原素の水面に理想を映せ    作:テムテムLvMAX

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一話 とある商人の子

 事の始まりは十年前、そこから話そう。

 私が今とは違う所で死んでしまった、不幸な事故だ、私自身未だに悔やんでも悔やみきれない不幸な事故だ、しかしその不幸は終わりではなく始まり、今までの私を大きく変える出来事が私に降り掛かった。

 

 私は死に、魂だけとなり、何もない所へと昇っていく、そう思っていた所にとある存在が介入し、私の魂を拾い上げた、仮にこの存在を『神』と呼称しよう、神は私に二択を突き付けた。

 

 このまま死ぬか、世界を救うか。

 

 ……この時の私の表情はさぞ滑稽だった筈だ、魂に顔はないから確かめようが無かったが。まさかこんな漫画や小説のような出来事、あるはずないと思い込んでいたからだよ、おかげでいままでの常識が跡形もなく崩れ去った。

 話を戻そう、私は不幸なまま死ぬ権利、世界を救う義務、どちらを取るか問われ、私は選んだ。

 

 世界を救う義務をだ、私は不幸なまま死んでたまるか、そう思っていたし、この機会を逃したくはなかった、たとえ試練やさらなる不幸が有ろうとも、やり直せる機会を鼻先にぶら下げられてしまったら……私にはこの選択しか無いだろうとも思う。

 人生を不幸なまま終わらせてたまるか、私はハッピーエンドが好きだ、大団円が好きなんだ、ドラマチックな悲劇よりも三流の喜劇が良い、そんなつまらない男だ……また、話がそれた。

 

 選択した私を神は何も言わず光で包み込み、その眩しさに魂だけの私も思わず目を閉じる仕草を取っていた。

 

 そして、その次の瞬間には。

 

「おぉ……可愛い子だ、生まれてきてくれてありがとう」

「ふふ、あなたのお父様ったらはしゃいじゃって……あなたはキール、キールよ……可愛い子」

 

 何故か、二人の男女に囲まれる夢を見た。

 いやこれは夢だ、夢であってくれ、お願いしま……現実だった。

 私の視界いっぱいに広がる大人の男女、年齢は分からないが推定で四十代だろうか、そんなのはどうでもよくこの二人よりも私の身長が小さいことが問題だ、ひょっとしてひょっとすると赤ん坊なのじゃないのか? 

 

「お父さん! 赤ちゃん生まれた!?」

「可愛い赤ちゃんだよ」

「うお〜! おれはおにいちゃんだぞー! よろしくなー!」

 

 私は赤ちゃんだったか。

 薄々理解していたが否定できない事実であるのは辛いな、成人男性だった身からすると気を使う、それにこの兄を名乗る男子の満面の笑みは眩しくて……そうか、この純真さ守らねばと思ってしまった。

 しばらく歓喜の表情で私を見ていた父は、ふと憂いを帯びた眼差しで私の頭を撫で、母へ伝言を残し去っていく。

 

「すまない、そろそろアストン様の所へ行かなければ……くっ……この身の引き裂かれる思いよ……」

「まぁ早速子煩悩なのね、アストン様を待たせるものではないわ、さぁ、キール、お父様に行ってらっしゃいしましょうね」

 

 母はそう言うと私の手を握り出ていく父へ手を振らせた、ふむ、そのアストンと言う人が誰かは知らないが確かに人は待たせてはいけない、心残り無く行けるように手を降って見送った。

 あ、とても眠い……くっ……これが赤ん坊の体か……精神が大人でも体に引っ張られ、私は深く眠った。

 

「おやすみなさいキール、次に目を覚ますときにはお父様は帰ってくるわ、ゆっくり眠って大きくなるのよ」

 

 

 と、言うような日常が毎日続き、私が5歳になった頃に話は飛ぶ、5歳は舐めてはいけない、色々と覚え真似し有り余るスタミナを行動力に変換する好奇心の化け物なのだ、今の私が成人男性の精神を持っている上に前世の知識を持ち合わせているが、それでも好奇心は強かった。

