地底スタートの幻想郷生活 修正版   作:四国の探索人

34 / 44
第34話 現れたのはフラワーマスター

数日が経った。

ユウスケは白玉楼の縁側に座り、西行妖をぼんやりと眺めていた。

陽のない冥界の空は淡く光り続けている。

しかし彼の心は、桜の花びら一つ咲かぬその木のように静かで、どこか沈んでいた。

 

「……あの時、見たのは本物だ。

“水橋ユウスケ”という同名の男が、パルスィに殺された……」

 

あの記憶がただの幻ではないことは分かっていた。

もしそうなら、自分は――あの男の生まれ変わりなのだろうか。

そしてパルスィは、自分を殺した“かつての恋人”。

それを知って、これからどう接すればいいのか。

何度考えても答えは出ず、ユウスケはただ溜め息を吐いた。

 

そんな折、背後から柔らかな声がかけられた。

 

「ユウスケ~、少しいいかしら?」

 

振り返ると、幽々子が扇をたたみながら近づいてくる。

 

「この桜を咲かせたくない人たちが、そろそろやってくる頃なの。

妖夢と一緒に追い払ってくれないかしら?」

 

「咲かせたくない人たち……? そんな事で誰かが来るんですか?」

 

幽々子は微笑んで肩をすくめる。

 

「ちょっとだけ幻想郷から“春”を頂いているの。

おかげで向こうは少し寒くなっているみたいでね――怒ってるのよ。」

 

「え~と、分かりました。」

 

ユウスケは、冥界へと続く長い階段の前で待機する妖夢に歩み寄った。

半霊がわずかに揺れ、妖夢はすぐにこちらへ気づく。

 

「お疲れ様です、ユウスケさん。

 西行妖のためとはいえ……付き合わせてしまって、申し訳ありません。」

 

その声音には、深い責任感が宿っていた。

 

「いえ。……ただ、疑問があって。

 幻想郷から春を奪ったと言っても、誰かここに辿り着けるものなんですか?」

 

妖夢は静かに息を吐き、刀の柄へと指を添える。

 

「ええ。博麗の巫女――必ず来ます。

 季節の異変を見逃すような人ではありません。」

 

「霊夢が……?」

 

「確か、前の異変ではユウスケさんも共に解決に乗り出していた、と新聞にありました。

 ……気乗りしないのですか?」

 

ユウスケは頭をかき、視線を逸らす。

 

「いや、その……。

 私たちって、もしかしなくても――とんでもなく悪いことをしているのでは?」

 

妖夢はすぐに否定しなかった。

 

「……否定はできません。

 幻想郷から春を奪った事実は重い。

 暖いはずの季節が、向こうでは今も冬のままです。

 住人にとっては、たまったものではないでしょう。」

 

ユウスケ(……これ、完全に紫に怒られるやつ?)

 

妖夢は階段の下方へ鋭い視線を向けたまま続けた。

 

「しかし――幽々子様が“それでも咲かせたい”と望まれたのも事実。

 ならば、私は剣でその責任を果たします。」

 

「責任、か……。」

 

「ユウスケさんも、来るのでしょう?

 ここに立つ以上、覚悟は必要です。」

 

その言葉は冷たくはなかった。だが甘さもなかった。

ただ、武人として真っ直ぐで、揺らぎがなかった。

 

ユウスケは深く息を吸う。

 

「……分かりました。妖夢と共に戦います。」

 

妖夢はほんのわずかに顎を引いて頷く。

 

「助かります。

 やがて気配が現れるはずです。臨戦態勢を。」

 

冥界の空気が、微かに震えはじめる。

それは、外界からの侵入者の前触れだった。

 

 

コツ、コツ、コツ――。

 

ゆっくりと、しかし確実に迫ってくる足音が、階段下から響いた。

 

ユウスケとともに構えていた妖夢が、すぐに異変を察する。

 

「……何かありました?」

ユウスケが小声で問う。

 

妖夢は半霊ごとわずかに震わせながら答える。

 

「圧倒的な……妖力です。

 博麗の巫女じゃありません……こんなの、私……覚えがあります。」

 

階段を登りきった影が姿を現す。

 

陽光のない冥界にありながら、まるで季節そのものを引き連れてきたかのような気配。

花々の死す冬でさえ関係ない、存在そのものが“春”を圧倒する。

 

風見幽香だった。

 

妖夢は一歩下がった。刀の柄に触れた手が汗ばむ。

 

「な、なな……なんで、風見幽香が、ここに……」

 

幽香は軽く視線だけ向け、まるで道端の花の状態を確認するような軽さで言った。

 

「二人いるけど……どう見ても、あなたがユウスケね?」

 

ユウスケは静かに頷く。

幽香はその答えだけで十分と言わんばかりに微笑む。

 

「場所、変えましょうか。私はここでもいいけれど――」

 

扇子ではなく傘の柄で階段をコツ、と叩きながら、妖夢へ流し目を送る。

 

「この白髪の子、怯えた目があまりに可愛いものだから。

 泣かせるのは趣味じゃないの。」

 

妖夢「ひぃ……っ」

 

ユウスケは判断する。

ここで戦えば妖夢を巻き込む――それだけは避けたい。

 

「……少し行ってきます。妖夢さん。」

 

短く告げると、ユウスケはスキマを裂いて開く。

幽香は何の警戒もなくその中へ入った。

 

妖夢は呆然と立ち尽くしたまま、かすれた声で呟く。

 

「……い、行かせてしまった……」

 

 

スキマが開き、ユウスケと幽香は雪の積もる大地に降り立つ。

冥界とは春がないからか異なり、空気が冷たい。風が吹き抜け、枯れた草が擦れ合う音がする。

 

幽香は傘をくるりと回しながら、楽しげにユウスケを見る。

 

「紫の力、本当に使えるのね。

 話半分くらいに聞いていたけれど……これは愉しめそう。」

 

ユウスケは警戒を緩めず返す。

 

「私が目的なんですか?」

 

「もちろん。

 お花の咲かない冬を続ける幽々子も困ったものだけれど――

 今回は紫に頼まれたの。」

 

「紫が?」

 

「ええ。“連れ出してほしい”ってね。

 あなたの能力、本気を出せば博麗の巫女を倒しうる――らしいから。」

 

その声には、期待と殺意が同じ熱量で混じっていた。

 

幽香の奥底から溢れだす妖力が、空気を震わせる。

 

「だから紫は言っていたわ。

 ユウスケを連れ出す代わりに――遊んでいいって。」

 

幽香は傘をひと振り。

 

放たれたのは弾幕ではなく、“炸裂する花弁”の弾丸。

雪が抉れ、鮮やかな花びらが弾けるように地表を砕いた。

 

ユウスケは即座に肉体を再生し、呼吸を整える。

 

幽香は愉悦に濡れた瞳でつぶやいた。

 

「さあ――壊れずに、どれだけ私を退屈させずにいられるかしら?」

 

凍てつく白い世界に、妖力の花が咲き乱れようとしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。