スペオペ世界でモンスターを専門に狩っている狩人の話   作:アスピラント

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特別なクエストの予感

 ガルダの幼少期は最悪だった。

 何せ人間らしい生活なんて送っていないのだ。

 

「――素晴らしい……! これはまさしく究極の生命体になる逸材だ!!」

 

 冷たい鋼鉄の台の上、幼いガルダは意識を失ったまま拘束されていた。白く無機質な天井に備え付けられた蛍光灯が、青白い光を発している。部屋全体には漂う薬品の匂いと、静かに動作する機械の低いうなり声が満ちていた。

 

 周囲には数名の研究員が集まり、それぞれ異なる種族の者たちが、不気味な笑みを浮かべながらデータパッドを覗き込んでいた。

 

「——これほどの適応率とはな。予想以上の成果だ」

「肉体変異の進行は順調だが、精神面の影響が未知数だ。兵器としての安定性が確保できるかどうか……」

「ふん、精神の安定? そんなものは後回しだ。重要なのは、どこまで戦えて……どこまで生き延びる事が出来るかどうかだよ」

 

 研究員たちは、まるでガルダがただの素材に過ぎないかのように議論を交わし続けた。無慈悲な計画が進行していることを知らぬまま、幼い彼は静かに横たわっていた。

 

 そんな時だった――爆音が轟いたのだ。

 壁が震え、警報がけたたましく鳴り響くと空気はガラリと変わった。

 

「な、なんだ!? 何が起こった!?」

「防衛システムが作動している! 外部からの侵入者だ!」

 

 緊迫した声と共に、研究員たちは慌てて端末に手を伸ばし、状況を確認し始める。その間にも、ズガァン! バキィン! と、激しい戦闘音が施設のあちこちで鳴り響いていた。

 

「馬鹿な……この施設は厳重な警備に守られているはずだ!」

「警備部隊を増援させろ! 侵入者を排除するんだ!」

 

  だがその声すらかき消すように新たな爆発が起こった。天井の一部が崩れ、瓦礫が床に落ちる。酸素供給システムが損傷したのか、白い煙がじわじわと室内に広がっていった。

 

「……ん……」

 

 そしてその瞬間、意識を失っていたはずのガルダの瞼が、ゆっくりと開いた。

 

 視界はぼやけ、意識はまだ朦朧としていた。だが耳に入る激しい戦闘音と研究員たちの悲鳴が、確実に現実であることを示している。

 

「……ここは……?」

 

 ガルダがかすれた声を絞り出した辺りで、部屋の扉が強制的に蹴破られる。研究員たちは驚愕し一斉に後ずさる。扉の向こうから、煙の中に黒いシルエットが浮かび上がった。

 

「な、何者だ……!?」

「ここを襲って! ただで済むと思ってんのか!!」

 

 研究員はブラスターピストルを震えながら向けるが、入ってきた人物は一切意を介さず、重い足音と共にゆっくりと室内へと踏み込んできた。

 

「だれ……」

 

 ガルダは目を向けても照明の影がその正体をまだはっきりと映し出してはいない。しかしその堂々とした佇まいや鋭い気配、そして血と硝煙の臭いによって強調された異質な存在感がただの人間ではないことを示していた。

 

 一体何者かと戦々恐々としていると――

 

「ババーン!!!」

 

 いきなり気の抜けた声を出し始めた。

 光によって露わになったのは、カウボーイハットを被り、革のジャケットを着た銀髪の女だ。右目にはしっかりと眼帯を付け、腰には巨大なリボルバーが差し込まれていた。

 

「お、お前は何者――」

「通りすがりの……あー、いや……これは普通か。もっと変わったのが良いな」

「くそ!」

 

 研究員が撃とうと引き金に指を伸ばしたが、それは叶わなかった。

 

「ほい」

「が!」

 

 素早く手を掴んでブラスターピストルをもう1人の研究員を撃ち――

 

「あらよっと」

「うわ――」

 

 残った男は片手で持ち上げて勢いよく投げ飛ばし、壁に激突させて意識を奪った。女は手をパンパンと叩くと、男から奪ったブラスターでガルダの拘束を素早く破壊、倒れ込んだ彼をしっかり抱き留める。

 

「よしよし……頑張ったね」

「……あんたは……」

 

