【完結】召喚された異世界でアサルトライフルをぶっ放す 作:はるゆめ
辺りは恐ろしく静かになる。時折り聞こえていた呻き声はやがて消えた。
「えっと、ちょっと訊きたいことがあるんだけど」
「何かしら?」
「さっきあいつらが言ってた……君の罪状についてだ」
「ふふっ。いいわ。私はね、エルフの国に住む平凡な子どもだった」
ユウコワ・ベタノクフは静かに語る。
俺たちが今いる場所、バストリア大陸は北部がエルフ王国、中南部がバストリア王国と言った具合に二分されている。
エルフ国とバストリア王国の関係は古い時代に交わされた約定『相互絶対不可侵』が象徴するように、ほぼ没交渉。
バストリア王国の王位継承者が決まった時だけ、その本人がエルフ国へ報告に出向く。
「私はね、話に聞く人間の王国に興味深々な子どもでね、息が詰まりそうな日常には飽き飽きしていたの」
「若い子にはまぁよくある話だな」
「私たちの寿命は五百年から六百年。大人たちは達観しているから、本当に退屈に思えたのよ、当時の私はね。だから目まぐるしく変わっていくと言われる人間の国、文化にすごく好奇心を刺激されたわけ」
バストリア王太子の訪問、代が変わるたびに服装や装飾、付き従う騎士の鎧や武器が大きく変化していく。それはエルフたちに様々な印象を与える。ある者には憧憬、ある者には恐怖を。
そしてユウコワがエルフ王の護衛になった年に、バストリア王太子が訪れる。
運命の出会い。
ユウコワは王太子を、そして王太子がユウコワを見た時、互いの心に経験したことのない衝動が湧き上がった。世間ではそれを『一目惚れ』という。そして互いに『初恋』だった。
過去、エルフが王族に嫁いだ例がないわけではない。その場合厳しい掟のもと、ある秘術がかけられる、厳罰に相応しく。
「それはどんな……」
「エルフは魔法を使う、それには対価がいらないの。でも人間の王国へ行く場合、魔法を使う時に寿命を対価とする術がかけられる」
人間に魔法は使えない。
「私は王太子に夢中になった。それは父や母、兄妹、親族、友人達、全ての人に反対されたわ」
また王太子も書簡をエルフ王に送り続けた。ユウコワを王妃に迎えたい、と。
「過去に例はあるといっても異例のこと。両国の法務担当者が協議を重ねた」
エルフ国として、バストリア王家の要求を突っぱねるのは些かよろしくない。エルフは長命で魔法を使えるものの、いざ人間の国が侵攻を始めたら完全に勝利するのは難しい。
なぜか?
人間は数がすぐに増える、そして世代交代を繰り返すことにより、ノウハウが蓄積され何もかもが進化していく。
エルフは長命だが、繁殖能力は低い。そのため人に比べ数に劣り、魔法がある弊害で進歩とは無縁。
『相互絶対不可侵』の約定が締結される前、二百年に渡る戦争が続いた。エルフが人間を退けるたびに、彼らはより効果的な戦術を、より強力な武器をもって攻め込んできた。
人はエルフの魔法を恐れ、エルフは人の進歩の速さを恐れた。
ユウコワからこう聞いた俺は過去の世界大戦に思いを馳せる。戦争は恐ろしいスピードで軍事技術を発展させ、それは人々の生活に進歩をもたらす。どこの世界もそれは同じか。
「だから魔法の使い勝手を悪くする、いや実質封印するわけか」
「そうよ。人の国へ行く者に魔法を濫用させないための措置ね。私は喜んで受け入れたわ。これであの人の元へ行けるって」
ユウコワ・ベタノクフは少女のような笑顔になる。彼女はエルフ国の王族でもなく、ただの平民。
王家の信頼厚いベタノクフ公爵家の養女となる。これはバストリア王家の采配だ。公爵令嬢となったことで王太子妃としての身分が得られた。
「ベタノクフ公爵夫妻はとても優しく私を迎え入れてくれた。私に王妃教育を、ということで何人もの家庭教師をつけてくれた。そのうちまるで実の娘のように可愛がってくれるようになったわね」
「ニュアンスとしちゃ、冷戦時代のソ連共産党員がホワイトハウスへ就職するようなものか……」
そして二人の結婚が発表されるとバストリア王国は、驚きの声とともに歓喜に満ち溢れた。
バストリア王国民にとってエルフは御伽話や伝承でのみ語られる存在。王太子がエルフの美姫を娶るということに王国は祝賀ムード一色に湧く。
「あの頃は毎日が輝いていた。見るもの、触れるもの全てが光に包まれているようで、何も怖くなかった。いえ、幸せすぎるのが怖いぐらいだった」
そう語るユウコワ・ベタノクフに俺は見とれる。彼女の表情は穏やかで慈愛に満ちていたからだ。
