地底スタートの幻想郷生活 修正版   作:四国の探索人

28 / 44
第28話 目覚め

目を覚ますと、柔らかいシーツの感触と共に天井が視界に映った。

重たい身体を起こすと、見覚えのある赤いカーテンが目に入る。

 

「……紅魔館? なぜここに?」

 

「起きたのね。」

 

横を見ると、ソファに座ったパチュリーが本を片手にこちらを見ていた。

彼女の表情はいつもの無機質なままだが、少しだけ安堵の色が見える。

 

「戦闘は……どうなりました?」

 

「どうも何も、レミィがあなたの砲弾をまともに受けたわ。でもその後、あの子は再生した。

 あなたが死んだ時点で――形式上はレミィの勝ち、ね。

 フランの方は霊夢と魔理沙が倒したわ。」

 

「……そう、ですか。」

 

「貴方が死んだからね、最初は埋めるかホルマリン漬けにするか、あるいは資料として保存するか迷ってたの。

 でも、紫が来て『そのうち起きるから寝かせておきなさい』って言ってたから、ここで保管してたのよ。」

 

「ホルマリン漬け……」

 

「誤解しないで。勇敢に戦った人間への記念みたいなものよ。そんな“引くわー”って顔しないで頂戴。」

 

「……まあ、それはいいとして。そろそろ帰っても?」

 

「数日間、あなたの体を寝かせておいたお礼は?」

 

「な、何をさせようと――」

 

パチュリーはふっと口元を緩めた。

 

「冗談よ。

 ただ、レミィが目を覚ましたら来るように言ってたから、挨拶だけはしていきなさい。

 ……多分、あなたに興味があるみたいだから。」

 

ユウスケは軽く息をつき、天井を見上げた。

 

「休ませてくれる相手だといいんですがね。」

 

廊下に出ると、ユウスケは思わず足を止めた。

どこまでも続く赤い絨毯、整然と並ぶ燭台、重厚な絵画。

改めて見ると紅魔館の廊下は、まるで迷宮のように長かった。

 

「……広すぎる。どこに行けばいいんだこれ。」

 

呟いた瞬間、世界が一瞬で静止した。

風も光も止まり、気づけば豪奢な装飾の大扉の前に立っていた。

 

「あなたって、意識してなければ時間停止の能力は使えないのね。私に普通に運ばれて驚いたわよ。」

 

声の方を振り向くと、咲夜がナイフを弄びながら立っていた。

 

「さ、咲夜……。戦闘の時はこっちのタイミングで止めてたからね。」

 

「ふふ、参考にさせてもらうわ。――中でお嬢様が待っておいでです。」

 

促され、ユウスケは重い扉を開けた。

 

中は広く静かで、赤い絨毯の中央にソファ。その上にレミリアが脚を組んでいた。

ユウスケを見るなり、口角を上げる。

 

「うっわ、本当に生きてたのね。ちゃんと貴方の心臓、止まってたのよ?」

 

「そっちこそ、あの攻撃を受けて再生するなんて……さすが吸血鬼ですね。」

 

「ふふ、まあね。あの砲撃は中々だったわ。紅魔館ごと吹き飛ばすつもりだったでしょ?

 避けるのも簡単だったけど、あえて受けたのよ。お館が壊れたら後始末が面倒でしょう?」

 

「それは……否定できません。」

 

レミリアは立ち上がり、軽く顎を上げる。

どこか退屈そうで、それでも興味を隠せない様子だった。

 

「で? 何の用かしら。もう死んだと思ってたのに。」

 

「挨拶でもしておこうかと思って。」

 

ユウスケが軽く頭を下げ、部屋を出ようと背を向けたその瞬間――

 

「まあ、待ちなさい。」

 

肩を掴まれ、動きを止められる。

振り向くと、レミリアの紅い瞳がきらりと光った。

 

「貴方の能力、興味があるのよ。少し、調べさせてもらってもいいかしら?」

 

「……かえりたい。」

 

ユウスケはレミリアの“好奇心実験”に数日付き合わされた後、ようやく解放された。

紅魔館を後にし、スキマを開いて帰還する。

 

見慣れた屋敷――マヨイガの中庭に降り立つと、待っていたように紫が扇を開いたまま微笑んでいた。

 

「私の能力、もうある程度は使えるようね。……案外真面目じゃない」

 

「?」

 

「スキマで地底に帰ろうと思えば、とっくに帰れたでしょう?」

 

その言葉にユウスケは目を見開く。

 

「あっ、そういえば……! 本当だ。」

 

紫は扇で口元を隠し、くすりと笑った。

 

「別に止めはしないわ。ただ――宮出口。あの“霊魂”には、貴方の力でもまともな対抗手段がないでしょう?」

 

「……まあ、確かに。」

 

「だったら、少し勉強してきなさい。私の友達――貴方も一度会ってるわね。幽々子のところよ。」

 

紫は紙を取り出し、さらさらと何かを書きつける。

それを折りたたんでユウスケに手渡した。

 

「これを幽々子に渡しなさい。きっと喜んで迎えてくれるわ。

あっちで霊魂相手にまともに戦えるようになったら、もう貴方の行動を縛るつもりはないわ。」

 

ユウスケの顔に笑みが浮かぶ。

 

「それさえクリアしたら……パルスィに会いに行けるんですね。」

 

「ふふ、動機が分かりやすくて助かるわ。」

 

軽口を交わしながら、ユウスケはスキマを展開する。

白い光が足元に広がり、視界がゆっくりと白玉楼の方角へと変わっていく。

 

紫はその背を見送りながら、扇の影で小さく呟いた。

 

「さて――“人間”がどこまで行けるか、見せてもらおうかしら。」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。