Repeat after me 「ラミ☆エル」!! 作:妖怪「キラキラ様」
「⋯⋯かっちゃん、動ける?」
「⋯⋯問題ねえ、テメェは?」
「こっちも大丈夫、だけど」
「⋯⋯ああ、終始こっちが優勢だったが、割と余裕が見えた」
「地面に叩き落とした所で手錠付けに行くのは」
「リスキーだろ?あの人が余裕で捌いてた以上、俺が動けねー間にオメーが勝負決めに行くのはリスクがでけぇ」
ハンデ有りとはいえあのオールマイトを地面に叩き付けた直後。
緑谷と爆豪は上がりきった荒い息を整える為、構えだけは解かないものの、体を休めるよう努めていた。
演習試験三十分の内、見ればやっと五分が過ぎた程度だが、思った以上の疲労感が全身にのし掛かっている。
(体を動かす以上にプレッシャーがヤベェ!良く
(体が重い。かっちゃん共々『活性化』の反動って意味では問題ないのがありがたいけど、実戦ってこんなだっけ。もし試験に合格でも、ペース配分の問題だけで失敗じゃないか?僕ら)
地面に叩き付けた衝撃で舞い上がった砂煙は大方が風で吹き飛び、彼らからは陥没し、めくれあがったアスファルトだけが見えて、未だオールマイトの姿は視認出来ない。
もしかして気絶してるんじゃなんて、二人は一瞬でも考えられない。
何しろずっと感じているのだ。
見えない瓦礫の向こう側。
オールマイトの、NO.1ヒーローの。
『平和の象徴』の存在感を。
その、威圧感を。
(⋯⋯『ONE FOR ALL』!!)
「「!!?」」
声は、聞こえなかった。
だが二人は即座に構える。
ガラ、と瓦礫の落ちる音が聞こえる。
瓦礫を掴む手が、ゆっくりと体を引っ張り上げる。
のっそりと起き上がるその巨体は、朝の目覚めの様な自然さで、何事も無かったかのように立ち上がる。
「緑谷少年」
瓦礫を一歩一歩、その男は乗り越えてくる。
「爆豪少年」
自然に、ゆっくりと、泰然として、その男はこちらへと真っ直ぐ歩を進める。
「良く、ここまで成長した」
緑谷と爆豪の、彼らの眼前、十メートル程前で、男は立ち止まる。
「良く、この短期間で力を使いこなした」
あくまでも自然体で、直立の、仁王立ちで、男は彼らに語りかける。
「私も、手本とならねば、教師とは言えないな」
男の、オールマイトの、彼から感じる存在感が、明確な威圧感となって二人の少年にのし掛かる。
(な!?こっ⋯⋯!?)
(こ!?これが⋯⋯!?)
「さあ、行くぞ!有精卵共!!」
「ここからが本番だ!!!」
((これが!オールマイトの『活性化』状態⋯⋯!!!))
☆☆☆
「イヤ、本番も何も、試験中だからね、アンタ達」
試験会場全てを監督、監視出来るモニタールームで、呆れる様に独りごちるのは保険教諭のリカバリーガールだ。
ここには今、彼女の他に既に試験を終えたA組のクラスメイトに担任の相澤までが集まり、緑谷達の試験を観戦している。
「凄ぇなアイツら」
既に砂藤と共にセメントスにコテンパンにやられ、戻ってきた切島が感嘆混じりに呟く。
「あの状況で、笑ってやがる」
周囲の生徒も切島の言葉に内心で同意するが、視線も思考もモニターから離れない。
今、画面には手の辺りから黒い鞭状のナニカを伸ばして周囲のビル群に引っ掛け、伸縮させた反動で跳び回りながらその鞭で爆豪の扱う光球を寸断、誘爆させ、またはそのまま鞭を緑谷達に叩き付けるオールマイトの暴れッぷりが映し出されている。
だが、そんなNO.1ヒーローの猛攻にも、緑谷も爆豪も獰猛な笑みを浮かべながら食らい付いているのだ。
「これが、オールマイトの『全力』⋯⋯!?」
「アイツらスゲーな!あんな暴力の嵐ん中、ちゃんと戦ってるぞ!?」
実際の所、緑谷達の笑みは恐怖と疲労感を押し殺す為のひきつったものだが、それでも生徒達の言葉通り緑谷は己のオーラを展開、収縮、発散を利用して距離を取り、防御し、反撃しているし、爆豪は数多の光球が不発のまま切り捨てられてもお構い無しに光球を生成、手足に纏わり付かせて飛び回り、牽制と撹乱で大いに貢献している。
今また緑谷の収縮、発散させたエネルギー付きの拳とオールマイトが鞭で真似た様に伸縮、展開した勢いのある拳の一撃とが相殺し合う。
ハンデ付きとはいえ曲がりなりにも勝負になっている様に見える試合内容に、皆言葉もないまま見入っているのだった。
☆☆☆
(ホンットに!オールマイトと!正面切っての!殴りッ、合い、とか!)
