前回から1年経過したことを報告しよう、何? 時が経つのが早い? 仕方ないだろう代わり映えしない日々をダラダラと続ける訳にもいかん。
それよりも、だ。
本日、ストラタの大輝石を拝見する機会を得た、大輝石と言えば国の要、生活に無くてはならないものだ、各国に一つあると言われている。
これは豆知識だがストラタの大輝石は『大蒼海石(デュープルマル)』私の故郷ウィンドルの大輝石は『大翠緑石(グローアンディ)』と呼ばれている、もう一つフェンデルと言う極寒の国にもあるのだがよく分からなかった、フェンデルが鎖国していて情報が出回ってない。
話を戻すが、その国の要である大輝石は自然界の原素を集め蓄える機能があり、ストラタの厳しい環境で暮らしていけるのもこれあってこそ、なので定期的なメンテナンスと検査が欠かせない、今回私はその大輝石を管理するチームに抜擢され、同行した。
私も私の研究で行き詰まっていた、これは良い気分転換になるだろう、おまけに古代の叡智にも直接触れるチャンスでもある、行かない理由はない、何か閃きを得られればいいが……。
そんな舐めた態度で向かった私は実物の大輝石に圧倒された。
なんだあれは、あんな物が古代から存在していたのか? 原素を集める機構、貯めておく機構、放出する機構、現代の人間は再現不能のブラックボックスだ、ただの大きな輝石ではない。
あまりに驚き過ぎで同行していたジョシュに顎が外れていると指摘されてしまった。
「……アゴ外れてない?」
「……ほんほふぁ、はふへへふ(ホントだ、外れてる)」
「キール君、やたらと表情に感情出るようになったよね」
「いひゃほへいふはふは? (今それ言いますか?)」
このやり取りのあと、更に直接大輝石に触れてその構造や制御装置にあたるものを見ることができたのだが、また驚いた。
特に大輝石の制御系に違和感を感じた、私の世界で例えると車にアクセルとブレーキがなくてメーターだけある状態、ストラタの研究者が外付けした物があるが、元々は無かったと考えると……まさか大輝石そのものが意思を持ってコントロールしていたとか……まさか……いやでも異世界だから力あるものに宿る精霊の一つや二ついるだろうな……だとすれば将来大輝石そのものに供給を拒否される可能性もある。
そうなると困る、せめてそのスイッチはコチラに置けないものか……原素の流入と放出を司る部分の制御に手を入れられれば、強制放出と流入の強制停止だけでも出来ればその不安も少し無くなるか……
大統領閣下に提案書を送る前にジョシュに相談をしてみた、なぜか目の前にあるこの大蒼海石から見られている感覚も覚えた。
「ジョシュさん、私としては現状に不安があります」
「そうかい? 今のままで安定していると思うけど?」
「なんで動いてるか分からない物ですよ」
「そうは言うけど分からないから手が出せない部分もあるんだ」
「そうだとしても、原素の強制放出と流入の強制停止は出来ていいと思いますよ」
ジョシュは納得できないのか眉にしわ寄せ首を傾げた、周りにいた研究員たちも私の言葉に耳を傾けたり、不服そうにしていたり、静観していたりと反応はバラバラだ。
「うーん……必要かなぁ……」
「今の制御を受け付けなくなる可能性があるとしたら、それを無視したスイッチは必要ではないですか?」
「……君はそうなる可能性があると思ってるの?」
「えぇ、これは私の推測なのですが大輝石の制御に人の手を差し込む余地をあまり残してないように思います、そして作為的です、だから長い歴史の中で変わらず役割を果たしていたのでしょうが……それだからこそ少しでも人の手に制御出来るようにしたほうが良いと思います」
「そう言うがそもそも大輝石は自然のものだろ? それに制御装置がついているだけだから、それは違うんじゃないかな」
ジョシュはそう言う、これには周りの研究員も同意しているのか頷いていた、しかし、私は大輝石、ひいては輝石の特性を研究してきて感じる事がある、私から言わせればジョシュたちの方がおかしな考えだ。
ジョシュたちに聞こえるように私は私の理屈を説明していく、仮定の話だが、ほぼ確信している。
「これも仮定の話です、その上で結論から先に申し上げると大輝石、輝石は人工物です」
「なんだって!?」
「お静かに、その根拠と致しましては私が行った実験です、論文も提出していますので詳しい内容はそちらでご確認を。
簡単に申し上げると原素濃度変化で起きる物体への影響を調べた実験ですが、その時、面白い現象が起きたのですよ」
「その現象とは?」
興味を持った研究員が話を割って入る、私の答えを知りたくて急かすが私もまだ説明したいことがあるので、手で制し、言葉でいなす。
「もう少しお待ちを、その実験内容は原素が漏れ出さないように密閉容器に基本の三種の原素を入れ、その中には鉱石や紙など無機物、虫や肉片などの有機物を入れました、その結果は無機物を入れた容器も生物を入れた容器も差はあれど変化が現れた、ここまでは良いですよね?
