疲労で足がふらつき、視界が滲む。
ユウスケは胸の奥から絞り出すように息を吐いた。
(……ダメだ。能力を使い過ぎた。なら――これで終わらせる)
「これで終わらせる……生成――46cm三連装砲!
戦艦大和の砲威力、特と味わえ!」
空気が一瞬で張りつめ、屋上に巨大な影が現れる。
宙に浮かびあがったのは、信じられないほど巨大な三門の主砲。
砲身の先端から、圧縮された死の気配が溢れた。
レミリアの紅い瞳がわずかに見開かれる。
「何よ……この大きさ……」
次の瞬間、轟音が夜を裂いた。
三門同時の発射音が響き、砲弾が紅い閃光を引きながら一直線にレミリアを襲う。
レミリアは一瞬だけ視線を横に逸らし、背後の館を見た。
(避ければ……紅魔館が……)
小さく息を吸い込み、彼女は手を掲げる。
「――運命よ、私に全ての弾を落とさせ給え!
顕現せよ、スピア・ザ・グングニル!」
紅の槍が現れ、翼を広げたレミリアが砲弾に向かって突撃する。
吸血鬼の威信を賭けた正面突破だった。
砲弾と槍が激突し、夜空が白く閃光に包まれる。
爆音と爆風が吹き荒れ、瓦礫が宙を舞った。
――結果を見ることなく、ユウスケの意識は暗闇に沈んでいった。
意識が浮上すると、そこは見たこともない空間だった。
広がる庭園には満開の桜、風に揺れる花びら。
白くふわふわとした無数の光が、まるで灯りのように漂っている。
「……人魂?」
「亡霊ですよ」
振り向くと、白髪の少女が立っていた。
腰には二振りの刀、半霊を従えたその姿はどこか現実離れしている。
「ここは白玉楼。貴方のいた幻想郷とは違い、亡霊が転生を待つための場所です。そして私はここで庭師を務めています。魂魄妖夢と申します。以後お見知りおきを」
「……〇〇ユウスケです。ご丁寧にどうも。やっぱり能力の使いすぎで死んだんですね」
妖夢は小さく首を振った。
「確かにここに来るのは死者だけですが、貴方は違うはずです。最初にここに来ました。恐らく――」
言葉の途中で、背後から柔らかい声が割って入る。
「妖夢の予想通り、仮死状態のだけよ。死んだなら閻魔様の元へ送られるものね」
現れたのは薄桃色の髪の女性。
西行寺幽々子は微笑みながら、まるでユウスケのことを昔から知っているかのように視線を向けてきた。
「幽々子様、もう来られたのですね」
「ええ、紫に頼まれていたの。『多分死ぬから仮死状態にしてあげて』って」
「なんでそんな面倒なことを」
「だって、映姫に見つかったら、貴方は復活できても説教地獄にあうわよ?“死んだのに生き返るなー!”って、ふふふ」
「ということは……戻れるんですか?」
「可能だと思うわよ。貴方が能力を使えば死からの蘇生もできる。その前に……」
幽々子はユウスケに近づき、顔を両手でそっと掴んだ。
「なっ、なにか?」
その瞳が奥をのぞき込むように細められる。
「何も、ただね、貴方は覚えていないのでしょうけれど、一度ここに来ていたようね。貴方が生まれる前の話よ」
「私が誰かの転生した魂ということですか?」
「ええ。まあ、人間誰しも転生体ではあるけれど、私が知っている“誰か”と近い……ああ、ごめんなさい。これ以上は言えないの」
「そうですか。生まれる前の話なんて分かりませんしね」
妖夢が遠慮がちに声をかける。
「ユウスケさん、お帰りにならなくて大丈夫ですか?こちらに来てから眠っていた期間を含めると、もう数日は経過していると思いますが」
「えっ、そうなんですか……戻ります。ありがとうございました!」
ユウスケは胸の奥でイメージを固める。
「――生成“死者蘇生”」
光が彼を包み、その姿は白玉楼から消えていった。
幽々子は去りゆく光を見送り、風に散る桜の花びらの中で微笑む。
「またね、水橋さん」
妖夢が首を傾げる。
「あの方の名前は……〇〇ユウスケさんでは?」
幽々子は少し困ったように笑った。
「ああ、ごめんなさい。間違えたわ」