「恋をするように声を重ねればKISS
あたしのHEARTはここにあるよいつだって…」
俺は古い知り合いがお勧めしてくれたロックバンド、FIRE BOMBERのライブに来ていた。
知っている限りの彼らの性格では、とてもではないが音楽を嗜むようには思えなかったため、本当に彼らはこのバンドの話をしていたのか半信半疑であったが、ライブが始まってみてからは納得した。
響く歌声、轟くビート、熱狂する観客たち。
色々と圧倒され、俺はライブ終了後もしばらく立ち上がれないでいた。
「大丈夫ですか? 体調が良くないんじゃあ……」
心配してくれた青年に声を掛けられるまで、客席に座ってぼーっとしていたほどである。
「いや、問題ないよ。ライブの余韻に浸っていただけだから」
「そうですか。ですが、顔色が良くないように見えます」
「色白なんだ。そういう種族でね」
「ハッ、そうでしたか! これはとんだ失礼なことを……」
生真面目な青年だったようで、非常に申し訳なさそうな顔をさせてしまった。
「気にしないで。よく疲れた顔をしていると言われるんだ。気分が悪そうに見えるらしい。周りの人を不快にしてないと良いんだけど。ライブを楽しんでないヤツと思われてたら心外だ」
「あーそれでしたら……少し手遅れだったかもしれません……」
「……ん?」
先ほどまでFIRE BOMBERが演奏していたステージの袖から、ピンク色の頭がひょっこり見えた。
「なーんだ、そうだったの! てっきり私の歌が気に入らなかったのかと思っちゃったじゃない!」
声をかけてくれた青年はFIRE BOMBERの関係者だったらしい。
なんだかんだと楽屋までつれていかれ、FIRE BOMBERのボーカルの一人、ミレーヌ・ジーナスに声をかけられている。
「ライブ中からずっと棒立ちだったでしょ?」
その言葉に俺は驚いた。
「最前列というわけでもなかったのに、よく見えたね」
「見てるわよ、みんな私たちFIRE BOMBERの大事なファンなんだから! それにあなた背が高いし、格好いいじゃない? ハンサムをがっかりさせちゃったかと思って心配になっちゃったわ」
「は、ハンサム!?」
驚いたのは俺を連れてきた青年の方であった。
レイと名乗ったバンドメンバーの男は、俺の顔を見てからミレーヌに言う。
「ミレーヌは面食いだなあ」
「レイだって気にならなかった? すんごい目立ってたじゃない」
すんごい目立っていた自覚はなかった。
ミレーヌのピンク色の髪から覗く耳が尖っていることに気づいた俺は、一つ尋ねた。
「君、ゼントラーディかい?」
「ママがそうなの」
「道理で。どうやらゼントラーディには俺の容姿はウケがいいらしいからね。というか、そうなるよう努力したと言ったほうが良いか。昔はよく怖がられていた」
「ああ、ちょっとわかるかも。ゾッとするほど美しいって言うのかしら。近寄りがたい感じがしちゃうのも納得」
「ぞ、ゾッとするほど美しい……!?」
「その目で見つめられたら、心臓がキュッとして動けなくなっちゃうかもしれないわ」
「し、心臓がキュッとして……!?」
いちいち驚いているのは、やはり青年の方であった。
ことさら彼女と目を合わせないように気を付けながら、俺は笑った。
「怖がらせてはいないようで良かった、お嬢さん」
「やだ、ミレーヌでいいわよ。ハンサムさん、あなたはなんていうの?」
「ガトだよ、ミレーヌ」
この名前は気に入っている。2文字で覚えやすいからだ。
「ライブが初めてでね。作法がわからなかったんだ。見るのも聞くのも初めてが多かったから夢中になってしまって。自分が周囲にどう見えているかまで考えが及ばなかったよ。申し訳ないね……地球人の暮らしているところにくるのも初めてだ」
「あら、そうなの? ライブがないなんて、結構遠いとこから来たのねェ」
転生する前の記憶があやふやになるほどの時間を過ごしたせいで、地球人に会うのは初めてのような気さえする。シティ7に来ることになったきっかけを思い出して、軽くため息をつく。
「なんというか……古い友人が急に訪ねてきたと思ったら、バサラ、とだけ呟いて去って行ったんだ。俺はなんのことだかわからなかったんだけど、調べてみたらそういう名前のミュージシャンがいるらしい。だから遠い銀河からはるばる、FIRE BOMBERの歌を聴きに来たんだが……」
「そりゃ災難だったな。肝心のバサラは欠席だ」
レイが言い、ドラムを担当しているというビヒーダは無言でスティックを叩き続ける。タタタン、タタタン、一切ブレることにないリズムに感心していると、ミレーヌが頬を膨らませて不満をあらわにした。
「なによみんな、バサラバサラって。私だってFIRE BOMBERのボーカルなんだから」
「君がいてくれたおかげで、無駄足を踏んだと思わずに済んだ。素晴らしいライブだったよ、ミレーヌ」
「そ、そう? サイン書いてあげましょうか?」
「ぜひ。こういう時は何に書いてもらうのかな……」
基本的になにも持ち歩かない性分なので、ポケットを探ってもなにも出てこない。
見かねたミレーヌが、自分たちの歌の入った音楽記録媒体にサインをしてくれた。これを再生できる機器は所持していないが、いつか手に入れることにしてありがたく受け取った。レイが言う。
「次のライブは一週間後だが、そのときもバサラがいるかはわからないぞ。あいつは気分屋だからな。今もシティ7にいるのかどうかさえ怪しい」
「会いたいのは山々だが、長く家を空けるとよくないことが起こりそうでね。気が気じゃないんだ」
正直、今も住んでいる星がどうなっているのか不安だ。バサラには会えないまま星に帰ることになるかもしれない。それならば、そうなる運命だったということであきらめよう。
ミレーヌは俺の諦観を透かしたかのように、明るく笑って提案した。
「せっかく遠くから来たんなら、観光していった方がいいわよ! ガムリンさん、案内してあげたら?」
「え!? わ、私ですか!?」
「あら、もちろん私が案内してもいいんだけど」
「いえ、自分が行きます! 行かせてください!」
ガムリンは生真面目に敬礼したので、俺はなんとなく彼らの関係を悟った。ははん。わけえっていいな。
同人誌をお持ちの方は違いを楽しんでください。
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