ファミリーファミリー ~ 一家揃って異世界転移! ~   作:イオス・クヴェル

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プロローグ ~ENTERTAINMENT~

 世の中には【異世界もの】と呼ばれるジャンルのエンタメが存在する。

 

 ラノベや漫画にゲームやアニメとあらゆる界隈で猛威を奮っていて、簡単に説明すると現実世界とは異なる世界──つまり異世界を舞台としたもの全般を指す。

 特に人気なのがなんちゃって中世ヨーロッパくらいの文明度の世界に【魔法】という物理法則を無視した超常の力が存在するという設定で、そんな舞台に主人公が転生したり転移するところから物語が始まるパターンのものが多い。

 最近じゃ逆に異世界側の住人が地球にやってきたり、既に異世界での冒険を終えた人間が元いた世界で生活を送る話なんかもある。

 

 とにかく今やこの単語を全く耳にしたことがない人間なんていないと言ってもいいんじゃないだろうかと思うくらい、広く世間に認知された言葉だ。

 かくいう俺もそういうアニメや漫画をいくつも見てきたし、登場人物の立場に自分を投影して実際に物語の中に入りこめたらと夢想したこともあった。

 ド定番なパターンだけど、神様に与えられたチート能力を使って大活躍! 襲い来る魔の手から何人ものヒロインを守り抜き、ハーレム生活を! ……なんてね。

 

 とりあえずそんなことを考えていた昔の俺や、現在進行形で同じような妄想に耽っている元同士諸君には声を大にしてこう言いたい。

 

 やめておけ。

 そんないいもんじゃない、と。

 

 

 

   ◇

 

 

 

『ウォォォンッ!』

 

 木々の生い茂る森の中に、獣の雄叫びが響き渡る。

 

 顔面に飛び掛ってきていたスライムを跳ね除け安心したのも束の間、今度は左手の茂みの中から雄叫びの主らしき狼が飛び出してきた。

 

 でかい。俺の腰以上の高さはある。

 大きく広げられた口にズラリと生え揃った鋭い牙、振り上げられた前足から伸びる太い爪。どっちをくらっても、痛いだけでは済みそうにない。

 

 咄嗟に体を横にそらして突進を避け、がら空きになっている胴体にすれ違いざまに剣を叩き込む。

 

『ギャンッ!?』

 

 振るった剣は狙い通りに狼の腹部を切り裂き、宙に血の線が走った。

 

 会心の動きと狼の悲鳴に思わず笑みが浮かんだけれど、残念ながら致命傷には至らなかったみたいだ。

 姿勢を崩しながら不恰好に着地した狼はすぐに体勢を立て直すと、血走った目で俺を睨みつけてきた。

 

 今ので仕留められなかったのは残念だけど、決して傷は浅くないはず。

 油断なく剣を構えなおして、唸り声を上げる狼に向き直る。

 

(いいぞ、もう一回そのまま真っ直ぐ来い。次で終わりだ……!)

 

 ジリジリと間合いを計りながら頭の中で次の動きをシミュレートしていると、狼の背後の茂みからガサガサと音がした。

 嫌な予感を覚えながら視線を向けると、新たに二頭の狼が姿を現す。

 

 まるで「よう兄弟、加勢に来たぜ」とでも言わんばかりに、傷を負っていた狼の横に並び立つ二頭を見て、俺は即座に判断を下した。

 

(……よし、逃げよう!)

 

 目の前には血に飢えた【魔物】が三匹。それに対してこっちの手には剣が一本だけ。

 加えて俺は何の【スキル】も使えない上に、今日が初陣なのだ。

 

 方針が決まればすぐに行動あるのみ。

 俺は目くらましにと足元の地面を蹴り上げ、狼たちに向かって土を巻き上げた。

 目にでも入ってくれれば儲けものだが、少しの間でも視界を塞げたらそれだけで十分だ。

 

 けれども今はその成果を確認している余裕はない。

 とにかくここから離れようと急いで体を反転させた瞬間――視界いっぱいに緑色のスライムの姿が広がった。

 

(しまった! さっきのやつか!? そういえばトドメ刺してなかった!)

 

 後悔しても、もう遅い。一瞬後、俺はこのスライムに貼り付かれているだろう。

 上手く引き剥がせたとしても、その時には後ろから狼たちが追いついてきているはずだ。いや、もしかしたらもうすぐ後ろにまで迫ってきているかもしれない。

 

 絶望を感じながらも、とにかく顔を庇おうと反射的に手を上げ――目の前でスライムが爆散した。

 

「あっづぁぁああっ!?」

 

 高温に熱されたスライムの飛沫を、至近距離からもろに被る。

 幸い防御姿勢が間に合っていたお陰で直接顔にはかかっていないけれど、あまりの熱さにその場で転げまわってしまう。

 

「……って、やばっ!」

 

 熱さも痛みもまだ引いていないけれど、慌てて顔を上げる。

 そうだ。一体何が起きたのか分からないけれど、呆けている場合じゃない。今俺は魔物の群れに囲まれるという、絶体絶命のピンチの真っ只中なんだ。

 

 今更だと思いながらも、いつでも振るえるようにと剣を構え直し、周囲を確認する。

 けれど予想に反して俺の目に映ったのは、首を斬り飛ばされ、あるいは顔面を叩き割られた狼たちの死体。

 そしてその中心で、心配と呆れの混ざったような表情で俺を見下ろす姉貴の姿だった。

 

「怪我はない? 裕也」




更新頻度低めになると思いますが、よろしくお願いします。



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