なら輝石ならどうか? 全くの変化無し、輝石の中の原素の有無や種類は関係なく全く変化しないんです。おかしいですよね? 高濃度下であれば鉱石にも影響が出ていたのにも関わらずです、つまり輝石は極端に原素が影響しない物であると、言えます」
ここまで言い終わると研究を知るジョシュ以外の研究員が少しざわめく、輝石が天然物だとするならそういう事はありえないはず、私の世界に例えると金鉱石なら酸に溶けるが純金なら酸に溶けない、これに似ている。輝石が純金の立場ならそれは人の手によって加工された人工物だ。
「輝石が人の手で意図的に原素の影響を受けないように作られている、だからこそ大輝石や輝石があると思うんです」
「仮にそうだとして誰がどんな目的で世界各地から採掘されるような規模で作ったのかな?」
ジョシュからの質問が飛んできた、確かにそうだ、目的が無ければ作らない、もうここから先は仮定ではなく空想の話になってしまうが……それでも説明するならば。
「私の想像になりますが、アンマルチア族やそれに似た高度文明が原素を蓄えておくために作った、だと思います」
「理由は?」
「原素を扱う技術が発達していたならば今では想像つかないほど原素消費が激しかったと思います、だから地域毎に大輝石で原素を集めていたろうし、輝石として原素の備蓄していた……そう考えるのが現状自然だと思います」
これで私の理屈は終わりだ、あとはこの場の研究員がどう反応するかだが、興味津々だった研究員たちは全員が俯き、腕を組んで思考の海にダイブしているみたいだ。
ジョシュは私の話を聞いても考え込みはしないが、多少暗い顔になっていた……なぜだ?
「どうしたんですか? ジョシュさん」
「いや、もしキール君の話が事実なら常識がひっくり返されるから……今までの研究何だったんだろうって……」
「なるほど、でも可能性は高いと思います、もし人工物であるなら大輝石に古代人がどんなブラックボックスを仕掛けているか分からないんです、文献などによれば前の文明末期は自然を重視していたようですし、原素の消費量でストッパーを掛けている可能性もあると思うんです」
この言い方だと少し脅し過ぎだろうか……いや可能性のある話だ、ジョシュを虐めたい訳じゃない。
しかしジョシュは脅しに屈したのか大統領閣下に私の話を上げると言う、取り敢えず結果オーライだな、ジョシュが動けば所長も動く。
「よし、この事を大統領閣下に提出しようキール君、備えあれば憂いなしだ」
次の日からストラタの大輝石に流入の強制停止と原素の強制放出機能を取り付ける工事が始まった、これでもし大輝石が機能停止しても無理やり動かせるようになる。
翌日。
昨日の件で私は閃きを得た、大量の原素を集め貯めておく方法が思いつかなかったが大輝石を参考にした方法なら人体にも原素を大量に集め貯めておくことができる、そうなれば祖原素を大量に生み出せるし、輝術に輝石を必要としなくなる、まさに夢の技術だが……。
「倫理的問題がある」
「どうしたんですキール君、急に倫理の話ですか?」
私の研究室の一室でジョシュと共にいる、私の突飛な独り言に付き合ってくれるあたりジョシュという人物はすこぶる良い人だと言える。
そんなことはいいのだ、倫理的問題の解決が先。
「聞いてほしいジョシュさん、人体の改造は倫理的問題なのでしょうか?」
「それはそうだよ」
「この話はこれで終わりです」
「終わっちゃった……」
悩む、私の想定している方法は体内の原素構成を組み換え、新たな原素の追加をする事で体を原素の器にしようとする方法だ、これの倫理的問題の解決が出来ないなら一生実現しない、外付けでも良いがそれなら輝石使う方が早い、しかし……外付け……? そうか外に出せばいいのか。
「また何か閃いたのかい?」
「ええ、早速作業に移ります」
多少効率が落ちたとしても安全で戦力アップになる方法はズバリ『分霊』です、もう一人のボクを作り出して、原素の貯蔵と収集を任せ、時には共闘する、二人いれば詠唱も二倍になり、高濃度の原素を体内に溜めなくていいから安全、まさにいい事ずくめだ。
と、思っていた時期が私にもありました。
術が出来上がりジョシュを実験台にして試した所、数秒しない内にジョシュが転げ回ったので即座に実験をやめる事態になった。
「キール君これ脳への負荷凄い……!」
「ふむ……」
「あと吐き気と動悸と不整脈と痛風が……」
「痛風は自前ですよね」
どうにも脳への負荷が高いようだった、もう一人のボクと本人で脳の処理は二倍、じゃなく、もう一人のボクが自我を持つため想定の4倍に負荷が膨らんだ、しかし自我を無せばもう一人のボクは形を保てない。やはり思い付きでやるものではないな。
「キール君も試してみたらどうかな? な? な!」
ジョシュ怒りの提案、私も試しにやってみた。
「出来たようですね……今の所負担は無く、順調……」
「僕が悪いのか、キール君がズルいのか……」
何となく出来てしまった、特に負担もないむしろ調子が良い、それと現れたもう一人のボク、つまり分霊だがワシ、鷲だ。くちばしは黄色く、頭は白く、体が黒いワシ。前世の私が好きだった動物ではあるが……何故ワシ? 深層心理に影響を受けているのだろうか。
ワシである理由を考えているとおずおずとジョシュが心配の声を上げる。
「えーと、キール君、本当に何もないんですよね?」
「全然平気です、むしろ調子がいいんです」
「いやいや……その術発動時にかなり体内の原素を持ってかれるような感覚があったんだよ?」
「確かにありましたがそこまでは……」
「……ねぇ、そう言えばキール君……祖原素の実験っていつもどうしてた?」
祖原素の? 確か……祖原素をどうにかこうにか変換しようとあれこれ試したあとは、周囲の原素に結合するからほったらかしにしていましたね…………
「あっ」
「キール君、多分だけど祖原素で君の体に含まれる全体の原素密度が高まってるんだ、数百回以上の祖原素実験で君の体は恐らく……常識以上の原素を蓄えている、だから大量の原素を消費する分霊の術が使えたし、その上でその分霊による原素供給があるんだ。多分キール君、下手したら歩く大輝石かもしれない」
歩く大輝石……歩く……大輝石……?
「大統領閣下に報告」
「しないほうがいい、辞めよう、人には使えるものじゃない」
私は人じゃないのか……
主人公君は歩く大輝石となってもらう!
死ぬ時にイデオンみたいに皆消えてしまうかもしれん……