本日の運勢は過負荷(マイナス)   作:蛇遣い座

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「それが本来の過負荷(マイナス)よ」

冷凍庫内の静謐に包まれた空気を銃声の破裂音が切り裂いた。

 

「……っ!?」

 

その瞬間、ボクの身体は壁の端にまで大きく跳躍していた。名瀬さんの銃弾は腕をかすめる程度に抑えられ、間一髪で回避できたボクは急いで辺りを見回す。今の回避で大きく距離を開けてしまったため、残念ながら距離を詰めて名瀬さんに攻撃するほどの時間の余裕はない。焦燥感に押されるようにボクの足は動き出していた。早くしないと都城王土の電磁波によって再び動きを止められてしまう。

 

「ちっ……それが噂の危機回避か。拘束中にも使えたのかよ。……都城先輩、見栄を張って教えなかったな」

 

「あそこまで行けば……!」

 

この冷凍庫内で最も入り組んで、高く積まれた食品棚の裏へと飛び込むようにして隠れた。とりあえず堅そうな箱を盾替わりにしてみる。遠距離攻撃全般に言えることだけど、特に運の要素の大きい素人の銃弾を正面から避けるというのは、ボクにとって難しいのだ。そして、予想通り――

 

「ぐっ……また身体が動かなく…」

 

再び都城王土の人身支配によってボクの肉体の支配権を奪われてしまう。そのままボクは頭を床に激突させた。

 

「おいおい、俺は女王様じゃないんだぜ?M奴隷に調教して欲しけりゃ他の奴に頼みな」

 

土下座した姿勢で固定されてしまっているボクを見下ろしながら名瀬さんの嘲るような声が放たれた。視線だけを上向きにすると、そこには顔の包帯を解きながらこちらへ歩いてくる名瀬さんが見える。……やっぱり銃で撃ってくるような甘い真似はもうしてこないか。

 

「女子のスカートの中の覗き込むなんて、瑞貴くんも意外とむっつりだったみてーだな」

 

「……スカートの中を覗き込まれたくなかったら、ボクに近づかないことだね」

 

「クク……仕方ねーからMの瑞貴くんには俺がしっかりと拘束プレイをしてやるよ」

 

その言葉にボクの全身に冷や汗が滲む。名瀬さんめ……ボクのことをよく調べてきている。

 

――度重なる不運によって磨かれたボクの反射による危険回避能力。その発動条件は即座に行動しなければならないほどの危険であることだ。

 

「つまり、こうやって優しく手足を縛ってやれば、お前は反射行動を起こせないんだよな」

 

「ぐっ……」

 

名瀬さんはボクの手足を一箇所に集めて、包帯で縛り始める。その包帯は名瀬さんが先ほどまで顔に巻いていた耐圧、耐衝撃性に優れた包帯。巻かれてしまえば、さすがにこれを力で破るのは不可能。慌てて逃れようとするボクだったが、その身体はピクリとも動かすことができない。

 

「いくら都城先輩といえど、マイナス十三組の連中相手にはキツイだろ。さっさと終わらせねーとな」

 

完全に拘束されてしまえば、都城先輩が倒されたとしてもボクに打つ手は無くなってしまう。焦燥に駆られるボクだったが、しかし一つだけこの状態を打開する方法があった。ボクだって意味も無くこの場所へ隠れたわけじゃない。不安定に周囲に積まれた大量の棚を見上げると自虐的な笑みを浮かべた。

 

――こんな状況でボクに不幸が起きない訳が無いんだよ!

 

「ん?うぉおおおおおおっ!」

 

頭上を見上げたボクに釣られるようにして視線を上げた名瀬さんは驚愕の声を上げた。棚が崩れ、頭上から崩落してくる大量の箱の山。かなりの重量を誇るであろうその一つずつが折り重なるようにしてボクらに向かって降ってきたのだ。運動神経の皆無な名瀬さんもその範囲内に含まれており、何とか逃れようとしていたのだが――頭部に走った衝撃によって一瞬意識を失って吹き飛ばされた。

 

「……少し浅かったみたいだね」

 

