ある日、瞼を閉じたら不思議に出会った   作:バルバルさん

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――これは、岡実 七星の物語が終わった話。
  そして、岡実 八重子の物語が始まった話


岡実 八重子 の章
岡実 七星のエピローグ


 私は八重子。岡実 八重子(おかみ やえこ)。この名前はおばあちゃんが付けてくれたらしい。

 

 少し古臭いというか、昔風の名前が子供の頃は嫌だったけれど、今ではもう馴染んでいる。

 

 昔、この名前をくれたおばあちゃんに、何故この名前を付けたのか聞いたことがある。

 

 曰く、「この名前はね、目印なの」らしい。

 

 何の目印なのか、そう尋ねても朗らかに笑われてはぐらかされたけど、きっと悪い意味の目印じゃないのだろう。そう思いたい。

 

 そんなおばあちゃんは、一言で言えば不思議な女性だった。私が20歳の時に70歳だったのだが、背筋はピンとしているし、なんというか、所謂ボケとは無縁の記憶力を保っていた。野菜や魚よりお肉が好きだし、年老いているのは見た目だけという具合に若々しい人だった。

 

 ただ、少し不思議ちゃん……と言えばいいのだろうか。まじないの類や行事を大切にし、節分などの厄に関する行事はしっかりと行い、私や父にも同じくしっかりとそれを行うよう厳命し、また行わないと鬼のように怒った。

 

 そのまま元気で100歳まで行くのかな。なんて家族で笑い合っていたのもすでに過去。お婆ちゃんは72歳でその生涯を閉じた。

 

 あんなに元気だったのに、ある朝に気が付いたら布団の中で……まさに魂だけ抜けたかのような優しい顔をしていた。

 

 

 お婆ちゃんには兄弟姉妹はおらず、お爺ちゃんはすでに、私がもっと幼い頃に亡くなっていた。なので私の家族とご近所方で慎ましやかにお葬式を行うことになった。

 

 そんなお婆ちゃんは日記をつけていたらしい。お葬式の前、それをちらりと読んでみた。

 

 これが全く訳が分からない。日記帳には何の文字? っていうのが羅列されていた。

 

 父に聞いてみたが、目を丸くして首を傾げるだけ。

 

 あんなに元気だったのにボケていたのかな? なんておばあちゃんが聞いたら死後の世界から戻ってきて怒られそうなことも考えたが、読める範囲では50歳のころから日記をつけていたようで、当時からその文字で日記を記していた。

 

 そんなお婆ちゃんの日記帳には一枚の写真が仕舞われていた。古びた家の前に並んだ6人家族の家族写真? が。

 父に見せると。

 

「懐かしいな。母さん……いや、お前のおばあちゃんの子供の頃の写真だよ。よく子供の頃見せられたなぁ……」

 

 なるほど、この夫婦がおばあちゃんの両親で、老夫婦が祖父母。で、この青年と女性がおばあちゃんとその兄弟かな?

 いや、お婆ちゃんは一人っ子だったはずだから、私のお爺ちゃんかもな。なんて思いつつ、その不思議な日記帳を閉じた。

 

◇◇◇

 

 それから数日の時が流れた。

 

 おばあちゃんの遺骨がお墓に収められた後、皆の悲しみも時間と言う特効薬が聞いて来て落ち着いてきたころに、私は一人でお墓参りに来ていた。

 

 お墓に手を合わせながら、心の中でつぶやく。

 時間がたって、心の傷が癒えてきても、まだ信じられないよ。

 前の日まで、あんなに元気だったじゃんか。

 

 そう思いながら、瞼をゆっくりと閉じて、お婆ちゃんの眠りの安寧を祈った。

 

「やあ、こんにちは」

 

 そう声をかけられ、びくりと飛び上がった。

 慌て後ろを見ると、老紳士……と言えばいいのか、そんな感じのおじいさんが。

 黒い喪服に、黒いシルクハットをかぶって、片手に杖を持ち、菊や百合の花を持った老紳士。

 

「君は、七星(ななせ)のお孫さんかい?」

「え、あ、はい」

 

 七星というのは、私のおばあちゃんの名前だ。

 

「いやぁ、まさか。最後に会った時はあんなに元気だったのに……」

 

 目を伏せ、深い哀悼の意のこもった言葉を吐いてくれる相手、お葬式では見なかったので、遠くから来たのかな?

 

「もしよければ、お葬式のあった日を教えてはくれないかな?」

「え……×月の●日でしたけど」

 

 お葬式の日を聞くとは、変な人だな。そう思いつつ答える。

 すると、老紳士はお墓に花を供え。

 

「そうか……お葬式くらいは、行けるよな」

「え?」

 

 お葬式に行ける? もう終わってるのに? と思うと、急に強い風が。

 舞い踊る菊や百合の花びらに瞼を閉じる。

 

 瞼を開けると、おじいさんはいなかった。

 

…………

 

 瞼を開ける。またこの夢だ。

 

 最近、仕事に疲れているのか、よくこの夢を見る。

 

 不思議な老人にであった夢。そんなこと、起こったわけはないのによく見る夢。

 

 だって、七星のおばあちゃんが亡くなった日に、そのおじいさんはお葬式に来ていたし、なんならそのおじいさんは私たち家族と同じくらい悲しんでくれていた。

 

 そして、その日以降、会うことも無かったのに。

 

 そんなばかばかしい夢なんだけど、なんか現実味があるのも否めない。

 

 まあ、そんな夢の事ばかり考えても仕方がない。さて、今日もお仕事に行かないとなぁ……あぁ、嫌だなぁ……

 

 

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