にスキマを開き、転送して回避。
霊夢が気づく。
霊夢「ユウスケ!?あんた来たの?」
ユウスケ「紫から異変の迅速解決を命じられてきました。けど……これは想像以上ですね」
魔理沙「見ての通りだぜ。あいつら、化け物の中の化け物だ!」
空に笑う、破壊の権化・フランドールは、既に次の弾幕を構え始めていた。
ユウスケが屋上に降り立ったその瞬間、空気が僅かに震えた。
弾幕の応酬で空は紅と紫に染まり、風は焦げた硝煙の匂いを運んでいた。
彼の姿に気付いたレミリアが、興味もなさそうに目を細める。
「新手?……ふふ、ちょうど退屈してたところなのよ」
軽く欠伸を漏らしながら、片手を上げる。その手先から放たれた紅い光弾が、まるで流星の雨のように空を埋め尽くす。
しかし、ユウスケは冷静だった。手を横に振ると、宙に紫の裂け目が開く。
「返させてもらいます」
スキマが全ての弾幕を飲み込み、直後にレミリアの背後でそれを吐き出す。
爆発が紅魔館の屋上を揺らし、煙が辺りを覆った。
「……やったか?」
だが煙の向こうに見えたのは、まるで何事もなかったかのように佇むレミリアの姿だった。
白磁のような肌に傷一つなく、瞳には逆に愉悦の光が宿っていた。
「その能力……八雲紫のものと同じ匂いがするわね」
薄く笑みを浮かべながら、空中で優雅に羽ばたく。
「くらえ。生成《ホーミングミサイル》」
ユウスケの肩から、次々と誘導弾が飛び出す。螺旋を描きながらレミリアを追い詰めるも、
レミリアはその全てを躱し、あるいは弾幕で撃ち落とした。
「ほらほら、どうしたの? 一発も当たってないじゃない」
まるで舞踏会の一幕のような優雅さで、戦場を滑る吸血鬼。だがその一撃一撃は致命的だ。
ユウスケはミサイルの爆風に目を細めながら、再び詠唱に入る。
「……ならば、これで。生成《ロイヤルフレア》」
眩い光が空を貫き、魔法の爆発がレミリアを包もうとする。
「その魔法……パチュリーのじゃない。ふふ、じゃあ私も本気を出すべきかしら」
彼女の掌に紅き槍が形を成す。
「神槍《スピア・ザ・グングニル》!」
極紅の一閃がロイヤルフレアを切り裂き、激突した空は真昼のように輝いた。
爆風に乗って、ユウスケの体が僅かに後ろへ押される。
「……驚いたわね。パチュリーの魔法に、紫のスキマ。あなた一体、何者なの?」
レミリアは笑みを浮かべながら、静かに高度を下げ、彼の前に降り立つ。
地上に足をつけた吸血鬼の姫の気配が、一変した。
まるで「遊び」が終わり、「狩り」の時間が始まるかのように——。
屋上に満ちていた重い空気が、再び激しく揺れる。
レミリアは紅い瞳を細めてユウスケを見据え、口元に笑みを浮かべた。
「もしかして……これも真似できるのかしら。スピア・ザ・グングニル――運命よ、彼の者に必中せよ」
闇を切り裂くように、紅の槍がレミリアの掌に現れる。そこに込められたのは、吸血鬼の誇りと殺意。
ユウスケもまた、静かに手を構える。
「生成――スピア・ザ・グングニル」
同じ形状、同じ気配。だが、その力の源は異なる。
二人は構えた槍を振りかぶり、真っ向からぶつけ合うかのように同時に投擲する――。
紅の槍は、まるで意思を持つかのように互いを避けるような軌道を描き、
それぞれの胸元に向けて一直線に飛翔した。
直後、乾いた衝撃音と共に、二人の腹部を槍が貫いた。
血が舞い、紅い霧となって空中に漂う。
二人はほぼ同時に膝をつき、屋上に倒れ込む。
レミリアは苦しげに息を吐きながらも、薄く笑っていた。
「人間が……同じ技を……ここまで再現するなんて。やるわね。でも――私は吸血鬼よ」
指先で自らの血を掬い、舌でなぞる。
その瞬間、彼女の体から放たれる魔力が脈打つように高まり、
みるみるうちに傷が塞がっていく。
「これが、吸血鬼の“回復”ってやつよ」
勝利を確信し、立ち上がろうとしたその時だった。
倒れ伏していたはずのユウスケが、ゆっくりと体を起こす。
「生成……怪我のない体」
その体に、傷一つ残っていない。
レミリアの目が大きく見開かれる。
「この一瞬で、完全に回復……? 再生じゃなくて、“書き換えた”ってこと……?」
その問いに、ユウスケは答えない。ただ静かにレミリアを見返す。
血と力を代償にした一撃で、なお倒れない“人間”の姿に、レミリアの胸中にかすかな戦慄が走る。