In Seventh Heaven   作:九条空

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たった1曲のロックンロール

「ガムリンくん。無理して案内しなくていいんだよ、君も忙しいだろう」

「いえ! シティ7の魅力を多くの人に知ってもらうのも、我々軍人の務めですから」

 

 本当にそうか? 俺の知っている軍人とは少し違うのかもしれない。

 

「君がよく行く場所はどこだい?」

「私ですか? そうですね、軍の本部、バトル7と……」

「うん」

「ミレーヌさんたちが練習している場所と……」

「うん」

 

 ガムリンはそこで口ごもってしまった。

 

「すみません。よく行く場所となるとほとんどなくて」

「うん。君がとても真面目だということがわかった」

「ミレーヌさんに聞いてみましょうか!? 彼女の方が詳しいんです。遊園地に一緒に行った時も彼女の発案で……」

「うんうん。君たちがとても仲が良いということもわかった」

「えっ、いや、我々は清い交際でして!」

「うん、うんうん」

「聞いてます!?」

 

 わけえっていいな。

 

「それじゃあ、君のよく行くバトル7と、ミレーヌの練習場所に案内してくれ」

「え。いいんですか、そんなところで」

「君の良く行く場所に興味があるから」

 

 ともすれば口説き文句のようだったが、ガムリンは気にせず日程を考えた。

 

「バトル7は軍関係者でないと立ち入れないので難しいですね。ミレーヌさんの練習場所もその……結構廃墟というか……」

「行けるところで構わないよ。それよりガムリンくん、おなかがすいたり喉が渇いたりしていないだろうか。俺は種族的にそういったものを感じないから、君の都合に合わせるので遠慮なく言ってくれ」

「空腹を感じないんですか? それはすごい種族ですね。光合成なんかをしているんです?」

「まあ、そんなところだ」

 

 俺は肩をすくめて、詳細を省いた。

 

「あ、君とミレーヌがデートで行った場所には興味があるな」

「え!? あ、ああ、今後デートスポットとして使うということですか?」

「そういうことにしておこう。どういうところに行ったんだい」

 

 街の観光地より、人に興味がある。特に若い男女のドキドキにはつい食指が動いてしまう。

 ミレーヌを思い出して動きがカクカクしてきたガムリンを見て、俺はついにこにこしてしまう。いやあほんと、恋って良いよな。

 

 夜になりガムリンと別れ、俺はシティ7にある森に来ていた。

 地球人は自然を大事にする心を持っているらしい。

 ここは移住船の中に人工的につくられた都市だが、空も木もある。

 

 昨日のライブは本当に良かった。静かな場所に来ることで、余計に思い出す。

 熱狂する人々の中にいて、驚くべきことに俺はその人々を気にすることがなかった。

 目の前で歌い演奏する彼らに釘付けだったからだ。

 

 歌とはこれほど素晴らしいものだったのか。人間だった頃があるのに、そんなことも忘れてしまった。

 しかし思い出そうとすれば思い出せる故郷の歌はたくさんあった。

 魂で覚えているものなのだなと幾ばくかの郷愁にかられた俺は、人気(ひとけ)のない森の中で、一人、今となっては俺しか知らない歌を歌った。

 

「誰か背中抱いててくれ

 ひとりきりじゃ悲しすぎるから

 他人が見てる夢のようさ

 確かなものがなんにもないね

 どうして僕はここに……」

 

 デクレッシェンドをかけながら音をまっすぐ伸ばし、次のフレーズを歌おうとしたそのときのことである。

 

「いいじゃねえか!」

 

 うおびっくりしたあ!

 突如草むらから、ギターを持った男が飛び出してきた。俺は歌っていた最中であることと驚きとから、大きく口を開けて男を見た。

 

「俺の歌も聴け!」

「え!?」

「さあ始まるぜ SATUDAY NIGHT

 調子はどうだい? LET`S STAND UP

 ビートを感じるかい」

 

 俺の驚きの声を無視して、彼は持っていたギターをかき鳴らして歌いだした。

 いや歌が上手い、突然出てきて突然目の前で歌われてもなぜか聴いてしまう。

 しかし、それでは満足しなかったようだ。

 