 頭を撫でられる心地よい感触に身を委ねたくなるが、ガルダはこの命の恩人が知りたかった。彼女はニヤリと笑うとこう言った。

 

「私はシルヴァー、ラディアント級のイェーガーさ」

 

 シルヴァーと名乗った狩人(イェーガー)は軽くウィンクする。ガルダは……初めて善意のある人に拾ってもらった事に、温かい気持ちを抱いた。

 

 そして同時にイェーガーとはなんなのかと、記憶に刷り込まれたガルダはこう思った。

 

 もし彼女のような人をイェーガーというならば、自分もなれるのかな――と。

 

 ◆

 

「何で師匠の夢が……」

 

 懐かしい夢と共にガルダは目を覚ます。クルーシブル・ノヴァの居住区画に住む彼のアパートは、それなりに立派なものだった。かなり早い段階で頭角を現し、ナイトフォールというほぼ見習い期間を、シルヴァーとクエスト同行することで無理矢理戦い方を知り、ここまで来た。

 

 おかげでお金もそれなりにあるし強くなった。

 まさに血と汗の結晶とも言えるのだが……部屋はかなり散らかっていた。

 

「ふわ〜……」

 

 ガルダはゆっくり体を起こし、窓の外を見た。

 いつも通り数多くの宇宙船が港を出ていく壮観な光景が広がっている。

 

「……あー、そういや今日だったな」

 

 日付を見ながらガルダは出かける準備をする。

 今日でアニポエント討伐から約2週間――変異に関して、実は関連性が見られる事件が起きたと、先日連絡があり、協力要請が来ているのだ。

 

「うっす」

 

 ちょうど部屋から出て少し歩いたところで、しっかり装備を着たアポロニアと遭遇した。ガルダは無言で手を挙げて返事すると、彼女の隣に並ぶ。

 

「やっと骨のある仕事出来そうね」

「だな、この2週間……長引きそうなクエストを受けるのはやめてくれって言われたしな」

 

 今回の呼び出しの件がある前に、2人はここクルーシブル・ノヴァの管理者から「急に割り込むかもしれないから、連絡来る時までは難度の低いクエストをしてくれ」と言われていた。何でもちょっと緊急性が高いものになる可能性が高まったようで、そっちを優先して欲しかったようだ。

 

「でもこういうの初めてだから、内心はちょっとワクワクしてるわ」

「それはわかる、粗方……粘菌野朗の件と関係あるだろうしな。風変わりなクエストには違いない」

 

 そんな雑談を交わしながら、二人が向かっているのは管理庁と呼ばれる行政機関だ。イェーガーたちが活動する上での調整役や、宇宙港の運営、商業管理、治安維持など、多岐にわたる業務を担っている。管理庁は狩人の組織ではなく、あくまで独立した行政機関であり、イェーガーたちが勝手に暴れないように監視したり、様々な国家とイェーガー達を繋ぐ橋渡し役でもあった。

 

「ついたわね……」

 

 黒曜石のような漆黒の外壁を持つ管理庁を前に、2人は表情を強張らせる。エントランスの前には数体の武装ガードドローンが待機していた。建物の正面には、大きく管理庁の紋章が刻まれている。二対の鋭い翼を広げた鳥のような意匠だ。

 

「お偉いさんの呼び出しってのも、久しぶりだな」

「まあ変異が絡んでるなら話も大きくなりそうね」

 

 ゲートのスキャナーを通過し、二人は内部へと足を踏み入れる。受付を通り、案内された先には、今回の依頼の発信者が待っていた。

 

「久しぶりだな、ガルダ、アポロニア」

 

 彼の名前はヴァンドル。

 管理庁高官でありクルーシブル・ノヴァの現責任者だ。

 

 彼はバダルクスという武闘派な文化を持つ種族出身だ。

 身長は2.5メートルほどあり、体躯は岩のように頑強で、四本の腕を持っている。肌は深い群青色をしており、頭部には角のような隆起がある。顔は人間のような目鼻立ちをしているが、顎の部分には外骨格のような硬質のプレートが重なり、口元は裂けたように鋭い。

 

(ヴァンドル……と)

 

 しかしこの場に居るのは彼だけじゃなく――

 

「は、初めまして……! お、おはようございます……!」

「ああ……初めまして……」

 

 栗色の髪に、丸眼鏡をかけた背の低い女性と。

 

「よぉぉ! アポロニアァ!」

「やかましいなお前」

 

