古代ギリシャでブイブイ言わせてた神が、異世界で少年のスキルになる話。
現代社会に順応してちゃんと働いてたのに性悪姉貴に異世界送りにされる可哀そうな神と、優しくてカッコいい強いおじさんと冒険ができて楽しい少年。子連れ狼ならぬ、子連れ戦神です。

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子連れ狼スタイルの異世界ってあんま見ない気がする。


Neverland Olympos

「私は神の中でお前が一番嫌いだ」

 

そんなことを言われたのは何千年前だっただろうか。

昔から互いに嫌い合っていた父と俺だったが、面と向かって言われたのはこれが初めてだった。

 

別に構わない、嫌われることには慣れている。俺には知略もなければ、正義感もない。戦場で暴れ、敵を殺し、冥府の住民を増やす。女、酒、地位、名声、興味がなかったとは言わないが、満たされはしなかった。満たされるには戦うしかなかっただけの神、それが俺だ。

 

対照的に、父は姉には優しかった。姉は俺と同じ戦の神だったが、担うのは知略と正義。狂気と暴力を担う俺とは相性が悪く、会うたびに喧嘩ばかりだったのであまり思い出がない。強いて言えば、戦場では何度も苦汁を飲まされたことぐらいだろう。会話の内容も、最後に互いが交わしたのはどんな言葉だっただろうか。

 

やがて、俺はオリュンポスを抜け出し、ローマの子を育てた。彼らは俺を蔑むギリシアの子とは違い、えらく俺を慕ってくれた。建国の神たるロムルスの父、俺はマルスと呼ばれた。戦争が起これば槍を持ち、無い時は鍬を持つ。そんな日々が暫く続いた後、俺は唐突な虚無感に襲われた。

 

飽きた。神の命は不滅で、尚且つ俺は不死身の存在。俺は世界を見て回ろうと思い、ローマから離れ、世界各地を渡り歩いた。砂漠でピラミッドを見たり、ルネサンスが加速した頃にしれっとイタリアに亡命してみたり、顔の平たい民族と一緒に稲作したり、奴隷解放運動で演説したり、東京タワーの建設員したり……いつの間にかジャパンでオリンピック観戦したりもしてた。

 

長いようで短い俺の数千年間だったが、そんな俺も今は東京の企業でサラリーマンとして普通に働いている。この数百年で世界も一気に文明化が進み、かつてはしれっと戦争に参加していたが、戦後は建築から重工業、銀行員、外交官、と職を転々とし、挙句の果てには大リーグに挑戦したりもしたが、現在は大手のゼネコンで部長のポジションを任されている。

 

「おはようございます、部長」

「おう、おはよう三上君」

 

最近は色々化粧品なんかも豊富なおかげで何も言われないが、昔はあまりにも老けない俺に「妖怪なんですか」と直接聞いてくる奴もいた。それから職場は5年から15年前後で変えるようにしているが、ジャパンで戸籍を偽造するのは神の力をもってしても面倒くさい。恐るべし、ヘンタイの国だ、ジャパン。

 

「今日、田村と田村の彼女と食事行くんですけど…これって自慢ですよね……」

「間違いなくな。まあ、祝ってやるか」

 

最近の目まぐるしい進化には神でも驚きを隠せない。剣がペンより弱くなり、博物館に展示されるようになった。ペンも今はパソコンが主流で、ExcelだのWordだのを使うのが当たり前の時代になっている。直近の戦争すら古くなり、俺の活躍した時代など、とうの昔の話になってしまった。

 

「あれ、部長って海外出身ですよね。生まれはどちらでしたっけ」

「ん?………ギリシャだよ」

「へぇ!パルテノン神殿とか有名ですよね」

 

出たよ、クソ姉貴(アテナ)の神殿。皆ギリシャと言えばそれとヨーグルトしか言わない。ペルシア戦争であれをぶっ壊した時はスタンディングオベーションで喜んだぞ。まあ、今は再建されているようだが。もっと皆別の所に行った方がいい。ローマとかいいぞ、コロッセオあるし。

 

「お疲れ様です。あれ、部長はまだ帰られないんですか」

「おう、もう暫く残ってから帰るわ」

 

