地底スタートの幻想郷生活 修正版   作:四国の探索人

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第41話 再会

(理由は分からない。

 けれど、確かに“そこにあった”はずの存在)

 

記憶にない。

 

それなのに、胸の奥が静かに痛む。

 

(そして……私自身の記憶が、決定的に欠けている)

 

伝承として残る宇治の橋姫。

 

妬み、怒り、殺し、鬼となった女。

 

だが、今触れたものは――

 

それだけではなかった。

 

(……恐らくだけど)

 

伝承と、真実は違う。

 

そう確信した瞬間、

パルスィは席を立った。

 

「水橋ユウスケが浮気したのは、きっと……何か理由がある」

 

声は、驚くほど落ち着いていた。

 

「それが何かは分からない。

 けれど……私は、彼を信じる」

 

自分でも不思議だった。

 

妬みの妖怪である自分が、

こんな言葉を選ぶなど。

 

だが、それが今の本心だった。

 

向かった先は、地霊殿。

 

心を読む妖怪のもと。

 

重い扉の向こう。

 

静かな視線が向けられる。

 

「……どうされました」

 

その問いかけに、パルスィはわずかに笑った。

 

「心の読めるあんたが、わざわざ聞くなんて。

 やっぱり都合が悪いのかしら」

 

一瞬の沈黙。

 

「結果から言えば……

 あなたの過去について、調査はしました」

 

言葉が選ばれる。

 

「ですが、教えることは出来ません」

 

感情が、胸の奥でざわめいた。

 

「何よ。本人なんだから、いいじゃない」

 

「……出来ません」

 

理由はすぐに続いた。

 

「ユウスケさんの希望です。

 “伝えないことが、優しさだ”と」

 

その名前を聞いた瞬間、

胸の奥が、ちくりと疼いた。

 

「……本人が、自分の過去を知ろうとしてるだけなのに。

 それでも、ユウスケの意志を優先するの?」

 

しばらくして、答えが返る。

 

「……私も、その方がいいと判断しました」

 

その言葉を聞いたとき、

パルスィは――笑った。

 

それは、怒りでも嘲りでもない。

 

理解した者の、笑みだった。

 

「そこまで聞ければ、十分よ」

 

一歩、前に出る。

 

「その反応……

 過去の私は、何か取り返しのつかない理由で間違いを犯した」

 

確信が、言葉になる。

 

「だから、私に知られないようにしてる。

 ……そうでしょう?」

 

沈黙。

 

そして、小さく。

 

「……はい。

 どうやら私は、読むのは得意でも……隠すのは苦手なようです」

 

パルスィは、ゆっくりと息を吐いた。

 

「十分よ。

 それで全部、分かった」

 

視線を上げる。

 

「ユウスケに、謝ってくる」

 

その瞬間、空気が張りつめる。

 

「――なりません」

 

声は、はっきりと拒絶していた。

 

「あなたは地底の妖怪。

 地上へは、出られません」

 

だが、パルスィは止まらなかった。

 

「こちとら、妖怪として生まれた時から罪人よ」

 

静かな声。

 

「今さら、罪が一つ増えたところで……

 何が変わるっていうの?」

 

その言葉は、

妬みではなく――覚悟だった。

 

もう、逃げない。

 

 

 

 

 

 

地底を抜けた瞬間、空気が変わった。

 

重く、湿り、閉じた世界。

 

それが当たり前だった身体に、

やけに軽く、広がりすぎた空間が突き刺さる。

 

「……なに、ここ」

 

頭上に広がる空。

 

遠くまで続く道。

 

行き交う妖怪や人間たち。

 

(これが……幻想郷)

 

初めて踏み入れる“地上”は、

想像していたよりも騒がしく、

想像していたよりも――生きていた。

 

「ちょっと、そこの人」

 

声をかけられ、反射的に身構える。

 

「地底の妖怪?

 珍しい格好してるわね」

 

赤白の巫女服。

 

気怠げな視線。

 

(……博麗の巫女。

 私のこと、覚えてないのかしら)

 

「迷ってるなら、案内するけど?」

 

言葉に、敵意はない。

 

むしろ、面倒そうにしながらも放っておけない、という顔。

 

「……探してる人がいるの」

 

「誰?」

 

一瞬、迷う。

 

けれど――

 

「……ユウスケ」

 

その名前を口にした瞬間、

胸の奥で何かが、はっきりと鳴った。

 

「ああ。

 あの厄介なのね」

 

軽く肩をすくめる。

 

「最近、あちこち出歩いてるわよ。

 

 マヨヒガの方にいるって話、聞いたけど」

 

マヨヒガ。

 

聞き覚えのある名。

 

地上にありながら、迷う者しか辿り着けない場所。

 

「行き方、分かる?」

 

首を横に振る。

 

「じゃあ、途中まで案内してあげる。

 貸しにしとくから」

 

それだけ言って、背を向ける。

 

(……助けられてばかりね)

 

地上を歩きながら、

何度も立ち止まりそうになる。

 

人間。

 

妖怪。

 

楽しそうに笑う者たち。

 

妬みは、確かに湧く。

 

けれど――

(昔ほど、苦しくない)

 

それに気づいて、戸惑う。

 

(私……変わった?)

 

「ほら、あそこに」

 

その言葉に、心臓が強く打つ。

 

足が、勝手に動き出す。

 

木々の合間。

 

古びた屋敷。

 

見覚えのある背中。

 

(……いた)

 

迷い、ためらい、

それでも進む。

 

「……ユウスケ」

 

その名を呼んだ瞬間、

相手の身体が、はっきりと強張った。

 

振り返る。

 

目が合う。

 

「……パルスィ?」

 

驚き。

 

困惑。

 

そして、わずかな――安堵。

 

「……来たのか」

 

それだけで、

胸がいっぱいになる。

 

「勝手に消えるなんて……

 相変わらず、卑怯ね」

 

声が、かすかに震える。

 

「……ごめん」

 

言葉は、それだけ。

 

でも、それで十分だった。

 

「話、あるの」

 

一歩、距離を詰める。

 

「私……全部は思い出してない。

 でもね」

 

視線を逸らさず、続ける。

 

「それでも、ユウスケを信じたい」

 

沈黙。

 

風が、二人の間を抜ける。

 

「……ありがとう」

 

それは、拒絶でも許しでもない。

 

ただの――

再会の、第一歩だった。

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