ディアデイズ2が発売されたので初投稿です。
「櫂くん──ありがとう!」
「へへっ……おおぃ、櫂!」
「……」
先導アイチからの感謝の言葉に、櫂トシキは一切の反応を示すことなく歩を進める。
三和タイシもそんな友人の動きに慌てて歩を合わせ、共に帰路につく。
その道中にて。
「お前な-、感謝の言葉貰ったんだからちょっとは良い反応したって良いんじゃないの?」
「……ふん」
「ったく、本当素直じゃないやつ。けど流石に驚いたぜ、さっきのファイト。まさかお前が負けるなんてな。しかも、始めたばかりの初心者に。運に恵まれてなかったってところもあるっちゃあるが──」
「いや」
三和が話題に上げたのは、二人がカードキャピタル──さっきまで櫂達が入り浸っていたカードショップ──にて、つい先程まで行われていたファイトに関してのもの。
今よりも少し前、櫂はカードを賭けたアンティルールのファイト──櫂の方から仕掛けた訳ではなく、対戦相手が勝手に賭けてきたのだが──に勝利して、ある1枚のカードを貰い受けていた。
そのカードの名は、《ブラスター・ブレード》
それは櫂にとって特別な意味をもつ、因縁浅からぬカード。とはいえ、それはもう昔の話。
貰えるものなら貰っておこうと、櫂は《ブラスター・ブレード》のカードを手に取ろうとした……その時だった。
「ぼ、僕のカードを返して!」
理不尽に奪われたカードを取り戻すため、勇気を出してカードキャピタルに入ってきた彼──先導アイチと出会ったのは。
「僕は、こうして櫂くんと戦うのが夢だったんだ」
「立ち上がれ、僕の分身!
ライド!
“ブラスター・ブレード〟!!」
「思い出したぜ──先導アイチ。あの頃の、ボロボロだったお前をよ」
いや、訂正しよう。
櫂とアイチは出会ったのではない。
再開したのだ。実に4年の月日を得て。
そう、櫂が貰った《ブラスター・ブレード》のカードは、元々は櫂のカード。
そして小学生だった頃、とぼとぼと暗い顔を浮かべながら帰宅していたアイチとたまたま遭遇し、アイチを励ますために櫂があげたカードであった。
「見るがいい、これが俺の本当の姿だ!
ライド・THE・ヴァンガード!
この世の全てを焼き付くす、黙示録の炎!
“ドラゴニック・オーバーロード〟!!!」
《ブラスター・ブレード》が繋いだ数奇な運命の元始まった二人の、《ブラスター・ブレード》を巡るファイトは熾烈を極めた。
「この地に存在する全てを焼き付くすまで止まらない、これが《ドラゴニック・オーバーロード》の能力、“エターナル・フレイム〟だ‼」
だが、片やこのショップ最強、どころか、下手をしなくても全国でも指折りの実力を持つヴァンガードファイター。
片やこれが人生最初のファイトで、対戦相手にティーティングを受けながら何とかやっている、初心者同然のヴァンガードファイター。
ヴァンガードファイターとしての実力、知識、果てはデッキの構築力でさえ、櫂とアイチの間には文字通り天と地ほどの差があった。
──だが、一つだけ。
「僕はイメージする……この戦いを。そして、この《ブラスター・ブレード》が、櫂くんを倒す姿を!」
ファイトに対する心構え。目の前の相手に勝ちたいという、勝利への渇望。
例え、この時の櫂がとある事情から苛立ちを抱えており、少しばかり不調気味だったことを考慮しなかったとしても。
「これで最後だ、アタック!《ブラスター・ブレード》!!」
──その一点に対してだけは、先導アイチの方が櫂トシキを上回っていた。
「あいつのイメージが、俺のイメージを上回った。……それだけだ」
「──そっか」
結果だけを言うならば、先導アイチは自らの分身である《ブラスター・ブレード》を無事に取り戻すことができた。
当然のことだが、櫂は決して手加減などしていなかった。
いや、ティーティングをしながらのファイトだった都合上、いつも通りのファイトができなかった面は確かにあったのかもしれないが、それでも櫂はアイチに対し、一切の容赦なく本気でファイトをしていた。
言おうと思えば、負けた要因などは幾らでもあげられるだろう。
しかし、勝ちはどんな過程を踏もうとも勝ちであり、負けはどうやって取り繕うとも負けだ。
だからこそ、櫂は簡潔に事実だけを述べる。
三和もその意思を感じ取ったのか、無粋な揶揄いはせず、簡素な返しだけに済ませた。