嬉しいんだけど冗談じゃないよ!とオタク心と現実の鬩ぎ合いに内心で吠える緑谷は、何度目かのスマッシュの打ち合いに痺れる腕を振って誤魔化しながら、何とかオールマイトの隙を作ろうと必死に頭を回していた。
一方の爆豪も無数の光球を撒き散らしながら撹乱と牽制を続けていく。
(ホントに『鏡』サマサマだわ!!『活性化』が安定した途端、光球の展開が息を吸う感覚で簡単に出来る様になった!機雷や障害物代わりに浮かせとくだけなら五十は軽いってのもありがたいが、これは時間経過で徐々に縮小、消失すっから過信は禁物!かといって手動操作なら消失しねえ代わりに個数制限がある!)
手足で回転、噴射させて防御と加速に使う光球を意識外で巧みに操りながら、爆豪は眼前のオールマイトを睨み付ける。
(この制限にそろそろオールマイトも気付いてる筈!)
(⋯⋯両手に計十二個。大体片手に六個ずつを基本に加速、攻撃の際に一個足側に移動して噴射、が纏わせた光球のルーティンかな?)
周囲の機雷代わりの光球を目眩ましに纏わせたフリをしたり、足だけに複数光球を纏わせて飛んでみたりしてたけど、と、爆豪の予測通り概ね個性の把握を終えたオールマイトはさすがにそろそろ仕切り直しと降伏勧告、した方がいいよなあと体に力を込める。
(まだ気合いを入れ直して五分位だけど、結構少年達も汗だくだしね!⋯⋯相澤くんもリカバリーガールも、お、怒ってないよネ?)
今更ながら好き勝手しちゃってるよナー、と内心ではビビり散らかすオールマイトには気付かず、ただ全身の威圧感の変化から何か仕掛けて来るとは瞬時に理解した爆豪は、咄嗟に緑谷をかっさらって上空へと避難する。
「OKLAHOMA SMASH!!!」
『黒鞭』と『発剄』を組み合わせたラリアットという、割と本格的に殺しに来てないか?という規模の必殺技に巻き込まれなかったのは本当に幸運だった。
下方を見やって喉を鳴らして息を詰める爆豪と、彼にしがみつくようにして青ざめる緑谷がそんな風に思うほど、通りの中心から周囲のビルの外壁を抉り取る程――吹き飛ばす、ではなく綺麗にくりぬかれて内部が見えている――の衝撃と破壊の痕跡は、少年達の肝を潰していた。
「さ、さっすがオールマイト、ハンパない、ね」
「⋯⋯一先ず上から逃げんぞ。息落ち着かせねぇと、これ以上はまた」
「いやぁ、ゴメンネ?」
上空へ、オールマイトの間合いの外へ逃げたからと、気が抜けていたのだろうか。
声のする方に振り返る緑谷と爆豪に、にこやかに手を振るオールマイトが答える。
「(お師匠の『浮遊』。まだ緑谷少年は使えないみたいだけど、これもその内『再現』しちゃうんだろうなあ)悪いんだけど、これ以上長引くと相澤くん達に怒られちゃいそうだからね」
「「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」」
未だ今のオールマイトが歴代の個性を発現した状態だとは露知らずの二人は、何でオールマイトが宙に浮いてんの?とか、最初から試験度外視だったしね?とか、様々な思いを脳内で駆け巡らせて、取り敢えず迎撃を!と構えようとした所で。
パァン!!!と、『発剄』込みの力強い猫だましの爆音と風圧に、試験開始から攻め立てた最初の五分とオールマイトの反撃に抗した五分の計十分ですっかり疲弊していた二人は、一瞬で意識を刈り取られたのだった。
☆☆☆
モニター越しに二人の少年を抱えてゆるゆると地上に降りていくオールマイトが映る。
「⋯⋯最後は呆気なかったな 」
試験終了の一連の流れに誰かが呟くと、あちらこちらで同意するかのように首肯する生徒が見える。
「でも、これが本来想定されていた『個性因子の活性化』なのですね」
衝撃の抜けきらない茫洋とした様子のまま、八百万が青山の方を見る。
だが、その青山が少しの間首をひねり、
「あれでも五十パーセント位じゃないかな☆」
と返したせいで八百万はポカンと口を開け驚いたまま固まってしまった。
「ま、まだ上がありますの!?」
二人のやり取りに気付いた周囲がざわつき始めるが、青山はいつもと変わらぬ様子で穏やかに答える。
「制御出来る範囲なら☆」
おお!と。
青山の自信有り気な返答に、まだ強くなるのかと感嘆の声を上げる、派手さに目が行きがちな若者達を見て後ろで佇んでいた相澤と、モニター側で椅子に腰掛けているリカバリーガールはそっと目を眇める。
今の、言葉の裏に。
この興奮冷めやらぬ空気の中で、どれだけの者が気付いただろうか。
『個性因子活性化』には、『
(今回の規模だけでも『オールマイトと拮抗出来る』と証明出来てしまった。並みの
それを、より高い精度で駆使し、最悪追い詰められれば『暴走』して襲い掛かってくる。
『USJ』事件の首魁、死柄木弔の危険性を、最大限に引き上げるべきだと、相澤は気を引き締めたのだった。
事態は往々にして、そう思った通りに進んではくれないのだが。