残業は別に嫌いじゃない。神なので疲れもしないし、周りに人がいないので能力を使ってもバレない。それに、遠くからわざわざ電車で通勤してる子が残るよりも、近場の俺が残った方が健全だろう。戦場では誰よりも真っ先に突っ込んでいたが、今はこうして殿として働いている。これも落ち着いたということなのだろうか。

 

時刻は午前0時。仕事も終わり、退勤には丁度いい時間だろう。らしくないコートを羽織り、俺は一服しようと胸ポケットを漁る。

 

「あら、切らしてたか」

 

晩飯のついでに調達しようとコンビニに向かおうとしたその時、公園のブランコが独りでに動き出しているのが見えた。目を凝らすと、8歳から10歳程度の少年?がいる。こんな時間に子供一人では流石の日本でも危ないだろうと、俺は少年に声をかけた。

 

「何してんだ?」

 

少年は驚く様子もなく、ゆっくりと静かに俺の顔を見上げた。

 

自慢じゃないが、俺はオリンポスどころか、世界中の神々の中でもトップ5には入るであろう美形だと自負している。しかし、そんな俺が認めてしまう程、その少年は美しかった。ミケランジェロの彫刻の俺にも匹敵するであろう。繊細な美を持っていた。

 

そんな少年を横目に、俺は隣のブランコを漕いでみる。一度やってみたかったんだよ。そして、そんな能天気な俺に敵意がないことを見抜いたのか、少年はポツポツと話し始めた。

 

「…お父さんがね、帰ってこないから待ってたの」

「へぇ…お父さんがねぇ…」

 

もう既に嫌な予感がする。こんな時間に子供を一人にしているのに、親はまだ帰っていない。家出とかなら分かるが、そもそもいないのは論外だろう。どんな毒親だ、ゼウスか。

 

「お母さんは?いないのか」

「うん、会ったことない」

「そうか、晩飯は食ったのか?」

 

少年はフルフルと顔を横に振る。

 

「じゃあまだ何も食べてないんだな。朝と昼は食べたか?」

「今日は学校お休みだったから…」

 

はい、クソ野郎確定。子供の飯くらい用意するのが当たり前だろう。まあ、俺はされたことないけど。

 

しゃあない、と俺は立ち上がり、少年の手を握る。するとどうだ、とても冷たい。どのくらいここで待っていたのか。しかも、大した服も着ないで。

 

「おじさんが飯買ってやるから、家で食べな。部屋は空いてんだろ?」

「うん。でも、いいの?」

「おじさん金持ちだからな。昔はローマだって俺のものだったんだぞ」

 

コンビニ飯でもいいが、少年がバーガーが食べたいというので某Mのお店でセットを注文し、少年に持たせる。余分に買ったバーガーなどは食べきれないなら捨てろと言い付け、少年を家まで送る。そこは意外にも立派なマンションだった。てっきりボロボロの市営住宅だと思い込んでいたが、金はあるのか。ならばこそ、我が子の食事くらいどうにでもなると思うのだが。

 

「ありがとうおじさん、バイバイ」

「おやすみ」

 

エントランスがやけに厳重だったので、俺は部屋まで送らず外で少年と別れた。できれば親父が帰ってくる前に食べきってほしい。赤の他人から奢ってもらったなんて知られたら普通な怒られる。まあ、きっと普通じゃないんだろうが。

 

強く生きろよ。胸の内でそっと呟き、俺は自宅へと向かった。

 

 

 

入浴を済まし、後は就寝という時だった。

部屋では録画したボクシングを流しながら、旅行のお土産で貰った地酒をチビチビと啜る。ツマミは冷蔵庫にあった刺身を摘まむ。

 

これぞ独身という晩酌をしながら、今日のことを思い返す。

あの少年は大丈夫だっただろうか。父親から何かされてやいないだろうか。俺の思い過ごしで、普段はこんな目には合っていないのだろうか。何も分かることはない。当然だ、あの少年とは今日初めて会い、それも一時間もせずに別れたのだから。そして、今後も会うことはないのだろうから。

 

「──試合終了!最終ラウンドまで持ち越された結果、判定で……」

「あらら、KOはなしか」

 