 私が落ち着きが無いという話ではない、そもそもこの世界が私の知る世界ではなかったと言う根本からひっくり返した話なのだ、5歳にして初めて世界というものを知り、私は腰を抜かした、5歳なのにぎっくり腰になりかけたのは、私との秘密だぞ。

 

 今の私が住む国はウィンドル、街の名はバロニア、良い風が吹き、気候は温暖で過ごしやすく、人々は何時も笑って過ごしている。

 まだあるぞ、驚けるだけ驚いたと思ったがまだあった、このバロニアは王都、つまり王が住む、まずそこで凄いだろう? 民主主義に染まりきった異世界人が今は亡き君主政治に触れる機会は中々ない、さらに魔法があるのには驚きがもう一周回った感覚だったな、あと一つある、バルキネスクリアス、字にすると大輝石、とても大きな大きな、異世界人だと5階建てビルより大きい岩といえば伝わりやすいか、先端は翼がデザインされ、綺麗な曲線と鮮やかな緑色をたたえる岩は神秘的ですらあった。

 

 ただ、やはり魔法は私に大いなる影響を与えた、そうだな……魔法に出会ったのは母が料理の時に何か唱えて火を灯していた時だった、アレには5歳児の心臓が跳ね上がったぞ。

 

「すごーい、これなんて魔法!」

「まほう? これは輝術よキール」

「きじゅつ……輝術……」

 

 私は魔法、違うな、輝術と呼ばれる技にすっかり夢中ににてしまった……ここから私の人生は大きく狂って、いや違うな……めちゃくちゃにのめり込んでいった。これはその入り口になる出来事だったさ。

 

 

 

 

 

 それからしばらくして。

 

 

 

 

 

 実は、私の家はこの王都バロニアの中でも裕福な商人の家で、それでいて誠実さと品揃えで知られていた、だからこそアストン・ラントと言う人に出会えたのだろう。

 そして、それは私にとっても都合が良かった、何故か? ラント領がこのウィンドルでもクリアス、輝石と書くこれを多く産出するからだ。輝石とは輝術のエネルギーである原素、エレスが詰まった鉱石、これがなくては輝術など使えない。

 

 そういう事も踏まえ、私は父にとある提案をした。5歳児だからお願い、か。どちらでも良いが。とある日の食卓、私は父と二人きりになったタイミングで話を切り出した。

 

「父上、少し良いですか」

「どうした」

「父上、私はラントで輝術を学びたい」

「……なんだって? なんでまたラントなんだ?」

「だってラントは輝石が豊富に取れるのでしょう? 輝術を試行錯誤して学ぶなら、物が潤沢に取れる場所で行うのが効率よいかと思いまして」

 

 私の言葉を精査しているのか、腕を組みまぶたを閉じた……ふむ、色良い返事は頂ける訳では無いか……

 と、思っていたが父が目を開け口を開いた、なんと意外にも肯定的な意見が飛び出した。

 

「その意気はよし。だがラントじゃないな」

「なぜ?」

「世界は広い、どうせならバロニアやラントじゃ学べないことをもっと高いレベルで学ばせてやりたい、輝術を学びたいならストラタに行け、キール」

「ストラタ?」

 

 知らない単語が飛び出して来た、ストラタ……なんとなく潤いが感じられる名前だ……恐らく国名だろう、しかし何故ストラタ? 疑問の答えは父が語ってくれた。

 

「ストラタは良いぞキール、輝術のレベルは世界最高と言うし国全体の雰囲気としても研究と言うものに余念がないと感じた、つまりお前が本気で学ぶつもりがあるなら、ストラタは最高の土地だ。と、父さんは思う」

 

 ストラタ……良い……良いな……ぜひストラタで輝術を学びたい、私の幸福はそこにあると言っていい、5歳児好奇心ブーストが私の気持ちの後押しして、行きたい気持ちが更に更に膨れ上がる。

 しかし父は残念がる、何故だ? 