「しっかし、先導アイチ。……"先導〟か-」
話題が途切れ、無言の時間が訪れようとした矢先、三和が間髪いれずに次の話題へと移る。
その話題は、三和が先導アイチという名前を聞いた時から気になっていた事であり、口には出さないものの櫂もまた、思考の片隅で気にかけていたことだった。
「先導って言ったら櫂、あいつの事、覚えてるか? 俺らがまだ小学生のガキだった頃のこと」
「あぁ、覚えている」
「懐かしいよなぁ。もう高校生だぜ、俺ら」
そう話す三和の脳裏に浮かんだのは、今から数年前、二人がまだ小学生で、ヴァンガードを始めたばかりの頃にあった、あくる日の思い出。
自身と櫂、そしてもう一人を合わせた三人で、ヴァンガードを楽しむ日々を過ごしていた、ある日のこと。
その日は放課後の学校で駄弁る時間が珍しく長引いた日で、教室に戻ってきた担任に見つかり「早く帰れ!」と注意された時にはもう遅く、本来公園で遊んでいる筈の時間は大幅に過ぎ去っていた。
『ええ!? もうこんな時間かよ!?』
『どうしよう、これじゃ公園についてもすぐに日が暮れちゃうよ』
『いっそのこと、学校でヴァンガードでもするか?』
『お、良いな!』
『駄目だよ、それでもし先生に見つかっちゃったら今度は注意だけじゃ済まないよ』
『あー……』
『うーん……じゃ、今日は1回だけ! すぐ公園に行って、1回だけファイトしよう!これで良いだろ?』
『え、1回だけ?』
『俺はそれでも良いけど……』
『なんだよ、二人して変な顔しやがって』
『……だってねぇ?』
『……だってなぁ?』
『『櫂(君)が1回で満足するイメージが湧かない』』
『おい』
(思い返してみれば、あの時から櫂のヴァンガードに対する情熱はとんでもなかったなぁ。ま、俺達はその日、櫂と同じかそれ以上にヴァンガードに熱入れてる奴と出会ったわけだけど)
櫂のどうしてもヴァンガードがしたいという要望は無事に通り、三和達は夕暮れ時の公園へ赴くことになった。
そうしていざ公園へと辿り着き、「さぁファイトするぞ!」と櫂は意気込んだが、そこであることに気付く。
三和達がいつもヴァンガードをする際のファイトテーブルとして利用している場所に、一人の先客がいたのだ。
『……え-っと、どうする?』
『どうするって言っても、別の場所でやるしかないんじゃない? 近くのベンチとかで』
『けど、今日の朝雨だったからベンチとかまだびしょ濡れだぞ?無事なのは屋根付きのあそこだけだ』
『あー……そうだった』
『……じゃあ帰る?』
『えー、折角ファイトするためにここまで来たのにそりゃねぇぜ。……けどまー、仕方ないか。無理言ってどいてもらうわけにも行かねーし……って、ん?』
代わりにファイトできるような場所も今日に限ってはなく、まともな倫理観をしっかりと持ち合わせている三人は強引な手段でテーブルを確保するなんてことも勿論できないので、仕方なく断念し帰路につこうとしていたが、その時櫂の視界にあるものが写る。
それは、さっきまで櫂達がファイトするために使おうとして、しかし先客がいたために泣く泣く諦めることにしたテーブル。
そのテーブルには櫂達が今まさにやろうとしていた、ヴァンガードのカードが何枚も綺麗に並べられていて。
そして、それを見た櫂が咄嗟に起こした行動が──始まりだった。
『なぁ!』
『えっ、何?』
『それ、ヴァンガードのカードだよな?やってるの?』
『え、あ、うん。……やってるけど』
『楽しいよな~!ヴァンガード! 俺もそこの友達に教えられて始めたんだけどさ、ファイトしてる間に心の奥がこう、燃えるように熱くなって、それ以外考えられなくなるほど夢中になって……あ、悪い。いきなり話しかけて、つい熱くなっちまって』
『……ううん。私も分かるよ、その気持ち』
『本当か!?』
『本当だよ。心の奥に熱が溜まって、熱くなって、満たされて……ヴァンガードって、本当に楽しいカードゲームだよね』
『分かる、分かるぜ、その気持ち! ……なぁお前、俺とファイトしないか?』
『え、ファイト? 構わないけど、良いの?』
『何言ってんだよ、良いに決まってるだろ!』
『……なら、一戦お願いしようかな』
『おう!……あ、そう言えば名前聞いてなかったな。俺は櫂トシキ。お前は?』
『──櫂トシキ?』
『ん?俺の名前がどうかしたか?』
『いや、何でもないよ』