 ピンク色の髪に、頭には一本角、ギザギザな歯を見せつける勝気そうな女イェーガーに、冷静なツッコミを入れる浅黒い肌をした背の高い青年イェーガーが部屋にいた。

 

「うわ、リルルじゃん……相変わらずのメスガキムーブね」

「誰がガキだ、てめぇ! つーか元気か?? ん??」

「はいはい、私は元気よ……そっちも元気そうで何より」

 

 アポロニアは呆れ気味に笑いつつ、リルルという女イェーガーと握手したのち、すぐに肩と肩を合わせるように抱きしめて友情を表現する。

 

「仲良しなんだから一々喧嘩口調はやめとけ、リルル」

 

 ガルダが言うとリルルはにやっと笑って胸を張る。

 

「当然! だって私が誰だか知ってるだろ? ブリードのリルル様よ!」

 

 ブリード――それは遺伝子操作や実験的な方法で生み出された者たちを指す。リルルはまさにその典型であり、特定の狩猟適性を極限まで高めるために設計された存在だった。彼女の場合は、肉体の瞬発力と回復能力に特化しており、戦闘時には常人離れした動きを見せる。

 

 ガルダもまた同じだ、ただ彼は特殊なナノテクノロジーによってより異質な存在にはなってしまっている。

 

「まったく、いちいち自慢げに言うなよ……」

 

 ガルダが肩をすくめると、リルルはますます得意げな顔をした。

 

「おっ? 何だ、ガルダァ、私とまた手合わせしたいってか? いいぜ、いつでも相手になってやるよ!」

「言ってない言ってない。まじで遠慮しとくわ。俺はお前の機動力に振り回されるのは御免だからな」

「ちぇ」

 

 そんな軽口を叩き合っていると、もう一人の男――レクスディアが口を開いた。

 

「しばらくぶりだな、ガルダ……体小さくなったか?」

 

 低く落ち着いた声。

 レクスディアは浅黒い肌に鋭い目つきをした青年で、その引き締まった体躯からもわかる通り、実力派のイェーガーだった。

 しかも生まれも恵まれており、宇宙に広く分布する狩猟民族グレイヴの出身だ。グレイヴは極限環境に適応した戦闘種族であり、惑星ごとに異なる厳しい環境の中で生き残るため、強靭な肉体と鋭敏な感覚を持つ。

 

 その中でもレクスディアは神の祝福を受けた者(アシェナ)と呼ばれる希少な存在として生まれた。

 彼の肉体は同族の中でも規格外であり、骨密度は通常の数倍、筋肉繊維は驚異的な収縮力を誇り、瞬発力・耐久力ともに常軌を逸している。

 

 幼い頃から戦闘技術を徹底的に叩き込まれ、成人するころには自らの惑星にいる戦士の中でもトップクラスの実力を持つようになった。

 だが彼は己の力に慢心することなく、さらなる強さを求めて宇宙へと飛び出し、イェーガーとなる道を選んだ。

 

「お前も相変わらず皮肉っぽいな、レクス。あと俺は前よりでかい……鍛えてるからな」

 

 ガルダが挑発的に笑うと、レクスディアもニヤリと笑い返した。レクスディアとは何かと因縁がある。互いに高め合うように戦い、時には競い合い、時には助け合ってきた関係だ。どちらが上か決める機会は幾度となくあったが、結局のところ今も決着はついていない。

 

「ま、せいぜい足を引っ張るなよ、レクス」

 

「お前こそな、ガルダ」

 

 その火花を散らすようなやり取りにリルルとアポロニアは苦笑した。

 

「まったく、こいつらのライバル関係も相変わらずね」

「まあ、こういうのがアイツらの距離感なんだろ」

 

 そう言って肩をすくめるアポロニア。

 

 この四人――ガルダ、アポロニア、リルル、レクスディアは、イェーガーとしての道を歩み始めた時期がほぼ同じだった。いわば同期だ。

 

 同じダスク級であり……若手のホープ。

 そんな4人がここにいること事態が、ただの任務じゃない事を物語っていた。

 

「――さて君たちに集まってもらったのは、わざわざ私の部屋で同窓会を開く為じゃないぞ」

 

 一旦仲間内の交流を見届けたヴァンドルが話し出すと、ガルダ達は口を閉ざす。

 

