セイブル・イゾレでの生活が1年過ぎた、なんとも呆気ないが輝術の何たるか、その基礎を習得できた。いや呆気ないと言うのは語弊がある、この世界の輝術と言うももを理解するための理論理屈には私がいた世界での経験や知識が役に立っているからこそ、すんなりと悩むこと無く受け入れることができていた。
原素という物が火、風、水に分けられる、この3つの組み合わせでこの世界の全てが出来上がっている、つまり原素への理解度が輝術の理解度となり、原素の理解度がそのまま世界の理解度になると言ってもいい。
この世界が現実に存在している為、この表現が適切だとは思わないが敢えて言おう、この世界は創作物のように柔軟である。
例えばの話、原素さえまともに扱えるなら発想を何でも事象にできる、これは私の世界の物理法則だとありえない話だ、クジラが空を飛ぶなんて考えても出来ない所をやってのけるのがこの世界。物質の構成や原素の性質を見るにこの世界の物理法則への干渉が容易であることが、この世界の柔軟性を物語っている。
と、言う事を踏まえ、輝術の基本を理解した所……私は一つ閃きを得た、何も輝術にこだわらなくて良いではないかと……私は輝術の起こす魔法のような現象に心を惹かれたのであって輝術そのものにこだわりはないと、この1年で気が付いた、なのでより使いやすい、より優れている、より良い、誰も知らない輝術の模索にシフトすることにした。もちろん名目は輝術の研究だ、ベースに輝術を用いることは決めている。
と、言うような思いを持ったことを所長に伝えると鳩が豆鉄砲を喰らったように、鳩は居ないので、この場合ピヨピヨになるか……ピヨピヨとはひよこのような魔物だ、油断すると皮膚がえぐられる。
「……輝術を更に進化させる!?」
「はい、若輩者の戯言と言ってくださっても良いのですが……私はやはり新しく作る余地はあると思うのです、研究され続けている輝術にはまだ未踏の領域があって、そこに手を出せない理由は輝術であるからだと……そう、愚考するのです」
「何か足がかりはあるの?」
「ええ、まだ完成した技術ではないのですが、その足がかりはあります」
ふぅむ、所長は唸る、恐らくこんな事を言い出した人は居なかったろう、輝術はひっくるめて輝術と言うので、この括りから抜け出そうとするものは居なかったはず、私はそれをはみ出したいと言ったようなもの、そもそもの話、1年そこら勉強しただけのひよっ子に何ができると一蹴されるだろう。
しかして、所長は悪い笑みを浮かべていて……あっ、入れてはいけないスイッチを入れてしまった。
「いいねぇ……実にいい! そうだよ! 研究者はそうこなくっちゃな!」
「研究者になったつもりはないんですが……いつの間にかそうなってしまいました」
「よし! 面白いじゃないか、これは私の一存で決めるのは勿体ない! 輝術を超える術か……夢あるよね……大統領に予算案提案してみよう! ドーンとね!」
「大統領にですか……大統領にですか!?」
「君のポーカーフェイスって権力で崩せるんだへー」
「そんな所研究しなくて結構です所長」
私はただ輝術で出来そうにない未知の部分を突き詰める、そういう事をしたいと言っただけのにいつの間にか輝術を超える術を作り出す話にすり替わっていた、それに気がついて止めようとした所長は研究のせいで原素ハイ(いわゆる泥酔一歩手前)らしくて止まらずにストラタ大統領まで話が飛んでいった。この時ほどこの野郎ぶっ飛ばしてると思ったことはない。この先も無い方が良い。
そして所長の暴走からの翌日。いつものように研究者たちに混じって塔の中にある輝術の文献を読んでいると、所長に呼び出され塔の外の広場へ向かう。
そこにいたのは私が今一番出会う可能性を考えていなかった人物だった。
「で、私が来たわけだ。君が噂のキール君、だね?」
「お初にお目にかかります大統領閣下」
「そんなに畏まらなくてもいい……と、言うのは居心地が悪いかね?」
「ということにしていただけると……」
「分かった、そうしよう」
所長が送った予算案でさっさと飛んできた大統領閣下である、フットワーク軽過ぎではないだろうか?