ボクは軽く舌打ちして瓦礫の山から抜け出した。この危険によって反射的に動いていたボクの身体は頭上からの落下物を見事に蹴り飛ばすことに成功していたのだ。しかし、惜しむらくは名瀬さんを一撃で昏倒させられなかったこと。壁際まで蹴り飛ばされた名瀬さんだったが、ふらつきながらも何とか立ち上がっていた。

 

「はぁ…はぁ……甘く見てたぜ。ただの役に立たないスキルだとばかり思っていた。だが、お前の過負荷(マイナス)も文句無しに最低だ」

 

「お褒めに預かり光栄だね。……おっと、みんなも帰ってきたみたいだ」

 

窓ガラスの向こうには戻ってきたマイナス十三組のみんながガッツポーズを見せてくれた。どうやら都城先輩は倒せたようだ。これで形勢は完全に逆転した。ボクは慎重にゆっくりとした足取りで名瀬さんの元へと向かう。脳を揺らされ、名瀬さんの膝は彼女自身の意志に反してガクガクと震えてしまっている。

 

「頭部を守っていた耐衝撃性の包帯も瓦礫の山の中。不完全な防護服でボクを相手に勝てるとは思わないことだね」

 

「おいおい、俺を甘く見んじゃねえ、よっ!」

 

ガコンと名瀬さんがブレーカーを落とした瞬間、室内が漆黒に包まれた。運悪く名瀬さんをブレーカーの近くに蹴り飛ばしてしまったようだ。それと同時にボクは右へ一歩ずれる。ヒュンと風切音がボクの耳元を通り過ぎた。おそらくは名瀬さんの投擲した注射器。続けて幾つかの物体が闇の中を飛来するのを感じ、ステップでかわしていく。善吉くんほどではなくとも、ボクだって視覚に頼らず戦うことくらいはできるのだ。最大限に神経を張り詰めて周囲を窺うが、もう追撃の気配は感じ取れない。代わりに名瀬さんの逃げるような足音が聞こえてきた。しかしボクは深追いはせず、闇に包まれた室内で臨戦態勢を保ち続けていた。

 

 

 

 

 

「……ようやく電気が復旧してくれたか」

 

再び点いた明かりにほっと溜息を漏らす。が、周囲に名瀬さんの姿はない。やはり停電の最中に隠れたのだろう。ここからは不意打ちを受けないように、罠に掛からないように、とにかく慎重に詰め将棋のように攻めていくことが重要だ。地力ではこちらが圧倒的に勝っているのだから……。そう思って辺りを窺いながらゆっくりと足を踏み出そうとした瞬間、辺りにガシャンと窓ガラスの割れる音が響き渡った。慌てて振り向くとそこには分厚いガラスを割った黒神めだかの姿が――

 

「聞こえますか、お姉さま」

 

何やら激励の言葉を送っているようだけど、気持ちだけで逆転できたら苦労しない。策でも授けるのかと警戒していたけど、その心配はなさそうだ。そうして、ボクは静かに物陰の奥まで捜索を続けていくことにする。罠や不意打ちを警戒しながらしらみつぶしに歩き回り、少しずつ隠れられる範囲を狭めていく。そして、とうとう棚の陰でうずくまっている名瀬さんの姿を発見したのだった。ボクは背後から静かに近づき、殴りかかろうとしたところで――

 

「なあああああああっ!」

 

――自分自身の腕が凍りついた。

 

「いくら俺の異常性(アブノーマル)が改造だからって、さすがに自分自身を改造するのは六年振りだぜ。しかも、こんな過酷な状況下でよー。しかし、それが功を奏したみてーだな。どうやらお前達の言う過負荷(マイナス)ってのは生まれつきじゃなく、環境や状況によって性質が決まるスキルらしい」

 

「ま、まさか……自分自身を改造して……過負荷(マイナス)を!?」

 

そこには全身に冷気を纏った異常な雰囲気を醸し出している名瀬さんがいた。思わずボクの顔が驚愕に引きつる。過負荷(マイナス)を作り出すだって!?そんな馬鹿なことが……

 

「氷点下(マイナス)の脅威から生き残るために製作したこの過負荷(マイナス)を、過負荷(マイナス)の恐怖から生き残るために成立したこの過負荷(マイナス)を――俺は『凍る火柱(アイスファイア)』と命名する」

 

名瀬さんはそう言って見栄を張るように宣言した。

 

「くっ……」

 

慌ててボクは凍った手を引いて後ろへと飛び退く。そして、さらに反射的に左へと。その瞬間、先ほどまでボクのいた場所の水蒸気が凍結するのが見えた。

 

――この過負荷(マイナス)は遠距離攻撃にも対応しているのか!