私の名前はね──。
彼女との交流は、こうして始まった。
互いの名前を教えあった後に行われた彼女と櫂のファイトは彼女の圧勝に終わり、その結果に三和は大層驚いたのを覚えている。
そして案の定、負けず嫌いな櫂はその一戦を切っ掛けに火がついたようで、今日は一回だけという決まりをすっかり忘れ、
『もう一回だ!』
と叫び、「やっぱりこうなったか」と見物していた二人を呆れさせた。
それからというもの、彼女と三和達は順調にその仲を深め、友達、いや親友とも呼べる間柄になり、彼女と櫂達は毎日のようにファイトに熱中した。
勝っては負けて、負けては勝って。
……いや、割合的には彼女に負けた回数の方が圧倒的に多いので、正確には散々に負け続けた後にようやく勝って、が正しいが。
特に櫂と彼女は互いに激しくしのぎを削りあう、ライバルのような関係性にまでなっていて、二人が熱烈にファイトを繰り返す姿に引っ張られ、気づけば三和もヴァンガードに対してもっと熱心に向き合うようになっていた。
このまま、ずっと四人で。
いつからかそう思うようになっていったし、きっとそうなるんだろうなとも思っていた。
──数ヵ月後、櫂の両親が共に事故で亡くなり、叔父に引き取られて転校を余儀なくされるまでは。
ほぼ同時期に彼女も、とても沈痛な表情を浮かべて「大事な用事ができた」と三和達に告げてからそれ以降集まりに来ることはなくなってしまった。
(あいつと櫂、ヴァンガードに特に熱心だった2人がいなくなって、結局あの後すぐに、あの集まりは自然消滅しちまったんだよなー。…伊吹とも、疎遠になっちまったし)
「俺もお前も、あいつには最後まで負けっぱなしで終わっちまったよな」
「そうだな」
「あいつ、今頃何してんだろなー。櫂は何か知ってたりしないか?」
「いや、俺もあいつが今どこで何をしているかは知らん」
「……まぁそりゃそうか。遊ぶときはいっつも外で、学校も違かったから連絡先も家も知らないもんな-。うーん……あっ、そうだ。アイチの奴に聞いてみるってのはどうだ? 名字同じだし、もしかしたら姉弟って可能性も──いや、でもそしたら何であいつ、アイチにヴァンガードのこと教えてないんだってなるよな──もしかして姉弟仲が悪いとか? ──だとしたらアイチに聞くのはちょっと気が引け──ってあれ?櫂? おーい、櫂! ……あんにゃろ、また見失った。いい加減、家の一つでも案内してほしいもんなんだけどな」
三和から離れ、一人帰路を歩く櫂は、静かに思考を巡らせる。
──こんなんじゃ、全く熱くなれない。
ここ最近、歯応えの無い相手ばかりとファイトしたことで思うようになった言葉が、今になって胸の内に強く響く。
それは、ヴァンガードにのめり込み、ひたすら強くなるためにファイトに明け暮れ、結果、相手となるようなファイターがほとんど見つからなくなってしまった孤高のファイターが抱くようになった確かな不満を吐露した言葉。
求めていく中で同時に、自身と対等に腕を競い、高め合える、そんなファイターと出会えないかとも思っていた。
しかしついぞ出会える機会に恵まれることはなく、熱はずっと燻り続けていた。
先程、カードキャピタルでファイトした先導アイチは自身を打ち負かしこそしたが、まだヴァンガードを始めたばかりの初心者で、ヴァンガードのプレイスキル自体は未熟もいいとこ。
櫂自身は気にもとめていないが、三和が追求した通り、先のファイトで櫂が運に恵まれず、アイチが運に恵まれ、それがファイトの勝敗に影響したという部分は確かに存在している。
次、またファイトをしたとして、ほぼ間違いなく櫂が勝つだろうし、今のアイチに櫂と対等に渡り合えるほどの力量はない。
櫂が求めているファイターの理想像とは結局のところ、かけ離れていた。
だからこそ、先程三和が話したアイツのことが櫂の頭の中に強く浮かび上がって離れない。
ヴァンガードを始めて間もない、まだファイターとして未熟だった頃の話とはいえ、確かにあの時の自分を純粋な力量で圧倒した、それこそ今の成長した自分でも未だに勝ちきるイメージが湧かないほど、遥か高みに到達していたファイター。
……今の自分が、一番戦ってみたいファイター。
「──シズナ。お前は、今どうしているんだ?」
胸の奥に燻る熱を必死に抑えながら、櫂は一人、かつてのライバルの影を求めた。