「ガルダとアポロニアは既に内容は想像つくだろうが、今回のクエストは少々特殊だ。何せ依頼者はオルディーナ銀河連邦に加盟してる星系国家の研究者だ。では……エリス殿、自己紹介を」

「は、はい!」

 

 呼ばれて慌てた様子で立ち上がるのは、小柄な女性だった。

 栗色の髪を揺らしながらメガネを押し上げ、場の空気に呑まれまいと小さく咳払いする。

 

「え、えっと……初めまして、私はエリス・フォーゲルと申します。オルディーナ銀河連邦の加盟国であるヴェルム科学連邦の研究機関――生態研究局ルヴェル支部に所属しています」

 

 彼女の声は少し震えていたが、研究者特有の冷静な理知性を感じさせるものだった。ヴェルム科学連邦は、技術開発と学術研究を国の根幹に据えた国であり、宇宙に広がる多種多様な生命の研究にも力を入れている。

 その中でも、惑星ルヴェルに設置された生態研究局は、原始的な自然環境とそこに生息する生物の観察を主目的としていた。

 

「私たちの研究対象であるラダリエ沿岸生態圏は、ルヴェルでも特に生物多様性の高い地域でして……ですが、最近その生態系に異常が見られるのです」

 

 エリスは手元の端末を操作し、会議室の中央に設置されたホログラム投影装置へデータを送る。

 空間に青白い光が揺らぎ、そこに映し出されたのは、鬱蒼とした森林と海岸線が入り混じる豊かな自然――そして、その中を蠢く異形の生物たちだった。

 

「これは……」

 

 ガルダが思わず声を漏らす。

 映像の中で動いているのは、明らかに通常の生態系から逸脱した生物たちだった。

 異常に巨大化した生物、互いに共生関係にないはずの種が群れを作っている光景、そして本来は温厚な草食動物が肉食獣のように獰猛に襲いかかる様子が映し出されている。

 

 はっきり言ってかなりグロテスクな有様だった。

 

「最近……ラダリエ沿岸の生物の行動が急激に変化し始めました。まず通常では見られない異種族間の協力行動が増加し、一部の動物は異様なまでに凶暴化。さらに繁殖サイクルも異常をきたし、通常では考えられない速度で成長し、変異する個体が確認されています」

「変異……」

 

 その言葉にアポロニアの表情が険しくなる。

 

「はい……」

 

 エリスはそこで一瞬躊躇し、少し表情を曇らせた。

 

「これらの変異個体に襲われた生物の死骸を調査したところ……多くに奇妙な刺し傷のような痕跡が残されていました」

 

 ガルダとアポロニアは互いに視線を交わす。

 

「刺し傷?」

 

 アポロニアが問い返すと、エリスは頷き、ホログラムを拡大した。そこには小型の草食動物と思われる生物の死骸が映し出されていたが、その体には不自然な穴がいくつも開いており、周囲の組織が変色していた。

 

「これらの傷は、変異した捕食者によって攻撃された際に生じたものと考えられます。しかし、単なる噛み跡や爪の傷ではなく、まるで何かを刺し込まれたような痕跡が残っていました……」

 

 ホログラムが切り替わると、今度は別の死骸が映る。こちらも同じように刺し傷があり、その周囲の組織が異様に変質していた。

 

「さらに不可解なのは、刺し傷の周囲の組織において、通常では考えられない細胞変異が確認されていることです」

「……変異生物が、襲った相手に何かを注入してるってことか? アニポエントの時には……見られなかったような」

「あいつは粘菌性だから残ってない可能性あるだろ、アポロニア」

「あー……でもいずれにせよ何かは入れられてるかもね」

 

 アポロニアが腕を組みながら呟くと、エリスは神妙な面持ちで頷いた。

 

「はい……正確なメカニズムはまだ解明できていませんが、襲われた個体の組織には未知の微生物のようなものが検出されています。おそらく、変異生物が攻撃の際にそれを注入している可能性が高いです」

「……それって、感染する可能性もあるってこと?」

 

 新たに声を上げたのはリルルだった。彼女はホログラムを見つめながら少し眉をひそめている。

 

「例えば、その微生物が他の生物の体内で増殖したり、感染を広げたりするような性質を持っている場合、変異個体がどんどん増えていく危険性もあるわけよね?」

「その可能性は否定できません……現在、まだ詳細な調査が進んでいないため、感染経路や拡散速度については不明です」

 

