ここから本格的に原作ストーリーになります
「その時、ソウルキャリバルは真の力を取り戻し聖なる光で魔剣を打ち砕いたのでした……めでたしめでたし」
「「じーん……!」」
「……この話で感涙するポイントはどこだったんだ?」
たった今読み聞かせていたのはこの世界のおとぎ話である『ソウルキャリバル』と言う聖剣と魔剣を巡る物語だ、児童書の趣きが強いので子供受けする派手なシーンが多いが地味なシーンにも大人がニヤリとする中々粋な台詞もある。
読み聞かせていた私の感想はまぁ良い話だったな、で終わりなのだがこのラント兄弟は感性豊かなのか、私が語り終えた頃には涙で前が見えていなかった。誤解がないように言うがこの話は至って普通の勧善懲悪の形式で敵のボスが肉親だとか友人だとかではなくただの悪党だ、それとも私の精神は既に擦り切れて機敏な感性を失っているのか?
だが……なんだろう、二人の泣いている姿が妙に心にくる、自分の兄がどれだけ泣き叫ぼうが気にはならないのに、この二人は守りたくなるし、構っていたくなる。まさかこれが兄心……退きなさい、私こそ兄です……うむ。もう二人も10歳や9歳になるんだ、あまり子供扱いしないほうがいいな……そういう私も11歳だが……体格のせいでそう見られることがない。
余計なことまで考えしまったがアスベル、ヒューバート、そして私の3人は初対面から今日で1年が経つ、すっかり私も彼らの兄のポジションが出来上がり毎日遊びに来ている、初日の警戒が嘘のようだ。二人とは完全に打ち解けていると思う。
それともう1人、彼らの母親であるケリー・ラントとも気安く話せる仲だ、だが、時折やり取りがぎくしゃくする。何か引っかかるがそれを問いただす関係性ではない。
そのケリー夫人が朗読会の終わりを見計らって部屋へ入ってきた、ヒューバートは駆け寄りアスベルは少し反抗的でそっぽ向いていた。
ケリー夫人はどうやら私に話をしたいようで二人に外へ行くように促した、しかし二人は断固反対の姿勢を貫いた、アスベルはともかくおとなしいヒューバートまでもか、珍しいけどあったものだな。
「ごめんなさいね、楽しく遊んでる途中で、キール君に話があるから二人は外で遊んでらっしゃい」
「えーっ! つぎは『魔王バルバトス伝説』読んでもらおうと思ってたのに!」
「ぼ、ぼくだって『赤い勇者ロイド』読んでもらおうと思ってたのににいさんばっかりずるい!」
「あらあら……二人ともそんなに本が好きになったのね、アスベルは前なんてちっとも本を読んでなかったのに」
「ちげーんだよ! キール兄ちゃんが本の絵をこううねうねって動かしてくれてめっちゃ音も鳴るしめっちゃすげーんだ!」
「そうなんだよ! すごいんだよ!」
「そうなのですか? キール君」
「あはは……えぇそうですよ」
ケリー夫人に怪訝な顔をされた、見えないところで変なことしてるのが気に入らなかったのだろう、2人には申し訳ないが輝術仕掛けの朗読会はしばらく無しだな。
私がケリー夫人に変わって2人に退室を促すが余程読んで欲しいのか2人して駄々をこねるので、ケリー夫人に聞こえないように小声で二人にだけ伝えた。
「さぁ二人とも、大事な話があるんだ、頼むよ」
「えー! いやだー! よんでくれよーっ!」
「ぼくのばん……だったのに……」
「じゃあこうしよう、話が終わったら裏山へ連れて行く、どうかな?」
二人は顔を見合わせ、にっこりと笑って部屋を出ていって庭先で木の枝で素振りを始めていた。裏山の事は後で説明しよう。
ケリー夫人は私に申し訳なさそうな笑顔で声をかけてくる、いつも子供たちの相手をさせて申し訳ないと言うのだ、私はそんなことを気にしたことがない、苦ではないからだ。
