春先の寒風が、少しずつ暖かな彩りを増す街並みを撫でる。
木々は寒さに耐えようと寄り添い合うように、草花は春の陽気が待ち遠しいと、揺れている。
道路を行き交う車や人々、立ち並ぶ建物。
繁華街とは言えないが、閑静な住宅街でもない。
都会の中の田舎、世界の果ての果てとは程遠く人の営みの近くにそれはある。
森のような外庭に囲まれた
そこだけがまるで別世界のように木々によって外界と隔たれていた。
街の中心からやや離れた場所に位置するその孤児院には五人の子供が住んでいる。
彼等の笑い声や日常の物音が静寂を揺らす。
「リィ!今日こそかけっこでペネとロペが勝つんだから!」
双子の少女が小さな靴音を響かせて、ダイニングへ飛び込んできた。
「――僕、宿題で忙しいんだけど。」
灰色の髪に、狼のような瞳の少年が不服そうな溜息を零す。その手元には教科書とノートが並べられていた。
「でも、もうすぐ終わりでしょう?終わったら遊んであげたら?」
丸眼鏡を掛けた和やかな雰囲気を纏う少女が本を読みながら少年の正面の椅子に腰掛けている。柔和な笑顔を向かいで眉間に皺を寄せる少年に向ける。
二人の間を沈黙が行き交う。
その静けさを双子の少女が期待の眼差しで見詰める。
陽だまりのような笑顔と星のような期待に耐え切れず、少年が沈黙を破った。
「――分かったよ、やればいいんだろやれば。マリにまで言われたら断れない。」
その光景を見て、二人と一人の少女が音もなく笑い合う。
そんな穏やかで微笑ましい日常の一幕を花園のような中庭から二人の男女が覗いていた。
「リィはやっぱり優しいわね、少し不器用だけれど。」
「で、でも、それがリィの良さでもあるんじゃないかな。可愛げ、なんて言ったら怒るだろうけど。」
微笑み合いながらテーブルの上、アフタヌーンティースタンドに乗っているマカロンやクッキーに手を伸ばす。深緑とオパールの視線が優しく重なり合う、頬をほんの少し赤く染めながら。
春先の少し肌寒い風が庭の草木を優しく撫でる。木々は寒さに耐えようと寄り添い合うように、草花は春の陽気が待ち遠しいと、揺れている。
朗らかな陽気はまだ僅かに遠く、桜の蕾が膨らんでいる。
あと数日もしたら暖かな日差しと春風が街を、この孤児院を優しく包み込むのだろう。
そんな中、きっと身震いしてしまうような、体の芯まで冷えきるような、そんな花冷えの日もあるだろう。
――それでもきっと誰かが
ここにはただ、子供たちの笑顔が咲いているだけなのだから。