「おまえも歌え!」

「え!?」

「ここは空飛ぶパラダイス

 忘れかけてるエナジー NOW HARRY UP

 取り戻そうぜ」

 

 困惑する俺をよそに、彼は歌い続ける。俺のことをガン見しながら。

 先ほど言われた、歌えよ、という圧を強く感じる。

 なにを!? とか、なんで!? とかその曲ミレーヌが歌ってるのを一度聞いただけだからちゃんと覚えてないぞ!? とか疑問はたくさんあったが、最終、俺はその歌えという圧に負けた。

 初対面の人間の歌う、一度しか聞いたことのない曲にうまく合わせられるとは思えなかったので、自分がまだ思い出せる故郷の曲を歌った。

 

「嵐の中で輝いて その夢をあきらめないで

 傷ついた あなたの背中の

 天使の羽 そっと抱いて 抱いてあげたい」

 

 俺が歌えば、彼は満足そうにうなずいて、ギターのメロディーを変えた。

 しかし歌い続けていることは変わらない。

 

「1足す1が2じゃ 明日なんて行き止まりさ

 川は海にそそぎ 空に星はでる」

「世界が朽ち果てても 変わることのないものがある

 涙をこらえてでも 守るべきものが僕らにはある」

 

 俺も困惑しながらも、ワンフレーズ歌ってから、別の思い出の曲を歌う。

 訳が分からないまま歌っている俺は思った。

 

 この歌バトル何!?!?!?!?!?!?!?!?!?

 

「やるじゃねえか!」

 

 長い歌合戦の後、俺が息切れして歌うのをやめると、男はそう言って俺を褒めた。

 ここまでくると、疑惑は既に確信に変わっている。

 

「……君、バサラくん?」

「おー、そうだぜ」

「歌以外でも会話ができそうでよかった。いろいろ聞きたいことがあってね……」

 

 まだ切れている息をなんとか整えながら、俺は彼に質問する。

 

「バサラくんは、シビルと知り合い?」

「ああ。おまえこそ、知り合いなのか?」

「古い知人だ。たぶん彼女に、君に会いに行けと言われてね」

「シビルが? ……会ったのか!?」

 

 驚いたところを見るに、シビルは彼のところに頻繁に訪れているわけではなさそうだ。

 ここに来れば彼女と会えるかもしれない、という非常に淡い期待を持っていたのだが、それについては裏切られたらしい。あまり期待せずにいてよかった。

 

「俺の知っているシビルとは随分変わっていた。君がそうしたのかな」

「さあな。元気そうにしてたか」

「うん。俺の知っている彼女よりもずっと」

「ならよかったぜ」

 

 バサラはギュイン、とギターをかき鳴らした。

 

「シビルは口数が少ないから、彼女の思いを正確に読み取るのは難しいけれど、たぶん……困っているなら君のところに行けと、言ってくれたんだと思うんだよね」

「困ってんのか、おまえ」

「俺というか、俺が今住んでいる星のひとたちが、かな」

 

 プロトデビルンたちは皆独特な語彙を持っているし、その中でも特にシビルは無口な方だった。だから彼女とのコミュニケーションは十全ではなく、彼女が本当は何を伝えたかったのかはわからない。すべては俺の解釈次第で、そうだとしたら俺は彼女の善性を信じたいというだけの話だ。俺はバサラに言った。

 

「彼らの苦難をすべて取り去れるかはわからない。ただ、君が来てくれたら、今彼らが感じている苦痛からは、少しは解放されるはずなんだ。助けてくれないだろうか。君の歌で、俺の住む星の人々を」

「俺の歌を聴きてえってやつがいるなら、銀河の果てでも行ってやるぜ」

 

 まだ詳しく事情を話していないというのに、随分な快諾だった。

 さすがシビルの信頼を勝ち取った男ということか。バサラは立ち上がり、言った。

 

「っし! そうと決まれば、早速行くぞ、お前の星に!」

「いや、君来週ライブがあるんだろう。バンドメンバーに相談をしないと」

「関係ねえよ。行くぞ!」

「いや、いやいや」

「ファイヤー!」

 

 おい、こら、あの……人の話を聞けー!!!

 




貸せ 歌詞使用はこうやる

使用楽曲コード:01229796,02787717,03549470,03750817,05391903,14886847

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