「ふふ毎日来てもらってごめんなさい、二人が迷惑をかけていないかしら」
「いえ、そんな事はありませんよケリー夫人、むしろ私が学ぶこともあります」
「上手くやれているなら安心だわ……その……あぁごめんなさい、なんでもないの」
ふむ、それなら良いのですが、やはり私に言えないことがお有りのようだ。気にする程でもないと割り切ろう。
少し重くなった空気を変えるため私は話題を切り替えた、ここ最近の話題でよく聞く名前……特に貴族の間でだが、その人物について。
その人物とはセルディクという男、ウィンドル王家の親戚で大公でありながら王を狙っている野心家、と言うのが事情を知っている者たちの中で言われている。その男が何やら動きを見せ始めているのが気にかかると、なぜかストラタの大統領閣下より書簡が届き、私がその調査を極秘裏に任されることになった。
何気ない会話をするようにケリー夫人に質問を投げたがその反応は当たりではない、つまり何も知らないようだ。
「ケリー夫人、つかぬことをお伺いしますが近頃アストン様はセルディク大公やそれに関係する者とコンタクトを取っていましたか?」
「セルディク大公……? いえ、そのような者はここには来ていません……ですが何度かバロニアへ赴くことがありましたから、その時に会っていないとも言えません……なぜそんな事を?」
「私はセルディク大公と面識を作りたいと思っていまして、ぜひ紹介頂きたいと……それだけですよ」
嘘だが、嘘でもない、セルディク大公を知るにはやはり懐へ入るのが一番だろう、とは言え大公ともあろう者が片田舎のラントに何か接触を図る事、あるのだろうか?
しかもストラタから知らされた話だ、事情の一つも書かずに書簡を寄越した大統領閣下は何を察知したのか……今の所何も掴めない……まだ、その時ではないのか。
また、何とも言えない会話の間ができてしまった。私としてはもう話すこともないので、外へ出ていこうと隣を歩き抜けようとするとケリー夫人は不安に眉を歪め、袖をつかみ引き止めた。
「キール君、何か隠し事をしてるのではなくて?」
「それは……お互い様、ではないでしょうか?」
「あっ……! それは……」
「隠し事は悪いことではないです、まだ伝えるべきではないと思ったことは話さない、私も貴女も、そうですよね」
「ふふっ、そうね、その通りだと思います……ごめんなさい引き止めて、あの子たちと目一杯遊んで下さいね……裏山へ行くことにも、多少目をつぶります」
最後には微笑みながらそう言うケケリー夫人、バレるようなヘマはしたことが無いがそれでも気がついたのか。
「聞こえてましたか?」
「母親は子供のしたいことをある程度把握できますのよ? ふふっ」
……子供からするとズルい予知能力だ、しかし、それが出来るのも子供を常に気にかけている証拠だ。私は一礼してケリー夫人と別れ彼らの元へ歩いていった。
「キール君……ごめんなさい、まだ、貴方の……」
__ラント領 ラントの裏山
私たち3人はラントの裏山に足を運んでいた。
ラントの裏山と言うのはラントから西にある一年を通して花が咲き誇る珍しい場所だ、花が咲いているのは山を抜けて開けた崖の上で水平線が見える上に巨木が崖の上に一本立っている、何か特別な物を感じる所だ。私としては研究する価値があると思っている。年中花が咲くと言うのは原素が非常に整っているということであり……話が長くなるので、割愛。
さて、私たち裏山探検隊は山に少し入った入り口で立ち往生していた、ここまでは順調だったのに、それは何故か?