 

「あいかわらず勘は鋭いな。だが、無駄だぜ。物理法則をも無視する過負荷(マイナス)に、あんたは対応することはできない」

 

「やってみなくちゃ分から……!?」

 

冷気による攻撃を避けつつ、名瀬さんの懐へと飛び込んだボクは無防備な顔面に蹴りを撃ち込もうとして――

 

「があああああああああっ!」

 

――その脚までもが凍結してしまっていた。

 

「だから無駄だって言ったろ。『凍る火柱(アイスファイア)』は氷を操る能力ではなく、体温を操る能力なんだよ。だから近付いただけでアウト。打撃も締め技も関節技も、すべてが無意味なんだよ」

 

「そんな……」

 

あまりにも絶望的な状況にボクの全身から血の気が引くのを感じる。絶対に負けられないこの戦いでこんな状況に陥ってしまうのは、やはりボクも過負荷(マイナス)だからか……などと八つ当たり気味な思考が浮かんでしまう。しかし、思考停止は最低な愚策。何とか打開策を打ち出そうと頭を働かせるも、思い浮かぶのは自分の負ける姿のみ。格闘戦メインのボクが近づけないように、名瀬さんは常時周囲の温度を下げて凍結させているのだろう。可能性があるとすれば、ボクの不運による崩落に巻き込むことくらいか……。二番煎じだしさすがに警戒されているだろうけど、それしかないか。ボクは何とか冷凍食品の棚が高く積みあがっている場所へと移動しようとするが、なぜか一歩たりとも脚が動かない。まるで足の裏が張り付いたような……。

 

「しまった……これは!?」

 

「くくっ、やっぱり命の危険がないと反応がにぶいみてーだな。俺がゆっくりと床の温度を下げてたのに気付かなかったのかよ?」

 

勝ち誇ったような表情の名瀬さんに慌てて床に目をやると、ボクの靴の裏が凍りついて床に張り付いてしまっていた。これはあまりにも最悪な事態だ。床を凍らされては貼り付いた靴を脱いだところで移動することはもうできない。まぎれもなくチェックメイト。悔しさに思わず唇を噛み締める。心の中に絶望の澱が溜まっていくのを感じた。

 

「いや、それでも負けるわけには……」

 

ボクは球磨川さんに絶対に勝てって言われたんだ!その信頼には応えたい!しかし、どれだけ考えても1%の勝率すら導き出すことができない。どうしてもどうしてもどうしてもどうしても……。ふと見ると自分の膝が無様に震えていた。その理由は寒さなのか、それとも確信せざるを得ない自身の敗北によるものなのか。頭を抱えて狂いそうなほどの焦燥感。そんな絶望に侵食されたボクの心に球磨川さんの言葉が染み込んだ。

 

『おーい、瑞貴ちゃん。もう負けちゃっていいよ』

 

「え……球磨川さん?」

 

部屋の外から球磨川さんが笑顔でそう声を掛けてきた。その場にいる全員が驚いた表情で声の主である球磨川さんを見つめる。

 

『精神性が一番正常(プラス)に近い君なら、過負荷(マイナス)の中でも例外的に勝利を計算できると思ってたんだけどね。名瀬さんが過負荷(マイナス)になるなんて僕にも予想外でさー。やっぱり過負荷(マイナス)同士の勝負じゃマイナス性の低い君に勝ち目は無さそうだね』

 

「ま、負けていいって……でも球磨川さん。ここで負けたら戦挙が……」

 

『負けを認めてマイナス十三組みんなで出て行こうよ。高校なんて他にいくらでもあるんだしさ』

 

