GQuuuuuuX格付けチェック・シロッコ様専用控え室 作:睡眠欲
ニューヨークにあるエッシェンバッハ・ホールで開かれる学会は、科学と軍事の最前線が交錯する独特の緊張感に満ちていた。連邦軍の技術者や研究者たちが集まり壇上を見上げていた。そこに木星帰りの青年が立ち、背後の巨大スクリーンに新素材の結晶構造が映し出されていた。光沢あるナノスケールの粒界が、まるで星雲のように広がり、会場に微かな光を投げかけていた。幾人もの研究者が時折ペンを走らせては、驚きと疑念が入り混じったささやき声が会場に蠢いている。
「本研究はチタン系合金の実用化に伴うレアメタル依存の解消をテーマに進めました。まず、従来の艦艇に用いられる既存装甲は高張力鋼とセラミック材料の複合装甲であり、この高張力鋼の防護性能は耐メガ粒子砲の観点からは物性限界が数多の先行研究で示されています。」
「この高張力鋼を置換する新世代装甲と目されているのがルナチタニウム合金です。これは月で採掘された高純度チタンに、ルナツーで採掘されたイットリウムを加え、低重力下の鋳造もしくはMetal Injection Moldingにより生産されます。この新装甲はレアメタルであるイットリウムへの依存による採掘コスト及び加工が困難である事にちなむ生産コストの高さが、連邦軍の拡大戦略にとって課題点として認識されています。」
シロッコは一呼吸置き、スライドを切り替えた。スクリーンには新素材の分子構造図とスペクトル分析図が映し出され、観客席に微かなざわめきが広がった。
「イットリウムからの脱却か…こいつ、でかい賭けに出たな。だが、そんな素材が実用化できるのか?」
私はその気持ちを共有しつつ、次の言葉に引き込まれた。
「本研究の新規性は2段階に分かれます。第1段階は、ルナチタニウム合金からイットリウムを完全に排除し、ベースメタルであるマグネシウムとケイ素に置き換えた装甲です。この素材を同じくMetal Injection Moldingで成形することで、ルナチタニウム合金と同等の強度を生産コスト3分の2で実現しました。これによりレアメタルへの依存を解消し、加工性を向上しました。従来のイットリウムを用いるルナチタニウム合金を
「第2段階を
「艦艇用従来装甲と、ルナチタニウムα、β、γの計4つを用いて防護性能試験をジュピトリスにて行いました。マゼラン級戦艦の主砲、サラミス級巡洋艦の主砲、レパント級フリゲートのミサイルそれぞれを各装甲に距離1kmから発射した際に、貫通されない装甲厚最低値のグラフを示します。」
スクリーンに試験映像が流れた後、装甲厚最低値が示された瞬間、私はメモを取る手を止めた。従来の装甲厚を1とした際にαで0.7、βで0.67、γでは0.58という驚異的な数値が会場がどよめかせた。この成果は、連邦軍の未来を塗り替える可能性を秘めていた。
シロッコの視線が観客席を捉え、自信満々に発表が締めくくられた。会場が一瞬静寂に包まれた後、質疑応答の時間が訪れた。
「テム・レイと申します。発表において防護性能試験は1発でのデータでしたが、実戦を想定した連続被弾への影響評価実験等はありますか?」
シロッコは頷き、即座に答えた。
「βとγ双方で、マゼラン級の主砲を5回連続で被弾させた試験を実施しました。βは表面の亀裂進展は従来装甲と比較して15%程、γは30%程抑制されたものでした。実戦での評価試験に用いる事が可能と考えています。」
別の技術者が質問した。
「コスト半減の根拠は?βの3分の2からどう下がる?」
「βは素材変更でコストを抑えますが、γは結晶成長技術が鍵です。γは地球圏資源と重力下での成長炉で生産でき、エネルギー消費は3分の1から4分の1に削減。生産効率が2倍になり、トータルで半分程に抑えることができました。ジュピトリス艦内で1日数百枚の試作用装甲板が生産可能と算出しました。連邦軍の工廠規模に拡張すれば十分な供給が可能です。」
質疑応答が続く中、私はこの新素材の影響を考えていた。資源採掘の戦略から兵器開発のコスト構造まで、全てが変わるだろう。テムが私に囁いた。
「こいつ、本物だ。βでも使えるが、γが実戦で証明されれば装甲は一変する。革命だな。君はどう思う?」
「その通りだ。βは今すぐ実用化でき、γは検証を急ぐべきだ。こいつの準備がここまでなら、我々の仕事は戦場に送り出すことだ。」
質疑応答も終わり会場が拍手に包まれた。この研究は、私の夢見たブレークスルーそのものだった。
「シロッコ君、素晴らしい発表だった。βとγの成果は、連邦軍の未来を塗り替える。
シロッコは一瞬目を細め、私を見据えた。そして、僅かに微笑みながら答えた。
「極秘プロジェクトをほのめかしたら逃げられませんな。チーム名は?」
「モビルスーツ評価検証委員会。」
彼の手が差し出され、私は力強く握り返した。
目の前の新たな盟友が持つ怪しくギラついた視線はこのうえなく頼もしさを感じさせた。