地底スタートの幻想郷生活 修正版   作:四国の探索人

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第35話 vs風見幽香

 

雪原に吹く風は冷たく、白い世界が一面に広がっている。

その中心に、ユウスケと風見幽香が対峙した。

 

「なんだあの傘……放たれる弾、全部爆発してる……!」

 

驚愕するユウスケをよそに、幽香は楽しげに微笑んだ。

 

「ほら、喋ってると次が来るわよ?」

 

傘の先端がわずかに揺れる。

その動きだけで、圧縮された妖力が花弁となり飛び出した。

空気をえぐり、地面に触れるだけで雪が蒸発する。

 

ユウスケは反射的に手を上げた。

 

「生成《ロイヤルフレア》!」

 

紅蓮の炎柱が咲き誇り、花弁の弾を呑み込む。

だが業火は幽香の身体には届かない。

幽香が広げた傘が、火焔を撫でただけで散らした。

 

(魔法の直撃を防ぐ……? あれ、何製なんだよ……)

 

額に冷汗が浮かぶ。

 

咄嗟に世界を止める。

 

「生成《時間を操る程度の能力》!」

 

音も風も凍りついた空間で、ユウスケは幽香の背後に回り込む。

 

「生成《マスター…》」

 

技名を言い切る前。

幽香の足が、止まった空間の中で動いた。

 

ノールックのバックキック。

背後の気配だけを頼りに放ったはずなのに、正確に腹部へとめり込む。

 

「せっかく後ろを取ったのに、溜めの長い技なんて舐められたものね」

 

時間停止を解かざるを得ず、ユウスケは距離を取ろうとする。

再び時を止めようとした――しかし。

 

足が動かない。

 

雪原に広がる根。

いつの間にか植物が足に絡みつき、締め付けていた。

時間が止まっても成長を続ける、異様な速度の蔦。

 

仕方なく、時間停止を解く。

 

視界の先では、幽香がゆっくりと歩いてくる。

その歩みだけで、雪原の空気が震えた。

 

「動けないでしょう?

 植物の中には一日で驚くほど成長する子がいるの。

 私はちょっと、成長を“早めて”あげてるだけ」

 

ユウスケは尻もちをつき、逃げる術を失う。

 

拳に妖力を集中させた幽香は、楽しさと優しさを混ぜたような笑みを浮かべる。

 

「怯えなくてもいいのに。楽にしてあげるわ」

 

その拳が振り下ろされ――そうになる前。

 

「生成《境界を操る程度の能力》!」

 

咄嗟にスキマを展開し逃走を図る。

しかし。

 

幽香の片手がスキマの縁を“掴んだ”。

 

柔らかい布でも握るような感覚で、ゆっくりと握り込む。

スキマは紙のように丸まっていき、やがて破裂するように消えた。

 

「もう終わり?

 というか……恐怖で頭が回ってないみたいね」

 

振り上げられた拳。

それは雪原の空気より冷たく、花の香りより甘い死の気配を帯びていた。

 

ユウスケは、生存本能のまま声を叫ぶ。

 

「生成《ペチュニア》!」

 

手の中に、小さな花が咲く。

それはあまりにも弱々しく、戦いには似つかわしくない。

 

幽香は拳を止めた。

腕に集めていた妖力が、ふっと消える。

 

「……どういうつもり?」

 

「そ、その一撃を受けたくなくて……

 花を出せば殴られないかなって……」

 

数秒の沈黙。

雪原の空気すら固まる。

 

次の瞬間、幽香の指がユウスケの額を軽くはじいた。

 

「――終わりよ。試験、終了」

 

ユウスケは思わず目を瞬かせる。

 

「試験……?」

 

「紫から頼まれていたの。

 あなたの実力を見て、連れ出してあげて……ってね」

 

ユウスケは困惑して呟く。

 

「……負けましたけど」

 

幽香は微笑む。

その笑顔は春の花のように美しく、しかし冬の嵐のように残酷さを含んでいた。

 

「私に勝つつもり? フフ。あと五十年は早いわよ。

 でも――戦えた。それだけで十分」

 

手にしたペチュニアを愛おしそうに眺めながら、

 

「最後に怯えたのは減点だけど……

 賄賂(お花)で加点ね」

 

そして踵を返し、風に乗って去っていく。

 

「さあ、行きなさい。

 白玉楼でも、博麗神社でも、地底でも。

 もうあなたは“自由”よ」

 

花弁がひとひら、ユウスケの足元に落ちた。

 

幽香の姿は、雪と風の彼方へ消えていた。

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