Repeat after me 「ラミ☆エル」!! 作:妖怪「キラキラ様」
ざわざわと日々と変わらぬ騒々しくも賑やかな朝の教室。
そんな教室で雑談に興じていた筈のクラスメイト達は、現在、言葉も無く一点に視線を集中させていた。
「おはようみんな!良い朝だね!」
((((誰ェーーーーー!!?))))
颯爽と現れたその生徒は撫で付けられた金髪に爽やかな笑顔を浮かべ、キチッとネクタイも絞め、シワ一つ無い制服に身を包んだ飯田もかくやという程の品行方正な出で立ちで教室を進み、窓際のある席に腰を下ろした。
「「「ば、爆豪ーーー!!?」」」
そう、爆豪勝己である。
「え、え、なんで!?爆豪!?」
「どうした爆豪!?何があった!?」
「爆発さん太郎の面影がねぇ!?」
「⋯⋯職場体験のストレスかしら?」
「「「それだ!!!」」」
「何を言ってるんだい君たち。僕は昔から品行方正に「「「それはない!」」」」
本気で爆豪と気付かぬレベルで化けている品行方正っちゃんに戦慄し動揺するクラスメイト達。
その中でふと、教室の入り口に目を向けた上鳴達の視線の先に、胃の辺りを押さえた姿勢でどんよりとする緑谷が佇んでいるのが見えた。
「緑谷!?」
「⋯⋯おはよう、上鳴君」
調子が悪い、というより落ち込んだ風に答える緑谷に、上鳴はそりゃそうだと思う。
普段爆発さん太郎な幼馴染みがこれじゃ胃も痛くなるよ、ワケわかんないもん。
「⋯⋯かっちゃん」
ズリズリと重い足取りで動揺するクラスメイトの間を抜け、自分の席の前、爆豪の元へ辿り着いた緑谷は、重苦しく幼馴染みに声をかける。
「なんだい出久?」
((((デク呼び何処いった))))
そんな幼馴染みに返す爆豪のリアクションは、なんかもう己のアイデンティティを全てドブにでも捨て去ってきたと言わんばかりの変わりように、周囲もドン引きしている。
「⋯⋯もう、もう、辞めてよ」
「何をだい?」
「もうそのワケわかんない優等生ムーブ辞めろっつってんだよバカっちゃん!!!」
((((緑谷がキレた!!?))))
普段はむしろこっちが優等生だろといえる緑谷がまさかの口悪く爆豪を罵るという逆転現象に、クラスメイト達は言葉も無く二人を見比べる。
「何を言ってるんだい出久。僕は元々優等生「中身はね!?勉強も運動も出来て成績優秀だったけど!外面最悪の案外みみっちいチンピラ紛いが君の評価じゃないかバカ野郎!!」」
((((キレ緑谷こっわ))))
「⋯⋯お前、反論出来ねぇけど、かつての日々を反省する今のメンタルだとその罵倒は滅茶苦茶痛ぇんだが」
「あ、ごめん」
「「「「イヤイヤイヤ」」」」
さっきまでのにこやかさわやかな笑顔が緑谷の罵声で一瞬にして曇るが、その表情はみんなが知る爆豪のもので、それを見たクラスメイト達は一斉にツッコミを入れる。
「爆豪普通の顔出来んじゃん!?」
「ホント何があったよ爆豪!?」
「アタシもうてっきり何かの『個性』事故かと」
「ソレな」
「お前ぇら⋯⋯」