それに大統領閣下は器が大きく、それでいて抜け目無く……常に品定めの視線が飛んできて胃が痛い、痛い。まだ七歳だぞ。
大統領閣下、昨日の今日で来たので準備という準備が出来ていない、今回訪問された理由も私は知らされていない、なので所長を睨みつけていると大統領閣下は私の前へずいっと現れ、優しくて強い目で今回の訪問目的を話された。
「今回ここへ来たのはキール君の提案を面白いと思ったからだよ、長年輝術を研究して来たセイブル・イゾレで、輝術の超えたものを生み出そうという探究心、向上心、そして未知への好奇心、輝術を超えるもの、ぜひ作り出して欲しいが……その前に何事も順序がある。わかるね?」
「それは理解しております、閣下」
「うむ、だから今回は私の目で直接、君の実力を確かめたいと思ったのだよ」
実力、私の実力ですか……大統領閣下は私の何を見たいのだろうか、論文、技術、今までのデータ、どれも碌なものが揃っていない、なんせ1年しかいないからだ。
「大統領閣下、それで、私の何の実力を見定めるおつもりでしょうか?」
「輝術だ、それも君の考えた物が良い、輝術は体系的にまとめられてはいるがアレンジの余地はあるのは理解している、だからオリジナルを見せてほしい、アレンジはダメだ。君の可能性を見たい」
「……なるほど、分かりました。では……そうですね、前々から考えていた物をここで披露いたします。これは未完成ではありますが、閣下のお眼鏡にかなうかと」
「ほう、面白い」
大統領閣下に頭を下げて一旦この場を離れる、準備に必要な物を取りに行く、その道すがらジョシュが近寄って話しかけてきた。
「大統領直々の視察って結構ストラタではあることなんだ、大統領のフットワークが軽いのはよその国にはないんじゃないか?」
「えぇ、無いですよ、無いから想定出来なかった……不覚ですよ」
「不覚……か……まぁ良いじゃないか、予算が下りれば本腰入れて研究出来るし」
「いや……そこまでやるつもりはなかったんですよ、一人でやるつもりでしたし」
「え?! こんな面白そうなこと一人で!?」
「……あぁそういう人たちでしたね、ジョシュさん、そこの輝石全部持ってきてください、私はこれを持っていきます」
「これ全部!? 一回で使い切るの?!」
「たかだか数百個です」
「……なにするんだろ怖いけど見たい、見たいけど怖い」
ジョシュと協力してガッシャンガッシャンと準備していた物を大統領閣下の元に用意した、持ってきたものに大統領は首を傾げる、これは説明の説明に用意した機械なのである。
「キール君、これは?」
「これはですね、空になった輝石に原素を再充填出来ないかと思って作った装置です、ここに空の輝石をセットしてここに例えば水を入れ、火に掛けるんです……こうして結合した原素を単一原素に戻して純度100%の水の原素をこの輝石へと注入します」
「……これは、普通に有用ではないか? これ単体で研究したほうが良いと思うが……」
「実はこれでは効率悪く、消費原素のほうが多いんです。結合した原素を分ける時の原素は分解したい原素の三倍ほどになります」
「なるほどな……しかし、では何故これを見せたのかね?」
「これを次に見せる術の原理に応用しているからです」
私は大統領閣下から離れ、ジョシュが持ってきた数百個の輝石の前に立った、数百個と言えど大きさは角砂糖1個分、原素量は大したことないだろう、それに含まれている原素もバラバラで雑多。
これを前にして私は大統領閣下へ説明をする、この1年で得た知識と前世から持ってきた半端な知識と創作物の理論と解釈、これの掛け合わせで今回の技術を生み出した。
「大統領閣下、原素は元来、大元の3つの原素があるのはご存じですね」
「あぁ、知っている」
「この世界のものはこの3つの組み合わせとその量によって形作られていると言うのも?」
「まぁ、そういうだと知っている」
「では、3つの原素を形作るものはご存じでしょうか?」
「む? 3つの原素を形作るもの?」
「えぇ、原素を生む更に根源的なものです。そしてそれを見つけました、原素の元、原素の祖、つまり祖原素です。オリジンエレスと言いましょうか、そこまで原素を分解した場合、こういう事ができます」
私の目の前にある輝石、これらに手をかざし無詠唱で輝石から原素を取り出す、バラバラな火、水、風の原素が私の手に集まり漂う。この技も有用性は低いが実行難度が高い技で現象として発散しないように固定するコントロールが難しい。こうして抜き出した原素は輝石と同じ色をしている、火なら赤、水なら青、風なら緑だ。
更にこの原素群に手を加えていく、今右手で原素を操っているため左手でその原素群に触れ、分解していく。分解する時原素は色を失い白く輝く。
「おお、これは……」
「原素を分解し、祖原素となっていくとき、属性という役割を持っていた原素から何にでもなる可能性がある色、つまり白になるんです」
「何にでも……? つまり」
「お気付きになられましたか? そうなんです、祖原素はどのような原素にもなるんです、まだその変化を操作できませんが……いずれ」
「いずれ……か……いや、しかし……これは……ふむ……ではその、祖原素はそのままだとどうなるのかね?」
「周囲の原素と結合します、その場合原素の濃度が濃くなります。これはこれで使い道はあると思いますがまだまだ研究途中でして、これからです」
これで大統領閣下に、可能性は示せただろうか……急な来訪で未完成な物を見せたのであまり自信はない、所長が全部悪いという話で収まらないかと、今も思っているんだが。
しかし私の心配は大統領閣下の反応を見るに杞憂に終わりそうだ、そもそもこんな心配するつもりはなかった、これも所長が悪い、勝手に予算案を申請し大統領閣下を引きずり出したからだ。
「キール君、確かに可能性が感じられた。所でだが、この技術が完成したら何と名を付けるのかね?」
名、名前……輝術を前提にして……ふむ……あ、良いのを思いついた。
「では大統領閣下、煌術、こうじゅつと言うのはいかがでしょうか」
「煌術か……うむ、端的に言い表して良い名だと思う。ではこの予算案を可決し、更に支援をしよう、キール君の研究はストラタにさらなる繁栄をもたらすだろう、大いに期待しているよ? では私は議会があるので失礼する」
こうして大統領閣下はセイブル・イゾレから去っていった。何とか乗り越えた、予算も下りた、良いことだ……が、所長はしばらく屁が止まらなくなるような輝術を仕掛けたいと思う。
今回の祖原素という設定は原作における星の核(ラスタリア)への疑問から生まれたものです。
星の核は火、水、風の原素を生む星の核ですが……まさか無から生み出しているわけはないだろうと、思うわけです。
それに原作後日談に登場するフォドラの核の事を踏まえると、星の核は枯れることがあり、使うものが居なくなれば復活できる、そしてフォドラは枯れて行くことを拒む、核の枯渇は生物の死に相当すると考えた場合、無限に生み出せるならその心配は必要無く、だとすれば何か既存の物を原素へ変換しているのではと。核も生き物ということを言っていた場面もあるので、本作品では原素に変換される前の原素がある設定になりました。
言い訳失礼しました。