普通のおっさんなのにヤンデレ美少年に追われて困ってるんだが 作:silk hat
俺は普通のサラリーマン 神宮司 颯真(じんぐうじ そうま)だ。
本当に、どこにでもいるような普通の40歳。
そんな俺が、ひょんな事から追われるようになってしまった。
..................美少年から。それもいわゆるヤンデレ(というヤツなのだろう)の。
今まさにソイツから逃げているところなのだが、こちとら40歳なんだぞ!体力なんかないんだっつーの!
それでもアイツは追い掛けて来る。
「はあ、はあ……!っくそ!息が切れて、きた……!」
「颯真さん?そんなに息を切らして……でもそれが色っぽい……もしかして、もう僕から逃げるの諦めました?」
「!!」
背後から少年特有の、高いようで低い声がする。
その声を聞いた瞬間、ゾッと背筋が凍りついた。
俺は雀の涙ほどしか残っていない体力を振り絞り、その場から何とか駆け出した。
「颯真さん……?なんで逃げちゃうんですか!僕はこんなにも、あなたを愛しているのに!!」
まだ年端も行ってないような子供が、簡単に愛を語るんじゃない!!
しかも何が悲しくて俺みたいなおっさんを追い掛けてくるんだ!同い年くらいの可愛い子がもっといるだろう!
それが、たったあんな事で………………
どうしてこうなったのか、それは遡る事2週間ほど前。
仕事終わりの俺は、会社から家までの道のりを歩いていた。ガヤガヤ騒がしい繁華街を通ると、裏路地で何やら揉めているような声が聞こえた。
「ん?なんだ?」
声の方へ行くと、そこには2人の男がいる。
どちらも若い男で、まあ……いかにもな見た目をしていた。
そしてそいつらに絡まれているのが中学生くらいの少年。
「ガキがこんな所を通るのがいけねえんだよ」
「そうそう、ここは俺らの場所だからなあ」
「なあ、金出せよ。俺らも鬼じゃねえからさあ……たったの5万ぽっちで許してやるよ、優しいだろ?」
「早くしねえと痛い目見ちゃうかもよ?」
うわあ、何という古典的なカツアゲ。
端から見てると馬鹿に思えるが、あんな事をされたら誰だって怖いだろう。
少年は泣きながら財布を取り出した。
………見てられない。
「あんたら2人して何してんの?」
俺は少年とチンピラの間に入った。
「は?なんだお前」
「今時そんな風に金を巻き上げるなんてダサいと思わない?ましてや子供からさ」
「あ?んだとテメエ……」
こいつらの態度は当然の反応だろう。見た目通りだ。だが喧嘩なんてする訳にはいかない。
「ほら、行くぞ!」
「……え?あ、は、はい!」
すかさず少年の手を取り、走り出す。
「おい待てコラ!!」
チンピラ達は怒りを顕にして追いかけて来たものの、足はそんなに速くないようだ。人ごみを利用して何とか逃げ切る。
俺は少年を連れて、繁華街から離れた公園にやって来た。
「はあ、はあ……ここまで来れば大丈夫だと思うけど……」
走っていた俺は息切れが止まらない。でも少年もそうらしい。若いのに。
「大丈夫だった?怪我とかは?」
「いえ!大丈夫です。助けて頂いてありがとうございます」
少年は礼儀正しく頭を下げる。
「いや、いいよ。俺が勝手にした事なんだから」
少年は下げていた頭を上げると、俺の方を向く。
俺は驚くのだった。なぜかと言うと、その少年の顔が……めちゃくちゃ美形だからだ。
サラサラの黒い髪に透き通った白い肌。そして切れ長の目に長い睫毛。アイドルかなんかか?
本当にそう思う程だった。
「あの……何か?」
「いや、何でもない!」
危ねえ……思わず見とれてた。言っておくが俺は同性愛者じゃない。
でもこんな美少年なんて今まであまり見た事はなかった。だから見とれていただけの事。
「君はこの辺に住んでんの?」
「はい、近くのマンションに」
「そうなんだ。でもあんまりこの時間帯にあんな繁華街なんて行かない方がいいよ?さっきみたいな奴がウロウロしてるし、危ないからね」
「心配してくれてるんですか?初めて会った僕を……?」
「初めてあったかどうかなんて関係ないよ。実際さっきは危なかったじゃないか」
もう大丈夫そうだし、帰ろうと立ち上がると。
「あ、あの!お兄さん、お名前は……?」
少年が俺に名前を尋ねてきた。お兄さんだなんてお世辞がすぎるだろ……
「いやいや、いいってそんなの。今度から気を付けなよ、じゃあね」
今思えば、これが始まりだったんだ。
助けなければよかったんだ。