レインの言葉があってか、交渉は順調に進んでいった
そんな中、扉が叩かれる音が盗品蔵の中に響き渡った
「――誰だ」
ロム爺が扉を睨む
「スバル」
「分かってる」
震えるスバルの体を見つめる
スバルより先に死んでるからスバルがどうやって死んでるのか分からないが自分の記憶を頼りにすればろくな死に方はしてないだろう
剣をいつでも抜けるようにする
「アタシの客かもしれねー。まだ早い気がするけど」
「――開けるな! 殺されるぞ!!」
扉の方に向かったフェルトにそう怒鳴るように言い放ったが扉は開いた
それを見てかスバルの顔は怯えた顔に変わっていく
「――殺すとか、そんなおっかないこと、いきなりしないわよ」
開いた扉からはよく知ってる人が唇を尖らせ、銀髪を揺らして入ってきた
「よかった、いてくれて。……今度は逃がさないから、って!レインどうしてここに!?」
「その様子だとラムとも会っていないみたいですね」
アイツ本当に仕事してるのか?とも思ったがラムの悪いところを考えるのをやめた、妹の方に帰ってきてから殺されかねないから、ただでさえいつ刺されてもおかしくないほどに殺意をむき出しにされているんだ
そんなことを考えているが今回、レインはラムに合っていない
「ちゃんと事情聞くから、今は」
そういいこちらを見ていた瞳はフェルトの方に向いた
「ホントに、しつっこい女だな、アンタ」
「盗人猛々しいとはこのことね神妙にすれば、痛い思いはしなくて済むわ」
「ってことはアレか。俺がいなければこんだけ早く辿り着くってことか」
どうやって知り合ったのかは聞いていないため分からないが、何となく不憫に思い背中を優しく叩いた
「私からの要求はひとつ。――徽章を返して。あれは大切なものなの」
「ロム爺」
「動けん。厄介事を厄介な相手ごと持ち込んでくれたもんじゃな、フェルト」
魔法を展開し、氷柱を作り出すエミリアを見て剣を抜く
もういっそのことだ、交渉がうまく行っていたスバルには悪いが、この場をひっくり返してしまおう
エミリアが来てしまった今そんなことを考えている
「ケンカやる前から負けなんて認めんのかよ?」
「ただの魔法使い相手なら儂も引いたりせんがな……この相手はマズイ」
レインの方も少し見てそう言い放った
ロム爺も馬鹿ではない目立つ赤髪や青い目から『剣聖』の家庭という事は薄々気づいていた
だからこそ、精霊術師と落ちこぼれが『剣聖』か分からない相手をするのは危険と判断したのだろう
「お嬢ちゃん。……あんた、エルフじゃろう」
「正しくは違う。――私がエルフなのは、半分だけだから」
「そんなに素直に話さなくってもいいと思うがな…」
素直なのか優しさなのかよく分からないが素直に答えたエミリアに困惑する
ーーー
滑るように黒い影がエミリアの背後に忍び寄っていた
「パック! 防げ!!」
動こうとしたがそれよりも早く、何かに弾かれる音がした、
「パック……っ」
エミリアの頭部を狙っていたナイフは氷の盾のような物で防がれていた
「間一髪だったね、まさに」
「よかった」
身を前に飛ばし、振り返るエミリア
何かあっては雇い主との契約に反してしまうだから聞いた
「怪我は」
「平気よ」
その言葉に安堵するがすぐに黒い影を睨む
2回も自分を殺した相手
「なかなかどうして、紙一重のタイミングだったね。助かったよ」
「助かったのはこっちだ。あんがとよ」
「精霊、精霊ね。ふふふ、素敵。精霊はまだ、殺したことがなかったから」
パックの姿を見てか、楽しそうに笑っている
「おい、どーいうことだよ!」
この状況下声を上げるフェルトをみる
「徽章を買い取るのがアンタの仕事だったはずだ。ここを血の海にしようってんなら、話が違うじゃねーか!」