まあ、あんだけ勝負を避けられたら仕方あるまい。と思いつつ、KOを期待するのはボクシングを愛する者の共通事項ではあるまいか。次の試合に期待しようと、チャンネルを変える。すると──

 

『今日午後未明男性が路上で刺され、意識不明の重体で──』

 

物騒だなと思いつつ、酒を口に含んだ時だった。

 

『刺されたのは”三上悟”さん、37歳で、警察は事件の関係を調査して──』

「……っ!マジかよ…!」

 

思わず酒を吹きこぼす。戦場では当たり前だったが、まさかこの平和なジャパンで知り合いが刺されるとは思わなかった。そういえば、今日は田村とその彼女と一緒に食事とか言ってたが…

 

 

その時だった。ズキリという痛みと共に、喪失感が胸の中を通ったのは。

 

「──ああ、まさか」

 

神としての本能が、戦神としての誇りが俺の身体を動かす。部屋の電気を消すことも忘れ、何も持つことなく、成すがままに自由にしてやる。

 

そして、辿り着く。電気配線をショートさせ、エントランスのロックを壊してマンション内に侵入する。一度見た魂は記憶できる、少年の居場所もすぐに分かる。部屋の前に立つ。

 

手を翳せば部屋の扉はドロドロに融解し、それを再構築して鉄の槍を創る。

荒れに荒れた部屋。そこら中に卑猥な衣装やら、大人の玩具、使い済みの避妊具が散乱している。

 

寝室であろう扉を抜ける。ベッドの上には二人の人物がいた。少年に跨り、首を絞め、必死に腰を動かす大の大人。ピクリとも動かず、泡を吹いてされるがままの少年。

 

そして、それを録画するカメラを構えた男。

 

 

 

それにかかった時間はほんの僅か、1秒にも満たない時間だった。

二体の死体をベッドの上に並べ、俺は四肢を切り落とされたカメラの男を見据える。傷口を焼いたので失血死できず、ゆっくりと死に行く定めにある男は、何度も上辺だけの命乞いを繰り返す。

 

「びっくりするよ、お前みたいな醜い男から、あんな可愛らしい子供が生まれるんだな」

「ごめんなさい…ごめんなさい……」

「いいよ、別に。こんなの俺の独善だしな。ああ、でも一つだけ教えてくれ。アイツ、お前に幾ら払ったんだ?」

「ご、五百万です。自由に使わせるのを条件に………」

 

そうか、そうか。口には出さず、仕草のみで答える。それが聞けたなら十分だ。

 

「ゆ、許してくださ──」

「すまん。それは嫌だ」

 

次元を裂いて作った穴に、俺は男を突っ込む。

そこは戦争領域。俺を崇め、奉り、愛した者達が集結する世界。世界のルールは俺だけが自由に変更できる。

 

「同じ苦しみを味わえ、五百万回な」

 

終わりなき戦争の世界。かつて俺が欲した世界を、あの男はどう見るのだろうか。

 

「……ごめんな、助けられなくて」

 

少年の傷を見る。首を絞められ、体中に嚙みつかれ、性器を玩具にされ、尻は裂けている。この世の全ての悪行を煮詰めた先にある被害者の姿に、俺は神ながらに呆れ、悲しんだ。

 

腹が膨れている。部屋の隅のゴミ箱を見れば、きちんとバーガーが片付けられている。こんなに小さな体で全て食べ切ったのだ。なんて偉く、律儀な子だろう。俺は誇りに思い、少年を抱く。

 

エロースはロゴスの中で失われた存在ではなかったのか。禁欲、秩序、それが現代の求める力ではなかったのか。ポセイドンの息子を殴り殺した時のことを思い出す。あのアテナでも味方した裁判は、古のものだった。現代の子は神の失敗を見て何も学ばなかったということか。

 

少年の傷を癒す。せめて綺麗な姿で逝けるように。この少年の魂が、冥府では特別良く扱われるように、俺の力を込めて。

 

 

《承認 ユニークスキル「知恵者(チエアルモノ)」を獲得しました》

 

………何だ、この声は。

 

《承認 ユニークスキル「救世主(スクウモノ)」を獲得しました》

 

どこからだ、誰が声を発している。それも、これは──

 

 

《承認 究極能力(アルティメットスキル)戦争之王(アレス)」を獲得しました》

 

 

──────クソ姉貴!!!!!!