球磨川さんの言葉がボクの不甲斐なさを慮ってのものであることは間違いない。球磨川さんにそんなことを言わせてしまった自分自身に情けなさを感じて涙がこぼれた。思わず地面に視線を落とし、低く呻くように自身の無力感を噛み締める。

 

『はぁ……瑞貴ちゃんはそこが駄目なんだって。ねえ、本当に勝ちたいなら一つだけ方法があるんだけど、どうする?』

 

「お願いします!勝てるなら何でもします!」

 

球磨川さんの言葉にボクはもちろんとばかりに大きく頷いた。

 

『じゃあ僕も心を鬼にして言うよ。飛沫ちゃん、合図したらお願いね』

 

志布志に何かを耳打ちすると、球磨川さんは少し間を空けて絶望的な言葉を言い放った。

 

『瑞貴ちゃんの役立たず。クズ野郎。二度と僕に近寄らないでよ。ねえ、何で生きてるの?早く死んでよ。いや、やっぱり死ななくていいや。だって君なんて僕にとって何の価値も無いんだから』

 

「……っ!」

 

頭をガツンと鈍器で殴られたような感覚。ボクの心が絶望に包まれ、重苦しく陰惨で陰鬱な心情に捕らわれた。同時にこれまでの不幸(トラウマ)がフラッシュバックしてくる。これまでのボクの痛みが悲しみが嘆きが一気に脳内に流れ込んできた。さらに、これまでにボクが不幸にしてきた人々の怨嗟の声が頭の中に響く。ボクは頭を抱えながらどろどろと濁りきった何かが心に溜まっていくのを感じていた。

 

「うぐぅうううう!」

 

うずくまるように苦悶の声を漏らすボクに、他の全員が困惑した表情を浮かべていた。しかし、今のボクにはそんなことを気にする余裕なんて存在しない。ありとあらゆる負の感情に今にも飲み込まれそう。この場で衝動的に自殺をしてしまわないかだけが気掛かりなくらいほどの負の感情の渦。そして、それをしても構わないと思えるほどにボクの意識は弱まっていた。

 

「ちょっと球磨川くん!一体瑞貴くんに何をしたの!?」

 

『瑞貴ちゃんの絶対値の低さじゃ名瀬さんには敵いませんからね。人吉先生の施した診療外科手術――その傷口を開かせてもらいました』

 

「なっ……球磨川くん、まさか!?」

 

フラッシュバックによって少しずつ過去の不幸(トラウマ)が思い起こされる。どうして今まで気に止めていなかったんだろう。両親は海水浴に出かけたときに発生した津波に流されて溺死。次に世話になった祖父は火災により全焼した家の中で焼死。祖母はトラックに轢かれて事故死。その頃から親族の中に不幸を撒き散らすボクの引き取り手はいなくなっていた。孤児院は食中毒で何人の子供が死んだかな。――そして、それをやったのがボクだという事実。ボクの心の奥の傷跡が引き裂かれるのを感じる。人吉先生の縫合した心の傷(トラウマ)が解れていく。

 

「何てことを……!みんな逃げて!」

 

「え?お母さん……!?」

 

『そうだね。僕達も外へ逃げようか』

 

人吉先生は切羽詰った様子で、球磨川さんはのんびりとした口調で周囲の仲間達に声を掛けた。しかし、その言葉はボクには届かない。頭が割れるほどの痛みに今にも発狂しそうだ。そして、絶望と苦悩が心の奥から溢れ出した瞬間、ボクの喉から叫び声が上がり、同時に建物全体に大きな亀裂が走った。

 

「ああああああああああああ!」

 

――建物の崩落。いつも通り、運悪くこの冷凍庫自体の耐久度が限界に達したのだろう。天井や壁が割れ、コンクリートの塊や蛍光灯などが雨のように降ってくるのが見える。お互い巻き込まれれば命に関わるほどの大事故だけど、それをボクは醒めた目で見つめていた。すでにこの戦挙の勝敗はボクの頭にはない。ただ、この絶望を周囲に撒き散らしたいというだけだ。自暴自棄な今のボクは危機回避で落下物を避ける気分ではないし、この全てを受け入れようと目を閉じる。しかし、その建物の倒壊は――

 

