地底スタートの幻想郷生活 修正版   作:四国の探索人

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第32話 西行妖の木ノ下で

ユウスケは、西行妖の幹に近づいた。

まるで何かに導かれるように手を伸ばし、そっと触れる。

 

――瞬間、光が弾け、視界が歪む。

次の瞬間、彼の脳裏に“誰かの記憶”が流れ込んできた。

 

桜が舞う京の夜。

緑色の殺気を纏い、人々を次々と斬り伏せる女――水橋パルスィ。

その瞳は涙と狂気が混ざり合い、血よりも深く紅く染まっていた。

 

(これは……パルスィ? いや、違う。服装も町並みも、これは過去……)

 

混乱するユウスケの視線の先で、血に濡れた地面を這う男女がいた。

男は深い傷を負い、女は怯えながら彼を庇う。

 

「許さない……私という存在がありながら、他の女に手を出すなんて――“ユウスケ”!」

 

「な……何のことだ……?」

 

パルスィの声は怒りと悲鳴が混ざったものだった。

 

「まだ“女”に気を使うの? ……もう謝罪なんていらない。

一人の女をもて遊んだ罪――それは、貴方一人では終わらせない!」

 

叫びと共に、彼女は隣の女の胸を貫いた。

温かい血が夜風に散る。

 

「貴方はその怪我ではもう助からないわ。

でも、最後くらい“本当のこと”を言って。……どうして、私の前から消えたの? 鬱陶しかったの?」

 

男――ユウスケは、かすれる声で答えた。

 

「わからない……本当に、何も……。

川に落ちてから、全部……記憶がないんだ。君は……誰なんだ?」

 

その言葉に、パルスィの瞳が大きく見開かれる。

ゆっくりと、彼女の殺気が霧のように消えていった。

 

「本当に……私を覚えていないの?」

 

男は、静かに頷いた。

 

パルスィは膝を崩し、血の中に座り込み、嗚咽した。

「ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい……。

私、貴方が嘘をついて、裏切ったんだと思ってた……」

 

「君と僕は……どんな関係だったの?」

 

「貴方は……私の恋人。

私は水橋パルスィ、貴方は……水橋ユウスケ。

本当に……ごめんなさい。私、貴方が私を捨てたと……」

 

ユウスケは薄く笑いながら、震える息で答えた。

「そうか……。でも、死ぬ前に知れてよかった。

横にいるこの彼女は……川で気を失ってた俺を助けてくれた人だ。

だから、きっと……俺は君を捨てたんじゃない。……すまないな」

 

唇の端から血が溢れる。

 

「喋らないで……お願い、もういいの……」

パルスィは震える手でユウスケの頬を撫でた。

 

「泣かないで……。こんなに綺麗な桜の下で……君を見られたなら……俺は、もう――」

 

男の瞳が静かに閉じ、動かなくなる。

その身体から零れた命は、夜風に舞い、桜の根元へと吸い込まれていった。

まるで、桜がその魂を包み取るように――。

 

そして、視界が再び暗転する。

 

 

---

 

「ユウスケさん! ユウスケさん!」

 

肩を揺さぶられ、意識が現実に引き戻される。

目の前には、心配そうな妖夢の顔。

 

「……ごめん。今のは……一体なんだったんだ……?」

 

幽々子は扇子で口元を隠しながら、静かに笑っていた。

 

「西行妖はね、“魂を宿す桜”。

今のは、あの桜の中に眠る“誰かの記憶”を見たのよ。

……ねぇユウスケ、その“誰か”に、見覚えはなかった?」

 

ユウスケは唇を噛み、何も言えずに立ち尽くした。

ただ、胸の奥に燃えるような痛みだけが、確かに残っていた。

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