「盗んだ徽章を、買い取るのがお仕事。持ち主まで持ってこられては商談なんてとてもとても。だから予定を変更することにしたのよ」
「フェルト、死にたくなきゃ下がれ」
前にでているフェルトにそういうが怒りで顔を赤くしているフェルトには届いていなさそうだ
「この場にいる、関係者は皆殺し。徽章はその上で回収することにするわ」
「――あなたは仕事をまっとうできなかった。切り捨てられても仕方がない」
「――――ッ」
「てめぇ、ふざけんなよ――!!」
声を上げたのはスバルだった、庇う理由なんてないだろうに、コイツのせいで何回も死んだろうに
「こんな小さいガキ、いじめて楽しんでんじゃねぇよ! 腸大好きのサディスティック女が!! そもそも出現が唐突すぎんだよ、外でタイミング待ってたのか!? うまくいくかもとかぬか喜びさせやがって、超恐いんだよマジ会いたくねぇんだよ! 俺がどんだけ痛くて泣きそうな思いしたと思ってやがんだ! 刃物でブッスリやられるたんびに小金貰ってたら今頃俺は億万長者だ! それは言い過ぎた!」
「……なにを言ってるの、あなた」
「テンションと怒りゲージMAXでなにが言いてぇのか自分でもわかんなくなってきてんだよ! そんなお日柄ですが皆様いかがお過ごしでしょうかチャンネルはそのままでどうぞ!」
「げーじ?ちゃんねる?」
よくわからない言葉に困惑して首を傾げる
意味不明のスバルの怒号に周りは困惑し、エルザに至っては呆れていた
「時間稼ぎ終了――やっちまえ、パック!」
「見事な無様さだったね。――ご期待に応えるよ」
「まだ自己紹介もしてなかったね、お嬢さん。ボクの名前はパック。――名前だけでも覚えて逝ってね」
エルザの周囲を囲む氷柱
それが一斉にエルザ目がけ発射された
ーー
どんな攻撃も一撃は無かったことできるマントのおかげで案外元気そうなエルザを眺める
あの時傷が消えたのはあれのおかげじゃねぇだろ
思い出せば、マントは消えていなかった
「ところで、爺さんはなにをしようとしてんだ?」
入った所で足を引っ張るだけなので呆然と見つめていた時隣からそんな声が聞こえた
「機を見て、エルフの娘に助太刀をな。まだ向こうの方が話がわかりそうじゃ」
「待て待て待て待て待て待て待て! やめとけーって! 絶対、足引っ張るだけだから! 右腕と首を切られてやられんのがオチだ、ジッとしてよう!」
「具体的な負け予想するでないわ! なんでか本当に切られた気がしてくるんじゃ!」
「実力差ぐらい分かれよジジイ」
「なんじゃと?貴様はそんななりでビビって入らんのか!」
耳元で怒鳴るロム爺にため息をつき耳を抑える
「入った所で足を引っ張るのはダメだろ…それに」
そろそろ日が落ちる
活動限界になる
それならば今パックの邪魔になるよりは、活動時間が過ぎてしまった時に精一杯逃げがすための時間稼ぎをしたほうがいいだろう
そう判断しての行動だ
納得してなさげのロム爺はそんな言葉を無視して棍棒を持ち隙を窺っているようだ
「このままだとMP切れして負けるんじゃねぇか?」
今の状況はパックが優勢だ
「えむぴーとやらがなにかはわからんが、精霊使いの戦いでマナが切れる心配はいらん」
「マナが切れる心配がないっつーのは……」
「魔法使いと違って、精霊使いが使うのは己の中でなく、外にあるマナじゃからな。世界が枯渇しない限り、精霊使いに弾切れは存在せん」
「ガソリン無制限でエンジン吹かし放題か。なんたるチート」
「お前の例えすげぇわかんねぇ」
聞いたことない単語を並べるスバルを見つめるがそんなこと説明している余裕はないらしい
目の前で起きている戦闘に釘付けだ
