代表的なものとして、野球、サッカー。
更にはテニス、バスケット等。
世界中にファンや競技者、そしてスポンサーが存在しているこれらのスポーツはまさに世界的に王道なゲームであり、その人気度は昔も今もうなぎ登りである。
そしてこの世界にはそれらのスポーツと同じか、あるいはそれ以上に社会に浸透し、みんなの日常の一部となって世界中に愛されている一つのカードゲームがあった。
”ヴァンガード〟
昨今、世界中のカードゲームの競技者人口は急上昇を迎え、数億人を超えて尚増加しており、人々の日常から切っても切り離せないほどに密接な関係となっている。
そして、その中でも特に世界中から注目を集め、人気を博しているのがヴァンガード。
“導く者〟という意味を持つ、今世界で一番流行っているカードゲームだ。
そう、それこそ──
「ここで決めるよ、ヴァンガードにアタック!」
「通さない!ガード!」
──こうして、学園の授業が終わった放課後の時間に、学園の物理準備室の中に作られたカードファイト部の部室に集合し、ヴァンガードファイトに熱中するぐらいには。
……そう、部室である。
公園のベンチでもなく、はたまた行きつけのカードショップでもない。
学園から正式に受理された立派な部室。
普段は物理の授業の時間等に使われる、物理準備室に設置されている縦長のテーブルをファイトテーブルとして使い、二人はファイトに熱中していた。
「トリガーさえ引かなければ……守れる!」
「行くよ、ツインドライブ!」
学園の生徒会長から直々に「部室を決めるのならば、我が校のグローバルな物理準備室のテーブルほどピッタリなファイトテーブルはないだろう」と少々大袈裟な太鼓判を押されて設けられた、宮地学園カードファイト部の部室で。
彼女──先導シズナは今こうして、ヴァンガードファイトにのめり込んでいた。
それこそ、第三者が容易に手を触れようものなら瞬く間に火傷しそうな熱さで。
「ファーストチェック……」
「後1枚……(お願い、来ないで!)」
ファイトの展開はもう大詰めであり、シズナの引き次第ではその時点で勝敗が決することも普通にあり得る、とても重要な場面。
シズナと対面している対戦相手もそれを十二分に理解しているからこそ、ここで勝負が決まらないように、いや、決まってたまるか、と必死に運命に願っていた。
──負けたくない、絶対に!
一人のヴァンガードファイターとして、他の何よりも勝利に拘り、たとえ運にすがることになろうとファイトの勝ちだけは絶対に譲るつもりはない。
そんな覚悟に満ちた対戦相手の熱意は同じヴァンガードファイターであるシズナは勿論、この大一番に水を差さないようにと固唾を飲んで見守っている他の部員達にも強く伝わっていた。
けれど。
「セカンドチェック──」
「ううっ……」
それでも尚、気圧されてしまう。
目の前の相手が纏う空気に。
山札をめくる手に込められた熱量に。
負けたくない。
勝ちたい。
絶対に勝利をこの手に掴んでみせる。
そんな想いをカードに込めながらファイトしているのはシズナも同じこと。
対面している相手の心が、熱いほど理解できる。通じ合えるからこそ浮き彫りになる、先導シズナというカードファイターが持つイメージの強さ。
イメージ──ヴァンガードファイトにおいて最も大切で重要だとされている、自身の勝利を心から信じ、その道程を思い描ける力。
互いのファイトに対する思いがぶつかりあうのならば必然、勝敗を分けるのはイメージの差に他ならない。
だからこそ。
「──GET、
こういう場面で先導シズナは──必ず勝利を手繰り寄せる。
「そ、そんなぁ~~。……ダメージチェック……トリガーは……ないです……も~~また負けた~~‼」
トリガーを引き、相手の防御を貫いたことを決め手に相手のダメージゾーンに勝負を決める6枚目のカードが置かれ、ヴァンガードにおいての最後の奇跡もおきることはなく、シズナの勝利が確定するのだった。
「あーあ、今回こそはいけたんじゃないかと思ったんだけどな~。やっぱ強いね、シズナ。よっ、流石は我らがカードファイト部の部長殿!」
「まだ慣れないなぁ、その呼び方」
「なーに言ってんのよ!このカードファイト部を作ったのはシズナなんだし、もっと胸張って良いの!」
「……メグミの意地悪」
