GQuuuuuuX格付けチェック・シロッコ様専用控え室 作:睡眠欲
地球連邦政府が南米の密林に築いた巨大地下都市——ジャブロー。
要塞としての機能を持ちながら、政府機構と軍司令部を内包したこの秘密都市は、連邦政府の中枢そのものだ。政治の意思と軍の判断が交錯し、技術と戦略が交わる場所。そして今、ここで進められている新兵器開発計画に、一人の青年が招かれようとしていた。
テム・レイ特務大尉は、隣を歩く青年の横顔を盗み見た。
——パプテマス・シロッコ。
19歳の技術士官候補生にして、ガンダリウムγ合金の理論と試作実証を独力で成し遂げた異才。正規の士官学校出身ではなく、学術枠として抜擢された彼が、ここジャブローの心臓部——軍兵器開発局に足を踏み入れること自体が異例だった。
息子、アムロ・レイは戦争とは無縁の、ごく普通の若者だ。そんなアムロと、わずか三歳しか違わないこの青年が、連邦軍の中枢技術に自らの名を連ねようとしている。
——時代そのものが、異常なのか。
——それとも、この少年が異常なのか。
「緊張してるか?」
軽く問いかけてみる。
「していません」
短く、明確な返答。迷いはない。虚勢でもない。彼の中には、既に完成された意志の核がある。
「……ミノフスキー博士は厳しい。何より目が鋭い。言葉の奥をすぐに見抜くぞ」
「覚悟はしております」
冷静な声音に、怯えは微塵もなかった。
テムは思う。この時代は、恐ろしい若者を育ててしまった。そして、それを必要とする軍の方が、もっと恐ろしいのかもしれない。
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金属扉が開くと、埃っぽい研究室の空気が流れ込んできた。装置と資料に囲まれた中央の机で、ミノフスキー博士は画面に目を落としていた。
「彼がシロッコ君か」
「はい。パプテマス・シロッコです。本日より配属となります。よろしくお願いいたします」
敬礼と共に、整った声が響く。ミノフスキーはしばし無言のまま彼を見つめた。
「……若いな。だが、目に無駄がない。すでに何かを背負っている者の目だ」
「評価に感謝いたします。期待に応えられるよう尽力いたします。」
その応対に、博士はわずかに目を細めた。テムが横から補足する。
「博士、彼の合金は各試験において安定した性能を示しています。装甲材の更新としては最適です。内装の余裕も大きく取れます」
「機体内部の配置自由度が増すのは大きい。推進系の再設計も考えねばならん」
ミノフスキーはホロ画面を切り替え、そこにRX-75の試作機構造図を呼び出した。
「装甲が軽く、しかも強度が高いとなれば、設計全体を見直す必要がある。君の素材が持つ意味は、単なる強化では済まない」
「はい。装甲は機体の輪郭を定義します。内側に詰め込めるものが増えれば、やれることは多くなります」
博士はうなずき、静かに画面を閉じた。
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かつて、連邦はジオンの新兵器——モビルスーツがもたらす戦術的影響を評価するため、モビルスーツ評価検証プロジェクトを立ち上げた。
プロジェクトマネージャーはミノフスキー博士。リーダーには若手のテム・レイが抜擢された。
その分析結果は、既存の兵器体系ではジオンのモビルスーツに対抗できないという現実を突きつけ、計画は一つの結論に至る——連邦も、モビルスーツを開発せねばならない。
こうして新たに始まったのがRX計画。プロジェクトマネージャーは引き続き博士が務め、実行を担うリーダーはテムが受け継いだ。
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別のスクリーンに、干渉波形と通信遅延データが流れる。ミノフスキー博士のもう一つの仕事——次世代通信技術開発プロジェクトの成果だった。
「通信の方はどうですか?」
テムの問いに、博士は肩をすくめた。
「進展はない。ただ、見えてきた道もある。ミノフスキー粒子の干渉は物理現象だ。原理を理解すれば、回避ではなく“付き合う”方法もあるはずだ」
このプロジェクトでも、博士はプロジェクトマネージャー兼リーダーを務めている。粒子の名を冠する張本人として、彼には逃れられない責務があった。
「私が放った技術が、世界を変えてしまった。その結末を見届ける義務がある」
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シロッコが配属に向けて技術班の初期ブリーフィング資料を受け取る準備をしている間、テムとミノフスキーは短い確認を交わした。
「……やはり、RX計画はもう止まらないな」
「はい。追加予算も通過し、新装甲導入による設計フェーズが延長中です。機体内装に変更がない場合、生産フェーズ開始は従来の78年冬に開始の予定で動いています」
「つい先程生産フェーズに関しても追加予算が通ったようだ。開戦はもうすぐらしい。」
その言葉にテムは表情を引き締めた。
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「シロッコ君、RX計画における装甲素材の評価、及び応用検討は君に任せる。現場試験の立ち会いも必要に応じて行ってもらう」
「承知しました。責任を持って対応いたします」
「……君のような若者が、兵器の設計に名を連ねる時代になった。それをどう受け止めるかは、我々の側の課題だな」
部屋を出て歩き出してから、テムは静かに問いかけた。
「どうだった、博士は?」
「……世界を変えられる知性を、この目で見たのは初めてです。ただの研究者とは違う、“時代の創造者”です」
テムはその言葉に返すべき言葉を探し、やがてゆっくりとうなずいた。
「まさしくその通りだな。」
そしてふと、かつて若かった自分が博士に憧れていた日々を思い出す。
——その背中に近づこうとしたが、いまだに届いた実感はない。
だが今日、横に並んだこの青年は、その背中の輪郭をしっかりと見ている。
テムは歩きながら、ふと思う。
——この戦争が終わったとき、自分はどんな技術者として名を残すのだろうか。そして、シロッコは——何を“創る側”に立とうとしているのか。その問いに、まだ答えはなかった。