ストラタ、それは砂漠に咲く水の花、大陸のほとんどを砂漠と岩石が覆い尽くすストラタと言う国家は港町オル・レイユ、研究都市セイブル・イゾレ、そして水の都ユ・リベルテ……水の原素を司る大輝石に守られた街以外は人間の生存圏が無い中でこれほど発展しているのかと驚いた。
特にユ・リベルテは首都であることも加味しても凄まじい、ウィンドルのバロニアも引けを取らない、方向性が違う美しさがある、砂漠と言う過酷な環境に囲まれながらも水が滴り水のアーチがあり水路に清らかな水が流れ、人々は熱砂の中心地にある事を忘れることができていた。これもどこより進んだ輝術の成果だ。
あと、これは特筆すべき事として、ストラタは王ではなく大統領だった。国民主権が存在することに驚いた。
まぁ、私が用があるのはセイブル・イゾレ、輝術研究の最高峰であるセイブル・イゾレも砂漠を越えないとたどり着けないが、そこは便利な亀車と言うものがあるのでそれを使う。
「ややっ! 君がキール君っすね! 事情は聞いてるっす! 早速セイブル・イゾレに行くっすー!」
「こんなでも商人なんですね」
「ひどいっす!? かめにんをなんだと思ってるんすか!?」
「……」
「なんで黙るっす!?」
亀が人になったのか、人が亀になりかけているのか、不思議な商人かめにんの亀車でセイブル・イゾレに到着した。
「ここも……ほとんど岩石か……」
亀車で砂漠を越え、セイブル・イゾレへ辿り着いたが、そのセイブル・イゾレもまた砂漠の街であり、岩石と谷の上に街がある、吊り橋が街をつなぎ合わせてる、そんな印象を受けた。一見殺風景で魅力が感じられない街だがそんなことはない、街の中心地には大きな塔が建っている。事前に調べた話ではあれはセイブル・イゾレの叡智が詰まった場所だとか、ワクワクしないわけがない。
まだ街の入り口で私はこれからのことに思考回路が支配されていた、これでは前に進めないぞ。
しかし、ここで父の根回しのよさが無駄に発揮された。
「おーい、君がキール君かな!」
「あ……はい」
「ほーそうかいそうかい! ボクはここの研究員でジョシュって言うんだ、よろしくー」
爽やかなで気の良い男だ、名前からして助手をしてそうな男でもある、そのジョシュはストラタの研究員が着る白い制服に身を包んでいた、くすんだ白だ、よっぽど着込んだか洗濯していないか……うっ、この匂いは後者だろうか。
「しかし君凄いよね、君のお父さんが研究に資金援助する代わりに息子に輝術の勉強させてほしいって言うからさ、どんな子が来るんだろーって皆で噂してたんだよね、しかも6歳だしって……だけど蓋を開けてみれば大人びた子が来た」
「期待を良い方向で裏切れたと思ってよいですか?」
「うん! もう最っ高!」
「最高?」
「だって天才そうじゃん! 天才が来ると研究が進むから大歓迎! おーい皆天才少年キール君が来たぞー! 囲え囲えー! 天才を逃がすなーっ!」
「……こうなるか?」
……根っからの研究者の集まりだと聞いていたが、ここまでとは、ひょっとしてここの住人は皆そうなのか、この疑いはしばらく晴れないな。
それにジョシュのおかげで私は瞬く間に天才少年キールとしてセイブル・イゾレの住人に認知され、恐ろしいほど期待と好奇の目に晒された、既にバロニアで慣れた扱いだが、慣れているだけで無い方が良い。
ともかく、私は歓迎して頂けたようだ、その甲斐あってか早速次の日からレベルの高い講義を受けられることに、しかもセイブル・イゾレ研究所の所長直々と言う好待遇、所長は暇を持て余していたとか。
翌日。
「キール君、基本のき、から勉強しましょうか。輝術を学び研究しロックガガンの研究に役立てていただきたい!」
「所長ズレてますズレてます」
「すまないジョシュ! ついつい研究対象の事になってしまった!」
「私はただの助手です、ジョシュはあっち」
「一緒だろう」
「違うのだ!」
輝術について一応の勉強をしてきたが、改めて基本から知りたい、そうお願いした……そのつもりだったが私は漫才を見ていた、原素ハイになってないかと心配したがここは原素がなかった。
一通り騒ぎ終わると素に戻った所長が息を整え何事もなかったように講義を始めた、ツッコまないのが礼儀だろうか。
「さて、輝術について一から説明しよう。まず輝術が原素を扱う技であり、誰もが簡単に出来るものから難度が高く人を選ぶものまである事は生活していれば体感的に理解していると思う」
「ええ、家庭で輝術を応用した物を見ることはあります」
うんうんと所長は頷き更に続ける、中々堂に入っている態度だ、さすが所長。
「で、輝術で使う原素は輝石でなくとも自然界に存在している、しかし自然界にあるものを利用しようとすると普通は安定しない、それは存在する原素の属性に偏りがあるからだ。そこで輝石の出番だな、1個の輝石に一種の原素、これを取り出して使う。これが輝術の簡単な全容だ」
「ふむふむ」
ね? 君なら簡単でしょう? そう言いたげな視線が四方八方から飛んできていた、この講義は個室じゃなく、あの塔の中で行われている、周りには研究している学者やかめにんが……なんでいる、かめにん。
ともあれ、塔に出入りする人々が私をパンダのように扱っていることが分かる、意識がそっちに持っていかれるのは仕方ないだろう。
「はい、講義に集中しなさーい!」
「無茶言いますね……!」
「大人しくパンダしてなさい」