 エリスの言葉に、リルルは難しい表情をした。

 

「ふむ……では、その刺し傷をつけた生物の正体は特定できているのか?」

 

 今度はレクスディアが口を開いた。彼は腕を組みながら、じっとエリスを見つめている。

 

「現在のところ、確認されているのは主に捕食性の生物ですが、それだけではなく通常は草食性や雑食性の生物も攻撃的な行動を見せているので、無差別です」

「ダイレクトに生態系全体に影響を及ぼすな」

 

 レクスディアは考え込むように顎に手を当てる。

 

「やっぱりただの暴走生物ってわけじゃなさそうね」

 

 アポロニアが静かに言った。

 

「はい。現地の研究チームではこれは単なる生態系の異常ではなく、何らかの外的要因によるものだと考えています。そして、その要因が自然発生的なものではない可能性も視野に入れています」

 

 エリスの言葉に、ヴァンドルがゆっくりと頷いた。

 

「そういうわけだ。今回の任務は単なる狩猟ではなく調査も含まれる。君たちにはラダリエ沿岸へ向かい、変異生物の行動パターンを調査し、必要ならば対処してもらう」

 

 彼の視線がガルダたちを見渡す。

 

「この異変が何によるものなのか、そしてこの惑星の生態系全体にどのような影響を及ぼしうるのか――それを明らかにすることが、今回の目的だ」

「……なるほど、4人集めたのは念を入れて……って事です?」

「そうだ、君らはダスク級の中でも手練だ……腕前は確かなものだと見ている」

 

 ありがたいお褒めの言葉をもらったガルダは顎に手を当てながら考え込んだ。変異生物がただの突然変異ではなく、何かを注入している可能性。それが自然発生的なものではないかもしれないという懸念。

 

 ――これは、ただの狩りでは終わらない。

 

 ガルダはそんな予感を抱きながら、仲間たちの顔を見渡した。リルルもレクスディアも、それぞれ真剣な表情をしている。

 

「よし話はわかった。で、俺たちはいつ出発する?」

 

 その言葉にヴァンドルは満足げに頷いた。

 

「すぐにでも頼みたい。現地には既に研究チームが待機している。君たちは彼らと合流し、調査を開始してくれ」

「了解」

 

 若手イェーガー達とエリスはすぐに出発準備に向かった。

 

 ◆

 

 ガルダたちは、エリスが手配した10人乗りの宇宙船に乗り込んだ。船はコンパクトながらも機能的で、シートや操作パネルはどこか洗練されたデザインをしていた。船内は、軽やかな金属音が響く静かな空間だ。エリスが操作パネルをいじりながら、乗組員たちに簡単に説明をする。

 

「この宇宙船は、惑星間の移動に特化した軽量型のものです。貨物室はあまり広くありませんが、移動速度は非常に高く、エネルギー効率も良好です。途中で大きなトラブルがなければ、数日でルヴェルに到着します」

 

 その後ガルダたちはそれぞれシートに座り、腰を下ろした。船が軽く揺れ、発進する音が耳に届く。待っている間にリルルは何か思いついたように口を開いた。

 

「おい!! 最近やった任務の話でもすんぞ!! アタシは最近ちょっとすごいの倒したんだぜ!!」

 

「どんなモンスターだ」

 

 ガルダが軽く聞くと、リルルはすぐに目を輝かせた。

 

「惑星ドンバクで見つかった新種の大怪物だぜ。クソほどでけぇ岩山みたいな見た目してんのなは、空中を自在に飛び回って、周囲のものを吸い込んでいくんだ。最初はすごい手こずったけど、アタシの()()ちゃんの前には無力だったぜ……キャハハ!!」

「悪役みてぇな笑い方しやがる」

 

 リルルは得意げに言い、ガルダは微妙そうな顔をする。リルルはいつも通りに周りの目を引こうとしたが、レクスディアはあっさりと鼻で笑った。

 

「甘いなリルル。俺が最近倒したのはもっとヤバいモンスターだった」

「あぁん?? じゃあ言ってみろや……」

 

 リルルは犬歯を剥き出しにして、今にも噛みつきそうな勢いで言った。

 

