Repeat after me 「ラミ☆エル」!! 作:妖怪「キラキラ様」
「アーハッハッハ⋯⋯!、ゲホッゲホッ!!」
とあるバーのカウンターの一席。
男が噎せながら大笑いを繰り返し、挙げ句「ヒィィイイイッ!」と過呼吸気味に引き笑いしながら喜んでいる。
カウンター傍のボックス席には、彼に取り残された眼鏡の男が突然の事に呆然とし、その男の隣では目元が包帯状のマスクで隠れた風変わりな男が我関せずとばかりに酒を舐める程度に味わっている。
彼らの視線の先、壁際に設置されたテレビには、今しがた第二種目が終わったばかりの『雄英体育祭』の様子が放映されていた。
「おい、死柄木さんよ。何がそんなに面白いんだ?急にテレビにかじりついたと思ったら大笑いして」
いや、ガキどもが右往左往する様は滑稽で笑えたがね、と眼鏡の男、義爛は未だ笑いの治まらぬ白髪の男、死柄木弔にいい加減理由が知りたいと苦笑混じりに問う。
そう、ここは先日、雄英高校に襲撃を掛けたとニュースになった改造人間『脳無』を使役していた男、死柄木弔の潜伏するアジトの一つ。
義爛という男はその筋では有名な闇のブローカーで、今日は隣で興味なさそうに座っている男と死柄木を引き合わせる仲介役としてこの場に来ていた。
☆☆☆
「ヒィーッ!、ッ!、ッ、フゥ。⋯⋯ああ、悪い義爛さん。バカみてぇに大笑いしちまって」
目尻に浮かぶどころか笑いすぎて零れ落ちた涙を指で拭いながら死柄木が答える。
今日の死柄木は随分とラフな格好だ。
灰色の上下のスウェットに裸足にサンダルを引っ掛けただけの、とても客を迎える格好には見えない、完全な引きこもりスタイルでUSJ襲撃の際に着けていた
そんな失礼な格好にも興味を向けず、義爛の隣の男はおもむろに立ち上がる。
「⋯⋯ハァ。俺は帰るぞ。他人のバカ笑いを眺める為にこんな所まで来たわけではない」
「ああ!待ってよセンパイ!悪かったって!「センパイ?」」
さっさと席を立ち背を向ける男を、死柄木は大慌てで引き留める。
「そ、センパイ。長い事草の根運動続けてこのヒーロー社会に一石を投じようって涙ぐましい努力を続ける、尊敬すべき先達さ!」
小馬鹿にした様な挑発めいた物言いに振り向きざま死柄木を男は睨みつけるが、当の死柄木はどこ吹く風とばかり上機嫌に笑顔を向けてくる。
その無防備さと能天気さに毒気を抜かれ、振り返ってしまった手前今更もう一度まわれ右して帰るのもなんだと、男はもう一度深く溜息をついて席に戻った。
「いや〜!義爛さんもセンパイも本当にゴメンね!余りの光景に可笑しくなってさ」
改めてボックス席に三人座る形になり、死柄木は向かいに座る二人に頭を下げて謝罪する。
「まさか『天使』が見れるとは」
「『天使』ィ〜!?」
だが、彼が続けてつい溢した一言に、義爛は胡散臭いものを見る様に顔を歪めて言い捨てる。
「なんだ急に。旧時代の宗教家でも見つけたのか?」
確かにあの茨の嬢ちゃんはソッチ系に見えなくもなかったが、と義爛は内心考えるが、
「ああ、違う違う。『天使』ってのはそういう個性のヤツの話さ」
個性黎明期の話、さすがに義爛さんでも知らないネタなんだな。
そう続けた死柄木の言葉に、ブローカーとしての矜持を傷付けられた気がして、義爛は少々面白くなさそうに顔を顰める。
「義爛さんが知らなくてもしょうがないよ。当時の記録や証言は『先生』が手元に残した以外、全部消し炭にしたらしいから」
「なんだソラ!とんだ引っ掛けじゃねーか!?」
無駄に傷付いた事に気付いて、思わず大きな声が出た義爛に、噛み殺した様な笑いを浮かべて死柄木は続ける。
「個性黎明期の⋯、フランス、辺りだったかな?ある集落に『天使』が現れたらしい。最初に上がったのはそんな噂話だったとか」
「その『天使』は記録の通りなら常に空にあり、青く輝き、光の矢と、光の鏡を持って、とても美しい正八面体の結晶だった」
「そんな話を聞いてうちの『先生』、『天使』に興味持ったらしくてさ」
「ちょっと待った!噂でわかった気になってたが、本当にあの『先生』、個性黎明期頃から生きてんのかよ!」