 

 

《「戦争之王(アレス)」を召喚します。行きなさい、愚弟》

 

 

 

 

 

 

今日、ボクは優しいおじさんにあった。

 

「何してんだ?」

 

”おじさん”というには、少し若く見えるけど、けどやっぱりおじさんで。

 

「…お父さんがね、帰ってこないから待ってたの」

「へぇ…お父さんがねぇ…」

 

お父さんは優しいけど、怖い。お金がたくさんになれば優しいけど、お金がないとボクのことを殴る。それも、本当に痛いくらいに。

 

「お母さんは?いないのか」

「うん、会ったことない」

「そうか、晩飯は食ったのか?」

 

お母さんには会ったことがない。お父さんに聞いたら怒るから聞けない。ボクのお母さんはどこにいるんだろう。授業参観ではみんなにはいるのに、ボクだけ誰も来てくれない。

 

「じゃあまだ何も食べてないんだな。朝と昼は食べたか?」

「今日は学校お休みだったから…」

 

お腹はいつも減ってる。学校のみんなは優しい。おかわりをいつもボクにくれる。食いしん坊の原田くんも、野球が上手な黒田くんも。でも、お父さんはくれない。だからいつも空腹。

 

「おじさんが飯買ってやるから、家で食べな。部屋は空いてんだろ?」

「うん。でも、いいの?」

「おじさん金持ちだからな。昔はローマだって俺のものだったんだぞ」

 

おじさんの手は温かい。ゴツゴツしてて、でも柔らかい。手袋はしてないのに、不思議と包まれたような気分になる。

 

「ありがとうおじさん、バイバイ」

「おやすみ」

 

おじさんがお父さんだったらいいのに。そう思いながら、ボクは家の中で幸せにハンバーガーを食べた。

 

 

 

 

気が付けば、ボクは知らない場所にいた。知らない場所、来たことのない場所。不安に思うけど、泣けない。泣けばお父さんが怒るから、でも、お父さんはいなくて。

 

《承認 ユニークスキル「知恵者(チエアルモノ)」を獲得しました》

 

突然、声がした。

 

《承認 ユニークスキル「救世主(スクウモノ)」を獲得しました》

 

厳しそうだけど、優しくて、ボクを見てくれている気がする。

 

《承認 究極能力(アルティメットスキル)戦争之王(アレス)」を獲得しました》

 

そして、おじさんの気配がした。

 

《「戦争之王(アレス)」を召喚しますか?》

 

「──はい」

 

僕が答えると同時か、それよりも少し早くだった。曇り空は青空に変わり、動物は鳴き声を上げて、木々の間に風が抜けて、大地に咲く花は一斉に太陽に向けて伸びた。

 

そして、世界は一層輝いて、空から誰かが降りてきた。

 

 

ドゴン!と大きな音を立てて落ちたその人は、紛れもない──

 

「……クソ女神が…次会ったら今度こそ──」

「おじさん!」

 

ボクは咄嗟に抱き着いて、おじさんはグエッ!と言って倒れた。

ボクはおじさんにしがみついて離れず、おじさんもそれを受け入れて抱き返す。

 

そして、二人して立ち上がった。

 

「ああ、この世界か。確か”名前”がアレだっけか…」

 

おじさんはボソッと呟いて、ボクの方に振り向く。僕もそれに合わせて、二人は相対するようにして並ぶ。

 

「自己紹介するぞ、俺の名は”アレス” オリュンポス十二神の一柱にして、戦争を司る戦神。そして、お前は生まれ変わった。よって名を授ける」

 

ワクワクが止まらないボクを抱えて、おじさん…アレスは確かに宣言した。

 

「お前の名は──”マルス” 俺の名を授ける。存分に俺を仕え、主人(マスター)

 

こうして、僕とおじさんの異世界転生は始まった。

 




こんな話がみたいってことだよ。
つまり、マンダロリアンが楽しみです。

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