……パンダ居るんだこの世界。
「そんな輝術、大事な要素ありますね。分かるかキール君!」
「ふむ、詠唱、ですか?」
「いーぐざくとりー! 輝術と言うときイメージするのはやっぱり詠唱だ、詠唱が無い輝術もあるがそれはまた別の輝術、いま大事なとこじゃない、まぁね詠唱がダメダメだと発動させても曖昧な効果になり、逆に詠唱がしっかり出来ると少ない消費でより大きい効果を得られる訳ですよ、大事な所だ」
大事なのは詠唱、やはり魔法っぽい技術なのだろうか、輝術。
「うぉっほん! 実際に見てみましょうか、詠唱の有無を」
そう言って取り出したのは水色の輝石、あの色だと水の原素が詰まっているのだろう。所長はそれを手に持ち、ぶんぶんと振り回した、ちょろちょろと水が出たりしているがこれで輝術と言われても納得できないレベルだ。
「これが無詠唱の有様、次にしっかり詠唱した場合ね。
水よ唸れ、唸りを束ね敵を撃て! ウォーターストライク!」
今度は詠唱され、輝石の原素が輝き勢い良く水の柱が塔の壁を打ち破り外へ飛び出していった……あれこれだと不味いのでは無いだろうか。
「所長! 何やってんですか!?」
「あ、すまんすまん……急いで直せー!」
「あんたがやれーっ!」
「やっ、やめろー! あーっ! キールくん! 最後に言うが、やめっ! 熟練の術士ならっ! ちょっ離せっ、おいっ! 詠唱と同じイメージだけで発動出来るからなーっ! うおーっドナドナーっ! 無詠唱ってロマンだよねーっ! 荷馬車が揺れてるーっ!」
非常に分かりやすく、非常にしっちゃかめっちゃな講義が終わった、毎日がこの様子だとこの塔が一階分低くなりそうだと、思ったり思わなかったり。
この日の夜、昼間の講義のせいで眠れず、夜のセイブル・イゾレへ繰り出すことにした。多少体力を使えば嫌でも眠くなるだろうと思ったから。
「寒いな……」
砂漠の街の夜、とても冷え込むが、原素のおかげなのか子供でも過ごせる、私がいた世界の砂漠ならば3日と持たないだろう、原素とは不思議だ。
「原素……エレス、エレスってなんだろうか……輝石以外でははっきり目に見えるものでもないが、しかしそこにあると感じられるような気もする……」
不思議であり、よくわからない部分もある、それだけに原素は可能性に満ちている、その可能性に魅せられた人々が昔から居てこの街が出来上がったとしたら。
「なんとロマンのあることか……しかし……寒いな……」
歩きながら街見物をしていたが冷え込みが一段と強くなり寒くなってきた、そろそろ寝ようか……しかし寒い……何か暖かい物を……焚き火……いやいや街中ですることではない……でも、火の暖かみか……
「火……ファイア、フレア……詠唱か……」
原則、輝石が無いと輝術は使えない、そもそも輝術は輝石の原素を使う技術の総称であり細分化すれば、投げた物を手元に戻すのも輝術だ。つまりは輝石の原素ありき……でもやっぱり試したくなるのは男の子のSAGA。
「えーと、詠唱としてふさわしい文言と求めるイメージが一致すれば、発動するはず」
大まかな所はそれで良いのだろう、要は言葉でイメージを補い、扱う原素と現象をはっきりさせることにある、そう解釈している、だから、ここでは小さい火をイメージして、小さい火とそれに求める事象を詠唱に込めて発動させようと試みた。
「では……小さき種火よ、温かな癒しを与え給え ミクロイグニッション」
ポッ。
かわいい音が出た、なんだか情けないが今求める火が、出ていた。
「お、おぉ! なるほどこんな……かん……あれ……」
ぐっ……急にまぶたが重くなった、それに身体も……重い……沈む身体に逆らう事ができず、その場に寝転び砂まみれになる、更に冷えた地面が体温を奪いまぶたが更に更に重くなる……今寝たら死ぬ、確信できた。
「おーいキール君ー! どこだー……あっ! キール君!」
ジョシュの声がする、だけども、しかし……耐えられない……もう……寝る……ぐぅ……
翌朝。
「面目ない……」
「天才少年キール君、天才過ぎて死にかけるっと」
「ジョシュさん、それは?」
「お父さんへの報告書ですよ、逐一報告するようにと仰せつかったので」
「……もみ消しては頂けないですか」
「研究者は自分の目で見た事実に嘘つけない人種なんです」
「怒られるな……」
翌朝、私はどうやら死にかけていたようでジョシュが助けてくれなかったら死んでいたみたいだ、原因は無茶な輝術の使用だとすぐに特定された。あの時の小さな火、あれは周囲の火の原素を使うのではなく体内の原素を使った為に体内の原素バランスが崩れ、死にかけたということだった。
火、風、水、このバランスが崩れれば人は死ぬ、いやこの星の生き物はどうあれ死ぬらしい、今日の講義予定はこの話題だったのだが身を持って先に知ってしまった。気をつけよう。
「でも、滅多に自分の体の原素を使う人は居ないから、それは才能かもね」
「そうなんですか」
「そうだよ、魔物は輝石を食べたりするからそういう事ができるけど……人は輝石を食べないし、食べられない、だから体の原素を使わないんだ、本能的に拒否すると思う……でも君にはそれがなかったから……うーん解剖してみたい」
「死んだ後でしてください」
「……冗談だったんだけど」
今日の講義は休むことになり、1日療養することになった。
この調子で輝術の勉強出来るのだろうか、自分がやらかしたとは言え、不安になった。