「やあ◇みんな☆今日も僕が◇来たネ☆」
((((この忙しいタイミングで))))
動揺するクラスメイトに青筋を立て始める爆豪を見て、あ、普段の爆豪だ、と安心する間もなく、相変わらずキラキラとしたエフェクトと共に登校して来た青山に、これ以上の情報の暴力はいらないと狼狽える彼らだったが。
顔を俯けたまま青山に近付いて行く緑谷を見て、まだこの騒動は終わってないのかと、クラスメイト達は唾を飲み込む。
「⋯⋯青山君」
「なんだい◇緑谷君☆」
「かっちゃん職場体験終わってから変なんだけど!?まさか青山君困らせてないよね!?」
「待って待って、何の話だい!?」
青山の肩をがっしり掴んだと思うと、緑谷は彼をがったがったと前後に揺らしながら据わった目のまま訴えかける。
予期せぬ言い掛かりに思わず素のリアクションとなる青山はなされるがままだ。
「かっちゃん日々のボケ倒しにツッコミ疲れて壊れちゃったんだよ!見てよ!この日々に疲れてやさぐれた優等生ムーブを!!」
「えええーーー!!?♧」
「待てやクソナード」
大声で何のたまってんだと思わず立ち上がり二人に近付いた爆豪にひしと抱き着き、口元をヒクリと引く付かせ硬直する爆豪に気付かずそのまま緑谷は口を開く。
「返してよ僕のかっちゃんを!!!」
「誰がテメェのだクソボケデクゥ!!?」
((((もう公開告白じゃん⋯⋯))))
続いた緊張感が一気に緩み、クラスメイト達の肩が一斉にガクッと下がる。
「⋯⋯愛かい?☆」
「気色悪い事言うなキラキラ様がテメェが何か言うと御利益出てきそうで怖ぇからヤメロ」
「そうだよ!別に愛とかじゃ無いよこんな虐めっ子!ムカつくトコなんて沢山あって腹立つのに、強くて格好いいトコも沢山あって!嫌なヤツなのに和解したら心置きなく推し活出来るし最近かっちゃん優しいからやっと昔みたいに仲良く出来て嬉しいなって」
「テメェもテメェで重いのなんだクソナード!?」
((((緑谷メッチャ語る))))
幼児退行再び?な緑谷に引っ付かれ狼狽える爆豪という光景に、何とも反応し辛いといった表情で、一先ずツッコミは放棄する事に決めたA組の面々だったが、そんな中唯一彼女だけがこっそり二人に近付くのだった。
丸顔の、麗日お茶子である。
「デク君」
「ふぇ?う、麗日さん?」
「デク君は別に爆豪君にボーイズなラブではないんよね?」
「え、あ、うん。勿論」
「じゃあ」
「爆豪君に告白されたら、どうするん?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯は?」
「あ゛?」
唐突な麗日の乱入に、場は騒然というより困惑に包まれる。
が、一部の者は密かに視線でやり取りをしていた。
(これは⋯⋯ラブの発露!?)
(来たかい?☆)
(今は手を出しちゃダメだよね!?)
(勿論!!茶化すのはずっと後!今日の騒動が落ち着いてからだよ!!)
((了解!!)☆)
(チャラいのとエロいのは?どうする?)
(((ハッ!?)))
