地底スタートの幻想郷生活 修正版   作:四国の探索人

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第33話 地上と地底での調査

白昼の人里。

稗田家の書庫には、巻物と古文書が山のように積まれている。

その中で、上白沢慧音は阿求を訪ねていた。

 

「あら、慧音先生がわざわざ尋ねてくるなんて珍しいですね」

 

「……阿礼。いや、今は阿求と呼ぶべきか。紫がここに来たか?」

 

阿求は静かに微笑み、机の上の一冊を取り上げた。

表紙には『宇治の橋姫』の文字。

 

「ええ、昨日いらっしゃいましたよ。

宇治の橋姫、それに“水橋ユウスケ”という人物について、いくつか尋ねられました。

まあ、無難な範囲で答えましたけど」

 

慧音は腕を組み、少しだけ眉をひそめる。

 

「そうか……しかし、“先生”呼びとは珍しいな」

 

阿求はくすりと笑った。

「敬意を込めて、ですよ。

なにせ『宇治の橋姫伝承』を書き残したのは、他ならぬあなた――慧音先生、ですから」

 

慧音はぴたりと動きを止めた。

「……何の話だ? 私はそんな記録を残してはいない」

 

「白を切りますか?」

阿求の声には、穏やかさの中に確信があった。

 

「紫さんに橋姫のことを聞かれたとき、私――“ある日記”を思い出したんです。

稗田阿礼の時代、記録者として共にいた“あなた”の日記ですよ」

 

慧音の瞳が鋭く細められる。

 

「……やはり。私は“歴史”を改変したのか」

 

阿求は頷く。

「日記そのものは、あなたの改編によって消失しています。

ですが、阿礼としての私の記憶には、断片だけが残っていました。

その反応……本当に、あなた自身、改変した事実を忘れていたんですね」

 

慧音はしばし沈黙し、静かに吐息を漏らす。

 

「おそらく当時の私、、今もだが、“歴史を操作するなど許されない”と考えたのだろう。

だからこそ、自分がそれをした記憶ごと……書き換えたのだ」

 

阿求は少し哀しげな笑みを浮かべた。

「あなたはいつだって、歴史を守る者でした。

だからこそ、何を思って自ら禁を破ったのか――それが私には分からないのです」

 

慧音は目を伏せ、かすかに拳を握る。

 

「思い出せない……だが確かに、“水橋パルスィ”と出会い、

何かを知り、何かを守るために歴史を変えた……そんな気がする」

 

「それで、私の日記には何が書かれていたのか――」

慧音が問うと、阿求は目を閉じて過去の記憶を探るように呟いた。

 

「……断片だけ。『橋姫は、復讐の後に“涙を流した”』と」

 

「涙……?」

 

「ええ。怒りでも勝利でもなく、“後悔の涙”。

その一文だけが、なぜか私の中に残っている。

もしかすると、それが――あなたが歴史を塗り替えた理由かもしれませんね」

 

慧音は深く息を吸い、そして吐いた。

その眼差しはどこか遠くを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

地底・旧都の酒場。

酒の香りと笑い声が満ちる中、静かに暖簾をくぐる影が二つ――古明地さとりと、彼女の従者・火焔猫燐。

 

「珍しいもんだね」

盃を片手に、星熊勇儀が笑った。

「主自らがここへ来るなんて。呼んでくれれば、こっちから行ったのに」

 

「今回は、私たち個人の調査ですから」

さとりは席に着き、軽く頭を下げる。

 

「それで?」

勇儀は盃を置き、真っ直ぐさとりを見る。

「何を聞きたいんだい?」

 

「あなたの友人――水橋パルスィ。

……いえ、もっと正確に言うなら、“宇治の橋姫”について、です。

あなたなら何か知っているのでは?」

 

勇儀の瞳が一瞬だけ揺れた。

けれど、すぐにいつもの笑顔へと戻る。

 

「……友達の過去を、ぺらぺら喋るのは筋が通らない。

だが、一つだけ言える。

私がパルスィと出会った時、彼女はもう“妖怪”だった。

そして――伝承は必ずしも真実じゃない。

それ以上は、話せないよ」

 

さとりは静かに目を伏せ、立ち上がる。

「……そうですか。貴重な時間を、ありがとうございました」

 

二人は頭を下げ、その場を後にした。

 

地底の石畳を歩きながら、お燐が口を開く。

「結局、収穫はなかったですね。

橋姫と一番深い関係にあるのが勇儀さんだと思ったんですが……」

 

「いいえ」

さとりはゆっくりと首を振る。

「勇儀さんは、何も“話さなかった”けれど……“教えてくれた”わ」

 

お燐は目を丸くする。

「読んだんですか? 心を」

 

「ええ」

さとりの表情は、いつになく厳しい。

「彼女の心の奥に、強い“思い出”があった。

――伝承とは違い、“宇治の橋姫”には生き残りがいたようね」

 

お燐の耳がぴくりと動く。

「生き残り……? ってことは、その子孫が……」

 

「そう。恐らく、“ユウスケ”」

さとりは地底の闇を見つめるように呟いた。

「そして――パルスィがその記憶を持たない理由。

それを知るのは、地上から来る“スキマ妖怪”……八雲紫の役目でしょうね」

 

お燐は口をすぼめ、少し怖気づいたように言った。

「また、厄介な話になりそうですねぇ……」

 

さとりは小さく微笑む。

「厄介なほど、真実に近いということよ」

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