「勝ち負けはともかく、ちっとは後先を考えろよ。俺がこの建物ごと凍らせてなけりゃ、お前も今頃ぺっしゃんこだぜ?」

 

――名瀬さんが建物全体を凍らせることで止まってしまっていた。

 

全てを停止させる絶対零度。それをボクは感情の篭らない瞳で見つめていた。勝負の終了ともいえる事態にもかかわらず、ボクには外界の変化に感情を向けている余裕はなかった。現在進行形でボクの過去の不幸が頭に叩き込まれており、その絶望の情報の波に飲まれないように耐えるので精一杯だったのだ。一本ずつ心を継ぎ接ぎした糸が千切れていくのが分かる。そして、とうとうボクの心の傷は完全に開かれたのだった。同時にボクの瞳に映る光景が凶々しく変化していく。

 

 

 

 

 

「よっしゃあああああ!さすが名瀬師匠!これで勝負は決まったぜ!ほら見ろよ、お母さん。やっぱり杞憂だったじゃねーか」

 

「善吉くん、早く逃げなさいって言ってるでしょ!瑞貴くんの本来の過負荷(マイナス)に巻き込まれるわ!」

 

「お母さん、何言ってるんだよ。どう見ても終わりじゃねーか。それに本来の過負荷(マイナス)って何のことだよ」

 

勝ち誇ったような善吉くんの言葉とは対照的に人吉先生の顔色は悪い。そうだ、ボクも思い出した。かつてボクの所有していた本来の過負荷(マイナス)を――

 

『不思議に思わなかったのかい、善吉ちゃん?瑞貴ちゃんが幼少期から身に着けていた不運。そんなのに巻き込まれてどうして今まで生き残ってこれたのかさ』

 

「それは……瑞貴さんの言う経験による危機回避とやらで」

 

『それは後天的なものだし、そもそも三、四歳児が雪崩やトラックの正面衝突から逃れられるはずないだろう?』

 

「だったら何で……」

 

『それは人吉先生に聞いたほうが早いんじゃないかな?そういえば誰かが言ってましたよね。子供を救うのが使命だって』

 

球磨川さんの言葉に人吉先生の表情が歪んだ。そう、ボクの不運というのは心療外科手術の副作用であり、反作用でもある。人吉先生の長年に渡る心療外科手術の結果は半分は成功で半分は失敗といえるものであった。ボクの精神を正常(プラス)に近づけることには成功したが、引き換えとして自身の過負荷(マイナス)の制御を失ってしまった。ボクが常時、死の危険に晒されるようになったのもその頃からである。一人の子供を不運にしてしまったことを今でも悔いている人吉先生だけど、それでもボクのマイナス性を元に戻さないでいるほどに、かつてのボクは危険だったのだ。

 

「だったら、瑞貴さんの本来の過負荷(マイナス)って……」

 

「『他人の幸運を奪い取ること』――それが瑞貴くんの本来の過負荷(マイナス)よ。あたしが精神に手を加えるまでの瑞貴くんは、周囲のあらゆる人間の幸運を吸い取って生きてきたの」

 

両親の幸運を奪い取って、祖父母の幸運を奪い取って、孤児院や学校の人たちの幸運を奪い取って――そして、その全てが死んでいった。自分が幸せになるためならボクはそれを躊躇することは無かった。もちろん、その自分の行動を疑問に思うこともない。その邪悪で最低な精神性を人吉先生は封印したのだった。しかし、他人を犠牲にしないという精神性は逆に自分自身の幸運を奪い取ってしまうという反作用をもたらした。それがボクの不運の正体である。

 

『僕の言葉と飛沫ちゃんの過負荷(マイナス)で、瑞貴ちゃんの精神はかつての最低(マイナス)なものに戻ったはずだよ。だから僕に見せてよ、君の本来の過負荷(マイナス)――』

 

目に映るすべてが懐かしい。あまりにも凶々しい視界にボクは口元を醜く歪めた。こんなに清々しく爽快な気分は久し振りだよ。今なら使えるはずだ。

 

 

 

球磨川さんの名付けたボク本来の過負荷(マイナス)――『壊運(クラックラック)』

 

 

 

直後、ボクの視界が爆炎で埋め尽くされた。

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