ヒューバートがアストンに叱られることを恐れてこれ以上進まなくなったからだ、悪いことではない、口酸っぱく危険があるから子供だけで近寄るなと言われている裏山に来ているのだ。それでも彼らは何度か来ているようだし、ここにある花畑が好きなのだろう。
ではそこに誘った私が悪者だって? 否定出来ないな、彼らに甘いとは自分でも思うが、望むことはしてやりたい。
「に、にいさん……やっぱりこわいよ……」
「だいじょうぶだいじょうぶ! キール兄ちゃんもいるし、俺もいる!」
「そうじゃなくて父さんにおこられることだよっ!」
「だいじょうぶだろ? キール兄ちゃんが付いてきてるからこどもだけじゃないしな!」
ニヤリと笑って私を指差すアスベルだがヒューバートは呆れたようにつぶやいた。
「そ、そうかなぁ……前はそれでもおこられたのに」
「そうだったけどここまできたんだ! てっぺんまでいこうぜ!」
「あと、シェリアにはどうせつめいするの? 次に来る時は一緒に来ようって約束したよ?」
シェリア、という言葉にアスベルはギクリとして仰け反る、シェリアは彼らの友達で生まれつき病を持って体が弱い女の子だ。一度私の輝術で治せないかと診察したが私では手を出す事ができない領域で異常が起きているようだった。私に医療の知識があればまた違ったのだろうがね……とても悔しいので今度、医学を学ぼうと思う。
「ぐぬぬ……だって、あいつ体が悪いしどうせ途中で帰ることになる、それにこれ以上悪くなってほしくないしな」
シェリアについてはアスベルなりの気を使い置いてきてしまった、こういう時シェリアに一番睨まれるのは私だ。恐らくずっと嫌われている。
「それを彼女に言ってやればいい『君が心配だった』と」
「うっ……! んな、恥ずかしいこと……、もにょにょ……」
青春だな。甘酸っぱくて淡い……私には、あっただろうか。
アスベルで遊んでいるとヒューバートが私の袖を引く、ビビリな彼が小刻みに震えながら帰ろうと訴えかける。
それを見たアスベルが逆の袖を引く、私の服耐えてくれノースリーブには少し肌寒い。
「キール兄さん、早くかえろうよ……バレる前にかえらないとおこられるよぉ」
「え、あ、ダメだ! いくぞ! キール兄ちゃん!」
さてどう決着をつけるか……どちらかに傾けた答えはあまり出したくないが……アスベルか、ヒューバートか……
究極の二択に迷う中で、私の感覚に猛烈に訴えかける何かがこの場の原素に干渉している、裏山に存在する原素が突如吸引されていく、それも山の頂上へと流れてくのだ。
自然に起こるはずのないこのありえない原素の動き、確実に何かいる、それも大量の原素を消費する事ができる存在だ、戦い慣れない私ではもしかすると……。
身の危険を感じ私は二人と帰ることを決めた、このまま進んで良いことがあるとは思わないからだ、納得させるため説明を二人にしつつ帰宅を促す。この子たちはまだ原素の流れを把握できていないから。
「異変だ、この場の原素が頂上の花畑に流れていく……危険があるから帰ろうか」
「ええっ!」
「ほっ……」
「アスベルには悪いが今回はヒューバートの言う通り帰ろう、何かあってからじゃ遅い……アストン様もそう言うだろう」
「なぁ……っ!」
アストン、その名前を出した時、アスベルは……私に背を向けた。しまった、こんな時に地雷を踏んだか……!?
アスベルはそのまま頂上へ向けて走り出していく、去り際には彼らしい言葉を残して。
「キール兄ちゃんが危ないっていうならおれがみてくるっ! おれだってオトコだみんなをまもるくらいはできる!」
「にいさんっ!?」
「アスベル……」
「キール兄さん! 兄さんをおいかけないと!」
「あぁ、追うとも。アスベルは足が速いな、もうあんなところか……仕方ない、背に乗れヒューバート、飛んでいく、ついでに頂上にいる何かも確かめこよう」
「う、うん!」
ヒューバートを背負い、少し助走をつけて飛び上がると風の原素で体を持ち上げ更に飛ぶ、先に走り出していたアスベルの背を追い越し頂頂上にある花畑へ着地した。
「あれ、えっキール兄ちゃん!? さっきまで下に……」
「飛んできた」
「そんなことできたのかよ!?」
「うぅ……高いところこわい……」
「二人とも、私は見なくて良い、探すんだ何かを、ここにいる何かを……」
そう言って花咲き誇り、水平線の彼方が見えるこの場所で……私は見つけた。
……この世のものとは思えない、少女を。
ソフィ「あーよく寝た、千年くらい寝た」
キール「何やこいつ人間か……?」