長く透き通るような白金の髪が怖い
深い青色の瞳が怖い
生き物なのかどうかを疑いたくなるほどに美しい顔を見るのすら恐ろしい
やめろ
やめろ
そう思っていてもそれはゆっくりと近づく
「ああ可哀想にそんなに恐れる必要はありませんよ」
そう言って微笑みかけてくる姿が怖くって
やめてくれ
そういい手を差し伸ばしてくるそいつがただただ恐ろしい
右頬に自分よりも小さく細く滑らかで白い手を置かれて
それがどうしようもなく怖くって
ーーーー
「…ぁ」
息ができない
肺が空気を入れることを拒否しているかのように口の中で止まる
恐ろしくって恐ろしくって
口元に手を抑え、吐き気を堪える
「ッ…にが」
おかしい、さっきまで太陽が沈む時間だったのに、なんで太陽が昇ってる
「何が起きやがった」
ふらつく足を進め、エミリアかスバルを探す
さっきまでいたから何か知ってるはずそう思っての行動だった
ーーー
見つからない、ラムと出会うことは成功したのでエミリアを見つけた場合は一緒にいるようには言った
2人と出会った場所に行ったがいなかった
「どうなってやがる、ラムも反応があの時とおんなじだったぞ」
こんな変な事人間にできるとは思えない、アイツにしかできない、でもなんでだなんでやる必要がある
俺は契約を破っちゃいねぇ
ならなんだ
何が起きた
「っ」
吐き気を堪えふらつく足を無理やり動かすのには限界があるらしい、一旦路地裏に行く事にした
座り、体調が落ち着くまで休む事にした
「気持ち悪い」
口を抑え出た言葉はくぐもっていた
気分が悪いのは、アイツの記憶を思い出したから、そう考え込む
だがこのおかしな状況になる前確実に死んだことも理解していた
「兄様?」
今1番会いたくない人間の声がした
後ろにいるであろう人物を見ることができないまま立ち上がる
「…ぅ」
「兄様!?」
ふらつく足はまともに立つことはできず、地面に衝突するかと思った時、何かに支えられた、いや弟に抱えられたんだ
「…離せ」
「転びます」
「いいから離せ」
悲しげな声にそう言うことしか出来なかった、顔を見る事が出来なかった
不満げに離された手、ちゃんと地面に立つ自分の足
「兄様、体調が悪いのでしたら」
本当に心配している事がわかる声
「いらない」
そんな声を裏切るように冷たく言い放ち顔を見ずに路地裏を出る
「…」
嫌いになってくれよこんな兄のことなんて
ーーーー
夕焼け空
おかしな状況になる前だったらもう少ししたら盗品蔵につくであろう時間
エミリアを見つけ出すことはできなかった
もしこのおかしな状況がラムと違い分かっているならば盗品蔵に来ているのではないかと期待し早足で向かう
盗品蔵の前、中から微かに声が聞こえる
考えが当たっていたのかは分からない、剣を抜き扉を蹴り開ける
「れ、いん?」
怯え、震えた声
そこにいたのはエミリアではなく、スバルだった
「酷い有様だな」
老人の死体は前にもあったがそれに少女の死体まで加わった
「あら、見てしまったのね」
あの時の声はコイツで間違い無いだろう
黒髪の露出の高い服の女を見る
「残念だわ」
中に入り、張り詰めた空気の中座り込んでいるスバルの近くまで行く
「何してるさっさと立て」
「なんで」
不安がっている
目の前で2人が死ぬ様を見たのだ、こうもなる
「貴方その見た目、落ちこぼれで有名な剣聖の家系の子?」
「…正解だよ」
落ちこぼれと言ってもまあまあな貴族のところに生まれていれば、安泰と言われるくらいには剣の実力はある、ハードルが高すぎるが故の落ちこぼれだ
「そう残念だわ、せっかくなら剣聖と戦ってみたかったわ」
「ひでぇ言いぐさだな、あれほど剣の腕はねぇけど、人並みにはあると思ってるんだぜ?」
緊張した空気が流れる
いつ斬り合いが発生してもおかしくない
「スバル、逃げろ」
「レインは」
「死ねねぇよ」
呆れたように諦めたようにそう言い放つ姿に普通は、前向きに言うのであろうが、何だが違う事に疑問を浮かべるところだろう
だが頭が恐怖でいっぱいの中スバルはそんな事を考えられなかった
先に動いたのはエルザだった
右から繰り出されるナイフを避け、剣を下ろす
露出している腹から首をまっすぐに切った
血は吹き出しているが傷口はあまり深くないのか、元気そうにしている
「…」
「ふふ、侮っていたわ落ちこぼれとはいえ、剣聖の家系だものね」
嬉しそうに笑う女から距離をとる
頭に怯む様子もなく楽しげに自分の血を舐めとっている
「おい、スバル何見てる早く逃げて、詰所に行け」
「っでも、足が動かない」
「世話が掛かるなお前」
一般人がこんな場面に出会したら腰が抜けて動けなくなるのは当たり前だ
隙を与えず、ナイフは肉を裂こうと向かってくる
「は?」
切ったはずの傷口がない事に気づいた
元々無かったかのように
「…」
無かったかのように、最初っからなかったかのように、無かったかのようにだ、無くなったんだ、最初っから無かったかのように、自分の記憶がおかしいのかと疑いたくなるほどにだ
違うアイツの仕業じゃない
分かっていても、怖くなってしまう
一度頭に浮かんでしまったんだ簡単には消えてくれない
「動きが鈍くなったわね」
動揺して油断を見せてしまった
「あ」
剣を持っていた腕をナイフが貫いた、どくどくと血が流れていく
ああ終わった
「レイン!」
「っ」
そのまま横に肉と骨を切りながらナイフを抜かれた
手は少しの肉と皮だけで繋がっている状態だ、振り回せばすぐに取れるそんな状態になってしまった
「人並みではダメだったわね」
「そうだな」
剣は音を立てて地面に落ちた