 

「ただなキール、お前はまだ5歳、しかし5歳だ……良くも悪くも5歳だというのが邪魔をしている、父さんはお前の賢さは大人に引けを取らないと思っているが……年齢と経験はだいたい比例するからな……まだ行かせてやれない」

「そうですか……」

 

 こんなに大人びた5歳児でもほいほいと行かせられないか……めちゃくちゃ深慮で子供の事に本気なできた親だと文句も言えないしな……ここは待つか、年齢。

 私の思いとは裏腹に更に父は言葉を付け足した。

 

「6歳なら良いぞ」

「はっや、明日誕生日ですよ私」

「誕生日プレゼントだな、はははっ!」

「えぇ……」

 

 すまない、深慮とか言ったな、前言撤回、お茶目なお父様です。

 

 

 後日。

 

 ラント発ストラタ行き連絡船乗り場に私たち親子は来ていた、なんとあのアストン・ラントも来ていた。何故だ? ここに領主が来る理由は無いはずだが……

 

「ほぉ、この子が神童と噂のご子息ですか」

「ははは自慢の息子です、しかしアストン殿わざわざご足労頂いて誠に恐縮です」

「貴方とは子の扱いから物流まで何かとご享受賜る身、それに一度拝見したかったのですよ、貴方のご子息を」

「ははは自慢の息子です」

「……もう聞きましたが」

 

 とても仲が良さそうに談笑していた、私が思っていたよりも父とアストン・ラントは距離が近いようだ、っておい父よ仮にも領主にその態度は良いのかね、ちょっと引いてるが。

 私は母と最後の別れ、いや新しい所へ行く私の見送りの言葉を頂いていた、こういう時笑って送り出してもらえるとありがたい。

 

 

「キール、まず貴方は賢いから他の子が萎縮してしまう可能性があるの、気をつけないと友達が出来ないわよ」

「はい」

「それとストラタは身なりの良い人が多いと聞きます、身だしなみはきちんとしなさい」

「はい」

「あと、たまにお父様と遊びに行くわね、あの子も一緒に行けたら良いけど……」

 

 兄さんは……無理だろうな、あの人は騎士になってしまったからしばらく会えてないし、それに面倒だ、弟想いの良い兄だが、想いが強いあまりに弟が拒否したくなる兄だ、良い距離感を見つけたい。

 母との会話が終わると父と一緒にアストン・ラントも私の方へ来た。

 

「はじめまして、私はアストン・ラント、君の父には世話になっている」

「自慢の息子です」

「は、はは、何度も言わなくて結構ですぞ……」

 

 もう父上は自慢の息子botはやめて黙ってくれ、目線で訴えたらしょげた様子で母の後ろへ下がった、なんだろうな父はこれくらいの扱いで良い気がする。いかつい顔のアストン・ラントが半笑いだぞ。

 父は置いておくとして、このアストン・ラントと言う男は……若く覇気に満ちている益荒男、そういうタイプの領主なのだろう……私より下の兄弟がいるとも聞く、いつか会ってみたいものだ。そのアストン・ラントは私へ語った言葉は、大きな期待と実利を込めたものだった。

 

「申し訳ありません、私の父が失礼しました」

「良い、あの人のよさはそこなのだ、改めて神童のキール君には期待している、ストラタで培った物をこのウィンドルの為に活かしてくれることを、それにだ、いつか私の息子たちと会って遊んでやってほしい……戻ってくるのは何年後の予定かな?」

「長くて4年と決めております、ただ1年毎に帰省する予定でもあります」

 

 私の言葉を飲み込んで、一旦考えるように顎を指でなぞるアストン・ラントはニヤリと笑い、優しげな声色で私に子供たちの相手をしてほしいと言ってきた。

 

「ふむ……となると留学が終わる頃にはアスベルやヒューバートも9歳と8歳か、いい刺激になるだろう」

「私はその頃には十歳ですが、良いんですか? 子供のうちの1年の差は大きいですが」

「構わない、君が良ければ子らの兄として振る舞ってくれていいぞ」

「その時はアストン様の期待に添えるよう努力します」

「子供らしくない受け答えだ」

「えぇ、自慢の息子です」

「「はぁ……」」

 

 ……最後に父が全部持っていった。

 この時、アストン・ラントと私の顔は同じ表情をしていた、もちろん引いているんだ、露骨に狙いすましたボケだったからな。

 

 なんとも慌ただしい旅立ちとなったが、連絡船に乗り込み港を眺めている頃には、それが心地の良い物だと気付かされた。

 

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