三つの女冠を手に、眩い憧れを目指して 作:ドーンローシェン
私は、あの眩しさに憧れた。
「すぅ……ん」
ふとしたきっかけで、現実へと意識を戻される。
「あったかい……?」
心地良い。
窓から差し込む西日が、冷めた体を温めてくれている。
どうやら、今はもう午後らしい。
「……」
そのまま、己が欲望に誘われるがままに、再び夢を見ようとして
「いやいやいや、ダメだからねっ!?」
「ん……トレーナー」
見れなかった、トレーナーだ。
……何か、用事?
「用事も何も、トレーニング!」
「……?」
「やっぱり忘れてる! 今日からデビュー戦に向けたトレーニング始めるって言ってたと思うんだけどっ!」
「ん」
「ん。じゃなくてねぇっ!? ……ちょっ、起きてユズノキそのまま寝ないで」
「……騒がしい」
「誰のせいだと思ってるのかなぁっ……!」
トレーナー、何を好んでか私をスカウトした物好きな人。
人一倍賑やかで、人一倍オドオドしてる人。
……そして私は、ユズノキ。
不相応な、黄金色の景色を目指す、冴えない転生者。
物心がついた頃には、もう周りの子達は走り回っていた……と、思う。
ヒトもウマも関係なく、ね。
対して私は、というと。
「ゆずちゃんなんでねてるのー?」
「はしろ!」
「……いい、あとではしる」
と、大抵いつもこんな感じだった筈。
前世を含む当時から、眠たさに逆らえない気質で、非常にぽけっとしている自覚がある。
……まあ、眠気以外には特に問題を起こしたつもりもない。
前世と言えば、過去の私。
あまり面白いものでもないけれど、端的な説明くらいはしておくべきか。
寝て、働いて、スマホを触って、寝る。
それが私の過去の日常。
……ええと、それだけ。
亡くなった理由も、自堕落故の不摂生が祟った病死。
まあ、それはいい。
前世の私の話なんて、今の私や周りには全く関係がないのだから。
「ユズノキ……号?」
悪いが、私の名前に覚えはない。
無名、もしくはモブウマ娘として作られた空の名前か。
そもそも、私が知っている競争バの名前からして大したものではないのだから、考えたって無駄なのかもしれない。
ディープインパクト、ハルウララ……あとは、友人が熱弁していた、オルフェーヴル。
競バの方はこれくらい、ウマ娘の方ともなれば割とそこそこ、ではある筈。
まあそちらも、顔と名前を知っているだけ、と言うのが最も適した言葉になるのだが。
「……眠い」
考えることは嫌いじゃないが、考えていると眠気に襲われる。
「ユズノキさん!」
「……なに」
「もう、あなたは……! この問題、答えられますか?」
「? ……43」
「やっぱり! いくら答えがわかると言っても、授業に寝過ぎてはダメですよ?」
「……ん」
……大体こんな感じで、先生にも頭を抱えられたものだ。
ごめんなさい。
走りもせず、眠ってばかりの私が何故、トレセン学園に入れたのかと疑問に思うだろう。
そこは、譲れない理由があった。
わけではなく。
「あの子は絶対大成する! お母さん、お父さん! あの子はトレセン学園に行くべきだ!」
……まあ、うん、察したと思う。
やたら押しの強いヒトミミおじさんが、私の才能うんたらかんたらを熱弁することで、両親を説得してしまったのだ。
そして、そんな手間暇をかけさせた以上はと、転入試験をそれなりに真面目にこなした結果が今である。
……とまあ、ざっくりと経歴は話したが、本題はここから。
ぼんやりと生きてきた私だが、転入したトレセン学園での日常にて。
「本日の授業は、レース形式で行います」
まあ、レース形式自体はあまり珍しくもないのだが。
相手が印象的であった、と思う。
「……では、ユズノキさん」
「……」
「ユズノキさん?」
「……ん、今、行きます」
いつもの如く、辻睡眠をかまして先生の注目を集めていた私だが、ふとした違和感に気付いたのだ。
今日は、いつもよりざわついているな、と。
そうして、周りを見渡そうとして。
「……?」
「あら」
……大人しそうな、ウマ娘と目が合った。
知ってる、気がするウマ娘と。
「おはようございます、ユズノキさん」
「……ん、おはよう……えと、誰?」
「まあ」
「……ん、ごめん。いつも、寝てるから」
「お気になさらず、そこは私も存じておりますから」
「むしろ、そこを考慮しなかった私の責任でもありますね〜」
……なんだか、とても……うん、そうだ。
「怒らせたら、怖い?」
「え?」
「ん、何でもない」
思わず声に出してしまった、危ない。
とりあえず、そんな雰囲気がするというのが、第一印象。
「グラスワンダー、と申します。よろしくお願いしますね♪ ユズノキさん」
「……私は、ユズノキ。よろしく、グラスワンダー」
グラスで構いませんよ、と言っている彼女を見ながら、とあることについて思考する。
……この子と、この名前、見たことあるなと。
ゲームに居たな、と。
「お〜、今日は眠り姫様が起きてるんだね〜」
間延びしたような、ゆるっとしてるような声で、誰かから話しかけられた。
……グラスワンダーとは反対の、方向から。
「あら、スカイさんも走られるんですか?」
「そーみたいだねぇ。……あ、私はセイウンスカイ、よろしくね〜」
「……ん、よろしく」
セイウンスカイ……?
あ、思い出した。
「というか、今日はキングもエルも、スペちゃんも走るみたいだよ?」
「まあ、そうなんですね」
……どうやら、私の同期は。
彼の黄金世代、と言うことになるらしい。
まあ、実態はよく知らないのだけど。