「王太子殿下主宰のお茶会に養父と一緒に出席したの。そこには陛下、王妃さま、それに第二王子さまもいらしてて。私はそこで色々な話をしたのよ。私をすごく歓迎してくださってるのが嬉しかった」
「人の側は歓待ムードだったと」
「ええ。それからは婚約記念の行事が次々と催されてね。王太子殿下と一緒に中央神殿、貴族議事堂、貴族学院へ出かけたの。第二王子さまもご一緒のことが多くあって『義姉さま』って私の側を離れなかった」
不意にユウコワの表情が曇る。
それから異変が始まった。
まず国王夫妻。体調が優れなくなり、病床に伏せることになり、王太子、第二王子もそれに続く。医師団が治療を試みたが、体調不良の原因はわからなかった。
しばらくすると王城内に不穏な噂が広がり始める。
『エルフが呪いをもたらした』
『あれは魔女だ』
『公爵家が王位を簒奪する為に魔女を使った』
エルフのこと、エルフ王国のことを王家や上位貴族の当主以外は詳しく知らない。
御伽話にあるように美しい姿と魔法が使えること、それぐらいの情報しかない。魔法で何でも出来ると信じ込んでいる。
隣国へ留学していた第三王子が予定を繰り上げ帰国。滞っている政務に就く。
「第三王子に私は会わせてもらえなかった、それどころか遠ざけられた」
「……噂が噂だけに留まらず、真実味を持って人々を動かし始めていたわけか」
「心当たりあるのね?」
「人は自分の信じたいものを信じる。俺がいた日本、いや世界でもありえないことを信じ込む連中がいたよ」
人は自分が知らないもの、よく知らないものを『悪』『良くないもの』と思い込みたがる。もちろん全員ではないが。
そしてその『よく知らないもの』に対して、根拠もあやふやな噂なりを耳にすると化学反応が起こる。
『◯◯は危険だ』
『◯◯は悪いものだ』
今で言う陰謀論者の出来上がりってわけだ。
それに踊らされた人間、歴史的にも数知れず。
学校教育が充実し、情報媒体が溢れている現代日本においてもそんな有様だ、それらがないこっちじゃ無理からぬことだろう。
「話を聞く限り、君が王家に何かするのは有り得ない。エルフ王国もだ。動機がない。しかし、得体の知れないエルフが何かしたに違いないと思い込みたがる人間たちがその噂を信じたのだろうね」
「その通りよ。やがてね、ベタノクフ公爵家への嫌疑になっていくの。『王位簒奪を企てた』って」
「おいおいそれって……」
「お察しの通り、第三王子と第二王妃、それを担ぎ上げようとする派閥の謀だったのよ」
「誰が得するか考えたらわかりそうなものよな」
「でもね、市民の大多数はそれを信じてないの。私を直接知る人が少ないってのもあるけれど、第三王子については前から市民の間では周知の事実だったから。それにベタノクフ公爵家は市民にも人気があったのよ」
これは側近達によるプロパガンダ合戦の結果だそうだ。支配階級ってのは情報戦が得意だし。しかし市民が味方でも、実際の権力を持つ貴族達がどう思うかが重要だ。革命でも起きない限り、市民には力がない。何も動かせない。
「しばらくして王太子殿下は亡くなったわ。後を追うように陛下夫妻と第二王子殿下も。直ちに欠席裁判が開かれ、ベタノクフ公爵家へ騎士隊と衛兵隊が踏み込んだの」
ユウコワは俯き、表情は見えない。肩が小さく震えている。
「公爵も奥様も十歳になったばかりの義妹もその場で……私の目の前で……」
俺は思わずユウコワの肩をそっと抱く。泣いてる女を傍観するなんて出来ない。
「国を立つ前に母から持たされた転移の護符を使って私はここへ来た。そして父から教えられた神獣召喚魔法を使ったの」
「おい、もしかして」
「大丈夫。全ての寿命を対価にってわけではないわ。でもどれぐらいかも分からない。けど王太子さま達を亡き者にした彼らに報いを受けさせるまで、私は死なない。決して」
俺は頷き、ユウコワ・ベタノクフの目を見つめた。
「神獣は契約者の代わりに魔法を行使する存在。あなたは私の剣なの」
「ああいいよ。こうなりゃ一蓮托生だ」
「一蓮托生?」
「俺のいた世界の言葉でな、最後まであんたと付き合うぜってことだ」
互いに見つめ合う。
「『君』と呼んだり『あんた』と呼んだり忙しいのね?」
「そうだな。さっきのやつらを片付けた俺たちはもう他人じゃない、共犯者だろう?」
「神獣ニコフに命じます。これから逃亡生活に入る私を守り、全ての敵を打ち払いなさい」
「仰せのままに」