三つの女冠を手に、眩い憧れを目指して   作:ドーンローシェン

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逡巡

   ッ」

 

 ……ああ、やっぱり。

 

「ほっ、はっ……けほっ」

 

 この感覚は、好きにはなれない。

 一生懸命走って、風を肌で感じる、この冷たさが。

 

「げほっ……きゅう、けい」

 

 夜、誰もいない静かなグラウンドにて。

 

「……夜の寒さは、嫌いじゃない、のに」

 

 おそらく門限は、当に過ぎている中で、私は1人、走っている。

 

 もちろん普段であれば絶対にしない行動だ、原因も想像は容易いだろう。

 

「あの時の、あの感覚」

 

 正体不明の、焦燥。

 どうして、何があってああ感じたのか。

 確かめたい、あわよくばもう一度、感じたい。

 

「……無理、だったけど」

 

 やはり、自分の走るレースは好きじゃない。

 何故かって?

 

 ああいや、嫌いでもないんだよね。

 

「皆ほどは、やっぱり……」

 

 周りの平均値が、85はあるとした場合、私は20以下程度しか、勝負事に熱を保てないって話。

 

 平均値が高いから、必然的に嫌いなのではと感じてしまうだけ。

 自分ですら、私はレースを走ることが嫌いなのか? と感じてしまうレベルなのだから、本当に周りとの"差"は酷く激しいものなのだろう。

 

「……もう、一回だけ……」

 

 雑念を振り払おうと、もう一度走りに行こうとして。

 

「ちょ、ちょっと待ってぇっ!」

 

「わっ」

 

 誰か、聞いたことのない声に引き留められた。

 とっても、騒がしい声。

 

「あ、その……」

 

「……」

 

 声の主は、ヒトだった、女のヒト。

 ぶつぶつと、何かを呟いている。

 ついでに涙目でオドオドしてる。

 

「……何か、用事?」

 

「用事じゃないけど……その、もう門限、過ぎてるよって、伝えたくて」

 

「ん、知ってる」

 

「えっ」

 

「後でちゃんと怒られるから。……今は放っておいて」

 

 ただの親切な誰かだった。

 心配はありがたいけれど、今はそう言う気分じゃない。

 

「……それじゃ、あなたも……早く、帰った方がいい、よ」

 

 呼び止められたついでにと、軽く汗を拭く。

 そうして、もう一度走ろうとして……。

 

「ま、まま……待って!」

 

「……ん、まだ何か?」

 

「そ、そうじゃなくてっ」

 

「?」

 

 何か言いたげだが、どうしたのだろうか。

 あわあわと、言葉になっていない。

 

「……えと、言いたいことあるなら、ゆっくり、落ち着いて」

 

「あうっ!? ご、ごめんね……すう、ふう、すう、はあぁ……!」

 

 ……なんか、本当にすごく賑やかなヒトだ。

 一々、動作の一つ一つが大振りで、情報量が多い。

 

「え、えっとね!」

 

「うん」

 

 そうして、目の前のヒトの言葉をゆっくりと待つ。

 何を言いに来たんだろう   

 

()()()()()()()()()()()

 

トクン

 

「……え?」

 

「っ〜! だ、だからっ! 焦らなくても大丈夫だよって   

 

「……」

 

 ……?

 端役……ハヤク? あ、速くか。

 あー、いや、そう見えるけど、ね。

 

「……ん、その為に走ってた、訳じゃない。でも……ありが、とう」

 

「うえっ!? ……そ、そうなの?」

 

「そう」

 

「で、でも……」

 

「?」

 

 でも、なんだろう。

 

「あんなに、悔しそうだったのに……」

 

「……えっ?」

 

「え?」

 

 悔しそうって、誰が?

 

「……も、しかして、まま、間違ってた……!?」

 

「知らない」

 

「ひぇっ……気分を悪くさせちゃってたらご、ごめんねっ」

 

「ん……全然悪くない、というか驚いてる」

 

 この状況的に、悔しがってるのはおそらく私。

 ……何に悔しがってるのか、本当に悔しいのかは置いといて、そう見える表情をしていたと言うのが意外だった。

 私のことなのだけれども、ね。

 

「だから、謝らない、で」

 

「そっかぁ」

 

 ふえぇ、と気が抜けた風の女のヒト。

 ……そういえば、あなたは誰?

 

「……不審者?」

 

「違うからねっ!?」

 

 コホン、と威厳のない咳払いをした後、女のヒトはこう紡ぐ。

 

「私はここで働いてるトレーナー、早乙女です。……よろしくね?」

 

「……トレーナー?」

 

「そう」

 

「……違法?」

 

「違うよっ!?」

 

「……ん、よく合格できました?」

 

「ありがとうっでもなんで上からなのかなっ!?」

 

 いやだって。

 ……いや、ね?

 

「……賑やか、子供っぽいから?」

 

「ひどいっ!」

 

「ん、自覚あり」

 

 この女トレーナーさん、よく合格できたなーってなる。

 噂に聞いただけだけど、結構難しいらしいし。

 

「う、うぅ〜……」

 

「ごめん、ね?」

 

 泣きそうだった。

 なんか、先輩の人から可愛がられそうな人である、ほんと。

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