「精霊がいつまで顕現できるか、はまた話が別じゃ。精霊抜きじゃと、一気に形勢が傾くかもしれんぞ」
「うげ、そういやそうだ。……そろそろ五時とか回るか!?」
「ああ回る」
不安がるスバル
一旦逃して詰所に向かわすか?だが数で束になった所で勝てるとは思えない、アイツは今日は非番だ出来れば面倒ごとに巻き込みたくない、ユリウスなら、だがそう簡単に出会ってくるとも思えない、他にだれが
打開策を考える
レインは祖父ほど剣は上手くないし、父ほど体は頑丈ではないし、弟ほど世界から愛されているわけでもない、かと言ってそれぞれに出来ない魔法を扱えるわけでも無ければ、頭が回るわけでもない、自分で出来ることの限界をよく分かっているからこそ、誰かを頼ることしか出来ないのだ
「あ、マズイ。ちょっと眠くなってきた。むしろ、今ちょっと寝ながら戦ってた」
「ちょっとパック! しっかりやってよっ」
「……はっ! 寝てない! 寝てないよ! ボク、全然寝てないよ!」
「なんかすげぇ小声で不安になるやり取りしてねぇ!?」
かなり限界が近いのかうつらうつらとしている
剣を握る力が強くなる
「楽しく、なってきたのに。心ここに非ずなんて、つれないわ」
「もてるオスの辛いところだね。女の子の方が寝かせてくれないんだから。でもほら、夜更かしするとお肌に悪いからさ」
「そろそろ幕引きといこうか。同じ演目も、見飽きたでしょ?」
「――足が」
踏み出そうとした足は凍結した地面に固定されていた
「無目的にばらまいてたわけじゃ、にゃいんだよ?」
「……してやられたってことかしら?」
「年季の違いだと思って、素直に賞賛してくれていいとも。オヤスミ」
青い白い光線のようなものが放たれた
盗品蔵を白く染め上げ、冷えた空気が肌を撫でる
これが当たっていれば、謎に怪我が治っているエルザでも無事ではないだろう
だなエルザは足の皮を犠牲にして、避けた
当たらなければどんな攻撃も意味がない
「嘘、だろ……」
「嘘じゃないわよ。ああ、素敵。死んじゃうかと思ったわ」
「……女の子なんだから、そういうのはボク、感心しないなぁ」
「どうすっかな」
これで終わってくれたら楽だった
レインは弱くはない、だがエルザとの長期戦となると話は変わる、切っても治っている、そして痛みに怯まないその時点で戦略が減っていく
「早まって切り落とすところだったのだけれど、危ういところだったわ」
「それだけでも相当、痛いだろうに」
「ええ、そうね。痛いわ。素敵。生きてるって感じがするもの。それに……」
滴る血を氷につけ凍らせ止血をした
「ちょっと動きづらいけど、十分よ」
足についた氷を割り、氷の靴を履き楽しげに笑う姿に眉を顰める
自傷を平気でやる奴はダメだ痛みで怯まない
「パック、いける?」
「ごめん、スゴイ眠い。ちょっと舐めてかかってた。マナ切れで消えちゃう」
「あとはこっちでどうにかするから、今は休んで。ありがとね」
「君になにかあれば、ボクは盟約に従う。――いざとなったら、オドを絞り出してでもボクを呼び出すんだよ、それじゃあ後は任せるよレイン」
パックの身体が霧のように消えていく
「―ああ、いなくなってしまうの。それはひどく、残念なことだわ」
ナイフを持ち直しエミリアの元に真っ先に向かう
ナイフと剣がぶつかる
止まった体に蹴りを入れ距離を作る
「スバル逃げて助けを呼んでこい」
「でも」
前回負けたことを知っているからこそ不安そうな声を上げている
「死ねねぇよ」
「加勢なしの勝算はもうわからん。なら黙って見とるのも機を逃すだけじゃ。……わかっとるじゃろ、フェルト」
「わかってるっつーの。逃げるにせよ、そろそろ動かねーといけねーってな」
そんな会話が聞こえてくるが聞いている暇は無い