先のファイト中に発していた如何にも重々しい雰囲気はどこへやら。
先のファイトの熱に当てられ、ヴァンガードをしたいという欲求が爆発した他の部員達がプレイマットを広げファイトに熱中している光景を尻目に、シズナは先程まで自身と対戦していた彼女──花咲メグミと気楽な気分で談笑をしながら放課後の部活動の時間を過ごしていた。
桃色の可愛らしい髪をサイドポニーに纏め、花が開いたような愛くるしい笑顔でシズナを弄くる彼女は、この宮地学園カードファイト部のムードメイカーである。
いつも明るく、楽しげな表情を浮かべて場の雰囲気を盛り上げてくれる彼女にはいつも助けられてばかりであり、このカードファイト部になくてはならない存在だ。
……度々こうして、シズナが部長である自覚をしっかりと持てるようにと発破をかけてくれるところもまぁ、未だに部長呼びに慣れない気恥ずかしさを除けば、助かっている。
「まーったく、本当にファイト以外だと謙虚になるわよねぇ、私達が誇る部長殿は。ま、それはそれとして……ねぇシズナ?」
「ん、何?」
「──今日の私のファイト、どうだった?」
「……ヒヤリとした場面も幾つかあったし、それこそ、さっきのターンで勝負を決められなかったらまだ分からなかったかな。……いや、こっちが負ける可能性の方が高かったかも。盤面を整えるためにかなり手札消費してたから、次のターンを凌ぐためのガード値が足りてたかというとかなり不安な所だし……」
「うんうん」
「だから、うん、本当に強かったし巧いファイトだったよ。一瞬も気が抜けなかった」
「にへへ、そっかそっかー。……なら、今度はもっと気が抜けないファイトにしてあげる。次に勝つのは──私だよ?」
「悪いけど、それだけは譲れないなぁ」
「「ふふふ」」
再戦の誓いを立てて、静かに笑い合いながら火花を散らす女傑二人。
そんな二人の姿を見て、思わずファイトをする手が止まってしまった部員達は後に、
『目は口ほどに物を言うということわざの意味を、本当の意味で理解できた気がした』
と語ったとかなんとか。
楽しい時間というものは案外すぐに過ぎ去ってしまうもので。
すっかり夕暮れ色に染まった空の下、我先にと自分の家に帰宅しようとしている生徒達の姿が散見されている中。
シズナはすっかり静けさに包まれた部室で、半開きにした窓から吹いてくる涼しげな春風にその特徴的な水色の長髪を靡かせながら一人、物思いに耽っていた。
(高校生活も早2ヶ月。時が経つのは早いなぁ)
物憂げな表情を浮かべて空を見上げる少女の脳裏によぎるのは、遠い遠い昔の記憶。
それは、先導シズナという少女が、先導シズナとして生まれるより更に前の記憶。
(……私が高校生活、か。本当、本当に、時が経つのってあっという間だなぁ)
病院の一室で、力なく項垂れている自分の姿が浮かんでくる。
他の子のように学校に通えず、一日の大半をベッドの上で過ごしていた、痩せ細った自身の姿が、強く頭に想起される。
その視界の先には、何もできない自身の無力さから、弱々しい握り拳ができていて。
(もう、前の年齢越えちゃったもんなぁ)
先導シズナ。宮地学園ヴァンガードファイト部の部長を勤めている彼女には、前世の記憶が刻まれていた。
女の子がバチバチ火花散らしてるシーンって、良いよね……。
ここからちょっとした用語コーナー
・宮地学園
シズナが通っている学校法人。初等部、中等部、高等部に別れており現在シズナは高等部の1年。
作中でお嬢様学校と言われているだけはあり、初等部の学校の校門前には警備員が常駐しているらしい。
アニメだとヴァンガードを知っている学生が殆ど(というかほぼ全員)いなかったのが印象的だった。ウルトラレアは知ってるのに何故……。
・宮地学園カードファイト部
ヴァンガードに関する活動を主とする部活。プレイ人口が数億人規模でいるこの世界ではごく普通の部活である。
アニメの設定だとカードファイト部がある学校は実に4000校を越えているらしい。とんでもねぇ。
原作ではアイチが高校生になった時に設立したが、ここでは一足先にシズナが設立。
原作では生徒会に散々に部の設立を妨害されていたが、流石に直接的な手段での妨害は朝イチにやるには厳しいと判断されたのか手段が大抵ヴァンガード関連。
リアルファイト‼ヴァンガードにならずに済んで良かったね。