「そうらしいよ、興味無いけど」
「改めてとんでもないバケモン⋯って、オイ!自分の『先生』に興味無ぇとか、生徒も生徒でとんでもないな!」
「ハァ⋯⋯。義爛、つまらん長話なら時間の無駄だ。横やりは入れるな」
途中で脱線した話を意外と興味深く聞いていたのか、男に注意されて義爛は慌てて謝り、死柄木に続きを促す。
「続きだけど、結果から言えば『先生』は『天使』を搦め手で追い詰めて個性奪って殺したらしい。で、その流れで集落も
だからそっち方面でまず伝承なんかは残ってない、とあっさり告げた死柄木に対し、その規模の大きさに義爛はゴクリとツバを飲む。
痕跡消す為に集落一つ更地ってなんだ。
「だけど、『天使』は『先生』の手に余った。適応出来ない『天使』に苦しめられて、せっかく揃えた『先生』の個性のコレクション、どんどん変質、消失を繰り返して、オールマイトにやられる頃には
「ウソだろ⋯」
義爛も噂程度には知っているが、個性黎明期より社会の闇に君臨し続けた魔王の話の筈である。
山のような逸話を持った『魔王』が、あの裏側ではよく知られたオールマイトとの決戦での大立ち回り。
あのとんでもない被害で全盛期の三割とは⋯⋯、と今度こそ義爛は言葉を失った。
「で、その『天使』、十年位前にやっと手放せたらしい。余りの喜びに細かい事は忘れたらしいが、『無個性』のガキに押し付けて逃げたって」
「普通にクソじゃねーか」
「また話が逸れるぞ。つまり、あの宙に浮いていた小僧がその『天使』だと?」
「正確には『天使』そのものじゃなくて『後継者』、それも完全な適合者のね」
男が強引に締めた話に死柄木が補足を付けて、簡単な『天使』の逸話語りが終わる。
だが、改めて先の『騎馬戦』。
大分変則的ではあったが、終始他の生徒を圧倒していた『天使』の少年は確かに宙に浮き、光の矢を無数に放っていた。
だが、ソレだけである。
複合型の強個性ともいい張れるのでは無いか、と懐疑的な二人に、死柄木は苦笑しながらおもむろに右の人差し指を立てて、彼らに向ける。
「『
途端に死柄木の指先を中心にして、彼の身長ほどの半透明の八角形の光が義爛達の前に出現する。
驚いて仰け反る義爛に、慌てて壁に張り付く様に飛び退き、臨戦態勢に入る男に死柄木は笑って落ち着く様に言う。
「アハハ、そんなに驚かないでよ。コレが伝承の『天使の鏡』さって紹介しただけなんだから」
そんな死柄木の言葉に、恐る恐る覗き込む義爛の隣で、男がゆっくりとその半透明に輝く『鏡』に手を伸ばす。
「⋯⋯なる程な。あの子供が『天使』であるかの証明にはならんが、コレが『鏡』だと言うなら先の伝承も強ちホラ話とも言えんらしい」
『鏡』に触れた後、そんな風に呟いて席に戻った男に、「俺の話信じて無かったのかよ。ひでーなセンパイ」と笑う死柄木を横目に、「触っただけでわかるモンか?」と義爛が男に確認する。
「俺の理解の外ではあるが、⋯⋯ハァ、少なくともコレを張られては俺は何も出来ん」
コレを壊すなら、少なくとも重戦車の類でも必要になるんじゃないか、と締められて、義爛はポカンと口を開けた間抜けな顔で改めて『鏡』を眺める。
そんな二人を苦笑混じりに眺めた後、指を振って『鏡』を消した死柄木が続けた。
「証明にはならないかもだが、あの『天使』君に突っかかった『爆発』君、彼が一瞬『鏡』を出してた。
この『鏡』、『鏡』同士なら
「待て待て!何だ!『天使』ってのは
俺でも出来んのか、アレ!と顔を引き攣らせてツッコむ義爛に、
「俺の個性も『天使』由来さ。『
ただ、と死柄木は続ける。
「ただ、『天使』の個性はともかく、『鏡』は理論上誰でも使えるかもな」
多分に俺の推測入りの暴論だけど、と告げた死柄木に、義爛は情報量の多さから何も言えなくなり天を仰いだ。
そんな義爛を放っておいて、死柄木は隣の男に視線を移す。
「センパイにも無関係な話じゃ無いんだぜ?」
「⋯何?」
「あの『爆発』君、多分オールマイトの関係者だ」
「なんだと!?」
勢い込んで立ち上がる男に、(反応早っや!さすがオールマイトオタク)と内心で笑う死柄木は、そんな所をおくびにも出さずに続ける。