「俺が討伐したのは、惑星ナロスで目撃された『ヴォルダラン』っていう古代の獣だ。見た目は、鋼鉄のような鱗に覆われた巨大なトカゲだったんだが、体長は三十メートルくらいあって、四肢は極端に太くて力強く、尾は一撃で建物を吹き飛ばせるほどの長さと重さがある。動くだけで岩山が崩れ落ちるくらいの震動を引き起こしていた」

 

 レクスディアは自信満々に胸を張り、その討伐の難しさを強調した。しかも見た目とか力まで丁寧に説明する徹底ぶり。

 

「はん……大したことねぇよ……クソがよ」

「大人しく負けを認めろ」

「うっざ!!」

 

 リルルは敵わないと悟り、標的をガルダに変えた。

 

「おい!! ガルダはどうだ!! てめぇは何倒したよ!!」

 

 ガルダは少し無表情で考え込みながらも、特に強調することなく言った。

 

「直近が今の任務に繋がってるんだよ、アニポエントって粘菌だ」

「菌とか雑魚か」

「……お前は絶対しばく」

 

 リルルはやっとマウント取れる相手を見つけたと言わんばかりにニヤァと笑うと、ガルダは中指を立てた。それを見ていたリルルは舐めんなやとギャーギャー騒ぎ出す。はっきり言ってやり取りはかなり大人気ないし、しょうもなかった。

 

「……はー……」

 

 エリスは船内で続くマウント合戦を聞いて、軽く眉をひそめた。少しの間黙ってから、ふとアポロニアに尋ねる。

 

「あのー……イェーガーって、あんなにマウント取るもんなんですか? 全然真面目な話もせずにひたすら子供みたいなやり取りするんで、ちょっとびっくりしましたよ」

 

 アポロニアは、エリスの言葉を軽く受け流しながら肩をすくめた。

 

「いや、あれはあいつらが変なだけ。イェーガーってのは、基本的に戦闘で結果を出すことが全てって感じだから、あんまりそういうの気にしないんだけど……あいつらというか私も含めて年近いし、しかも同期だからね……意識はするわ」

「そうなんですね……」

「ところでイェーガーに連絡するとき、連邦から何かうるさく言われたりしなかったの? ほら……基本的に連邦に加盟してるとこは大元経由だからさ」

 

 連邦はイェーガーに対しては利害関係が一致した場合のみ、味方するといった感じで距離を取っている。そのくせに色々と条例やら法律やらでグチグチ文句を言ってくるのだが、今回はどうやらそうじゃない。

 

 加盟国の……しかも1人の研究者がわざわざ来ているのだ。

 些細なことだが、アポロニアとしてはちょっと気になったのだ。

 

「今回は直接、イェーガーの知り合いに連絡したので話が早かったんです。何か困ったことがあれば気軽に相談してとも言われてましたし」

 

 少し照れ臭そうにエリスは軽く答え、アポロニアは納得した。

 

「知り合いかぁ……なるほどね」

 

 アポロニアは一応興味を持ちながらも、それ以上は詮索せずに黙って座り直すと、他のメンバーも特に気にする様子もなく、再びそれぞれの思い思いの話に戻った。ガルダもリルルもレクスディアも、特に新しい話題を持ち出すことなく、会話は自然と沈静化していった。

 

 やがて船はクルーシブル・ノヴァの領域を超えて……星空の彼方へ向かった。

 

 ◆

 

「行ったか」

 

 ヴァンドルはエリスの船がクルーシブルノヴァを離れていくのを見届けると、部屋に戻り、通信機に手をかけた。ボタンを押すと、画面越しに聞き慣れた声が響く。

 

《ヴァンドル、どうだった?無事に出発した?》

 

 その声には、穏やかな安心感と軽快な気配が混じっている。まるで親しい友人に話すような、リラックスしたトーンだ。

 

 ヴァンドルは窓の外を見つめながら、静かに答える。

 

「はい、四人は目的地に向けて動き出しました」

 

「良かった……それなら安心」

 

 声の主は少しホッとしたように続ける。

 

《あのメンバーは将来的にイェーガーの中心になる、だからこそあまり出来ない経験をバンバンさせなきゃ》

 

 それを聞いたヴァンドルは冷静に言った。

 

「問題があれば、すぐに連絡してください」

《もちろんさ》

 

その声に、軽やかな確信が込められている。

 

《それじゃ、成果を祈ってる》

 

 通信が切れると、ヴァンドルはしばらくそのまま静かに画面を見つめ、深く息をついた。




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