誰と名言はしないが。
そんな外野と、外野に警戒されているとは気付かないまま血涙を流す数秒前といった風情の某葡萄の様子にも気付かず、麗日は思わずといった風に二人に話しかける。
「何か、二人の距離がメッチャ近いなーって思って」
「いや、イヤイヤイヤ!そんな事ないよ!普通だよ普通!ね、かっちゃん!?」
「お、おう」
「じゃあ爆豪君も、デク君に告白されたらどうするん?」
「ヤメロ!ねぇから!⋯⋯ねぇよな?」
「不安にならないでかっちゃん!?」
何か、一言で言い表せない複雑な関係のせいで即座に断言仕切れてない様に見える二人に、周囲も聞いていていいのか、すわ修羅場か、と動くに動けないまま緊張感を増していく。
「何かデク君、爆豪君に良くくっついとるし」
「いや、これは⋯⋯。な、なんとなく、かっちゃんとスキンシップ取りたいなぁ、と⋯⋯」
「つーかテメーの確認したいのは俺らがどうかじゃねぇだろ」
「⋯⋯え?」
麗日のなんとも言えない表情に押され、しどろもどろになる緑谷と違い、大体状況を察した爆豪が話題の主導権を握る。
「重要なのは俺らが『カツデク』とやらでイチャイチャする仲かの確認じゃ無くて、どっかの誰かとご自身の気持ちじゃありませんかねぇえ!?」
「へ、⋯⋯は?⋯⋯はぁああ!?」
煽るような爆豪の物言いに、『ナニカ』に気付いたらしい麗日の顔が真っ赤に染まる。
「ちゃ、チャウチャウ!!ちゃうからね!?チャウよ!別に!ちゃうからウチ!?」
「⋯⋯まだ何も言ってねぇだろうがよ」
「言うとるやん!言うてへんけど!大体、爆豪君もそんな何か邪推すんなら怪しいんちゃうの!?」
「⋯⋯テメェこの期に及んで固有名詞出さねえで穏便に済ませてやろうと言う俺の気遣いは要らねぇらしいな丸顔ぉ!!」
「ちゃ、ちゃうもん!?ちゃうからね!?言わんでいい!言わんでいいから!?」
「そのコントはまだ終わらないかお前ら」
「「「「「へ?」」」」」
何やら修羅場か寸劇かわからなくなりそうだった空気が一瞬にして霧散していく。
恐る恐る生徒達が振り返った先にいるのは、出席簿片手になんとも言えない視線を騒ぎ立てていた面々に向けるA組担任の相澤消太その人だ。
「朝のホームルーム始めるぞ」
「「「「「⋯⋯ハイ」」」」」
こうして、色々な意味で全員の精神にダメージを与えた朝の一時は終焉を迎えたのだった。
☆☆☆
「⋯⋯結局、朝のアレはなんだったの?」
朝のホームルームが終わり、一部の生徒がこの世の終わりと嘆く中*1、朝のアレ――勿論終わりしな突如出現したチャウチャウ犬*2の話、ではなく。
今はすっかりいつもの爆発ヘッドに戻った爆豪に向かって、朝の八二坊やはなんだったのか気になった耳郎が隣の席から問いかけていた。
「あ?⋯⋯そこまで深いアレはねえよ。まあ、ベストジーニストとキラキラ様にツッコミ疲れた憂さ晴らしっつー側面もあったにはあったが」
「あったんだ」
「メインは変装」
「へんそう」
「どうせ職場体験中は服装の乱れを正すとかって無理やり八二坊やだったからな」
一応耐えてはいた耳郎だったが生来笑い上戸である彼女は当の本人からの八二坊や呼びに敢えなくダウン、その元八二坊やからの冷たい視線を受けながら腹痛に堪え忍ぶ必要がある程の爆笑に耐えながら机に突っ伏してしまった。
「⋯⋯で、その、八二坊やをわざわざ続けたのはなんでよ?」
目の前の席で撃沈した耳郎の後を引き継ぐ様に質問する瀬呂を爆豪は一瞥すると、
「どうせ強制だったから、外見に合わせたキャラ作りでもしようと思って」
ジーニストのサイドキックは全員沈めて来たわ、と言う爆豪に、つまり今朝の性格のまま、職場体験を最大一週間熟して来たと。
その事実に気付いてしまった耳郎は笑いすぎで痙攣を始め、瀬呂も流石に口元が引くつき腹筋を必死に締め始める。
「まあ、自分でもねーわっつーキャラ作りだったせいで、俺とは気付かれねぇ出来の変装にはなったが、蕁麻疹が出る代わりに変装中は個性使えなかったけどな」
「「「「ダメじゃん!!?」」」」
個性が使えなくなる程の拒否反応って、何?
脳内で反論出来たのも一瞬で、朝の一幕を思い出してしまったのも相俟って、大方のA組生徒は机に突っ伏すか、天井を向いて大爆笑するかの結果となった。
その惨状にいつものハイテンションで授業を始めようと入ってきたプレゼントマイクは困惑で挙動不審になったと、授業後に相澤に語っていたという。