「オールマイトは元々、『先生』の宿敵の末裔なんだよ」
正確にはこっちも『
「『先生』の宿敵の一族の『個性』だぜ?どっかで『天使』化したって可笑しくない」
合ってる様な合ってない様な、微妙に整合の取れた説明を死柄木は続ける。
だって直接目にしたオールマイトの『天使』の赤い光が、『爆発』君と共にいたもじゃもじゃ髪の『彼』の内にもあったのだ。
そりゃ『後継者』だと思うだろう、己の視覚情報だけが根拠など、
こっちだってテレビ越しでも『天使』の光が確認出来るとか初めて知って、内心は意外とテンパっているのだ。
「そんな『天使』の個性の末裔のオールマイトが、次の『後継者』に選んだガキがいる。あの『爆発』君は多分ソイツから『天使』の扱いを学んだんだろうな」
何かセンスとかありそうなムカつくガキだったし、と締めた死柄木に、男はしばし視線を伏せて考えに耽り。
「⋯⋯ハァ、あの『空気弾』を使った天然パーマの子供か」
オールマイトの『後継者』だという子供、『緑谷出久』に思い至ったのだった。
☆☆☆
「オイオイ!オールマイトの『後継者』って、そりゃトンデモねー特ダネだろうが!?」
「それで『天使』に目をつけられて灼き払われるの?義爛さん」
「止めておけ義爛。⋯⋯ハァ、あの子供が『後継者』だったとして、関わるならばまず俺が確かめる」
『裏』に流せばとんでもない事になる、と興奮しだした義爛は死柄木と男の言葉にスン、と表情を無くす。
確かに『魔王』を散々苦しめた『天使』の庇護下にある少年を危険に晒すとか、とんだ自殺行為である。
それに勝手な事をして『魔王』の生徒も、隣の男も敵に回すとか冗談にしても笑えない。
特ダネなのにな〜、と内心だけでがっかりして、だからオールマイトが雄英教師に就任したのかと勝手に納得した義爛を横目に、残る二人は話を続ける。
「で、とんでもない脱線したけど、ここまでの話、全部世間話だよな?センパイ」
「⋯⋯ハァ、そうだな。思ったより有意義な情報だとは思うが」
そう、最初にブローカー義爛に男が連れて来られたのは、そもそも死柄木が男を勧誘したいと思っての事だったからだ。
「⋯⋯ハァ、あの少年が気になると言うなら」
「センパイの邪魔をしなきゃ協力してくれるって?ダメだよセンパイ、あの子はしばらく泳がせる」
「何故だ」
本当なら今日の『雄英体育祭』の終わった帰り辺りにでも少年の元を訪ねて、彼の思想を確かめたい所なのだが。
一気に視線の冷えた男に、(オールマイトオタク沸点低!)と内心で小馬鹿にしつつ真面目くさって死柄木は答える。
「今動いて『先生』に目を付けられたくない」
「何だ、ソレは貴様の事情だろう?」
「じゃあ、オールマイトの選んだ『後継者』が無残に殺されたり、隠し事した
「⋯」
「俺はヴィランだけどさ、『先生』の命令で仕方なく『USJ』に襲撃仕掛けただけのある種の被害者だぜ?センパイは元ヒーロー志望として、俺に救済のチャンスはくれないの?」
「⋯」
「⋯俺は、オールマイトが『先生』を殺してくれるのを待っている」
「「!?」」
会話の途中でとんでもない事を暴露した死柄木に、男ばかりか義爛も息を呑む。
「俺が狂わずに済んだのは『天使』が介在した俺の個性のおかげだ。コレが無きゃ俺の人格は壊され、俺は家族殺しの十字架を背負って生きる事になって、とっくに性根の腐った正真正銘の『ヴィラン』になってた筈だ!」
何も言えず固まる二人を余所に、死柄木は言葉を続ける。
「なあ、俺は俺を救ってくれなかったヒーローは嫌いだが、それでも社会に必要な一種の安全弁だってのはわかるんだ」
「アンタがオールマイト狂いで、あのもじゃもじゃ髪の子を確かめたいのもわかる」
「だけど、オールマイトが『先生』を殺してくれなきゃ、俺はいつまでも自由になれない」
「あの人がいなくなりゃ、俺だって道を外れたろくでなしなりに、裏の社会で表の秩序が守られる様にろくでもねぇ
「それでも俺は、アンタに狩られる様な、救いようの無い
「なあ、答えてくれよ、『ステイン』センパイ」